西サハラ友の会通信 No. 28

 2022年10月分のニュースを送ります。今回、紛争解決に向けての大きなニュースはありませんが、動向を左右する出来事がいくつかあります。カナリア諸島と西サハラの沖合の海底で、電気自動車生産に欠かせない希少金属が発見され、莫大な富をもたらしそうです。モロッコは自分のものだと主張し始めました。MINURSOのマンデート延長安保理決議は、とくにぱっとするものではないですが、人権高等弁務官事務所との協力要請が盛り込まれたことは一歩前進であろうと思います。本来はMINURSOに人権監視機能を付加せよというのが要求ではありましたが。


目次 No. 28

【西サハラ/占領地】
・ダーフラで国際投資フォーラム

【モロッコ】
・中国製最新鋭ドローンを購入
・王位継承をめぐる争いか?
・カナリア諸島近くに油田を発見
・モロッコ政府「我が国とスペインとの間に陸地の国境はない」
・モロッコ、ロシアと原子力協力を開始
・マリエム・ハサンの歌を挿入したモロッコ映画を禁止
・フランス大使、1年で交代
・ポリサリオのイラン製ドローン使用への警告
・カナリア諸島のコバルト

【スペイン】
・アルジェリアとの貿易減、1日440万ユーロの喪失
・外相、国連特使に支持を表明
・国連非植民地化特別委員会での陳述を取り止め
・マドリッド協定はカナリア諸島の独立を抑えるため?
・スペイン開発庁、西サハラの境界線を復活
・モロッコのスパイのスペイン国籍申請を却下
・セウタ・メリリャに共同主権を構想か?

【フランス】
・アルジェリアとの関係強化

【米国】
・米議員、アルジェリアへの制裁を呼びかける

【その他の国際社会】
・豪、西サハラのリン鉱石の輸入を再開
・オランダ、モロッコと移民送還協定
・ユネスコのモロッコ人職員、内部調査
・イタリア新首相と西サハラ
・EU、モロッコの有機農業支援で1億1500万ユーロ
・国連安保理、MINURSO延長決議を採択

【西サハラ/占領地】
ダーフラで国際投資フォーラム
 メキシコのユダヤ系新聞(Enlace Judío)によると、9月18日・19日、モロッコが西サハラ占領地のダーフラで国際投資フォーラムを開催し、投資を呼び込むためのインセンティブを公表した。ダフラ・ウェド・エッダハブ(Dahla Oued Eddahab)地区のエル=ハッタート・ヤンジャー(El Khattat Yanja)は、ダーフラはサハラ砂漠の南にある49ヶ国へのゲートウェイだと述べた。また、ダーフラでは漁業、観光、農業、再生エネルギー分野で投資を呼び込むためのインフラを整備している他、水上ゲームを楽しむ観光客にとって一番の行き先となっているなどと述べた。さらに、農産物はヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、中東などの国々に自由貿易協定を通じて輸出されているとも述べた。さらに、モロッコの北部やダーフラ地域ではスペイン語が話されており、ラテンアメリカは重要な市場となっているとも述べた。
 投資フォーラムではユダヤ人が大きな役割を果たした。在メキシコユダヤ人協会会長でモロッコ・メキシコ友好連盟のビジネス部事務局長をしているモイゼス・アンセレム・エルバス(Moisés Anselem Elbaz)は13人の投資家からなるメキシコの派遣団を率いていた。アンセレム氏は、外国企業は5年間無税とされており、ダーフラでは免税優遇措置は100%に達すると説明した。また、モロッコ政府は、企業の操業場所にもよるが、雇用補助金や社会保障費を負担し、給与も政府が部分的に負担すると述べた。(Enlace Judío Mexico, 20 Oct. 2020)
https://www.enlacejudio.com/2022/10/20/el-gobierno-de-marruecos-ofrece-grandes-incentivos-a-inversionistas-extranjeros-conocelos/

