西サハラ友の会通信 No. 26

 日本にとって8月の話題はなんといってもTICAD8(第8回アフリカ開発会議)でのサハラ・アラブ民主共和国参加問題です。西サハラの出席、モロッコの欠席、チュニジア・モロッコ関係の悪化と予想通り大きな事件となりました。
 このところのモロッコのやり過ぎとも言える外交攻勢への嫌悪からか、逆にモロッコへの風当たり、あるいは忌避のムードが広まった8月でした。一方、アルジェリアの西サハラ問題をめぐる活発な動きが目立ってきています。EUとしても、あまりモロッコの言う通りにしていては原則が守れないと、軌道を修正する動きがみられます。そういう文脈でボレル上級代表の発言は注目されます。

No. 26 目次

【TICAD8】
・モロッコは欠席

【西サハラ/難民キャンプ】
・第4回学生会議、チンドゥーフで開催

【モロッコ】
・世界ムスリム学者同盟代表、チンドゥーフへの「緑の行進」を呼びかけ
・アルジェリアでライスーニー氏発言に批判が集中
・モーリタニアも批判
・ムハンマド6世:西サハラ問題はプリズム
・パリで千鳥足のムハンマド6世
・コロンビアでモロッコ大使館職員、泥棒に遭う

【アルジェリア】
・チンドゥーフ付近の鉄鉱石採掘
・ロシアと対テロ合同演習
・スペインとの安全保障協力を縮小

【スペイン】
・メリリャのモロッコ側税関、閉鎖から4年
・アルジェリアへの天然ガス依存、減る
・移民のカナリア・ルート、増加
・透明性・グッドガバナンス評議会、ガーリー氏の入国日開示を要請
・(歴史)1975年8月、大統領宛の手紙

【ドイツ】
・ドイツ・モロッコ外相共同声明

【フランス】
・モロッコ国王の城

【イタリア】
・アルジェリアとイタリア、西サハラで確認

【イギリス】
トルパドル六殉教者祭で、サハラーウィに連帯

【米国】
・米上院、西サハラに領事館開設を許さず
・モロッコ・イスラエル関係正常化の舞台裏
・アメリカ弁護士会、西サハラで大統領に要請

【中南米】
・コロンビア新大統領、RASDとの関係継続を宣言
・ペルー、RASDとの関係を解消(その後再確認)

【EU】
・ボレル上級代表、サハラーウィとは「協議」が必要
・ボレル氏の発言の意図は?
・モロッコ外相、ボレル氏との会談をキャンセル

【国連】
・UNODC 2022年報告書


【TICAD8】
モロッコは欠席
 8月27日、28日にチュニスで開催されたTICAD8(第8回アフリカ開発会議)にサハラ・アラブ民主共和国(RASD)のブラーヒーム・ガーリー大統領始め一行が出席した。ホスト国チュニジアのサイード大統領が空港で出迎え、さらに空港の貴賓室で会談を行った。これを知ったモロッコは、チュニジアに対する抗議として、TICAD8を欠席し、モロッコ大使を召還した。チュニジアは、RASDを招待したのはアフリカ連合委員会(AUC)であると釈明しつつ、対抗措置としてモロッコ大使を召還した。これによってモロッコ・チュニジア関係は一気に悪化した。(Sahara Press Service, 27 Aug. 2022; Le Monde, 1 Sep. 2022)
https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2022/08/27/41292.html
https://www.lemonde.fr/en/le-monde-africa/article/2022/09/01/the-diplomatic-crisis-between-tunis-and-rabat-over-western-sahara-is-showing-no-signs-of-abating_5995479_124.html

【西サハラ/難民キャンプ】
第4回学生会議、チンドゥーフで開催
 第4回西サハラ学生会議(UESARIO)が8月6日(土)から8日(月)に開催された。占領地を含む学生会議の支部から400人以上が参加した。また、150人を越えるゲストの参加があった。4年任期の新しい事務局長を選出し、第5回サハラーウィ人民との連帯学生会議への参加者を歓迎した。(Sahara Press Service, 8 Aug. 2022)
https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2022/08/08/41023.html

