西サハラ友の会通信 No. 39(2024年5月21日)2024年2月・3月分

 今号の重要ニュースは、欧州司法裁判所法務官の意見です。判決ではありませんが、判決前に出される法務官の意見は80%が判決に採用されるということなので、重みがあります。
 次にモロッコ産果物・野菜の問題が、関税特恵待遇、残留化学物質・農薬の問題が合わさって、スペインのメディアを賑わしています。特に西サハラ産のトマトとメロンが問題となっています。
 スペイン首相は昨年の国連総会で西サハラ問題での中立的立場への回帰を表明したかのように思われ、それでアルジェリアは関係修復に乗り出しました。しかし、ここにきてまたモロッコ寄りにぶれ、アルジェリアの怒りを買っています。西サハラの空域をモロッコに引き渡す話も進んでいます。
 モロッコが国連事務総長特使を見限ったかのようなニュースは、ショックです。また、国連による仲介は振り出しに戻るのかと思わせてしまいます。
 そんな中、スペインに亡命したモロッコ人青年が西サハラの支援を表明したというニュースがあります。モロッコで汚職を追及し、人権を擁護する活動をしていたそうで、モロッコは彼を(不在のまま)訴追するそうです。モロッコの人権活動家・民主活動家たちも応援が必要です。


No. 39  目次

【EU裁判所・西サハラ訴訟】
・欧州司法裁判所法務官の意見(1.ポリサリオ戦線提訴案件)
・欧州司法裁判所法務官の意見(2.フランスの農業団体提訴案件)
・スペイン農水相、法務官意見に反発
・モロッコ、西サハラの海域で海軍演習

【モロッコゲート】
・誰がベルギー捜査官3人に覚醒剤を飲ませたのか?

【西サハラ/占領地】
・モロッコ軍、ブージュドゥールで住民のテントを焼き払う
・アメリカの実業家、西サハラでの再生可能エネルギー事業を先導

【モロッコ】
・モロッコの新しいEU担当ロビースト
・ブリタ外相「南アは影響力ない」
・モロッコは不法移民の帰還を拒否
・西サハラ支持のモロッコ人青年、訴追される
・モロッコ:国連特使はもはやその資格がない
・新カサブランカ・スタジアムの設計

【モーリタニア】
・モロッコからのトラックの関税が3倍

【アルジェリア】
・スペイン外相訪問、12時間前に延期
・延期の理由は西サハラか
・アルジェリア、サンチェスを非難
・アルジェリア、周辺5ヶ国と自由貿易圏を形成

【ナイジェリア】
・モロッコとのガスパイプライン構想を了承

【フランス】
・モロッコ産トマトの輸入増加で緊張
・モロッコ派弁護士、HDFを擁護
・モロッコとの関係修復、西サハラを犠牲に

【スペイン】
・サンチェス首相、モロッコ国王への抗議の開示拒否
・西サハラ管制空域、モロッコに移譲
・上院議員が西サハラ管制空域問題について質問
・モロッコ産トマトと人権
・モロッコからの青果、残留化学物質が基準値越え
・モロッコ産イチゴにA型肝炎ウィルス
・モロッコでは鳥の糞を餌に混ぜている
・農業団体、モロッコの農産品に対する緊急措置を要求
・サンチェス首相、ナイジェリア・モロッコガスパイプラインへの支持を表明か?
・社会労働党、モロッコ派サハラーウィ団体を社会主義インターナショナルに招待
・『スペイン領サハラの歴史』出版
・連立参加の諸派、西サハラ政策の「中立化」を要求
・首相夫人の研究センターと公金の流れ
・ヒダルゴ・ボゴニャ関係の形成
・セルヴァンテス・インスティテュート、西サハラ事務所開かず
・スペインの対モロッコ開発援助、倍増する
・ENAIRE、西サハラをモロッコ領と表示

【アフリカ連合】
・新法律顧問にチュニジアの法律家


【EU裁判所・西サハラ訴訟】
欧州司法裁判所法務官の意見(1.ポリサリオ戦線提訴案件)
 3月21日、ポリサリオ戦線が提訴している2つの案件について、欧州司法裁判所のチャペタ(Ćapeta)法務官の意見が発表された。欧州司法裁判所(European Court of Justice)はEUの裁判メカニズムの中で控訴審(最終審)を扱う裁判所で、一審は「一般裁判所(General Court)」が扱う。法務官(Advocate General)は裁判所が任命した法律の専門家で(判事ではない)、案件が多すぎる控訴審において担当判事と一緒に事前に専門家意見を出して、判断の方向を絞り込む役割を果たす。そのことによって他の判事の負担を軽減する意味合いがある。
 ポリサリオ戦線が提訴した案件は2つある。
 まず、EUモロッコ持続可能漁業連携協定。問題となっているのはEU諸国の漁船がモロッコの海域で漁をする代わりにEUがモロッコに漁業分野の持続可能な発展への援助を行うという協定で、モロッコの海域に西サハラの海域を含ませていることに対して、ポリサリオ戦線がEU理事会を相手取って違法だと主張した。一審はポリサリオ戦線の主張が認められ、EU側が控訴した。
 法務官の意見の結論は、非常にシンプルで、EU理事会と欧州委員会の控訴を棄却する、というもの(para. 176)。その理由は、同協定がモロッコと西サハラがまったく異なる法的地位をもつ領域だということ、西サハラの人民は西サハラの天然資源を享受する権利をもつという点でモロッコと異なるということを、十分に尊重した作りになっていない、ということだ。法務官は国連海洋法(UNCLOS)決議3(非自治地域)に言及し、そこに述べられている人民の権利と福祉を尊重すべきだという原則に着目している(para. 159)。法務官は、モロッコとの協定に西サハラを含ませ、西サハラの住民の意見を聞いたと弁明するEUの方法は、以上の原則の尊重という要件を満たしていない、と述べる。ただ、EUがモロッコを「事実上の施政国(de facto administering power)」とみなしていることについて、施政国は当該地域住民が確たる代表制度をもたない場合に、住民の代わりに役目を果たすことができると述べ、裁判所はモロッコを「事実上の施政国」としたEUの政策決定の是非を判断する立場にないとする。
 次に問題となっているのは、EUモロッコ農水産物貿易自由化協定で、モロッコは特恵関税によってEUにモロッコ産農水産物を輸出できるというもの。これに西サハラ産農水産物を含ませるEUの決定を、ポリサリオ戦線が違法だと主張して提訴した。一審はポリサリオ戦線の主張が通り、EU側が控訴していた。
 法務官の結論は、1. ポリサリオ戦線に原告資格を認めた一審は正しく、それを不服とした控訴の部分は棄却する、2. 一審判決の、協定への西サハラ人民の承諾を得なければならないというポリサリオ戦線の主張を認めた部分は間違いであり、この部分についての控訴を認める、3. 他にも検討すべき(自決権尊重を満たす)法的問題があるが審理を行っていないので、一審(一般裁判所)に審理を差し戻す、というもの。
 なぜ2.なのかというと、西サハラ人民が協定に承諾を与えるという行為は西サハラが国際協定を締結する能力があることが前提であり、現状ではそれはできない、西サハラ人民は独立して選挙で選ばれた代表(政府)をもつまで協定に承諾を与えるということ自体ができないからである。したがって、西サハラ人民の代わりにモロッコが協定に承諾を与えることができるかどうかが吟味されなければならないが、EUがモロッコを西サハラの事実上の施政国であると認めるだけでは不十分である。EUがモロッコを事実上の施政国と認める政策判断を下すことは裁判所の管轄外であるが、西サハラ人民が自決権をもつことは疑いのないことであるから、モロッコが施政国として西サハラ人民の代わりに協定に承諾を与える際に西サハラ人民の自決権が影響を受けるのであれば、それについて審理しないわけにはいかない(しかるに一審は審理していない)。したがって、その点を審理すべく差し戻す。(European Court of Justice, 21 Mar. 2024)
https://curia.europa.eu/jcms/upload/docs/application/pdf/2024-03/cp240054en.pdf

