西サハラ友の会通信 No. 33

3月は、モロッコの体制が独裁的で、人権を尊重しないということを裏付けるニュースが多く出ました。ジャーナリストに対する攻撃、政治囚の状況、国連の作業部会の判断などです。なにより、モロッコの元人権大臣自身が投獄されている状況はそれを物語って余りあるでしょう。彼の獄中書簡がスペインの新聞に載りました。

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目次

【環境】
・リン肥料の使いすぎが地球環境を破壊する

【西サハラ/占領地】
・ジャーナリストへの攻撃

【難民キャンプ/RASD】
・アルジェリア文化相のキャンプ訪問
・ガーリー大統領のベネズエラ訪問

【モロッコ】
・モロッコのポーランド大使の実業家としての顔
・元大臣の獄中書簡「モロッコは今や隣国にとって危険な存在だ」
・モロッコの拡張主義、アルジェリアの南西部をターゲット
・フランスとの関係を凍結?

【スペイン】
・アルジェリア危機でEUと企業救済を交渉
・モロッコと西サハラ管制域について交渉開始
・カディスの西サハラを支援する学生デモ

【フランス】
・在仏サハラーウィ・コミュニティが、政治囚について訴える

【米国】
・ブリンケン国務長官、ブリタモロッコ外相と会談

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【環境】
リン肥料の使いすぎが地球環境を破壊する
(西サハラがリン鉱石の世界的産地であることに関連して)
科学者たちは地球が「フォスフォゲドン(Phosphogeddon リン酸が引き起こすこの世の終わり)」を迎えると警告している。作物の生育に欠かせないリン肥料はリン鉱石を加工して製造されているが、リン鉱石が枯渇すると、食物生産を大幅に減少させる。また、リン肥料は畑から流れ出て川や海に溶け込み、富栄養化を招いてプランクトンを大量発生させ、酸素を消失させて一帯で魚を死滅させる(いわゆる赤潮)。ランカスター大学のPhil Haygarth教授は「われわれは今危機的な転換点にさしかかっている。もしリンの使用を賢くやらなければ、フォスフォゲドンという大惨事になるだろう」と述べる。世界は数年でリン使用のピークを迎え、それ以後は供給が減っていくだろう。そうすると多くの国が自国民を食べさせるために闘わなければならなくなる。巨大企業が供給網を独占し、1970年代のオイルショックのような事態になるだろう。SF作家のアイザック・アシモフがいみじくも言ったように「生命はすべてのリンを使い尽くすまで増え続けるだろう。しかし、誰も防げない停滞がやがて訪れる」のである。ロシアのバイカル湖、アフリカのビクトリア湖、アメリカのエリー湖などはすでに汚染されている。エリー湖ではプランクトンの異常発生が見られ、飲み水を汚染している。メキシコ湾でも毎年赤潮が現れる。赤潮は大気中にメタンを放出する。メタンは二酸化炭素の80倍の温室効果をもつ。化石燃料の採掘とともに、それは「地球的大破壊(planetary havoc)」を引き起こしている。(The Guardian, 12 Mar. 2023)
https://www.theguardian.com/environment/2023/mar/12/scientists-warn-of-phosphogeddon-fertiliser-shortages-loom

【西サハラ/占領地】
ジャーナリストへの攻撃
エル=アイウンに住む「サハラーウィ国営放送」の記者、アル=サルハ・ムハンマド・アル=バシール(Al-Salha Muhammad Al-Bashir)さんは、家を出ようとした時にモロッコの秘密警察に襲撃され、腕や足、背中にひどい傷を負ったと、SNSに投稿した。彼女は襲撃される直前、サハラ・アラブ民主共和国を支持するスローガンを叫んだ。(Sahara Press Service, 26 Mar. 2023)
https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2023/03/26/44803.html

【難民キャンプ/RASD】
アルジェリア文化相のキャンプ訪問
3月18日(土)、難民キャンプを訪問したアルジェリアのソラヤ・ムルジ文化相は、ブージュドゥール地区で「サハラーウィ国民劇場(Sahrawi National Theatre)」の設立を含む幅広い文化協力協定に署名した。(Sahara Press Service, 19 Mar. 2023)
https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2023/03/19/44708.html

ガーリー大統領のベネズエラ訪問
ガーリーRASD大統領/ポリサリオ戦線書記長一行は、サハラ・アラブ民主共和国とベネズエラの外交関係樹立40周年を記念して、マドゥーロ大統領の招待で3月19日(日)からベネズエラを訪問した。滞在中、国立霊廟を訪問し献花、外相、国会議員団、大統領と会談し、11もの協力協定に調印した。ベネズエラは1980年にRASDを承認し、1982年に外交関係を樹立している。(Sahara Press Service, 19, 20, 21, 22 Mar. 2023)
https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2023/03/22/44757.html