【モロッコ】
世界ムスリム学者同盟代表、チンドゥーフへの「緑の行進」を呼びかけ
 ドーハに本部を置く世界ムスリム学者同盟(World Union of Muslim Scholars)の会長はモロッコ人のアフマド・ライスーニー氏(Ahmed Raissouni)である。彼は、ムハンマド6世に、モロッコ国民にチンドゥーフへ「緑の行進」を呼びかけるよう促した。また、モーリタニアという国は「エラー(間違い)」でできた国であり、それがモロッコの一部だったヨーロッパの侵略以前の状態に戻らなければならない、などと挑発的なことを言った。レイスーニー氏のような人にとって、西サハラは「モーリタニアと同じ、植民地化による捏造」なのだそうだ。そして、西サハラ問題の解決のためにモロッコがイスラエルと接近したことを批判した。(TSA, 15 Aug. 2022)
https://www.tsa-algerie.com/algerie-maroc-le-grave-derapage-dun-predicateur-marocain/amp/

アルジェリアでライスーニー氏発言に批判が集中
 アルジェリアの高等イスラム評議会のブーメディエン・ブーズィード事務局長(Boumediene Bouzid)は、ライスーニ氏の発言を「歴史と記憶の扇動」と呼び、ライスーニー氏はムスリム間の和解と平和・同胞的連帯を呼びかけるべき自分の知的、宗教的立場を自覚しなければならない、またイスラム学者同盟をそのイスラム憲章の精神に反する政治的紛争を解決するプラットフォームにすべきであると批判した。
 アルジェリア・ウラマー協会の事務局長ゲッスーム氏(Guessoum)は、ライスーニー氏が西サハラとチンドゥーフに対するジハードを呼びかけているとして、緊急声明を発表し、ジハードとはシオニストがムスリムの地であるパレスチナを占領していることに対して行われるべきもので、ライスーニー氏の発言は諸国民の団結や善隣関係に資さない、などと批判した。
 エル=ビナ運動の代表は、アルジェリアの主権と領土保全に対してモロッコのシンボルを用いて行われる攻撃は、国際法や善隣外交の原則を尊重しないモロッコの植民地主義的、拡張主義的性格を示している、しかもこれらすべて国王の黙認の下に行われており、実際国王の言辞と矛盾しないと述べた。(L’Expression, 17 Aug. 2022)
https://www.lexpressiondz.com/nationale/il-aurait-du-appeler-a-liberer-ceuta-et-mellila-359650

モーリタニアも批判
 国自体を「エラー」だったと評されたモーリタニア政府の報道官は、ライスーニー氏の発言を「いかなる歴史の概念にも基づかない、まったく信用を欠いた」発言であると批判した。また、与党大臣はライスーニー氏の発言は国際法に反するし、「他者に対する冷静さや尊重を呼びかけるべき人」にあるまじきものだと付け加えた。他にも国会議員や政治関係者から謝罪を求める声があがっている。ライスーニー氏が会長を務める世界ムスリム学者同盟は、彼の発言は個人的意見であり、団体のものではないとの釈明を行った。ライスーニー自身、自身のホームページで、モーリタニアは国際的に認められた国であり、彼が言いたかったのはマグレブの人びとの間の団結を達成したいという願望だった、と説明した。(Infobae, 18 Aug. 2022)
https://www.infobae.com/america/agencias/2022/08/18/nuakchot-condena-palabras-de-clerigo-que-dijo-que-mauritania-era-un-error/