欧州司法裁判所法務官の意見(2.フランスの農業団体提訴案件)
 3月21日の法務官の意見は、西サハラ産のトマトやメロンが「モロッコ産」として特恵待遇でフランス市場に流れていることを放置しているとしてフランス農業相などを相手どってフランスの農業団体(Confédération paysanne)がフランス国内で起こした訴訟で、EUの制度が問題となっている案件であるため、フランスの裁判所がEUの裁判所(この場合は欧州司法裁判所)に予備判決を請求した(照会した)件についてである。
 近年、西サハラで生産されたトマトやメロンが大量にEU市場に流れており、ヨーロッパの農家(とくにフランスやスペイン)は脅威にさらされていると感じている。モロッコは特恵待遇を得ている国であり、モロッコではない西サハラの野菜果物がモロッコ産として特恵待遇で入ってくるのは公正な競争でないと農家は主張する。
 法務官の意見は、1. フランス政府は輸入禁止措置を一国で一方的に行うことはできない(EUレベルでの決定が必要)、2. 西サハラ産の産品は西サハラ産と表示されなければならない、というものだ。
 法務官の意見にそった判決が(フランスの裁判所で)出されれば、西サハラ産のトマトやメロンは西サハラ産と表示しなければならなくなり、そうなると特恵待遇は得られないだろう。ただ、西サハラ産の野菜果物を西サハラと表示さえすればいいというのであれば、それらの流入は防げられない。また、特定の野菜果物が西サハラ産であることをEU側でどう確認するのか、相当に難しい問題が残る。さらにモロッコが「西サハラ産」という原産地表示を受け入れて記載するかどうかも疑問。南部モロッコとかモロッコ・サハラとかならいいのか。一方、EUの貿易相手国一覧にはそういう名称の地域はないだろうから、そこもどうなるかわからない。(European Court of Justice, 21 Mar. 2024)
https://curia.europa.eu/jcms/upload/docs/application/pdf/2024-03/cp240055en.pdf

スペイン農水相、法務官意見に反発
 上記の欧州司法裁判所法務官の意見発表を受けて、スペインのルイス・プラナス農水相は、3月22日、EUモロッコ漁業協定は「完全に合法」であり、「国際法・EU法に従っている」との考えを改めて主張した。農相は、裁判所の判決は必ずしも法務官の意見と同じにはならないと述べ、その例として最近のアイルランドの漁業に関する裁定があるとした。そして、来るEUの農水分野閣僚会合に欧州委員会が提示する提案が(スペインの)農家の要求を満たすものになると信じていると述べた。農相の発言を受け、スペイン漁業連合(Cepesca)の事務局長は、もし欧州司法裁判所が法務官の意見に同意すれば、アンダルシア、ガリシア、バスクの漁船は、以前ほど使われなくなっているとはいえ、ひとつの重要な歴史的漁場を失うことになるとコメントした。(Servi Media, 22 Mar. 2024)
https://www.servimedia.es/noticias/planas-defiende-acuerdo-ue-marruecos-respeta-derecho-internacional-reitera-no-iva-cero-pescado/1410120972
https://www.lavanguardia.com/economia/20240322/9580317/planas-defiende-acuerdo-ue-marruecos-respeta-derecho-internacional-reitera-iva-cero-pescado-agenciaslv20240322.html
https://archive.is/vAv4d

モロッコ、西サハラの海域で海軍演習
 欧州司法裁判所法務官の意見がEUモロッコ漁業協定の無効化を支持するものであったことから、来週金曜日(3月29日)、モロッコは示威行為として西サハラの海域で海軍の演習を行うことにした。モロッコの農業省はエル=アイウンやダーフラの漁業者たちに通知を発し、3月29日から6月28日までの3ヶ月、毎日朝7時から夜8時まで演習を行うとし、そのため同海域での操業を禁止した。(漁業協定が有効とされた)昨年7月まで操業していた欧州のある漁船のオーナーは、これほど長い禁止措置は聞いたことがないと言う。この通知が発せられたのは3月19日で、法務官の意見発表より2日早い。しかし、その時点で法務官の意見はある程度予想されていたため、モロッコは反発を表現するために西サハラ海域での演習を発表したと考えられる。演習が終わる6月28日というのは、裁判所の判決が出ると予想される時期にあたる。(El Confidencial, 24 Mar. 2024)
https://www.elconfidencial.com/mundo/2024-03-24/marruecos-inicia-unas-ineditas-maniobras-navales-en-aguas-del-sahara-occidental-frente-a-canarias_3854462/
https://archive.is/yduhK

【モロッコゲート】
誰がベルギー捜査官3人に覚醒剤を飲ませたのか?
 1月18日(木)、ブリュッセルの中心にあるパブ「バル・デザミ(Bar des Amis)」で、2人の男と1人の女が見るからにいかがわしい行為をしていて客の目を引いた。彼らは周囲の客たちにも威嚇的な態度をとっていた。それでマネージャーが出て行くように行ったが、けんかになり、ウェイターがひっぱたかれてしまった。通報を受け、警察が店にやっていた。真夜中のことだ。
 ひどく酔っていた3人はイクセル(ブリュッセル郊外)の警察署に連れて行かれた。中でもとりわけひどく酔っていた1人は大変な興奮状態で、警官に向かって人種差別的言動を行ったため、いわゆる「酔い覚まし房」に強制的に入れられた。
 このパブでの酔っ払い事件は、1月半後、3人が連邦警察の汚職対策本部の管理官と捜査官だったということで、がぜん重要な意味をもつことがわかってきた。とくに一番酔っていたのは、カタールゲートという欧州議会を巻き込んだ欧州機構の歴史の中の最大の汚職疑惑を1年余り捜査してきた人物だった。カタールゲートと言われているものは、モロッコゲートでもあるのだ。
 血液検査の結果、3人からはかなりな量のアンフェタミン(amphetamine)が検出された。これは中枢興奮作用をもち、ヨーロッパではかなり広く覚醒剤として使用されているもの。パブでの酔っ払い事件の原因はこれであって、酒ではなかった。一人の捜査官は覚めるにつれ腹部に痛みを感じ、結局は入院して、内出血を止めるための緊急手術を行った。彼は数日入院した。検察は殺人未遂容疑で捜査を行うことにした。
 毒物の専門家によれば、アンフェタミンは無味無臭で、ビール、コーヒー、コーラに混ぜてもわからない。ただ、死ぬことはないという。(注:日本では覚醒剤に指定されている。)
 それでは誰が、どのような目的で覚醒剤を捜査官らに飲ませたのか?スペインのメディアは、モロッコの諜報部がカタールゲートの捜査を妨害するために行ったのではないかとの推測を打ち出している。モロッコの諜報部による敵対者の名誉を貶める作戦はよく知られている。2008年には、週刊誌オブゼルヴァトゥール・ド・マロク(L’Observateur de Maroc)(注)を通じて、元首相のホセ・マリア・アスナール(José Maria Aznar)が当時フランスの法相をつとめていたラシダ・ダティ(Rachida Dati)の娘の父親だとの虚偽の情報が広められた。その後廃刊したその雑誌は、証拠として、二人が一緒にパリのレストランを出るところを撮った写真を掲載していた。雑誌のオーナーはアフメド・シャライ(Ahmed Charai)で、2014年と2015年の裁判所の判決において、彼はモロッコの諜報組織(DGED)と数多くのメールを交わしていた事実が認められている。
 一方、欧州議会の収賄事件は、今回の捜査官の事件があろうとなかろうと、行き詰まっている。捜査は2022年末頃に始まり、欧州議会議員が逮捕され、150万ユーロの現金が見つかったりしたが、今なお裁判の目途は立っていない。最初の捜査判事、ミシェル・クレーズ(Michel Claise)はベルギー司法界のスター的存在だが、利益相反の可能性を理由に辞任に追い込まれた。息子が容疑者の一人とビジネスを行っていたのだ。検察官のラファエル・マラニーニ(Raphaël Malagnini)は10月に異動させられた。カタールの副大臣とモロッコの外交官を逮捕するはずだったが、それもできていない。結局、外国の欧州議会への介入は続いている。モロッコのロビーもやり放題だ。その証拠に、先週かなりな数の欧州議会議員がEU諸国にいるモロッコの大使たちからメールを受け取った。それは彼らに、西サハラに言及した左翼会派の修正動議に賛成しないよう要請する内容だった。実際、スペイン社会労働党が呼びかけて、先週水曜の本会議では、人権に関する年次報告書に西サハラを含ませるという左派の動議は否決されたのだった。
 正義は否定されても、報道はなお探求を続けている。2人のル・ソワールの記者、ルイス・コラールトとジョエル・マトリシュは1月末に「カタールゲート」と題する本を出版した。それはカタールゲートの中心人物、アントニオ・パンゼリの供述を含むもので、彼はモロッコの諜報機関(DGED)のエージェントM118、つまりムハンマド・ベルハラシュ(Mohamed Belharache)にラバトで3度会ったことを明らかにしている。この人物は10年以上前バルセロナで活動し、その後オルリー空港、最後はブリュッセルと活動の場を移している。パンゼリとM118との面会にはDGEDの長官、ヤーシーン・マンスーリーも同席していた。ベルギー捜査当局のメモによれば、欧州議会議員のアンドレア・コゾリーノも2019年11月にマンスーリーと会っている。マンスーリーは諜報機関のトップを19年間務め、国王に直接面会の申込みができる人物だとされる。(El Confidencial, 3 Mar. 2024)
https://www.elconfidencial.com/mundo/2024-03-03/quien-intoxicado-policias-belgas-investigaban-moroccogate_3841677/
https://archive.is/K3X9Z
(注)L’Observateur du Maroc et d’Africaを指していると思われる。