【モロッコ】
中国製最新鋭ドローンを購入
 モロッコはこれまでフリゲート艦、F-16戦闘機、装甲車や米国製ドローンMQ1プレデターを購入するなど数十億ドルをかけて兵器の最新鋭化をはかってきた。そして今度は、中国製最新鋭戦闘用ドローンWing Loong IIを購入した。それは地上攻撃能力をもち7,000km先まで飛ぶことができる。これまでもモロッコは中国から軍事ドローンを購入し、それをポリサリオ戦線地上部隊への攻撃に使ってきた。今週、Wing Loong IIがモロッコ上空を飛行していることが確認されている。米国製のプレデターも同様の攻撃機能をもつが、米国との協定により、戦争で使うには制限がある。2021年中モロッコはドローン攻撃で民間人を殺害したが、米国はまさにそういうことが起きるのを避けたいのだ。しかし、中国製ドローンにそうした制限はない。Wing Loong IIは米国製プレデターのいわば廉価版であり、32時間のクルーズ飛行が可能で(最高速では20時間になる)、7,400km先へ飛べることを意味する。(OK Diario, 2 Oct. 2022)
https://okdiario.com/espana/marruecos-compra-drones-militares-chinos-mas-modernos-mientras-espana-regala-4×4-9739842

王位継承をめぐる争いか?
 アルジェリアのメディアが、モロッコ王国軍内で進行している大規模な人事異動を王位継承に絡む権力闘争とみて解説している。真偽のほどは定かではない。記事によると、ムハンマド6世国王の19才の息子、ハサン3世皇太子を推しているのは、国王のアドバイザーであるユダヤ系のアンドレ・アズレー(André Azoulay)と対外情報機関(DGED)のヤーシーン・マンスーリー(Yassine Mansouri)である。一方、現国王の弟、ラシド王子を推しているのが警察公安局長のアブドゥッラティーフ・ハンムーシー(Abdellatif Hammouchi)で、その背後には国軍の多くの高官たちとイスラエルがいる。今回、16人の将官級、32人の佐官級の将校たちが異動の辞令を受けた。今回の異動は、王国軍の監察長官ベルヒール・エル=ファールーク(Belkhir El Farouk)がパレスチナ占領地(イスラエルのこと)に行き、シオニスト政体(イスラエル政府のこと)が開催した会議に参加し、ツハルでの軍事演習を視察して帰国して後行われたもので、その訪問では、ハサン3世皇太子が王位を継承するシナリオに反対の考えをもつ軍人たちを排除する計画が話し合われたとされる。それを画策したのは、モサドのエージェントであるアンドレ・アズレーに他ならない。ムハンマド6世が、イスラエルとの関係正常化に反対する国軍内の一派によるクーデターの試みを一度ならず免れたという噂がある。除隊した空軍将校、ムスタファー・アディーブ(Mostafa Adib)は「モロッコ軍は(イスラエルとの関係正常化で)パニックになっている」と述べ、近々軍内で大規模な人事異動があるだろうと予想した。そのため軍高官たちは盗聴などされているという。実際、その通りになった。(L’Expression, 1 Oct. 2022)
https://www.lexpressiondz.com/nationale/spectre-d-un-putsch-militaire-au-makhzen-361333

カナリア諸島近くに油田を発見
 2022年4月の業界紙の記事であるが、カナリア諸島から100kmほどの地点、アガディール海盆のインゼガネ(Inzegane)鉱区に2つの油井が発見された。10億バーレルの生産能力をもつという。近年最大級の発見である。同鉱区の75%をもつイギリスの会社、ヨーロッパ石油・ガス社(Europe Oil & Gas)が発表した。残りの25%はモロッコ政府が所有する。同鉱区は11,220平方キロメートルの広さがあり、モロッコのシディ・イフニ、タンタン、タルファヤの沖合に位置する。かつてマドリッドに本拠を置くエネルギー会社、レスポル社(Respol)とスペインが探査を行ったが、油井を発見することはできなかった。エネルギー関係の雑誌、El Periódico de la Energíaによると埋蔵石油の価値は1000億ドルになるという。それはモロッコのGDPに相当する。スペインでは気候変動法によって2024年までに石油の採掘を終了しなければならない。現在、新しい採掘は禁止されている。したがって、たとえ石油が発見されたとしても、2024年以降採掘することはできない。ただ、2050年までは特定の条件下で採掘が許されることもある。一方、モロッコはしばらく石油を重要なエネルギー源として使い続けるいい理由ができたといえるだろう。(Xataka, 22 Apr. 2022)
https://www.xataka.com/energia/marruecos-ha-descubierto-petroleo-cerca-canarias-espana-no-porque-hace-mucho-tiempo-que-dejo-buscar/amp