ムハンマド6世:西サハラ問題はプリズム
 8月20日(土)、ムハンマド6世は「国王と国民の革命」69周年記念日の演説で、友好国に西サハラ問題におけるモロッコへの「明確な(sans aucune équivoque)」支持を呼びかけた。国王にとって、西サハラはモロッコが国際社会をみる「プリズム」であり、伝統的な友好国であるかないかを問わず、友情がどれほど誠実か、パートナーシップがどれほど有効かを計るものなのだ。(RFI, 22 Aug. 2022)
https://www.rfi.fr/fr/afrique/20220821-sahara-occidental-mohammed-vi-exhorte-%C3%A0-soutenir-sans-%C3%A9quivoque-le-maroc

パリで千鳥足のムハンマド6世
 パリの街角でグラスを手に持ち、お付きのガードマンに囲まれながらもよろよろと歩いているムハンマド6世の映像がSNSで拡散し、話題になっている。酔っているように見受けられるが、確実ではない。種々の逸脱行為やエキセントリックな行動で知られる国王(58才)はよく健康を害し、ヨーロッパの病院に入院することもしばしば。モロッコには重要会議や儀式で帰る程度で、パリに長期滞在する。(TSA, 24 Aug. 2022)
https://www.tsa-algerie.dz/une-nouvelle-video-de-mohamed-vi-fait-scandale-video/

コロンビアでモロッコ大使館職員、泥棒に遭う
 ボゴタのモロッコ大使館のモロッコ人男性職員3人が、2人の現地の女性と「デート」し、2、3杯飲んだあと意識を失い、1台のタブレット端末と2台の携帯電話を盗まれてしまうという事件があった。現地の警察は、有名なTinderというマッチングアプリを使ったことで罠にはまったと見ている。3人は2人の女性と8月15日(月)に会い、16日(火)に大使館近くの、3人の大使館職員のうち1人が住むアパートに行き、2時間ほど話をした。そこで彼らは意識をなくした。当局は女性たちの行方を追っている。(Q’hubo Bototá, 18 Aug. 2022)
https://www.qhubobogota.com/asi-paso/a-diplomaticos-marroquies-los-robaron-mujeres-que-conocieron-por-tinder/
【アルジェリア】
チンドゥーフ付近の鉄鉱石採掘
 7月30日、ムハンマド・アルカーブエネルギー鉱業相はチンドゥーフ付近のガール・ジェビーラート(Gara Djebilet)で鉄鉱石採掘を始めると発表した。2022-2025年には300万トン、2026年からは年間4,000-5,000万トン採掘する。この鉄鉱石採掘事業は長年モロッコとアルジェリアの協力事業として構想され、協力協定が1972年に締結されているが、アルジェリアは1975年のモロッコの西サハラ侵攻で協定は「死んだ」とみている。(TSA, 6 Aug. 2022)
https://www.tsa-algerie.com/algerie-maroc-gara-djebilet-reveille-de-vieux-souvenirs/

ロシアと対テロ合同演習
 ロシア国防省は、アルジェリアとサヘル地方における対テロ合同演習「砂漠の楯」作戦を行うと発表した。北コーカサスに駐留する80人の機動ライフル部隊と80人のアルジェリア人兵士が参加する。最初のアルジェリア・ロシア合同演習は2021年北オセチアで行われた。(Europapress, 9 Aug. 2022)
https://www.europapress.es/internacional/noticia-argelia-realizara-rusia-ejercicios-militares-antiterroristas-sahara-20220809072115.html

スペインとの安全保障協力を縮小
 アルジェリアは、スペイン政府の西サハラ問題への態度変更に関しての圧力強化の一環として、スペインとの安全保障協力を最低限のものにすることを決定した。協力分野は対テロ対策、犯罪者の裁判、不法移民の取り締まりを含む。アルジェリアは3月にスペイン大使を召還し、6月にはスペインとの貿易を停止し、友好協力協定を停止した。(Algeriemondeinfos, 23 Aug. 2022)
https://www.algeriemondeinfos.com/lalgerie-reduit-au-minimum-sa-cooperation-securitaire-avec-lespagne/

