西サハラ友の会通信 No. 17
今回の通信でお送りする動向の要点は以下の通りです。
1)モロッコがイスラエルとの連携を急速に強めています。とくにサイバーセキュリティ、軍事協力の分野で進展が見られます。
2)アルジェリアの新内閣誕生は西サハラ情勢にとっても重要です。モロッコは早速アルジェリアに揺さぶりをかけるべく、アルジェリアを非難する(カビール人についての)文書を非同盟諸国に配布し、アルジェリアはモロッコ大使を召還しました。緊張が生まれています。
No. 17 目次
【西サハラ/占領地/モロッコ刑務所】
・地雷で青年が負傷
・政治囚、ハンガーストライキ
・政治囚、不明の場所へ移送
【西サハラ/難民キャンプ】
・3日間の新規感染者111名
・モロッコ軍陣地への砲撃続く
【スペイン】
・スペイン裁判所、親モロッコ派の訴えを棄却
【モロッコ】
・モロッコ、ポルトガルの港使用を撤回
・モロッコが西サハラで使っているイスラエル製の兵器
・モロッコとイスラエル、サイバーセキュリティで協力
・モロッコとイスラエル、相互に大使館を設置か?
・モロッコ軍、イスラエルでの合同演習に参加
・モロッコ、カビール人の自決権支持文書を配布
・モロッコ、リビア問題で別トラックの会議を計画
・マラウィがエル=アイウンに領事館開設
・モロッコがポーランドに農産物配送センターを開設
【国際】
・スペインで、大規模な西サハラ支援デモ
・人権擁護者に関する特別報告者、モロッコに要請
・アルジェリア、ロシアから武器購入
・アルジェリア新外相就任、西サハラへの影響
・北アフリカ記者監視団、結成
【西サハラ/占領地/モロッコ刑務所】
地雷で青年が負傷
7月10日(土)、モロッコが占領する西サハラのスマラ市のジュディリーヤで地雷が爆発し、バシール・サーレク・アブディという25才のサハラーウィ男性が重傷を負った。「サハラーウィ地雷被害者協会(Asavim)」が7月14日に発表した。ランドローバータイプの車で移動中に地雷が爆発したという。(Sahara Press Service, 14 July 2021)
http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/07/14/34378.html
政治囚、ハンガーストライキ
7月6日(火)、アイト・メッルール第2刑務所に収監されているサハラーウィ政治囚、ムハンマド・ハサナ・アフマド・サーレム・ブリヤールさんは48時間のハンガーストライキに入った。5度目のハンストになる。栄養失調に苦しみ、毛布もマットレスもない処遇に抗議してのこと。また、家族への電話も1週間に2回、5分と限られ、日々看守のハラスメントや差別に遭っているという。(Sahara Press Service, 7 July 2021)
http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/07/07/34250.html
政治囚、不明の場所へ移送
国際NGO「Front Line Defenders」によると、モロッコ南部のブーイザカルン刑務所にいたサハラーウィ政治囚ヤヒヤ・ムハンマド・エル=ハーフェズさんが7月3日に不明の場所へ移送された。今年3月5日、家族は1年ぶりに彼を刑務所に訪問することが許されたが、面会時間はたったの15分だった。家族によると、ヤヒヤさんは12週間も懲罰房に入れられ、その非人間的な環境故に急速に体調を悪化させていた。同NGOによると、ヤヒヤさんは2020年10月13日以降行方不明になっていたが、12月9日に初めて家族に電話をかけることができ、その時すでにブーイザカルン刑務所にいた。(Sahara Press Service, 10 July 2021)
http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/07/10/34294.html
【西サハラ/難民キャンプ】
3日間の新規感染者111名
7月29日(木)難民キャンプの公衆保健省は、デルタ株による第三波で、過去3日間で111件の新型コロナ感染が確認されたと発表した。これまでの累積の感染者数は1043人となり、そのうち770人が回復し、48人が死亡している。同省はワクチン接種のため病院に来るよう呼びかけている。(Sahara Press Service, 29 July 2021)
http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/07/29/34601.html
モロッコ軍陣地への砲撃続く
7月を通じて、サハラーウィ人民解放軍のモロッコ軍陣地への砲撃が続いた。7月8日(木)、アウセルド区のGuelb Ennos地域、ハウザ区のFadra Loghrab、マフベス区のAmitir Lamkhinza Oudi Amerkbaを砲撃。7月12日(月)、ハウザ区のAbrouma地域、エル・ゲルタ区のDouik地域、13日(火)にマフベス区のGraret El FarsigとOudey Oum Arakba地域、ファルシア区のGaret Lahdid地域を砲撃。7月14日(水)、マフベス区のAguerat Uld BlalとLaagad、アムガラ区のAmagli Ar-rhaとAmagli Lamlausi、ハウザ区のAngab Al-abd地域を砲撃。7月20日(火)、マフベス区のSabjat TanuchadとUdel Adamran、ハウザ区のFadrat Al-IchとFadrat Lagrab地域を砲撃。7月25日(日)、マフベス区のAkouira Ould BlalとLaakedを砲撃。7月26日(月)、ハウザ区のFadrat Lagrab地域と、第43大隊司令部があるAmeitir Lamjeinza、マフベス区のSabjat Tanuchad地域を砲撃。7月28日(水)にはマフベス区のUm RakbaとUm Lagti地域、ファスリア区のGararat Lahdid地域、アウセルド区のAsteilat Uld Bugrein地域を砲撃。(それぞれSahara Press Serviceのニュース。時々地名のアルファベット綴りに不整合あり。)