【西サハラ/占領地】
モロッコ軍、ブージュドゥールで住民のテントを焼き払う
 2月14日、モロッコ占領軍は西サハラのブージュドゥール周辺でいくつもの(居住用)テントを焼き払った。スペインのポリサリオ戦線代表が明らかにした。モロッコは現在国連人権理事会の議長国を務める。(CCOO, 19 Feb. 2024)
https://www.ccoo.es/noticia:685348–CCOO_denuncia_el_ataque_brutal_contra_poblacion_civil_saharaui_en_Bojador&opc_id=8d16a8710b3deb76f990d7433ce55780

アメリカの実業家、西サハラでの再生可能エネルギー事業を先導
 アメリカのビジネスマン、ピーター・アントニー・ギッシュ(Peter Antony Gish)は、西サハラ・ブージュドゥールで再生可能エネルギー事業を営もうとしているスペインのアクシオナ社(Acciona)の先導役を務めている。ギッシュはUkraine Power Resourcesという会社の設立者だが、ロシア・ウクライナ戦争が始まった時、再生可能エネルギー事業を行おうとモロッコに目を向けた。2022年にモロッコで、Ortus Climate Mitigationという彼の会社の現地子会社、Ortus Power Resources Moroccoを作り、そこを通じてブージュドゥールで再生可能エネルギー事業に取り組むORNX BOJADORという会社を設立した。それと同時に、エル=アイウンにもORNX EL AAIUN 1という会社を設立した。
 2022年3月、スペインのアクシオナ社の子会社であるノルデックス(Nordex)とギッシュはモロッコで大規模なグリーン水素発電事業を行う契約を結んでいた。その1年後、パブロ・ホセ・プルペイロ・モリがORNX Laayoune 1とORNX BOJODOR両社の取締役に迎えられた。
 モリは2023年4月までアクシオナ社が傘下におくノルデックス・ブレード・スペイン(Nordex Blades Spain)社の代表を務めた。ノルデックスは2012年以来、モロッコでの事業に参加し、最近はアズィーズ・アハヌーシュ首相と関係のある企業と一緒に淡水化プロジェクトに関わっている。
 2023年5月には、ORNX Moroccoが設立された。この会社はその名前とは違って、スペインの登録企業だ。それは国際的な資金調達をしやすくするためだ。ブージュドゥールのORNXプロジェクトは2024年後半には完成する予定で、10万トンのグリーン水素と60万トンのグリーンアンモニアを生産する。これにとくに関心を抱いているのが、今はアンモニアを輸入に頼っているモロッコリン鉱石公社(OCP)だ。
 ギッシュは2008年から2018年までモロッコで事業を営んでいたので、モロッコの再生可能エネルギー分野には詳しい。彼はUPC Renewables North Africa社をもっていて、2008年にタンジェの東30kmの地点にハラディ(Khalladi)風力発電所を建設した。その資金は、欧州復興開発銀行(EBRD)と、億万長者の銀行家オスマーン・ベンジェッルーンが率いるアフリカ銀行(Bank of Africa)だった。2015年以来、サウジアラビアのAcwa Power社がUPC Renewables North Africaの株を買い始め、最終的にはすべてを買収した。ギッシュはまたエル=アイウン地方の風力及び光電池事業にも関心を抱いていたが、現地の競争相手が多くいて、最後は諦めた。(Africa Intelligence, 14 Feb. 2024)
https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord/2024/02/14/le-businessman-americain-peter-antony-gish-poisson-pilote-du-geant-acciona%2C110158135-art

【モロッコ】
モロッコの新しいEU担当ロビースト
 1月16日からモロッコの新しいEU担当ロビーストが動き出している。その名前はラドワーン・バシーリー(Radouan Bachiri)、Extension Communicationというロビー会社の代表だ。2023年12月に、Moroccan Generation(モロッコ世代)という名前の団体のメンバーとしてロビースト登録を行った。この団体は2017年から活動している。Moroccan GenerationはモロッコとEUの連携協定の強化のため、モロッコの地方役人をブリュッセルに派遣し、ヨーロッパの代表団のモロッコ訪問を組織する。そして、モロッコとヨーロッパとの関係を深めるいくつものイベントを行う。例えば、1月末にはエル=アイウン、ダーフラ、ゲルミン、スス・マッサといった(西サハラ)各地の投資センターと連携してフランスのナントで「モロッコ・フランスエコノミックデイズ」と称する企画を行う。
 ラドゥアン・バシリはまた女性による外交に力を入れる。モロッコの新しいフランス大使、サミラ・シタイル(Samila Sitaïl)も女性だ。ラドゥアン・バシリは女性指導者フォーラムの会長も務めており、1月29日からディアナ・ホールディングのパトロンであるリタ・マリア・ズニベル(Rita Maria Zniber)氏を表彰した。
 ラドゥアン・バシリは2017年、ロビーストのジャン・ポール・カルテロンが設立したクレイン・モンタナフォーラムから「未来のニューリーダー」賞をもらった。同フォーラムはモロッコ政府と共同で(西サハラの)ダーフラで会議を開催している団体だ。さらに彼は2022年、2023年と、カサブランカ拠点の企業アスペン・コム(Aspen Com)から請け負い、アル・オムラーンモロッコ博覧会(Al Omrane Expo Marocains)のブリュッセル企画に携わった。それは在外モロッコ人に本国での不動産投資を促す目的のイベントだった。アル・オムラーンというのは、フスニ・エル=ガザウイが率いる持株会社であり、モロッコの公共住宅の開発を手がけている。
 2019年、コートジボワールの反体制派ジローム・ソロ(Guillaume Soro)が大統領選をにらんで人脈を広げるため、ブリュッセルで行った晩餐会がある。
 ラドゥアン・バシリの名前は2018年モロッコとベルギーのスパイ事件で浮上したことがあった。ラビのモシェ・アルイェ・フリードマン(Moshe Aryeh Friedman)が彼女をロビーストのカウタル・ファル(Kaoutar Fal)の背後にいる人物として名指ししたためで、ベルギーの公安当局はモロッコの対外諜報機関DGEDの秘密エージェントだと疑っていた。ラドゥアン・バシリはラビを名誉毀損で訴えたが、それを取り下げるとラビは再び彼を非難するようになった。(Africa Intelligence, 5 Feb. 2024)
https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord/2024/02/05/rabat-s-appuie-sur-un-nouveau-lobbyiste-a-bruxelles%2C110154999-art

ブリタ外相「南アは影響力ない」
 ラバトで行われた中東中所得国ハイレベル閣僚会議後の記者会見で、モロッコのブリタ外相は「南アは周縁的なアクターであり、西サハラ問題に介入する適性も能力ももたない」などと述べた。このコメントは国連総長特使のスタファン・デ・ミストゥラ氏が南アを訪問した直後のタイミングで発せられた。外相は、交渉の条件としてモロッコの(西サハラへの)主権を認める枠組みが必要であり、それはモロッコにとっての「レッドライン」だと述べた。モロッコが国連の西サハラ担当特使と衝突するのはこれが初めてではなく、バンキムン事務総長時代にクリストファー・ロスをペルソナ・ノングラタにしたことがあった。(Infobae, 6 Feb. 2024)
https://www.infobae.com/america/agencias/2024/02/06/sudafrica-es-un-actor-marginal-sin-capacidad-para-influir-en-el-sahara-segun-marruecos/

モロッコは不法移民の帰還を拒否
 3月9日(土)、海を泳いで飛び地のセウタに到着した約70人のモロッコ人を、スペイン当局は受け入れなかった。警備隊は彼らをパセオ・デ・コロン(セウタ市内の地区)に移し、モロッコが帰還を受け入れるまでコンテーナーに住まわせることにした。モロッコ側の帰還拒否は、移民希望者を勢いづかせており、命を落とすかも知れない無謀な冒険に身を委ねる者が後を絶たない。実際、土曜日には1人が死亡、もう1人が海で行方不明になっている。人の波は途絶えず、行方不明者が出ない日はない。子どもの場合は、施設に預けられるが、先の週末で270人の収容人数に近くなり、予算も足らなくなった。セウタは多くの大人をスペイン本国に送ることになった。青年子ども省は3,000万ユーロを子どもの移動や世話の経費として配分することにした。(El Faro de Ceuta, 12 Mar. 2024)
https://elfarodeceuta.es/bloqueo-devoluciones-lleva-mayor-riesgo-entradas-inmigrantes-marruecos/
 