【スペイン】
メリリャのモロッコ側税関、閉鎖から4年
 モロッコは2018年8月1日にメリリャ国境の税関を一方的に閉鎖した。メリリャ経済を窒息させるためだと誰もが解釈した。もし開いていたら4年間で1億6,000万ユーロの取引高となっていただろう。サンチェス首相がモロッコ国王と会談した後、4月7日、政府は税関再開に向けて動くことを発表した。それはスペイン・モロッコ関係の新段階の最重要項目だった。しかし、以来ニュースはなく、モロッコ側にもスペイン側にもプッシュする意志はない。両国関係の悪化が原因だと考えられる。輸送会社等もスペインの他の港町に引っ越し、労働者も移っていった。(Melilla Hoy, 1 Aug. 2022)
https://melillahoy.es/cuatro-anos-sin-aduana-comercial-la-patronal-ve-falta-de-voluntad-politica-de-marruecos-para-reabrirla-y-de-espana-para-presionar/

アルジェリアへの天然ガス依存、減る
 スペイン紙によると、今年1月から7月までのスペインのアルジェリアの天然ガス依存は42%減り、代わって米国からの輸入が総輸入量の32.9%を占め1位となった。アルジェリアガスの占める割合は昨年の48.8%から24.5%にまで落ち込んだ。ロシアからのガス輸入は15.6%増えた。(The Objective, 10 Aug. 2022)
https://theobjective.com/economia/2022-08-10/espana-importa-menos-gas-argelia/

移民のカナリア・ルート、増加
 モハメド・ファネ(Mohamed Fane)はセネガル出身の33才の大工。ダーフラ港から20人と一緒に木造船に乗り、スペイン領から遠く離れた地点で船の燃料が切れてしまったという。彼のような例は少なくない。今やアフリカからスペインに渡る移民の3分の2はカナリア諸島経由。2022年はすでに9,589人がそうして到着。昨年同時期に比べ27%増だ。ヨーロッパへ渡る最も危険なルートの一つだ。途中溺れて死んだ人は今年1,000人を下らない。中には長旅でまともな判断ができなくなり、海上での日照りに耐えかねて海に飛び込む者もいるという。しかし、警備が厳重な地中海を渡るルートに比べ、ここは人気上昇中だ。セネガル、ギニア・ビサウ、ギニア、コートジボワール、ブルキナファソ、ナイジェリアなどからやってくる。船は監視区域を避け、荒波にもまれながら、時にはカリブ海まで流される。海が静かになる9月から移民は増える。ファネは「アフリカには希望がない。。。。アフリカにいるより死ぬ目に会ってもここに来た方がいいというやつもいる」と言った。その日、スペインの救援隊は100人を乗せてモーリタニアを発ったが行方不明になった船を探していた。数日後、61人を乗せた他の船が見つかったが、乗っていた19才の少年は船の上で死んでいた。(Publico, 11 Aug. 2022)
https://www.publico.es/sociedad/nadie-detenerlos-migrantes-africanos-ponen-rumbo-islas-canarias.html#analytics-seccion:listado