モロッコ政府「我が国とスペインとの間に陸地の国境はない」
 モロッコがセウタとメリリャを「占領地」だとみていることが、モロッコ政府の人権理事会宛て9月9日付文書で明らかとなった。国連人権理事会が、昨年6月24日メリリャで発生した「過剰な致死性の力の行使」の説明を求めたその回答として、モロッコ政府が理事会に送った文書の中で、モロッコはその立場を次のように述べた。
 「モロッコとメリリャの間の境界線が『モロッコ・スペイン国境』だというのは不正確である。なぜなら、モロッコはスペインと陸地の国境線をもたないからである。メリリャは占領された監獄である。したがって、国境線について語ることはできず、単純に通過地点としてのみ語ることができる。」
 スペインがモロッコの西サハラ自治案を認めた理由には、飛び地であるセウタとメリリャの安全保障のためというのがあり、アルバレス外相はそう説明もしていたが、モロッコはそういう取引に応じてはいなかったようだ。(El Independente, 13 Oct. 2022)
https://www.elindependiente.com/internacional/2022/10/13/marruecos-defiende-ante-la-onu-que-melilla-es-un-presidio-ocupado/

モロッコ、ロシアと原子力協力を開始
 モロッコは原発建設に向けロシアと協力することを明らかにした。ロシアの法律情報公式ポータルにおけるミハイル・ミシュスティン首相の声明で明らかとなった。協定では、ロシアの原子力企業ロサトム(Rosatom)、外務省、その他のロシアの国家機関が14の原子力関連分野で協力を進めることになっている。協定は9月9日に発表された。ロシアとの核協力は米国との関係に溝を作ることになるが、モロッコはウクライナ戦争によるエネルギー危機への対応を迫られている。(El Debate, 13 Oct. 2022)
https://www.eldebate.com/internacional/20221013/marruecos-alcanza-acuerdo-cooperacion-nuclear-rusia-podria-construir-centrales-nucleares_65910.html

マリエム・ハサンの歌を挿入したモロッコ映画を禁止
 10月20日(木)、映画制作の許認可と検閲を行うモロッコ映画制作センター(CCM)は、西サハラ独立派の歌手、マリエム・ハサン(Mariem Hassan)の歌を含んでいるとして、モロッコ人監督のイスマーイール・エル=イラーキー(Ismael El Iraki)による「ザンカ・コンタクト」(仏2020年制作、「コンタクトストリート」という意味)という映画を国内及び海外で上映禁止とすると声明で発表した。この映画は2021年フランスで封切られ、9月にはモロッコのタンジェで行われた国内の映画祭で大賞を受賞している。
 声明によると、同センターに提出された脚本ではその歌を使うとは書かれておらず、別な「モロッコの原則に触れない」歌手による歌が使われる予定だった。映画は同センターから420万ディルハム(389,000ユーロ)の制作補助金を受けていた。センターは監督の映画制作ライセンスを取り上げ、制作会社に対しても48時間以内に修正を施さなければモロッコ国内で映画制作を行う認可を取り下げると言っている。
 映画に使われたマリエム・ハサンの歌というのは西サハラの独立について歌ってはいるが、映画ではほんの2、3秒しか流れない。ストーリーは、ロックシンガーが故郷のカサブランカに帰ったとき、売春宿で働く少女と出会い恋に落ちるというもの。(Swissinfo/EFE, 20 Oct. 2022)
https://www.swissinfo.ch/spa/marruecos_marruecos-prohíbe-una-película-por-incluir-una-canción-prosaharaui/47994012

フランス大使、1年で交代
 モロッコの駐フランス大使ムハンマド・ベンシャアブーン(Mohamed Benchaâboun)は2021年10月に着任したばかりだが、2022年10月18日、国王の投資基金の責任者に任命されたことが発表された。モロッコとフランスの外交的危機を象徴するような出来事で、あるモロッコ外交通によると両国は「象徴の戦争」に入ったと言えるらしい。とくにモロッコの大使とフランスの大使のレベルが釣り合わないと考えられていて、それが今回の交代に繋がったと思われる。(Jeune Afrique, 19 Oct. 2022)
https://www.jeuneafrique.com/1386340/politique/maroc-france-le-depart-de-mohamed-benchaaboun-un-pas-de-plus-dans-le-malaise-diplomatique/