【モロッコ】
モロッコのポーランド大使の実業家としての顔
欧州議会を揺るがしているモロッコゲートの資金の流れの要にいるモロッコのポーランド大使、アブドゥルラッヒーム・アトゥムーンはホテル経営を行う実業家としての顔ももっている。パリの第5区にSCI Immobiliere Groupe ATAという会社を通じてボーボワールホテル(Hotel Beauvoir)を所有しているのだ。彼はフランス国籍を取得した1987年にこのホテルを買収した。この小さな三つ星ホテルは、2011年から2019年にかけて、彼が議長を務めていたモロッコEU合同議会委員会のモロッコ代表団の定宿となった。国会議員だった頃、彼は上院のフランスモロッコ友好議員連盟で活発に活動していた。(Africa Intelligence, 7 Mar. 2023)
https://www.africaintelligence.fr/le-continent/2023/03/07/louise-mushikiwabo-sameh-shoukry-catherine-colonna-abderrahim-atmoun-andre-de-ruyter-pierre-haik,109920326-art

元大臣の獄中書簡「モロッコは今や隣国にとって危険な存在だ」
(1997-1998年に人権大臣を務めた)ムハンマド・ズィヤーン(Mohamed Ziane)はリフ地方の家系に生まれ、2022年11月から投獄されている反体制派の政治家である。モロッコ自由党設立者で国会議員も務めた。以下は彼の獄中からの書簡の要約である。)
昨年10月スペインの新聞エル・インデペンディエンテ紙に掲載されたインタビューで、私はムハンマド6世国王に、統治を継続できることを公に示すか、さもなくば退位するよう求めた。スペインでは、フアン・カルロス国王が当時の皇太子で現国王、フィリペ6世のために退位したという先例がある。したがって、私の進言はスペイン国民にとっては普通のことでしかない。
2023年のモロッコの人権状況は1999年よりひどい。故ハサン2世は変革が必要であると確信し、投獄していた政敵たちを釈放した。一方で、人権助言評議会は、ムハンマド・バスリー(Mohammed Basri、長年にわたり国王の政敵で左翼政党たる人民諸力国民連合の創設者であるフキーフ・バスリー[Fqih Basri]として知られていた)を説得した。私は彼にパリで何度も会った。その場には長年の反体制活動家でフランスに亡命していたムーメン・ディウリー(Moumen Diouri)も同席していた。
私は人権大臣に就任し、バスリーの案件を扱った。モロッコは南アフリカやチリのような真実和解委員会を設立し、補償と和解を進めることになった。しかし、和解は茶番だった。補償が与えられたのは、秘密警察のエージェントとなった「反体制」活動家たちだった。
今日、人権状況はハサン2世の時代よりもひどい。女性を使って思想家、政治活動家、労働組合運動家、宗教指導者たちを辱めている。大学はまったくもって体制に服従し、ジャーナリストも堕落した。ハサン2世の時代、選挙は操作されていた。今は国会議員は票を金で買っている。結果は同じだ。
モロッコを70年代や80年代の他の国と比較しても意味がないだろう。モロッコは西側世界に属しており、海の向こうの近代的で文明的な国々と接している。しかし、対岸の国々との差異が両者を隔てる海よりも大きいとき、不安定の危険がそこに潜むと言わなければならない。(El Independiente, 5 Mar. 2023)
https://www.elindependiente.com/internacional/2023/03/05/carta-de-un-ex-ministro-marroqui-entre-rejas-marruecos-es-hoy-un-peligro-para-la-estabilidad-de-los-paises-vecinos/