透明性・グッドガバナンス評議会、ガーリー氏の入国日開示を要請
 スペインの独立機関である透明性・グッドガバナンス評議会(CTBG)は外務省にガーリー氏が2021年スペインに入国を許された日、及び彼の入国を許可するよう入国管理当局に出した指示を開示するよう求めた。これまで外務省は「本件はサラゴサ州裁判所の訴訟7番で捜査中につき」、請求者の開示請求を拒否していた。その際、外務省は透明法(=情報開示法)及び訴訟手続法304条によって機密保持の責任があるとしてきた。この外務省の回答を不服として請求者は透明性評議会に提訴していた。提訴理由は、ガーリー氏関連の裁判はマスコミでも報じられ、証言のビデオも報じられた、したがって本件に関わる事実はまったく秘密ではなく、外務省はそれを機密とされるべき事実だということを証明できていない、というものだった。透明性評議会の要請に対し、外務省は改めて「裁判の審理にかかる内容は、法的に、別扱いとすべきもので、請求された情報はそうした裁判の審理の対象となるものだ。。。捜査の外で情報を開示することは、当事者に、また審査機関に、害を及ぼす。なぜなら、それは結論が出される前の情報であり、そうした情報に異議を申し立てることができない者を不利にするからだ」と述べた。請求者はさらにこの件について機密であるとの正式な認定はない、と反論している。透明性評議会は、請求された情報がどれほど司法プロセスをゆがめるものかを述べることなく、係争当事者間の平等のためだとか、司法プロセスが存在するだけで司法的保護が必要であるとかいった理由をもちだすのは、請求拒否の理由としては不十分であると述べている。(Europa Press, 11 Aug. 2022)
https://www.europapress.es/nacional/noticia-transparencia-emplaza-exteriores-aclarar-cuando-autorizo-entrada-ghali-espana-20220811110749.html

(歴史)1975年8月、大統領宛の手紙
 8月13日、Diario de Leónという雑誌のオンライン版が、1975年の夏、マヌエル・グティエレス・メリャド将軍(Manual Gutiérrez Mellado)が首相に宛てた手紙を取り上げた。実は7年前にもこの手紙のことはエル=パイス紙が取り上げていて、内容は次のようなものだった。
 メリャド将軍はフランコ体制下のカルロス・アリアス・ナバッロ(Carlos Arias Navarro)首相に2通の手紙を書いた。自らを「親モロッコ」で「完全な反アルジェリア」だと規定する将軍は、その手紙でスペイン領サハラをハサン2世に渡すよう提言した。これらの手紙はアリアス・ナバッロ公文書館で発見され、歴史家のホセ・ルイス・ロドリゲス氏がその著書『苦悩、裏切り、逃避:スペイン領サハラの終焉(Agonía, traición, huida: El final del Sáhara español)』の中で明らかにしている。将軍は「ハサン2世は彼に何が起きているか、きわめて明確にわれわれに伝えてきている。彼は武力紛争が起きるのを望んでおらず、それが国民がコントロールできなくならないための唯一の解決策だと考えている」、「外務省、とくにアフリカ局が私の立場に反対だというのは知っている。彼らはアルジェリアカードを切りたいのだ。私はハサン2世が失脚し、サハラはおろかモーリタニアすら収めるアルジェリア主導の拡大マグレブがどういうものになるか想像すらしたくない。それがすべて急進的な社会主義体制になるのだ」と書いている。メリャド将軍は、1年後に第一副大統領に任命される。そして、これらの手紙は、2年後の議会委員会での西サハラからのスペイン撤退に関する追及の中で、表に出ないよう隠されたのだった。(El País, 6 Nov. 2015)
https://elpais.com/politica/2015/11/05/actualidad/1446752412_845440.html

【ドイツ】
ドイツ・モロッコ外相共同声明
 8月25日、アナレーナ・ベアボック独外相はラバトでナセル・ブリタ外相と会談し、長い共同声明を発表した。その中に西サハラ問題について(項目15)言及があり、そこで政治プロセスにおける国連の排他的地位(exclusivity)に合意したと発表された。また、モロッコの自治案について、ドイツはそれが「モロッコによる誠実で信頼できる努力であり、両者が合意する解決の良き基礎である」とみなしているとも書かれた。(注:努力も良き基礎もいずれも不定冠詞[a]がついていて、一つの努力、一つの基礎となっている点が注目。国連決議に沿った表現だ。スペインが定冠詞[the]をつけて最良の基礎[the best basis]と言ったのとは違う。)(独外務省プレスリリース、25 Aug. 2022)
https://www.auswaertiges-amt.de/en/newsroom/news/joint-declaration-germany-morocco/2548280