ポリサリオのイラン製ドローン使用への警告
 モロッコのオマル・ヒラール国連大使は、ポリサリオ戦線がイラン製ドローンを使うとしたらそれはゲームチェンジャーになるためモロッコは適切な対応をとることになると警告した。モロッコのメディアが報道した。大使は、チンドゥーフの難民キャンプが食料不足なのにドローンを買うというのは道徳的な問題も引き起こす、もしポリサリオ戦線がイラン製ドローンを使うとなれば、モロッコがこれまでも警告してきたように、イランとヒズボラがチンドゥーフと北アフリカに浸透している証拠になると述べた。また、大使は、安保理のMINURSO延長決議に触れて、もしMINURSOが撤退すれば、モロッコはその地(西サハラ)を回復する権利を有すると述べた。(Europa Press, 29 Oct. 2022)
 アルジェリア政府は、このモロッコの国連大使の発言を、西サハラ解放区への侵攻の意図を示したものと受け取った。(TSA, 30 Oct. 2022)
https://www.europapress.es/internacional/noticia-marruecos-advierte-habra-respuesta-militar-adecuada-si-polisario-utiliza-drones-iranies-20221029150813.html
https://www.tsa-algerie.com/le-maroc-menace-denvahir-les-territoires-liberes-du-sahara-occidental/

カナリア諸島のコバルト
 カナリア諸島の沖合の海底の地下に眠る大量のコバルトとテルル(tellurium)について、モロッコは自国領のものだと主張している。今週ドイツで開かれた国際的な自動車産業フェア(Automobilwoche Kongress)に出席したモフシーン・ジャズリ投資相は、モロッコはバッテリー及び電気自動車の部品生産の世界的な拠点及びアセンブリー拠点の一つになるつもりだと豪語した。モロッコはその戦略に必要なコバルト、リン鉱石、マンガン、ニッケルを埋蔵している、中にはスペインとの領土紛争を抱える地域にあるが、モロッコ政府と裁判所はすでにモロッコのものであることを確認したと述べた。トロピック火山(Tropic seamount)の地下4,000メートルにはテルルの塊があり、それは2億2,700万台分の電気自動車のセミコンダクターの製造を可能にし、数百万枚のソーラーパネルを作ることもできるという。問題は、トロピック火山が西サハラの沖合に位置するということであり、モロッコは西サハラを自国領だとしてその資源に主権を主張している。モロッコはこの戦略を進めるために、国連の大陸棚境界線に関する委員会にモロッコ人海洋法専門家を送り込むことに成功した。本来、委員の資格は地学、地球物理学、水路学のいずれかの専門家であることだが、モロッコのミールード・ルーキーリー(Miloud Loukili)教授は海洋法の専門家で、モロッコの西サハラに対する主権の断固たる擁護者である(友の会通信 No. 24参照)。(OK Diario, 30 Oct. 2022)
https://okdiario.com/espana/marruecos-da-suyo-cobalto-canarias-jacta-que-sera-potencia-mundial-del-coche-electrico-9901904/amp

【スペイン】
アルジェリアとの貿易減、1日440万ユーロの喪失
 アルジェリアのボイコットが6月に始まり、7月を入れた2ヶ月間では1日あたり440万ユーロの利益が失われた計算になる。アルバレス外相はある部分では貿易は正常化したと言っているが、アルジェリア・スペイン商工業協会(CCIAE)のジャマールッディーン・ブー・アブドゥッラー会長は「何も回復などしていない。大臣は何について言っているのかわかっていないのだ。ガス以外、何の取引もない」と述べた。EUはスペイン政府の側に立っているが、その効果はなく、アルジェリアは妥協する様子はない。(Voz Populi, 10 Oct. 2022)
https://www.vozpopuli.com/economia_y_finanzas/espana-perdio-4-millones-dia-ventas-argelia-giro-sanchez-sahara.html

外相、国連特使に支持を表明
 マドリッドを訪問していた国連事務総長特使のスタファン・デ・ミストゥラ氏との会談で、アルバレス外相は特使の仕事への支持を改めて表明した。外相とミストゥラ氏が会うのは4回目で、ミストゥラ氏のマドリッド訪問は2度目となる。(Europa Press, 4 Oct. 2022)
https://www.europapress.es/eseuropa/noticia-ue-albares-reitera-enviado-onu-sahara-apoyo-espana-labor-20221004210832.html

国連非植民地化特別委員会での陳述を取り止め
 国連総会第四委員会(政治・非植民地化)で、スペインは陳述する旨登録をしていたが、土壇場になって陳述を取り止めた。出席していた各国は驚いた様子だった。(El Independente, 4 Oct. 2022)
https://www.elindependiente.com/espana/2022/10/04/espana-renuncia-in-extremis-a-su-intervencion-en-el-comite-de-descolonizacion-de-la-onu-sobre-el-sahara/