西サハラ支持のモロッコ人青年、訴追される
 2021年5月、1万人のモロッコ人がセウタに泳いで到達したが、その中にスペインに政治亡命を求めた青年がいた。名前はワリード・エル=ガリーブ(Walid el Gharib)、28歳。彼は今や母国で「国家反逆」と「モロッコ王国の統一と国の治安・安全に損壊を与えるプロパガンダ拡散」の罪で起訴される身となった。本紙とのインタビューに答え、ワリドはモロッコでの汚職を告発したことで訴追され、有罪判決を受けたことはあるが、今回のような深刻なものは初めてだと語った。最長10年の禁固刑の可能性がある。
 今回起訴のきっかけとなったのは、バルセロナでターレブ・アリーサーレム(Taleb Alisalem)が書いた『自由への旅』という本の出版記念イベントが開かれた際、彼がそれに出席していたからだ。Facebookにタレブと一緒にとった写真があげられていたのが証拠になっている。しかも西サハラの旗を広げている。タレブは自身の本に「わが友ワリド、わがメッセージを理解し、わが闘いを支持することを知っている唯一のモロッコ人」と書き、署名した。ワリドは「モロッコに戻れないことはわかっている。帰れば命が危ない」と語る。彼はモロッコでは汚職について活動していたが、西サハラ問題を知ったのはスペインに来てからで、それで公に彼らの自決権を支持するようになったという。また、出版記念会の写真が出回るようになって、殺人予告を受け取るようになり、モロッコにいる彼の家族も脅迫を受けているという。(El Independiente, 15 Mar. 2024)
https://www.elindependiente.com/espana/2024/03/15/el-joven-que-llego-a-nado-a-ceuta-y-marruecos-persigue-por-alta-traicion-tras-apoyar-a-los-saharauis/

モロッコ:国連特使はもはやその資格がない
 モロッコはスタファン・デ・ミストゥラ氏をどうやら見限ったようだ。モロッコ外務省に近いメディア「ル・デスク(Le Desk)」は「モロッコ政府はデ・ミストゥラが交渉にアルジェリアを含ませるか、ポリサリオ戦線に軍事行動を止めさせるかしなければ、 デ・ミストゥラ氏との関係を維持しないと決定した」などと書いている。しかし、いずれの条件も達成不可能だ。アルジェリアは、自分は紛争当事者ではないとしてモロッコと対等な立場で交渉するのを拒否しているし、サハラーウィにこれ以上の低強度戦争に抑えろというのはさらに難しい。
 モロッコのこうした態度に、サンチェス首相もアルバレス外相も口を閉ざしたままだ。それどころか、社会労働党はモロッコ派のサハラーウィ団体「平和のためのサハラーウィ運動(MSP)」をマドリードの党本部に招き入れた。そこで開催されていた社会主義インターナショナルの理事会に参加させるためだ。MSPはモロッコの諜報部の隠れ蓑のであるにもかかわらずだ。一方、社会主義インターナショナルにオブザーバーの地位をもっていたポリサリオ戦線は招待されなかった。(El Confidencial, 22 Mar. 2024)
https://www.elconfidencial.com/mundo/2024-03-22/marruecos-librarse-mediador-conflicto-sahara-occidental_3853064/
https://archive.is/WqFxw

新カサブランカ・スタジアムの設計
 モロッコは2030年ワールドカップの最終戦をモロッコに誘致すべく、カサブランカに新しい巨大スタジアムを建設するつもりで、その設計者がポピュラス(Populous)というアングロサクソン系の設計会社に決まった。ポピュラス社はこれまでの世界各地で巨大スポーツ施設の設計を行ってきた。カサブランカの新スタジアムは、完成すれば世界最大のサッカースタジアムとなる。その観客席数11,5000は、バルセロナのカンプ・ノウスタジアム(105,000席)、マドリードのサンティアゴ・ベルナベウスタジアム(84,744席)、ピョンヤンの綾羅島(ルンナド)5月1日競技場(114,000席)を上回る。これまでモロッコ最大のサッカー場はムハンマド5世スタジアムで観客席数は67,000。共同開催国3国のうちポルトガルは最終戦の誘致を諦めた。3月19日、ポルトガルの開催コーディネーター、アントニオ・ラランジャ氏は「ポルトガルにはその規模のスタジアムはないし、規模を拡大する予定もない。つまり、ワールドカップの最終戦は誘致しない」と述べた。
 とはいえ、モロッコのGDPは1,264億7,500万ユーロで、ポルトガルの2,650億ユーロの半分以下。それでも18億7,300万ユーロの投資を新スタジアムに注ぎ込む。FIFAが求める最終戦用スタジアムの最低観客席数は8万。フランスのサッカー専門紙は「汚職と資金洗浄スキャンダルに揺れるスペインのサッカー連盟は、カサブランカの新スタジアムと比べると、サンティアゴ・ベルナベウスタジアムを無理強いする立場にない」とモロッコを持ち上げる。モロッコサッカー連盟の会長ファウズィ・ラクジャア(Faouzi Lakjaa)氏は「新スタジアムはモロッコのサッカーインフラを発展させようという国王の未来構想の表れであり、モロッコのすばらしいアセット(資産)になるだろう」と語った。(El Confidencial, 23 Mar. 2024)
https://www.elconfidencial.com/deportes/futbol/2024-03-23/marruecos-anuncia-estadio-mas-grande-mundo-arrebatar-espana-final-mundial_3853134/
https://archive.is/ddwBQ
【モーリタニア】
モロッコからのトラックの関税が3倍
 モーリタニア政府は、今年1月1日から、モロッコからのトラックが西サハラ南部の軍事緩衝地帯を通って同国に持ち込む荷物にかける関税を3倍にした。その結果、トラックの数は20-30%減少したと推測される。ただし、(同国を素通りして)セネガルやマリに行くトラックは追加課税の対象とならない。モーリタニアの措置は、モロッコ軍のドローンが軍事緩衝地帯付近で活動する金採掘業者たちを狙い撃ちにしているのをやめさせるためであり、モロッコのブリタ外相はモーリタニアのモハメド・サレム・ウルド・メルズーグ外相と1月22日、ラバトでこの問題を協議した。
 モーリタニアにとっても、青果の国内需要の50-60%をモロッコ産が満たしている現状で、青果の価格がつり上がることは避けたい。モーリタニアもモロッコからの陸上輸送への依存から脱却しようと、ヌアジブの港建設に期待をかける。工事は2026年末から2027年初頭にかけて始まり、2月16日に入札が行われる計画だ。アルジェリア、スペイン、中国、トルコの会社が受注競争に参加している。(Africa Intelligence, 7 Feb. 2024)
https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord/2024/02/07/droits-douaniers–nouakchott-pose-ses-conditions-face-a-rabat%2C110156119-art

【アルジェリア】
スペイン外相訪問、12時間前に延期
 スペインのホセ・マヌエル・アルバレス外相は、スペイン・アルジェリア関係の正常化を受けて、アルジェリア訪問を計画していたが、アルジェリア政府はその12時間前になって延期を申し入れた。スケジュール編成上の理由だという。一方、アルジェリアは1月14日にスペインからの鶏肉輸入を許可し、2月5日には牛肉・羊肉の輸入も始まった。それにもかかわらずの外相訪問延期であった。(El Mundo, 11 Feb. 2024)
https://archive.is/M3O3Y
https://www.elmundo.es/espana/2024/02/11/65c91c2afc6c83af138b457e.html

延期の理由は西サハラか
 アルバレス外相のアルジェリア訪問延期は、スペイン外務省によるとアルジェリア側の「スケジュール編成上の」都合ということだった。しかし、非公式の情報筋によると、両国の事前の調整で3つの不一致点があったという。まず、第一に、二国間問題以外に地域的問題を議論するかどうか。スペイン側は議論を二国間に絞り、西サハラが入らないようにしたかった。第二に、アルジェリア側は会談後共同声明を出したいと考えており、そこには西サハラへの言及があった。その文言はサンチェス首相が9月の国連総会で述べたことそのままだった。つまりスペインは「国連憲章及び安保理決議の枠内で双方に受け入れ可能な政治的解決を模索することに賛成する」、「事務総長特使の仕事は重要で、スペイン政府はそれを完全に支持する」というもの。第三に、スペイン側は共同記者会見でアルジェリアのアタフ外相が何を言うかについて事前に知りたいと申し入れたが、事前調整の段階で拒否された。また、スペイン側は、通常であれば外相訪問は大統領との面会となるが、アルジェリアのテブン大統領が拒否し、代わりに首相が会うことになり、スペイン側は気分を害したようだ。こうした状況をみて、アタフ外相はアルバレス外相訪問の受入れをキャンセルしたということだ。
 その1週間後、サンチェス首相は突如モロッコに飛び、国王と面会した。アルバレス外相も、2月21日のリオデジャネイロでのG20閣僚会合を欠席して、首相に随行した。(El Confidencial, 27 Feb. 2024)
https://www.elconfidencial.com/espana/2024-02-27/argelia-cancelo-viaje-albares-desacuerdos-comunicado-sahara-occidental_3838162/