【フランス】
モロッコ国王の城
 セーヌ・エ・マルヌ県(Saine et Marne)のグレッツ・アルメンヴィイェール(Gretz-Armainvilliers)にあるお城の所有者はムハンマド6世モロッコ国王だ。1984年ロートシルト家(=ロスチャイルド)が売りに出し、ハサン2世が購入した。8,000平米の土地に立つ城には100室もの部屋がある。ハサン2世は2億フランをかけて改修し、1,343平米の建物を付け足した。ハサン2世はついぞこの城に来ることはなかった。亡命先として考えていたのかも知れない。1999年、70才で亡くなった国王の後を継いだムハンマド6世は2008年に城を分割し、2億ユーロで売りに出してしまった。(actu.fr, 7 Aug. 2022)
https://actu.fr/ile-de-france/gretz-armainvilliers_77215/seine-et-marne-quel-est-ce-roi-etranger-qui-possedait-un-chateau-a-gretz-armainvilliers_52977448.html

【イタリア】
アルジェリアとイタリア、西サハラで確認
 数日前、イタリアのドラギ首相とアルジェリアのテブン大統領は、国連の西サハラ問題特使とMINURSOが西サハラの非植民地化を完遂することに全面的な支持を与えることに合意した。そしてサハラーウィの自決権を確認し、国際法の枠組にしたがって紛争が解決されることを求めた。イタリアでは各地の自治体(市)や公の機関がチンドゥーフの難民キャンプと姉妹関係を結んでいる。それは1984年にセスト・フィオレンティノ(フィレンツェの近く)がマフベス地区(チンドゥーフの)と結んだものが最初だった。2018年「第4回サハラーウィ人民との姉妹都市国際会議」が開催され、ムハンマド・アブデルアジーズ資料センターもできて、西サハラの文化、経済、政治に関する研究を奨励している。同様の活動が、1993年以来カンピ・ビセンツィオとビル・レフル(チンドゥーフの)姉妹都市関係にもある。2022年7月15日、チンドゥーフと姉妹都市関係を結ぶヨーロッパ各地の自治体がフィレンツェに集まり、「サハラーウィが独立し、その権利を完全に行使できるよう努力を結集させる必要がある」と議論した。(Difesa Online, 3 Aug. 2022)
https://www.difesaonline.it/geopolitica/brevi-estero/comunit%C3%A0-dintenti-tra-italia-ed-algeria-anche-sulla-questione-sahara

【イギリス】
トルパドル六殉教者祭で、サハラーウィに連帯
 イングランド州南部の町、トルパドルで19世紀の労働者の闘いを記念する毎年恒例のトルパドル六殉教者祭(Tolpuddle six Martyers festival)で、サハラーウィへの連帯が表明された。殉教者祭はイギリスの労働組合会議が毎年7月第3週に実施している。6人の労働運動家が1834年に秘密の宣誓を行った罪でオーストラリアへの流刑を言い渡されたが、強い社会的反発を受けたため、政府は2年後には帰国を許した。労働運動史の記念すべきできごととされている。(Sahara Press Service, 3 Aug. 2022)
https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2022/08/03/40932.html

【米国】
米上院、西サハラに領事館開設を許さず
 米上院は2023年度の歳出予算法において、西サハラでの領事館開設の経費を認めなかった。これによって2023年中のダーフラの米国領事館建設は不可能になった。可決された同法は、西サハラをモロッコとは異なる領土とみなしており、その点において米国政府がモロッコの主権を認めたことに対抗している。また、同法は国務長官にMINURSOに人権監視マンデートを付加するよう要請している。(Sahara Press Service, 6 Aug. 2022)
https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2022/08/06/40977.html