モロッコの拡張主義、アルジェリアの南西部をターゲット
スペインメディアの報道によると、モロッコの王立公文書館のバヒージャ・シームー館長(Bahija Simou)は、「いわゆる西サハラだけでなく『東サハラ』もモロッコの主権の範囲だとする歴史的文書があり、学者達はそれを見ることができると述べた。それは中世から今日に至るまでの通信文のみならず、地図や条約、協定を含むという。東サハラにはチンドゥーフを含むアルジェリアの南西地域が含まれる。週刊紙「マロク・エブド(Maroc Hebdo)は最新号で、西サハラだけでなく南西アルジェリアも領土の一部としていた。関連するインタビュー記事に、フランスの歴史家ベルナール・リュガン(Bernard Lugan)氏が登場し、彼は「仏領アルジェリアを拡大するためにモロッコの領土は切り取られた」と述べた。ルガン氏は、ハサン2世は奪われたモロッコの領土をフランスと交渉して取り戻そうとはしなかった、なぜならそれはフランスからの独立を求めて闘っているアルジェリアを「背後から刺す」ようなまねだからだ、独立後アルジェリアと交渉すればいいと考えていた、という。そういう意味で、1961年のアルジェリア暫定政府と国境を交渉で画定するという協定が結ばれたのだが、1963年にベン・ベラ大統領が権力を握ると、約束は反故にされた、という。
ハサン2世は1972年にアルジェリアとの国境協定を結び、それはフランス植民地の領域境界線を継承するというものだった。ただ、国王は「敵対的な隣国より強く友好的な隣国」を望んだからだ、という。しかし、この協定をモロッコ議会は批准しなかった。1992年の官報には載ったが。また、国連にも条約文は提出されなかったという。したがって、東サハラの問題を持ち出すのは「大モロッコを再建する」のが目的ではなく、モーリタニアとの関係のように、アルジェリアとのより健全な隣国関係を作ろうという新しい試みなのだ、という。
アルジェリア通信社APSは、このモロッコの雑誌の主張を直ちに否定し、この記事はモロッコの惨めな国内状況から目をそらさせるため体制が書かせたものだ、と批判した。(Voz Populi, 12 Mar. 2023)
https://www.vozpopuli.com/internacional/marruecos-eleva-tension-argelia-reivindica-sahara-oriental.html

フランスとの関係を凍結?
低迷していたフランスとモロッコの関係がこのところ急速に悪化している。モロッコの政府関係者は駐モロッコ仏大使のクリストフ・ルクルティエ(Christophe Lecourtier)氏に会わないよう指示された。モロッコのフランス大使もすでに数ヶ月間指名されないままになっている。ルクルティエ氏が数日のパリでの休日を終えてラバトに戻ると、大臣や政府代表者は彼との会談や食事をキャンセルしてきた。1月末以降、公式にはそうでないにしても、事実上「ペルソナ・ノン・グラタ」(好まれざる人の意で入国禁止者などに用いる)になっている。
今回の関係凍結の背景には西サハラ問題があるが、加えて、欧州議会のモロッコにおける表現の自由に関する決議がある。ルクルティエ大使はモロッコの雑誌『テル・ケル』に「決議はフランス政府を拘束しない」と釈明したが、モロッコの指導者たちは納得しなかった。この状況は、2021年3月、ベルリンで西サハラ問題に関する会議が招集されたときとそっくりだ。その時ブリタ外相は政府関係者がドイツ大使と会うことを禁じた。その状態は、2021年12月シュルツ首相がモロッコを訪問し、モロッコが西サハラ紛争の解決に2007年の自治案を通じて重要な貢献を成した、と述べるまで続いた。スペインのサンチェス首相はモロッコの自治案を「最も真面目で、現実的で、信頼のおける問題解決の基礎だ」と発言した。モロッコはフランスがドイツやスペインのように振る舞うことを期待している。(Africa Intelligence, 12 Mar. 2023)
https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord/2023/03/21/rabat-gele-ses-relations-avec-paris,109925662-eve

【スペイン】
アルジェリア危機でEUと企業救済を交渉
スペイン政府はアルジェリアによる対スペイン経済関係停止措置で打撃をうけたスペイン企業の救済についてEUと交渉している。アルジェリアはスペイン政府がモロッコの西サハラ自治案を認めるという歴史的転換を行ったことの報復としてスペインとの経済関係を凍結した。スペイン政府はEUに149件の事故が発生したことを伝えた。スペイン政府はまたアルジェリアでの事業が総事業の30%を超える企業については、他の市場を開拓する支援を行う計画である。欧州委員会はアルジェリアに対して自由貿易協定を守らせる立場にあるが、これまでのところアルジェリアからは「個別に対応する」という返事しかもらえていない。スペインの対アルジェリア輸出は9ヶ月で84%減少し、減少額は9億3,000万ユーロに上った。アルジェリアとの取引が多いバレンシア州とカタルーニャ州がとくに打撃を受けている。(Activos, 7 Mar. 2023)
https://www.epe.es/es/activos/20230307/espana-argelia-bloqueo-comercial-plan-ayudas-empresas-84178017