マドリッド協定はカナリア諸島の独立を抑えるため?
 カナリア諸島にあるラ・ラグナ(La Laguna)大学地理・歴史学科教授ドミンゴ・ガリ(Domingo Gari)氏はその著書『西サハラ戦争における米国』(2021年、スペイン語)で、1975年スペインがマドリッド協定(スペインは撤退し、西サハラをモロッコとモーリタニアで分割する秘密協定)を結んだのは、ポリサリオ戦線に対するアルジェリアの影響が、当時上昇機運にあったカナリア諸島の独立運動を勢い付かせるのではないかという懸念があったからだ、と述べた。ガリ氏は米国務省の開示された機密文書やフォード、カーター、レーガン政権の公文書、CIAの資料を調査した。そこからわかったことはポリサリオ戦線が戦争の初期には領土の85%を支配していたが、米国の援助、また砂の壁の建設によって紛争が大きく変化したことである。また、スペインは国連が非植民地化を進めていた頃すでにモロッコと裏で引き渡すことを話し合っていた。アルジェリアは革命的な体制であり、保守的なスペイン政権はアルジェリアの影響が(西サハラが独立したら)ポリサリオ戦線を通じてカナリア諸島に及ぶのを恐れていた。
 ガリ氏によると、ソ連はポリサリオ戦線を支援したかというと、直接にではなかった。ソ連はRASDを認めたことはないし、武器はモロッコにも売っていた。ポリサリオ戦線が使っているソ連製の武器はモロッコから奪ったものも含む。アルジェリアはポリサリオ戦線を支援している。
 ガリ氏によると、戦局の変化はカーター政権後期とレーガン政権期のモロッコへの軍事援助がもたらしたものだ。当時、アメリカはイランを失い、ソ連がアフガンに侵攻した。北アフリカではハサン2世が重要なパートナーだった。それで高度な武器をモロッコに与えたのだ。(El Diario, 15 May 2022)
https://www.eldiario.es/canariasahora/internacional/entrega-sahara-marruecos-pretendia-frenar-influencia-argelina-independentismo-canario_128_8991690.html
(本の紹介)
https://www.catarata.org/libro/estados-unidos-en-la-guerra-del-sahara-occidental_132889/

スペイン開発庁、西サハラの境界線を復活
 スペイン外務省は、モロッコと西サハラの間の境界線を再び明示するよう地図を修正した。2022年7月、ムレット議員は問題となっている地図が国際法違反でモロッコの主張に屈服するものではないのかと質問していた。それが10月6日、政府は「開発庁のウェブサイトリニューアルの過程で、最終的ではないテスト版が一時的にサイトに載ってしまった」と言い訳した。そして、外部に委託して作成されたウェブサイトであり、すでに以前のと同じものに変更されているとした。また、スペインは完全に国際法に沿う立場であり、西サハラ問題担当の国連事務総長特使を支援していると述べた。(El Independente, 7 Oct. 2022)
https://www.elindependiente.com/espana/2022/10/07/la-agencia-espanola-de-cooperacion-modifica-su-pagina-web-para-recuperar-la-frontera-entre-marruecos-y-el-sahara

モロッコのスパイのスペイン国籍申請を却下
 9月4日、全国管区裁判所は、マドリッドのモロッコ領事館のエージェントとして働いていた者がモロッコのスパイであったとして、スペイン国籍の申請を却下する裁定を下した。裁定の根拠となったのがスペインの諜報機関・国家情報センター(CNI)の報告書で、その者は2016年にマドリッド到着時からモロッコ領事館と緊密な関係をもって仕事をしていたという。
 また全国管区裁判所での別な裁判では、グラン・カナリアのラス・パルマスを拠点とするモロッコ人ビジネスマンの国籍申請も却下した。彼もまたモロッコの諜報機関と関係があったという理由だ。2020年1月27日に出た判決では、当人は8年間もモロッコの諜報機関に協力していたという。(Publico, 10 Oct. 2022)
https://www.publico.es/politica/cni-revela-nuevos-vinculos-espionaje-marroqui-consulados-espana.html