モロッコ・イスラエル関係正常化の舞台裏
 ホワイトハウスの上級顧問で一連のアブラハム協定を推進し、モロッコ・イスラエルの関係正常化も担当したジャレド・クシュナー氏が回顧録を出版。西サハラについて、最大の障害は「親分離主義派」のジェームズ・インホフ上院議員(元軍事委員長)だったが、ホワイトハウスと彼との間で妥協が成立したと書いている。また、ネタニヤフ首相はモロッコでの大使館開設を要求したが、ブリタ外相はそれはありえないとして、協定締結をキャンセルすると脅した書いている。(Bladi, 25 Aug. 2022)
https://www.bladi.net/jared-kushner-revelations-normalisation-maroc-israel,95899.html

アメリカ弁護士会、西サハラで大統領に要請
 アメリカ弁護士会(American Bar Association)は、2022年8月8ー9日、決議を採択し、バイデン大統領にサハラーウィ人民の自決と独立の権利を支持するよう呼びかけた。決議は、バイデン政権に対し、2020年10月10日のトランプ前大統領の宣言を取り消し、モロッコの西サハラに対する主権に対する米国の承認を撤回するよう要請し、モロッコに対して西サハラの自決と独立の権利を認めるよう促し、米国・モロッコ自由貿易協定から西サハラ産品を除外するよう求めた。また、議会に対しては、モロッコへの人道的・軍事的支援の予算承認において西サハラにおける表現の自由を条件とすること、また西サハラからの輸入については国際法の原則に従って行われるよう法制度を定めることを求めた。(American Bar Association, 8-9 Aug. 2022)
https://www.americanbar.org/content/dam/aba/directories/policy/annual-2022/400-annual-2022.pdf

【中南米】
コロンビア新大統領、RASDとの関係継続を宣言
 8月7日に誕生した左派系のグスタボ・ペトロ大統領の政権は、8月10日(水)、サハラ・アラブ民主共和国(RASD)と1985年に発表した共同コミュニケを再活性化させると発表した。その日、大統領はウルド・サーレクRASD外相らと会談した。2001年アンドレス・パストラナ大統領の時代に両者の関係は停止し、そのままになっていた。(Sahara Press Service, 11 Aug.; El Confidencial, 11 Aug. 2022)
https://www.spsrasd.info/news/fr/node/41062
https://www.elconfidencial.com/mundo/2022-08-11/el-nuevo-gobierno-de-colombia-restablece-las-relaciones-con-el-frente-polisario_3474609/
ペルー、RASDとの関係を解消(その後再確認)
 ペルー外務省は、8月18日(木)、サハラ・アラブ民主共和国との関係を解消したことを国連に通知する、と発表した。発表は、ペルーのミゲル・アンヘル・ロドリゲス・マケイ外相がモロッコのナセル・ブリタ外相と電話会談した後に行われた。発表の中で、決定は国際法と国連決議に従って行われたもので、モロッコの領土保全と国家主権を尊重し、地域紛争に対する自治案を尊重すると述べている。2021年9月8日、ペドロ・カスティリョ政権はサハラ・アラブ民主共和国との外交関係を再開すると述べ、国際法と人民の自決権を確認するとしていた。ペルーは1984年のベラウンデ政権(1980-1985)時代にサハラーウィ共和国を承認し、フジモリ政権期(1995-2000)の1996年に関係を停止していた。(Actualidad, 18 Aug. 2022)
https://actualidad.rt.com/actualidad/438937-peru-romper-relaciones-republica-arabe
(注:9月9日には外相は辞任し、カスティリョ大統領は西サハラの自決権を支持すると発表。外相によるRASDとの外交関係断絶はひっくり返されてしまいました。)