【スペイン】
スペイン裁判所、親モロッコ派の訴えを棄却
7月29日(木)、スペインの全国管区裁判所(在マドリッド)のサンティアゴ・ペドラス判事は、「サハラーウィ人権擁護連盟」(親モロッコ派団体)のブラーヒーム・ガーリー氏に対するジェノサイド罪についての告訴を棄却すると発表した。もともと告訴は2008年に行われたもので、今年ガーリー氏が入院のためスペインに滞在したことで再検討されることになった。棄却理由は、ジェノサイド罪は1995年改正刑法において初めて規定されたもので、それ以前の行為には適用されない、しかも訴えはそもそもジェノサイド罪成立の要件を満たしていない(とくにその集団の、全部または一部を、それ自身として破壊する意図が論じられていない)というもの。さらに、訴えた側の証言に矛盾が見られるとも指摘した。(裁判所発表、29 July 2021)
https://www.poderjudicial.es/cgpj/es/Poder-Judicial/Audiencia-Nacional/Noticias-Judiciales/La-Audiencia-Nacional-archiva-la-querella-de-la-Asociacion-Saharaui-de-Derechos-Humanos-contra-el-lider-del-Frente-Polisario-Brahim-Ghali-por-genocidio?s=08
【モロッコ】
モロッコ、ポルトガルの港使用を撤回
モロッコは、スペインの港に代えてポルトガルのポルティマン(Portimão)の港を使うと発表したが、数日後それを撤回した。理由はポルトガルにおけるデルタ株の蔓延である。状況が改善されれば、ポルトガルの港を使う可能性もあるという。(Atalayar, 4 July 2021)
https://atalayar.com/content/marruecos-cancela-la-l%C3%ADnea-mar%C3%ADtima-con-portimao-debido-al-aumento-de-casos-de-coronavirus
モロッコが西サハラで使っているイスラエル製の兵器
モロッコはイスラエルから最新兵器を購入している。イスラエルは武器輸出の公式データをほとんど公開していないが、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)はイスラエルを世界第8位の武器輸出国と位置づけている。ハーレツ紙に記事を書いた American Friends Service Committee の軍事輸出の専門家、ジョナサン・ヘンペル氏によれば、イスラエルはモロッコに1970年代に戦車を売っていた。西サハラ占領はイスラエルからの支援が鍵だったのである。そしてそれはその後20年の間に強化された。イギリスのビジネス・イノベーション・技能省(BIS)のある報告によれば、イスラエルは軍用通信機器や管理システム(戦闘機用のレーダーシステムなど)を第3者を通じてモロッコに販売していた。例えば、モロッコは2013年にイスラエルのエアロスペース工業がつくったドローン「ヘロン」3機とエアバス防衛航空社の1機を購入することができた。価格は5,000万ドル。協定はフランスのダッソー社を通じて2014年に結ばれ、これらのドローンは西サハラ用だった。これが今年の4月にポリサリオ戦線の憲兵隊長アッダーフ・エル=ベンディールに対して使われ(レーザー光線をあてる役割)、F-16戦闘機が攻撃を行ったのである。フランスはイスラエル製ヘロンを「ハルファン(Harfang)」という名前にして使っている。50時間継続飛行でき、夜間でも見通せるナイトビジョン機能を備えている。これを3機、地上での支援システムも一緒に買ったとすると1億5000万ドルはくだらないとされる。(Publico, 9 July 2021)
https://m.publico.es/columnas/110679131846/kostica-marruecos-emplea-tecnologia-punta-israeli-contra-el-pueblo-saharaui/amp
モロッコとイスラエル、サイバーセキュリティで協力
7月15日(木)、イスラエルのサイバーセキュリティ当局は、コンピューターセキュリティ分野においてモロッコと協力協定を結んだことを発表した。関係正常化後この分野での最初の協定となる。協定では、作戦遂行上の協力、研究、開発、情報・技術の共有などを行うことになっている。(Times of Israel, 16 July 2021)
https://fr.timesofisrael.com/?p=1283183
モロッコとイスラエル、相互に大使館を設置か?