アルジェリア、サンチェスを非難
 スペインのサンチェス首相はモロッコを電撃訪問し、ムハンマド国王に面会し、その後の記者会見でモロッコの西サハラ自治案への支持を改めて表明した。しかも、モロッコ王室はスペインがナイジェリア・モロッコガスパイプラインへの支持を表明したとまで発表した。前年の国連総会でのサンチェス首相は、スペインが西サハラ問題に対して伝統的な立場、すなわち中立的な立場に戻ったことを示唆していたが、再びモロッコ寄りの姿勢になったとの印象を与えた。アルジェリアは二度裏切られた気持ちだ、スペイン政府に何がおきているのか、彼らはアルジェリアの立場と原則を理解しないのか、とアルジェリア政府に近い筋は苛立ちを隠さない。(El Independiente, 29 Feb. 2024)
https://www.elindependiente.com/espana/2024/02/29/argelia-congela-relaciones-con-espana-tras-la-segunda-punalada-de-sanchez-en-marruecos/
https://archive.is/VvBsN

アルジェリア、周辺5ヶ国と自由貿易圏を形成
 テブン大統領は、アルジェリアが2024年中にモーリタニア、マリ、ニジェール、チュニジア、リビアと自由貿易圏を形成する計画を発表した。そのためのインフラとして、6ヶ国を繋ぐトランス・サハラ道路やチンドゥーフとズエラット(モーリタニア)を結ぶ高速道路の建設をあげた。また、アルジェリアはトランス・サハラ光ファイバーケーブル、トランス・サハラガスパイプラインに着手している。ガスパイプラインはナイジェリアのガスをアルジェリア経由でヨーロッパに送るというものだ。(Echoroukonline, 13 Feb. 2024)
https://www.echoroukonline.com/president-tebboune-algeria-to-create-free-trade-zones-with-5-african-countries-in-2024

【ナイジェリア】
モロッコとのガスパイプライン構想を了承
 ナイジェリアの国営石油会社CEO、メレ・キャリ氏は米ヒューストンで、ナイジェリアとモロッコの間を結ぶガスパイプライン建設を来たる12月に了承する計画であることを明らかにした。ナイジェリアはアルジェリアとの共同でサハラ砂漠を縦断するガスパイプラインの構想を平行して検討していたが、モロッコとの共同プロジェクトを選んだかたちだ。
 1月24日、ナイジェリアのエクペリクペ・エクポ石油相とモロッコのレイラ・ベンアリー(Leila Benali)エネルギー移行相が会談した際、それと平行してNNPCガス副総裁のオラレカン・オグンレイェ氏とモロッコの国家炭化水素・鉱物事務所の所長、アミナ・ベンカドラ(Amina Benkhadra)氏が会い、構想されるガスパイプラインを速やかに完成させ、アフリカの貧困削減に役立たせることで一致した。
 ナイジェリアは2022年にこのガスパイプラインのデザインをウォーリー(Worley)社にやらせている。完成すれば全長7,000km、海面下の部分が5,660kmあり、1,700kmが陸上となる。スペイン企業はこの事業への参加をまだ決めていない。(El Economista, 26 Mar. 2024)
https://www.eleconomista.es/energia/noticias/12741449/03/24/nigeria-y-marruecos-retan-a-argelia-con-el-mayor-gasoducto-submarino-a-europa.html
https://archive.is/EffLw

【フランス】
モロッコ産トマトの輸入増加で緊張
 モロッコはオランダ、メキシコに次いで世界で3番目のトマト輸出国となっている。最近モロッコは6回もの干魃を経験したが、第一の輸出先となっているフランスへのトマト輸出は新記録を達成した。2022年10月から2023年9月の間、モロッコがフランスに輸出したトマトは424,690トンで、前年度比7.6%の増加。輸出額は27%増加し、1億6800万ユーロ(1億8,100万ドル)を達成した。
 フランスのトマト・きゅうり協会によると、モロッコからのトマトの輸入はフランス産トマトを押しのけ「はっきりとした上昇傾向」を示しており、その背景には巨大小売りチェーンストアの低価格志向と、原産地表示の義務がない外食・惣菜産業の発達がある。
 モロッコの果物野菜生産輸出協会(Apefel)によると、EU市場が受け入れるトマトには基準価格が設定されており、実際の価格がそれより低い場合は、保護主義の原理が適用され、差額を税金として払わなければならないが、トマトの価格が十分に安ければその分をまかなうことが可能だという。
 モロッコではトマトの90%が南部のスース・マサ地方で生産されている。Apefelによると、2018年以来干魃が続いているが、アガディールにある淡水化施設が灌漑用水を提供してくれている。(Agence Ecofin, 5 Feb. 2024)
https://www.agenceecofin.com/legumineuses/0502-115857-maroc-la-hausse-des-exportations-de-tomates-vers-la-france-cree-des-tensions

モロッコ派弁護士、HDFを擁護
 フランスの水素発電企業、HDFエネルギー社はモロッコのファルコン・キャピタル・ダーフラ社とグリーン水素発電事業を西サハラのダーフラで行うと発表した(西サハラ友の会通信 No. 38参照)。ベルギーに拠点を置くNGO「西サハラ資源ウォッチ」は西サハラの法的地位をどう考えているのかを問う手紙をHDFエネルギー社に出し、その返事が来たが、内容は法的な問題にはまったく触れず、モロッコの宣伝を繰り返すだけのものだった。返事は会社からではなく、会社が雇ったパリの法律事務所、Michel Lacoux & Associatesからのものだった。同事務所からの返事は、サハラーウィの自決権を支持した数々の(EU裁判所の)判決を「偏向している」と評し、モロッコの侵攻で逃げた人びとのことを、意に反して「誘拐され」「拘禁されている」と描いている。そして資源ウォッチなどの国際団体のせいで現状が固定されていると非難し、彼らは「拘禁された人びとの未来」を無茶苦茶にし、「サヘル地方の繁栄と安定」を危険にさらしているなどと書いている。
 手紙を書いた弁護士のユベール・セイラン(Hubert Seillan)氏は、「持続可能な平和と開発のためのフランスモロッコ財団」の創設者であり、2017年9月にエル=アイウンで設立の式典をモロッコの役人立ち会いのもとで行っている。財団の目的はモロッコとフランスの企業を結びつけ、西サハラへの投資を誘致することだという。セイラン氏は昨年『モロッコサハラ:空間と時間』(Le Sahara marocain: l’espace e le temps)という本を出版し、エル=アイウンで出版記念会を行った。しかし、それが彼の最初の本ではない。2019年にも『政治vs.法:サハラ、人権とグデイム・イジーク裁判』(Politique contre le Droit: Le Sahara, les droits de l’homme et le proces de Gdim Izik)という本を出し、モロッコによるグデイム・イジーク裁判を「模範的」などと評している。(Western Sahara Resource Watch, 9 Feb. 2024)
https://wsrw.org/en/news/hdf-uses-morocco-campaigner-to-defend-controversy

モロッコとの関係修復、西サハラを犠牲に
 ペガサス(スパイウェア)問題以降2年間、フランスとモロッコの関係は冷たいままだった。その結果、モロッコは大地震の際にもフランスの人道支援を受け入れなかった。そんな中、今年1月にマクロン大統領によって外相に抜擢されたステファン・セジュルネ氏は、モロッコとの関係改善を大統領に命じられた。彼は「西サハラのようなセンシティブな問題ですら、フランスは常にモロッコ側にいた。2007年以来、フランスはモロッコの自治案を支持してきたが、今や先へ進むべき時だと思う」と、ウェスト・フランス紙によるインタビューで語った。しかし、西サハラはアルジェリアにとってもセンシティブな問題であり、彼がモロッコの主権を認めるつもりであるならそれはテブン大統領にとってもただごとでは済まない。フランス・アルジェリア関係の新たな火種となる可能性がある。(Tunisie Numerique, 11 Feb. 2024)
https://www.tunisienumerique.com/paris-veut-a-tout-prix-se-reconcilier-avec-rabat-sejourne-offre-le-sahara-occidental-attention-aux-foudres-dalger/