【EU】
ボレル上級代表、サハラーウィとは「協議」が必要
 EUのジョセップ・ボレル外交安全保障政策上級代表は、昨日(8月2日)、TVE(スペイン公共放送テレビ)でのインタビューで、「スペイン政府の立場は、今も昔もEUと同じだ。すなわり、協議を行うべきだとするもので、彼らの未来をどうするかはサハラーウィ人民が決めることなのだ」と述べた。ポリサリオ戦線はこの発言を非常に前向きなものと受け止め、「協議というのは住民投票や自決権と同じことだ」として歓迎した。モロッコは冷や水を浴びせられたかたちだ。なぜならサンチェス首相から自治案支持を聞いていて、それとは違ったニュアンスの発言だからだ。紛争に詳しい筋によると、スペイン政府はムハンマド6世のプリズム発言におけるスペイン政府の描写が気に入らなかったらしい。あたかもEUと分かれて米国に追随したかのような描写だったからだ。(El Español, 23 Aug. 2022)
https://www.elespanol.com/espana/20220823/borrell-rabat-esperanza-sahara-alegando-espana-consulta/697680507_0.html

ボレル氏の発言の意図は?
 コンポステラ・デ・ラ・サンティアゴ大学教授(法学)で同大学西サハラ研究センターの所長であるカルロス・ミゲル氏は、「もし、スペイン政府の立場がボレル氏のいう通りであれば、ムハンマド6世は勘違いをしたのか。さもなくば、ボレル氏はスペイン政府に対してEUの立場を改めてリマインドし、スペイン政府もそれに従わなければならないというメッセージを発したことになる」とコメンした。(Sputnik News, 24 Aug. 2022)
 アルジェリアの西サハラ大使であるアンマール・ベッラーニー氏は、ボレル氏の発言、とくに「西サハラの人民」と言わず、「サハラーウィ人民」という表現を用いたことを評価した。(注:つまり、モロッコ系住民を排除した表現だとみなしたということ。ただし、国連決議では「西サハラ人民」が普通に使われ、その場合モロッコ系住民[とくに第一世代]は含まないのが通常。)(Algerie Focus, 23 Aug. 2022)
 モロッコのメディア「ヤビラディ」は、早速ボレル氏を批判した。「サハラーウィ人民との協議」など国連決議にはない表現だし、ボレル氏自身、モロッコの自治案を歓迎する趣旨の発言を行ったことがある、などと書いている。(Yabiladi, 23 Aug. 2022 )
https://fr.sputniknews.africa/20220824/sahara-occidental-est-ce-que-le-roi-du-maroc-sest-trompe-lorsquil-a-loue-la-position-espagnole-1055947862.html
https://www.algerie-focus.com/borrell-repond-a-mohammed-vi-lunion-europeenne-soutient-lautodetermination-du-peuple-sahraoui/
https://www.yabiladi.com/articles/details/131070/sahara-polisario-salue-declarations-josep.html

モロッコ外相、ボレル氏との会談をキャンセル
 おそらくボレル氏の発言に対する報復措置だと考えられるが、モロッコは9月に予定されていたブリタ外相とボレル氏の会談をキャンセルすると発表した。ボレル氏は自分の発言後、若干修正する発言を行ったが、モロッコ側を満足させるには至らなかったようだ。(El Confidencial, 27 Aug. 2022)
https://www.elconfidencial.com/mundo/2022-08-26/marruecos-crisis-tunez-castigo-borrell-pronunciamiento-sahara_3481412/

【国連】
UNODC 2022年報告書
 UNODC(国連薬物犯罪事務所)は2022年の世界薬物報告書(World Drug Report 2022)の中で、差し押さえられた世界の大麻樹脂(cannabis resin)の60%が北アフリカ・西ヨーロッパであり、その中心はモロッコ・スペインであると報告した。とくにモロッコは(差し押さえ量から推定される)大麻樹脂の生産・輸出とも世界一である。スペインでは一部合法化されており、またモロッコでは少量の所持は違法だが罰せられない。スペインは西ヨーロッパへのゲートウェイになっている。モロッコはアフリカ諸国、とくにリビアやエジプトへの輸出も盛んである。(UNODC, World Drug Rerpot, Booklet 3: Drug market trends of Cannabis and Opioids, 27 June 2022)
https://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/wdr-2022_booklet-3.html

以上。