セウタ・メリリャに共同主権を構想か?
 スペインのメディア「モンクロア(Moncloa)」(注・Moncloaは首相官邸のある場所で政府の代名詞)の編集長ハビエル・デ・ベニト・ヘルナンデス(Javier de Benito Hernández)が、セウタとメリリャをモロッコとの共同主権下に置くことを政府がオプションとして考えているという暴露記事を書いた。以下はその要約である。
 モロッコとの外交交渉の中でスペイン政府はセウタとメリリャを共同主権下に置くという考えを出しているということが、ますます言われるようになっている。政府はそれを否定し、関係者にあたっても、社会労働党はそうしたことを考えたことはないと言われる。少なくとも短期的には、であるが。問題は、国家情報センター(CNI)やその他の警察の部署が、政府がセウタとメリリャの共同主権を一度ならずモロッコとの交渉の議題にしたと主張していることである。
 サンチェス首相がムハンマド6世にモロッコの西サハラへの主権を認める(ママ)書簡を出したのは、セウタとメリリャへのモロッコの圧力を弱めるためだったとされる。だからといって、モロッコはこの2つの都市を決して手放さない。それらの周囲のインフラを整備し続けているのは共同主権に向けた準備だとされる。モロッコにしてみれば、スペインが英領ジブラルタルの返還を求めていることは、スペイン政府にこうした圧力を加える根拠となっている。そして社会労働党にとって、少なくとも、そうした可能性を交渉の場に出すことは重要な取引材料以上の価値があることは明らかなのだ。
 国家情報センターはこのことをよく知っている。サンチェス政権はそのオプションを取引材料として退けていないという見方が、このことろますます広まっている。最も大胆な予測は、2030年にこのことが考慮されるようになるだろうというものだ。ただ、今、政府はエネルギー供給問題に関連してモロッコとの不安定な関係に至急対応しなければならない。モロッコの西サハラに対する主権を認めたのはその第一歩だったのである。一方、モロッコにとって、2つの自治都市を共同主権にするということは、スペインの他の要求に屈しなければならなくなることを意味している。
 モロッコは過去数ヶ月、2つの自治都市の周囲のインフラを整備しており、スペインの内務省と国家情報センターはそれを潜在的脅威とみなしている。加えて、警察と内務省も、政府が共同主権について話すのを拒否しているわけではないと確信している。しかも短期的には2030年にそれが議論されそうだと考えているのである。それは独立派との交渉戦略とも合致する。(カタロニア独立派の)ガブリエル・ルフィアン(Gabriel Rufián)のような人たちは交渉で自決に相当する住民投票を議論したいと思っている。だが、モロッコは共同主権の話になったら、それに対する(住民の)拒否権を認めたくないだろう。つまり、政府は(住民の意思とは関係なく)交渉によって解決する道を選びたいのだ。
 こういう背景があって、国家情報センターや警察は憤っており、それで政府はこれらの重要な政府機関のサポートを受けられなくなっているのである。スペインの情報機関にとって、西サハラ問題は微妙な問題であり、決して(政府のやり方を)好意的には見てはいなかった。とりわけモロッコの西サハラへの主権を認めたことは国家情報センター内に不快感を広めた。ましてやセウタとメリリャの共同主権が交渉議題に上がるとなれば、どれだけ国家情報センターに不満を生み出すかは明らかなことだ。
 もし政府のやり方にメリットがあるとすれば、それはジブラルタルをスペインが要求するときにそれをモロッコが支援してくれることだろう。それは悪どい取引には違いないが、それをもちかけたのはモロッコだ。カナリア諸島問題がどうなるか、それはまた次なる課題となるだろう。(Moncloa, 28 Oct. 2022)
https://www.moncloa.com/2022/10/28/la-idea-de-la-cosoberania-de-ceuta-y-melilla-con-marruecos-dispara-el-malestar-en-el-cni-1681250/

【フランス】
アルジェリアとの関係強化
 マクロン大統領の訪問から一月後、エリザベット・ボルヌ首相率いる合計16人の閣僚からなる政府使節団が10月9日アルジェリアに到着し、アルジェリア・フランス高級政府間委員会を開催し、一連の協定の調印を終えた。それらは観光、知識産業、農業・農村開発、食品といった経済分野の他、人権や文化にまで及ぶ。(RT, 10 Oct. 2022)
https://actualidad.rt.com/actualidad/444262-argelia-francia-firman-serie-acuerdos