モロッコと西サハラ管制域について交渉開始
カナリア諸島連合の上院議員フェルナンド・クラヴィホ氏が出した質問に答えるため、サンチェス政権は法律チームをつくった。4月7日の共同宣言の第7項目に、空域管理の交渉を始めるとあったことに対応したものだ。モロッコは西サハラの陸地を占領しているが、その空域はカナリア諸島の管制域に含まれていた。国際的な民間機航空を監督する国連の国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization)にもそのように届け出てあった。モロッコはその管制域をモロッコに引き渡すよう要求していた。(El Independiente, 22 Mar. 2023)
https://www.elindependiente.com/espana/2023/03/22/espana-admite-estar-negociando-con-marruecos-la-gestion-del-espacio-aereo-del-sahara-occidental/

カディスの西サハラを支援する学生デモ
アンダルシア地方のカディスで行われたスペイン語に関する会議のオープニングに登場したアルバレス外相に対して、カディスの学生たちは「モロッコは殺人者、スペインはスポンサー、自由サハラ」をスローガンに叫んで抗議行動を行った。抗議は政府がモロッコと管制域の交渉を行っているというニュースを受けて行われた。学生たちは、サハラーウィは「占領地と海外の難民キャンプにいながら、モロッコの支配と略奪に47年間抵抗してきた」と訴え、サハラーウィの権利を要求した。そして、「独裁政権下での自治など自由をもたらすはずがない。スペインは施政国であり、自決権を行使する住民投票に必要な条件を整える責任がある」と訴えた。学生たちはフィリペ6世国王に対してもデモを行った。(Portal de Cádiz, 28 Mar. 2023)
https://www.portaldecadiz.com/cadiz-capital/80782-estudiantes-de-cadiz-protestaron-ante-el-rey-contra-el-apoyo-de-espana-al-plan-de-marruecos-por-el-sahara-occidental

【フランス】
在仏サハラーウィ・コミュニティが、政治囚について訴える
3月18日(土)、在フランスサハラーウィ・コミュニティはパリのトロカデロ広場に集まり、モロッコの刑務所に収監されているサハラーウィ政治囚の困難な状況を訴えるデモを行った。悪名高いアイト・メッルール第2刑務所にいるアブデルムーラー・エル=ハフィーディー、モハンメド・ダーダーは2月20日からハンガーストライキを行い、刑務所職員から処遇改善の約束をえて、ストライキを停止した。また、スペインから2019年に国外退去を言い渡され、モロッコで12年の刑を言い渡されたエル=フセイン・エル=バシール・ブラーヒーム・アマアドゥールはハンガーストライキ27日目に達している。デモは、モロッコ政府、赤十字国際委員会、国連安保理、アフリカ連合理事会、スペイン政府に要求を発した。(Por un Sahara Libre, 19 Mar. 2023)
https://porunsaharalibre.org/2023/03/19/save-the-lives-of-sahrawi-political-prisoners-in-danger-in-moroccan-prisons/?lang=en

【米国】
ブリンケン国務長官、ブリタモロッコ外相と会談
3月20日、ワシントンでブリンケン国務長官とナッセル・ブリタモロッコ外相が会談した。その後の記者発表によると、西サハラ問題に関して、両者はスタファン・デ・ミストゥラ国連事務総長個人特使の永続的で尊厳ある政治的解決に向けた努力を完全に支持することを確認した。また、国務長官は、米国はモロッコの自治案を「真面目で、信用のおける、現実的であり、西サハラ人民の願望に沿った潜在的アプローチ」とみなしていると述べた。(国務省記者発表、20 Mar. 2023)
https://www.state.gov/secretary-blinkens-meeting-with-moroccan-foreign-minister-bourita-2/

【国連】
恣意的拘禁に関する作業部会、スルターナ・ハヤとルワアラ・ハヤに関して判断
国連の恣意的拘禁に関する作業部会は1月23日、サハラーウィ人権活動家のスルターナ・ハヤとルワアラ・ハヤに対するモロッコ当局の措置を恣意的拘禁にあたると判断した。姉妹は2020年11月19日から事実上の自宅軟禁状態におかれ、スルターナは2022年6月1日スペインに逃避することができたが、ルワアラと彼女らの母はまだ西サハラにいる。彼女の法律アドバイザーチームは3月21日にウェビナーを開催する。(Press Release, International Legal Team, 7 Mar. 2023)

人権高等弁務官、西サハラの人権モニターの必要性に言及
フォルカー・テュルク(Volker Türk)国連人権高等弁務官は3月8日、人権理事会において世界の人権状況を総括する中で、西サハラについては暴力に終止符をうち、自由を尊重する必要があると述べた。また、西サハラへの人権関係のミッションは最新のものでも8年前であり、それを再開する必要があるとも述べた。(Sahara Press Service, 8 Mar. 2023)
https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2023/03/08/44526.html

以上。