【スペイン】
サンチェス首相、モロッコ国王への抗議の開示拒否
 サンチェス首相は、モロッコがセウタとメリリャに対する拡張主義的欲求を示していることに抗議したとされるが、その抗議文の開示を拒否した。モロッコは、この2都市をスペイン領だと述べ、「セウタとメリリャというモロッコの都市」に対する敵対的な発言を繰り返したとして、移民問題担当の欧州委員会副委員長、マルガリティス・シナスを非難した。スペイン政府はモロッコのこうした発言に抗議したという。透明性評議会(Consejo de Transparencia: CTBG)は開示をすべしと命じたにもかかわらず、政府はその文書の開示請求に応じていない。(El Debate, 18 Feb. 2024)
https://www.eldebate.com/espana/20240218/sanchez-niega-dar-conocer-supuesta-nota-protesta-marruecos-querer-anexionarse-ceuta-melilla_174431.html

西サハラ管制空域、モロッコに移譲
 西サハラの管制空域はこれまでスペインが管轄し、管制業務はカナリア諸島から行われていた。モロッコは西サハラ管制空域の移譲をスペインに求めて来たが、このほど、本紙が外交筋から得た情報では、サンチェス首相はそれに応じることにした。それが2018年来停止しているセウタとメリリャの税関業務再開の条件だったからだ。
 昨年6月の段階では、スペイン側は西サハラ管制空域の引き渡しを拒んでいた。それはサンチェス首相がムハンマド6世と2月に合意した引き渡しの約束を反故にする行為だった。選挙が早まったことからサンチェス首相はそういう行動をとったのだが、その結果、モロッコ側からセウタとメリリャへの圧力が強まった。
 法的な問題が残る。スペインは西サハラの施政国であり、政府もそれは承知している。したがって、国際法上、スペインが勝手にその空域を他国に渡すことはできないはずだ。モロッコは不法に、事実上西サハラの空域を使っている。2021年12月にはカタール空軍のボーイングC-17グローブマスターIIIが西サハラの空域に入り、エル=アイウン空港に着陸した。この飛行機は「秘密」のフライトを行い、軍事的重装備品を運んだとされ、イタリアのメディアがそれを報じた。エル=アイウン空港にはモロッコ空軍の戦闘機も駐機しており、グーグルマップの衛星画像からそれが確認できる。(El Confidencial, 24 Feb. 2024)
https://www.elconfidencialdigital.com/articulo/politica/sanchez-desbloquea-traspaso-marruecos-gestion-espacio-aereo-sahara/20240223000000729067.html

上院議員が西サハラ管制空域問題について質問
 カナリア諸島の独立ヘレーニャグループ(AHI)に属するハヴィエル・アルマス上院議員は、政府が西サハラの管制空域をモロッコに渡そうとしている問題について、国連の基準に反しており、国際民間航空機構(ICAO)が決定権をもつのではないかと質問した。また、カナリア諸島とスペイン本土の空域には回廊がなく、モロッコかポルトガルの空域を通過しなければならない現実がある。もし、西サハラをモロッコに渡すのであれば、回廊を設けるなど要求していいのではないかとも述べた。(Diario El Hierro, 4 Mar. 2024)
https://www.diarioelhierro.es/javier-armas-(ahi)-pregunta-al-gobierno-de-espana-sobre-las-competencias-del-espacio-aereo-en-el-sahara-occidental
https://archive.is/s5FU0

モロッコ産トマトと人権
 人権・ジェンダー・食料主権などをテーマとするNGOのムンドゥバット(Mundubat)とパーマカルチャーを唱道するNGOのカンタブリア(Cantabria)が合同で行う西サハラのビジネスと人権の第5回オンライン講座は、西サハラで不法に栽培され、モロッコ産とされているトマトが、占領の既成事実化に役割を果たしていることを明らかにする。このところ、一次産業が見捨てられてきた歴史を身を以て味わってきた地方の人びとや団体が、スペイン全土で抗議を繰り返すようになった。彼らの要求の一つは、いわゆる「ミラー条項」、すなわち貿易協定における相互主義の適用にあり、環境、健康、動物の福祉水準といった欧州で求められる基準を輸出国側にも求めるというものだ。モロッコ産トマトはスペイン産よりはるかに安く、スペインのトマト生産に壊滅的な打撃を与えている。
 この「モロッコ産」トマトのルーツは西サハラのダーフラにあり、5つの企業がこれに関わっている。一つは王室が所有し、アガディールの元市長や農業大臣が関わる企業もある。そこで生産されるトマトが安いのは、不法な占領地ゆえの税の優遇措置と、スペインの10倍も安い労働賃金、年300日もの好天日というめぐまれた自然があるからだ。西サハラで生産されたトマトはアガディールに運ばれ、そこでモロッコ産と混ぜられて「モロッコ産」と表示された箱に詰められる。これは、EU規則543/11、すなわち消費者情報法及び、欧州・地中海協定に違反している。(Mundubatのリリース、16 Feb. 2024)
https://www.mundubat.org/empresas-derechos-humanos-y-la-cara-b-del-tomate-marroquinizado/

モロッコからの青果、残留化学物質が基準値越え
 欧州の農家は長い間、海外からもたらされる青果がEUの基準を満たしていない可能性があると警告してきた。ただ、その証拠は示されなかった。今回、セヴィリアの検査室がモロッコからの数十もの青果の中にEUで禁止されているレベルの物質を発見した。検査されたのは12品目あるが、その内本紙はイチゴ、トマト、グリーンピースの3品目の分析を入手した。その他はラズベリー、トマト数種、唐辛子数種、キュウリ、アボガドなどだ。それらの内1種類の唐辛子を除いて、EUでは許されない水準の数種の化学物質や農薬の残留が見られた。例えば、いちごには9種類の物質が発見されたが、その内次の6種類はEU基準を超えていた:Cyprodinil, Difenoconazole, Trifloxystrobin, Clofentezine, Penconazole, Fenhexamid。他の2品目の検査でも類似の結果が現れている。EUは健康に有害だとしてこれらの物質を厳しく規制しているが、海外からの青果だといいというのだろうか?(Voz Populi, 25 Feb. 2024)
https://www.vozpopuli.com/economia_y_finanzas/alimentos-marroquis-compuestos-perjudiciales.html

モロッコ産イチゴにA型肝炎ウィルス
 ヴァレンシア農業者連合(AVA-ASAJA)は、食料緊急警報システム(RASFF)がモロッコ産イチゴにA型肝炎ウィルスが発見されたというリリースを発出したことを受けて、政府に緊急措置を要請した。RASFFは「許容されるレベルを超えている」として深刻なリスクだとし、「大便が混入した水が灌漑に用いられている可能性がある」と述べている。農業者連合はルイス・プラナス農相に手紙を出し、モロッコ政府に対していかなる措置を採るのか、また再発をどう防ぐのか問い合わせるよう求めた。また、EUの関係部局にも知らせてすべてのモロッコ産イチゴについて検査を行うよう求めて欲しいと伝えた。(Antena3, 5 Mar. 2024)
https://www.antena3.com/noticias/salud/alerta-deteccion-hepatitis-fresas-procedentes-marruecos_2024030565e74f80ab79d800017cc75f.html
https://archive.is/Mqd9x

モロッコでは鳥の糞を餌に混ぜている
 スペインのメディアによると、モロッコの畜産・養鶏農家は鳥の糞を餌に混ぜているところがある。それは大腸菌やカンピロバクターといったバクテリアによって人の健康を害する可能性がある。そう警告を発するのは、モロッコのメディウナ・ヌアスール地区の動物医療課の長であるムニール・スルターニー(Mounir Sertani)氏だ。氏によると、それは人の健康に影響を及ぼすだけでなく、肉の風味や質にも影響を及ぼす。モロッコの国家食品安全事務所は、養鶏農家に対して管理された餌を与えるようキャンペーンを始めた。しかし、モロッコの農業省は、モロッコ産イチゴについて言われていることはすべて嘘だ、などと述べている。モロッコはモロッコ側で依頼した検査からは何も検出されなかったという。
 スペインの消費者協会は農業団体(ASAJA)とともに政府とEUに対してスペイン産とEU外産の不公正・不平等な取扱の是正を要請した。(OK Diario, 22 Mar. 2024)
https://okdiario.com/espana/alerta-sanitaria-marruecos-advierte-del-uso-excrementos-ave-alimentar-ganado-12567508

農業団体、モロッコの農産品に対する緊急措置を要求
 スペインの農業・畜産連合(COAG)の青果部長アンドレス・ゴンゴラ(Andrés Góngora)氏は、モロッコからの農産品輸入に対して緊急措置を発動するよう要求している。それは、EUモロッコ特恵待遇協定が欧州の消費者を欺き続けないためであり、EUとして適正な原産地表示を確実ならしめるため、異なる行政機構における管理を徹底するという措置だ。とくに、西サハラ産のトマトやメロンがEUの法律に違反して西サハラではなくモロッコ産と表示されていることに鑑み、西サハラ産の青果かどうかを確認できるようにしなければならない。
 先日出された欧州司法裁判所法務官の意見は、COAGの立場を支持するもので、今のやり方は欧州の原産地表示規則に則していない。法務官の意見については、上の欧州司法裁判所法務官の意見(2.フランスの農業団体提訴案件)を参照。