【米国】
米議員、アルジェリアへの制裁を呼びかける
 ミシガン州選出のリサ・マクレイン下院議員(Lisa McClain: R-MI)は9月29日、アルジェリアが「米敵対国反撃制裁法」に反してロシア製武器を購入しているとして、同国に対する制裁を求める超党派の議員グループによる手紙をブリンケン国務長官宛てに送付した。手紙によると、昨年アルジェリアはロシアから7億ドルの武器の購入契約をした。その中には、ロシアがそれまで他国には売ったことのない最新の戦闘機「スホーイ57型(Sukhoi 57)」が含まれているという。共同署名者は、共和党21名、民主党5名。(Lisa McClainのウェブサイト)
 アルジェリアのニュースメディア(TSA)は、彼らは米国における反アルジェリアグループであり、数が少なく米国の多数派の意見ではないと書いている。また、手紙の中身は2週間前に共和党のマーコ・ルビオ上院議員がブリンケン国務長官に出したものとほぼ同じであり、ルビオ氏は仲間のテッド・クルズ議員と一緒にモロッコのためにお金をもらってロビー活動をしているとも書いている。(TSA, 1 Oct. 2022)
https://mcclain.house.gov/2022/9/rep-lisa-mcclain-leads-colleagues-in-demanding-sanctions-on-algeria-for-purchase-of-russian-weapons

【その他の国際社会】
豪、西サハラのリン鉱石の輸入を再開
 メルボルンに拠点を置くオーストラリアでも最大級の肥料会社Incitec Pivot社は、北ヨーロッパの株主たちの批判にさらされ2016年以降中断していた西サハラのリン鉱石輸入を再開した。輸入再開の理由はウクライナの戦争によって原材料入手が難しくなっているからだ。西サハラのリン鉱石はモロッコリン鉱石公社が産出するリン鉱石の8%にあたり、ブークラーからエル=アイウンの港までの102kmのベルトコンベアーで運ばれる。今回の注文は33,000トンで、パナマ船籍のClipper Isadora号でエル=アイウン港を9月5日に出発し、メルボルンの70km西にあるギーロン(Geelong)に10月15日に到着する。北ヨーロッパの株主というのは、デンマークのデンマーク銀行(Danske Bank)とPenSam、スウェーデンのIP7、KPA、Skandia Fonderである。(Africa Intelligence, 4 Oct. 2022)
https://www.africaintelligence.com/north-africa/2022/10/04/ocp-resumes-western-sahara-phosphate-exports-to-australia,109831014-art

オランダ、モロッコと移民送還協定
 オランダはモロッコと難民申請が認められなかったモロッコ人を本国に送還することのできる協定を結んだ。例外は、活動家、ホモセクシュアル、戦争の犠牲者で、申請者は難民申請の理由を明確にする必要があり、それができない場合、送還されることになる。この協定によって、オランダに滞留している難民申請を認められなかったモロッコ人に対して、在オランダモロッコ大使館が一回の通行証を発行し、帰国することができるようになる。モロッコはこの協定の取引条件として西サハラについて批判しないことをオランダに要求し、オランダはそれを了承した。西サハラ問題に対するオランダの立場はすべての当事者が受け入れる解決を支持するというものだったが、最近、モロッコの西サハラ自治案を支持する立場に変わっている。(El Confidencial, 5 Oct. 2022)
https://www.elconfidencial.com/mundo/2022-10-05/marruecos-paises-bajos-sahara-occidental_3500479/

ユネスコのモロッコ人職員、内部調査
 2021年春にペガサススパイウェアの製造元であるイスラエルの会社、NSOグループに対する調査に積極的に参加したFreedom Voices Network platformとユネスコとの契約についての情報を漏洩した疑いがあるとして、モロッコ人職員が内部調査の対象となっていることがわかった。
 問題の職員はウファエ・B(Oufae B.)というモロッコ人公務員で、守秘義務に違反したという調査の結果を受けて、処分の最終決定が下されるまで休暇をとるよう報告書は勧告している。
 2021年7月27日付ジュヌ・アフリク(Jeune Afrique)紙は、ユネスコがFreedom Voices Networkに3万5千ユーロのグラントを与えたことを、それがペガサス問題の調査に使われたかどうかを確かめることなく、報道した。ユネスコが同団体と関係があったことが明るみに出て、ユネスコとモロッコの関係が悪化した。(Africa Intelligence, 20 Oct. 2022)
https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord/2022/10/20/affaire-pegasus–l-unesco-agitee-par-des-remous-internes,109836475-art

イタリア新首相と西サハラ
 10月22日、イタリアに誕生した新首相は西サハラとも深い関係があった。ジョルジャ・メローニ(Giorgia Meloni)は2002年に10日間、アルジェリアのサハラーウィ難民キャンプを訪れたことを自伝『私はジョルジャ:ルーツと思想』に書いている。当時、彼女は「サハラーウィ人民のための平和と自由議員連盟」に入っており、イタリア政府はRASDを承認すべきだと主張していた。難民キャンプでの滞在経験について彼女は「そこで、私は自分の国を真に愛するとはどういうことかを理解した。。。私はこの誇り高き町のサハラーウィ女性たちと砂漠でお茶を飲んだ」と書いている。
 もちろんこうした政治家は多い。その最たるものがかつてスペインの首相だったフィリペ・ゴンサレスだろう。1976年11月14日、社会労働党の書記長になってまだ2年しか経っていない頃、彼はサハラーウィ難民キャンプを訪れたことがあり、そこで数百人の難民を前にスペインが旧植民地を放棄したことを非難した。彼は「自分たちの政府が行った非植民地化は単にまずかったというものではなく、相当にひどいものだったことを恥じる。モロッコとモーリタニアのような反動的な政府に手渡してしまったからだ」と述べた。それから数年後ゴンサレスは首相になり、14年間首相であり続けた。その間、彼がしたことと言えば、サハラーウィの苦難をさらに悪化させ、彼が「反動的」と評したものの同盟になることだった。彼は今ではモロッコに肩入れする最大のロビーストの一人となっている。
 私が最後に触れたいのはニュージーランドの首相となったジャシンタ・アーデンのことだ。彼女は2008年、国際社会主義青年連盟(IUSY)の会長としてサハラーウィのキャンプを訪れており、2009年ハンガリーに行われた同連盟の大会の際、当時RASD大統領だったムハンマド・アブデルアジーズの前で「ポリサリオは承認されるべき時がきた」と述べたのだった。それが今や、西サハラのリン鉱石を盗んでいるニュージーランドの会社の側に立っている。(El Independiente, Opinión, 25 Oct. 2022)
https://www.elindependiente.com/opinion/2022/10/25/enmendara-meloni-la-traicion-de-felipe-gonzalez-a-los-saharauis/

EU、モロッコの有機農業支援で1億1500万ユーロ
 先週、欧州グリーン・ディール担当のフランス・ティメルマンス欧州委員会副委員長がモロッコを訪問し、EUモロッコグリーン協定の署名を行い、欧州グリーン・ディールにおける最初の第三国連携事業となるモロッコへの支援を発表した。それは2030年までに農業・林業分野で安定した収入を伴う雇用を作り出すというモロッコの国家戦略を支援するものだ。ティメルマンス副委員長は「モロッコとのグリーン・パートナーシップは、この種のものとしては最初の事業であり、それはグリーン・トランジションにおいてモロッコのリーダーシップと潜在力を認めていることを意味する」、「EUは気候危機に対して闘うモロッコとともにある」などと述べた。事業はテトゥアンやタンジェなどで行われ、持続可能な農業のバリュー・チェーン、森林保護及び管理、雇用創出、社会的包摂を支援する。(Europa Press, 25 Oct. 2022)
https://www.europapress.es/internacional/noticia-bruselas-aprueba-115-millones-euros-apoyar-agricultura-ecologica-marruecos-20221025131051.html

国連安保理、MINURSO延長決議を採択
 10月27日、安保理はMINURSOを来年の10月31日まで延長し、事務総長特使の調停努力を支持する決議2654 (2022)を採択した。賛成13、反対0、棄権2(ロシアとケニヤ)。ロシアとケニヤが棄権した理由は「バランスがとれていない」というものだが、その意味はモロッコとポリサリオ戦線を近隣の関係国と分けて明確に当事者として位置づけるべきだという提案が通らなかったということだ。他にも、現実的(realistic)なアプローチという表現にも難色を示していた。それが住民投票や自決権の意義を希釈する効果をもつからだ。一方で、今回の決議では、人権監視のマンデートは付加されなかったものの、国連人権高等弁務官との連携強化を呼びかけ、女性の交渉プロセスへの参加を強調する文言が入った。また、資金不足のため、世界食糧計画(WFP)がチンドゥーフの難民キャンプへの食料支援を8割削減しなければならなかったことを受けて、人道支援への援助の呼びかけも付加された。(UN, 26 and 27 Oct. 2022)
https://press.un.org/en/2022/sc15081.doc.htm
https://www.usc.es/export9/sites/webinstitucional/gl/institutos/ceso/descargas/S_RES_2654_2022_EN.pdf
https://www.securitycouncilreport.org/whatsinblue/2022/10/western-sahara-vote-on-resolution-to-renew-the-mandate-of-minurso.php

以上。