サンチェス首相、ナイジェリア・モロッコガスパイプラインへの支持を表明か?
 2月21日、サンチェス首相は急遽モロッコを訪問することになり、国王と面会した。結局、セウタとメリリャの税関業務再開の約束は取り付けられなかったが、国王と一緒の写真を撮ることができた。一方、モロッコはサンチェス首相からナイジェリア・モロッコガスパイプラン計画への支持を表明されたようだ。今回の訪問では何の文書の署名にも至らなかったものの、首相が帰路についていた時、モロッコ王室は、スペイン政府が上記パイプライン計画を含む王室のイニシャティブに関心があることを強調した、などと声明で発表した。
 このガスパイプライン計画は総距離7,000kmに及び、その内5,300kmは公海の海底を走るというもので、西サハラのダーフラで陸に上がり、モロッコに入って、スペインに繋がるパイプラインに接続される。技術的にも、政治的にも問題がある計画だ。しかも、2016年に示された費用は250億ドルだ。海底を走るパイプの維持費も無視できない。当初2046年から操業開始を見込んでいたが、実際建設には25年から50年かかると考えられる。モロッコとナイジェリアの資金だけでは到底無理だ。果たして、海外からの資金は得られるのか。(El Independiente, 26 Feb. 2024)
https://archive.is/mRHqV
https://www.elindependiente.com/espana/2024/02/26/marruecos-implica-a-espana-en-la-construccion-de-un-gasoducto-inviable-que-atraviesa-la-costa-del-sahara/

社会労働党、モロッコ派サハラーウィ団体を社会主義インターナショナルに招待
 スペインの主要な与党である社会労働党(PSOE)は、モロッコ派のサハラーウィ団体「サハラーウィ平和運動(Sahrawi Movement for Peace: MSP)」を社会主義インターナショナルに招待した。これはポリサリオ戦線への対抗措置だ。
 先週マドリードで開催された社会主義インターナショナル理事会のゲストとして招かれたのは、MSPを率いるハシュ・アフマド・ベルカッラ(Hach Ahmed Bericalla)だった。その時の議長は首相のペドロ・サンチェス(社会労働党)。昨年、ベリカラは社会主義インターナショナルにオブザーバーの地位を求めたが、与えられないでいた。
 スペインの情報局(CNI)の2021年6月24日の報告書によると、MSPはモロッコの諜報機関DGEDがカバー(隠れ蓑)に使っている団体だ。ただしベリカラはDGEDの仕事をしていないと述べている。
 実際、MSPはモロッコ政府からの支援がなければできないだろうと思われる活動を行っている。例えば、2022年9月、カナリア諸島のラス・パルマスで数百人の参加者をえて会議を開催した。その多くはモロッコと西サハラから来ていて、彼らの旅費は会議側が出していた。昨年10月、ダカールで同様の会議を開催している。ラス・パルマス会議の経費について問い合わせたが、返答はない。
 ハシュ・アフマド・ベリカラがサンチェス首相と西サハラ問題で公に連携したのは2022年3月のことだった。その時、彼はサンチェス首相のムハンマド6世国王への手紙を「非常に前向き」と評価し、ポリサリオ戦線を徹底的に批判し、40人いるサハラーウィ政治囚の釈放も求めなかった。2月初め、国連事務総長特使のスタファン・デ・ミストゥラ氏が南アフリカへ行ったとして氏を批判した。
 設立後間もない2020年春、MSPはスペイン社会労働党員個人から支援を受けていた。それが今や、党としての支援を受けるまでになった。ラス・パルマスとダカールの会議では、スペインの元首相ホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロや元国会議長ホセ・ボノ、そして国会議員のフアン・フェルナンド・ロペス・アギラルがスピーチを行った。サパテロとボノは西サハラにも何度か足を運んでいる。
 MSPを支援することはポリサリオ戦線から正統性を奪うことになる。国連においては、ポリサリオ戦線こそがサハラーウィ人民の代表であり、EU裁判所でもそのような立場として訴訟を行っている。そしてすべての裁判においてモロッコに勝っている。
 2022年12月のマドリードでの社会主義インターナショナルの会議で、ポリサリオ戦線はオブザーバーの地位をもっていたにもかかわらず、西サハラについての決議を勝ち取ることができなかった。コロンビア、クルド人といった遠いところの運動は決議が出たにもかかわらずだ。その会議ではペドロ・サンチェスが社会主義インターナショナルの議長に選出された。
 また、今年2月24・25日の理事会会合では、スペインの社会労働党員たちはモロッコのラバト・サレ選挙区から選ばれ、(スペイン国内の)タラゴーラ市の住民となっているモロッコ国民の力社会主義連合(USFP)のアイシャ・エル=グルギ議員を推挙し、ペドロ・サンチェスが共同議長を務める平等委員会のメンバーにしてしまった。グルギ氏は、昨年5月のスペインの地方選で、モロッコ出身のスペイン国籍保持者たちに「社会労働党、あるいは選挙区の社会労働党を含む選挙連合に」投票するよう呼びかけた人物だ。彼女自身も7月にスペインで投票を行った。それはつまり、彼女がスペインとモロッコの両方の国籍をもっているということだ。スペインとモロッコの間には二重国籍に関する条約はなく、そういう場合、一方の国籍は破棄しなければならない。興味深いことに、スペイン政府は彼女のこうした状況を放置している。彼女の夫はスペインの実業家だ。
 2021年9月のモロッコでの議会選において、グルギ氏はモロッコの領土的一体性を完成させる必要を訴えた。それはつまり、セウタとメリリャ、カナリア諸島の「解放」を呼びかけたことになる。
 2019年4月、グルギ氏はモロッコの国民の力社会主義連合の第一書記、ドリース・ラシュガル(Driss Lachgar)のスペイン訪問をアレンジした。ラシュガル氏は交通大臣だったホセ・ルイス・アバロスなどと面会したが、以後、ラシュガルはアバロスとの近しい関係をSNSで発信し続けている。アバロスが大臣を解任され、PSOEの書記をやめさせられたときも、グルギ氏はアバロスに忠実だった。2021年7月、グリギ氏はアバロスの妻・娘ともにモロッコでの休暇をアレンジした。休暇中、アバロスはラバトのドリス・ラシュガルの自宅でのディナーに招待された。
https://www.elconfidencial.com/espana/2024-03-02/psoe-invita-internacional-socialista-organizacion-pantalla-inteligencia-marroqui_3841346/
https://archive.is/7BGSB

『スペイン領サハラの歴史』出版
 Gerardo Muñoz Lorente, Historia del Sahara español: del la colonización al Abandono (1884-1976), Almuzara Editorial, 2024. が出版された。著者は作家・歴史家で、31冊の本を出している。スペインは西サハラを近代化し、進歩をもたらしたのか、抑圧的・差別的政策をとっていたのか、米国は「緑の行進」にどこまで関与したのか、なぜスペインはモロッコとモーリタニアに西サハラを渡して撤退したのかなど、数々の問題点が扱われている、包括的な西サハラ植民地史である。(Información, 6 Mar. 2024)
https://www.informacion.es/cultura/2024/03/06/gerardo-munoz-lorente-presenta-nuevo-99087074.html
https://archive.is/Zk41Y

連立参加の諸派、西サハラ政策の「中立化」を要求
 スマール(Sumar:左派)、ビルドゥ(Bildu:バスク左派)、PNV(バスク民族主義)は、3月13日(水)、議会の外交委員会において、サンチェス政権が西サハラ問題に対して「中立政策」を復活させ、「政治的コンセンサス」を回復するよう要求し、首相がモロッコと取り交わした約束について議会に報告するよう求める国民党(PP)に同調した。国民党は、西サハラ問題をめぐるコンセンサスのある立場に戻ること、セウタの税関がいつ再開されるのか時期を示すこと、サハラーウィ難民キャンプへの協力を増やし、モロッコの地震の被災地への支援を増やすこと、スタファン・デ・ミストゥラ氏の活動や方針、MINURSOの現状について報告することなどを求めた。(Press Digital, 13 Mar. 2024)
https://www.pressdigital.es/articulo/politica/2024-03-13/4756578-socios-sanchez-respaldan-pp-congreso-gobierno-rectifique-posicion-sobre-sahara

首相夫人の研究センターと公金の流れ
 サンチェス首相の妻、ボゴニャ・ゴメス(Bogoña Gómez)はスペインのIE大学(ビジネススクールから発展した大学)のアフリカセンターの所長を、その2018年の設立当初より務めていた。(報道によれば2022年6月には職を辞している。現在の所長はEniola Harrison。)メディアが報じている疑問は、このIEアフリカセンターが2020年1月、コロナ禍で倒産しかけていた航空会社エアー・ヨーロッパ(Air Europa)から毎年4万ユーロの資金提供を受けていた点だ。2020年といえば、11月にサンチェス政権が4億7,500万ユーロの救済資金をエアー・ヨーロッパに対して決定した頃だ。当時、英国航空の親会社IAGがエアー・ヨーロッパを買収する話があった。買収額は10億ユーロで、IAGは2019年に買収の意思を表明していた。ただ、それもコロナ禍で中断した。結局、IAGは1億ユーロをエアー・ヨーロッパに融資する代わりに株の20%を得るという取引が成立した。
 エアー・ヨーロッパが政府から救済金を得る契約は、グローバリア・ホールディングスの子会社、ワカルア(Wakalua)が代わりに署名したが、そのCEO、ハヴィエル・ヒダルゴ(Javier Hidalgo)は首相夫人であるボゴニャ・ゴメスの近しい友人だった。大学側からは、彼女は署名はせず、IE大学副学長のカルロス・マス・イヴァルスがアフリカセンターの代わりに署名を行っている。(つまり、ボゴニャ・ゴメスは一切表に名前を出すことなく、夫サンチェスが率いる政府の救済金をもらったエアー・ヨーロッパから毎年4万ユーロをもらい続けたということになる。)
 本紙が入手した文書によると、エアー・ヨーロッパはIEアフリカセンターの観光イノベーションプロジェクトに毎年25,000ユーロを支払い、さらに毎年15,000ユーロをアフリカセンターの活動に関わる航空運賃として支払っていた。また、ヒダルゴの会社は、コロナが拡大する前の2020年4月4日、アフリカセンターのロンドンでのイベント「Africa Solutions」のスポンサーになっている。そのイベントを中心で担ったのはボゴニャ・ゴメスだった。ヒダルゴの会社はそのイベント関連の航空券代のうち4,024ユーロを払った。その内の一枚は、社会労働党(PSOE)の書記長の妻のビジネスクラスのチケットだった。(El Confidencial, 15 Mar. 2024)
https://www.elconfidencial.com/empresas/2024-03-15/air-europa-pacto-africa-center-begona-gomez-pago-antes-rescate_3849356/
https://archive.is/BbFoG

ヒダルゴ・ボゴニャ関係の形成
 首相夫人ボゴニャ・ゴメスとグローバリア・ホールディングスのCEOハヴィエル・ヒダルゴが最初に会合をもったのは、2019年9月、サンクトペテルブルク(ロシア)のあるホテルでだった。当時、そこでは国連世界観光機関(UNWTO)の第23回総会が行われており、2人とコルド・プロット(Koldo Plot)のリーダー、ヴィクトル・ゴンサロ・デ・アルダマを含めた3人は、同じホテルに宿泊しており、UNWTO総会の歓迎晩餐会の後、深夜になってホテルのヒダルゴの部屋で会ったという。
 その会合でヒダルゴはボゴニャ・ゴメスにグローバリアがバス会社運営でかかえた負債について支援してくれるよう求めた。その負債のせいで、持続可能な町の復旧と伝統的貿易に関するプロジェクトにゴーサインがでないからだという。ヒダルゴはこのプロジェクトに私財を投じるほど力を入れていた。本紙が話をきいた会社の関係者によると、ヒダルゴとゴメスが会ったことは知っているが、援助が仲介されことはないという。
 会社の関係者によると、ゴメスはグローバリアが返礼としてIEアフリカセンターを支援できるという話に興味をもったという。ロシアでのUNWTOの会合に呼ばれたスペイン企業がグローバリアだけだったというのも、不思議な話だ。コルド(Koldo)のリーダーは、なんら経営責任をもつ立場ではないにも関わらず、会社の一人の役員として招かれていた。
 ワカルアがスポンサーとなったロンドン大学でのIEアフリカセンターのイベントは、2020年3月に行われた。IE大学はワカルアに直接スポンサーになってもらったのではなく、ワカルアはロンドンまでの交通費を出しただけだという。
 サンクトペテルブルクのような会合は1回だけではなかった。エアー・ヨーロッパの救済前に3回は行われている。マドリード近郊のポズエロで2回、ズーム会議で1回。
 サンクトペテルブルクの会議の4ヶ月後、2020年1月17日、エアー・ヨーロッパはIEアフリカセンターに毎年4万ユーロを資金援助する協定を結んだ。このことに詳しい筋の情報によると、この協定は政府がヒダルゴの会社を支援し、グローバリアがもつバス会社の負債を許すことが条件になっていたという。(The Objective, 16 Mar. 2024)
https://theobjective.com/espana/politica/2024-03-16/begona-gomez-reunio-secreto-hidalgo-aldama/
https://archive.is/6X4qK

セルヴァンテス・インスティテュート、西サハラ事務所開かず
 スペインの公的文化交流機関(日本だと国際交流基金)であるセルヴァンテス・インスティテュートは西サハラのエル=アイウンに事務所を構える予定となっているが、現時点ではそうした動きはまだ見られない。セルヴァンテス・インスティテュートはモロッコではカサブランカ、フェズ、マラケシュ、ラバト、タンジェ、テトゥアンの6都市にオフィスをもつ。以前、社会労働党のミケル・イセタ(今はユネスコ大使)が文化相だった時代に官報で西サハラの事務所に関する入札が発表された際、西サハラをモロッコ領としてしまった過ちがあり、今はスマール(西サハラについてより原則的な立場)のエルネスト・ウルタスンが文化相となっていることに関係しているのかもしれない。ただ、文化省は法律家たちが求めているような修正には応じていない。(El Independiente, 18 Mar. 2024)
https://www.elindependiente.com/espana/2024/03/18/el-instituto-cervantes-congela-su-polemica-llegada-al-sahara-occidental
https://archive.is/A6u0w

スペインの対モロッコ開発援助、倍増する
 スペインの西サハラ政策が大転換を遂げた後、サンチェス政権はモロッコへの開発支援を2,550万ユーロから5,150万ユーロに倍増させた。一方、アルジェリアへの援助は14%減って、7,932,318ドル(2021年)から6,640,868ユーロとなった。(The Objetive, 23 Mar. 2024)
https://theobjective.com/espana/politica/2024-03-23/sanchez-aumenta-100-ayudas-desarrollo-marruecos/
ENAIRE、西サハラをモロッコ領と表示
 スペインの航空マネジメント会社エネール(ENAIRE)は、ドローン操作に関するウェブアプリケーションの地図で西サハラをモロッコ領と表示していたことを批判された。エネール社は、第三者が作ったものであると弁明しつつ、その地図の使用を擁護した。地図は米国のESRI社の地図を採用していて、純粋に技術的な問題であり、政治とは関係ないと主張し、今後も使い続けると言う。また、地図に説明を付して注意を促すこともしないという。西サハラの地図の問題はスペイン外務省やRTVE(スペインテレビラジオ放送)の番組でも同様のものが起きており、サンチェス政権が西サハラの空域をモロッコに引き渡そうとしていることと関係があると思われる。ただ、国連機関である国際民間航空機構(ICAO)は、西サハラの空域をカナリア諸島管制空域としており、それはスペインの管轄だとなっている。(El Independiente, 31 Mar. 2024)
https://www.elindependiente.com/espana/2024/03/31/enaire-defiende-el-uso-en-su-web-de-un-mapa-de-marruecos-que-incluye-el-sahara/
https://archive.is/Gt4b9

【アフリカ連合】
新法律顧問にチュニジアの法律家
 昨年の9月以来、アフリカ連合の法律顧問ポストが空いていたが、2月の首脳会議前に決定を見た。新法律顧問はチュニジアのカルタゴ大学教授のハージェル・ゲルディーシュ(Hajer Gueldich)に決まった。Merit Based Recruitment System (MBRS)という、2021年にルワンダのカガメ大統領の提案で始まった新しいリクルート方式で決定した。この方式だとバイアスがないとされる。前任の法律顧問が昨年9月に履歴詐称で告発された際、代理を務めることになったのはサハラーウィのムハンマド・サーリム・ブハーリー・ハリール(Mohamed Salem Boukhari Khalil)氏であったが、数ヶ月で新任が決定したことになる。ハリール氏はこのスピーディなリクルート過程について規則違反であるとして連合の行政裁判所に訴えたが、訴えは退けられた。(Africa Intelligence, 14 Feb. 2024)
https://www.africaintelligence.fr/afrique-est-et-corne/2024/02/14/l-ua-met-fin-a-la-saga-autour-du-poste-de-conseiller-juridique%2C110158011-art

以上。