イスラエルのラピド外相は8月にモロッコを訪問し、その際、相互に大使館を置くことを決定したいと考えている。両国関係をモニターしているイスラエルのメディアAxiosは、2ヶ月前、ブリンケン国務長官がブリタ外相に西サハラについてトランプの決定を覆さないと述べたこと、またホワイトハウスの中東アドバイザーであるブレット・マッガークも2週間前にブリタ外相に同じことを伝えたことを報じている。(Axios, 18 July 2021)
https://www.axios.com/israeli-morocco-foreign-minister-lapid-visit-0442f9a9-2b71-4630-857a-25e1de2b5cb1.html
モロッコ軍、イスラエルでの合同演習に参加
イスラエルが米国を含む複数の国の軍と行う合同演習にモロッコ軍も参加することになり、7月4日(日)、モロッコ空軍機がイスラエルのハツォル空軍基地に着陸した。イスラエル軍は詳細を明らかにしていない。数日前トルコの通信社はイスラエルとモロッコの軍艦が黒海での国際合同演習に参加していたと報じている。(i24News, 4 July 2021)
https://www.i24news.tv/fr/actu/international/1625399739-un-avion-de-l-armee-de-l-air-marocaine-atterrit-en-israel-avant-des-exercices-militaires-internationaux
モロッコ、カビール人の自決権支持文書を配布
モロッコ政府国連代表部が非同盟諸国加盟国に、アルジェリアのベルベル系カビール人(Kabyle)の「自決権」を支持する内容の文書を配布したことで、これを内政問題とするアルジェリアの反発を買った。また、モロッコの文書はカビール人たちの状況を「最も長い外国支配」と描いている。(Wikipediaによると、カビール人はアルジェリア政府の同化政策に抗して自治・独立を求める「カビリ自決権運動」を起こしている。2021年、アルジェリア政府は爆弾事件を計画していたとして関係者を逮捕して以来、同運動をテロ団体指定している。)アルジェリア政府はこの文書についての説明をモロッコ政府に求めたが、答が返ってこないとして、7月18日、アルジェリアのモロッコ大使を帰国させた。(アルジェリア外務省HP、16 and 18 July 2021)
https://www.usc.es/export9/sites/webinstitucional/gl/institutos/ceso/descargas/Algerie_Declaration-MAE_16-07-21_FR.pdf
http://www.mae.gov.dz/news_article/6594.aspx
モロッコ、リビア問題で別トラックの会議を計画
6月23日に開催されたメルケル首相主催のリビア問題に関する国際会議(ベルリンII)に、モロッコは招待されたが、出席しなかった。バイデン政権からの「要請」があったにも関わらずボイコットしたのである。それは、昨年の同じ会議にドイツがモロッコを招待しなかったことへの報復措置とみられ、その後モロッコは西サハラ問題もあって、ドイツとの外交的連絡を一時停止するという強硬な措置をとっている。そして今度は、別なリビアに関する国際会議をモロッコ西部の町、ブズニカでやろうと計画している。(Africa Intelligence, 16 July 2021)
https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord_diplomatie/2021/07/16/mohammed-vi-veut-un-nouveau-forum-libyen-a-bouznika,109679720-art
マラウィがエル=アイウンに領事館開設
マラウィ共和国はラバトに大使館、エル=アイウンに領事館を開設すると決定した。7月27日(火)、マラウィのアイゼンハワー・ンドゥワ・ムカカ外相がブリタ外相との会談後に発表した。開設は29日(木)とされている。(Yabiladi, 27 July 2021)
https://www.yabiladi.com/articles/details/112787/sahara-malawi-annonce-l-ouverture-d-un.html
モロッコがポーランドに農産物配送センターを開設
スペインのHortoinfoという農業専門サイトが、モロッコがヨーロッパへの野菜輸出の拠点となる配送センターをポーランドに建設する計画でいると発表した。モロッコ政府農水省の食料輸出管理調整庁であるFoodexが、FAOや欧州復興開発銀行(EBRD)、ドイツとイタリアの販売業者、欧州委員会の支援を受けて設置する。FAOとEBRDはモロッコの「グリーンジェネレーション 2020-2030」計画を支援している。(Hortinfo, 21 July 2021)
https://www.hortoinfo.es/index.php/10660-marruecos-plataforma-polonia-210721
【国際】
スペインで、大規模な西サハラ支援デモ
6月18日(金)、マドリッドの外務省前で数百人が参加する西サハラ支援の街頭デモが行われた。デモはスペイン政府にその歴史的、政治的、法的責任を果たすことを求めた。(Sahara Press Service, 19 June 2021)
http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/06/19/33895.html
人権擁護者に関する特別報告者、モロッコに要請
7月1日、国連の人権擁護者の状況に関する特別報告者、メアリー・ローラー氏(Mary Lawlor)は、モロッコは、西サハラの人権問題のために立ち上がっている人権擁護活動家やジャーナリストを標的にすることをやめ、報復なしで活動できるようにしなければならないと述べた。ローラー氏は30年の刑で2010年から拘禁されているナアマ・アスファーリー氏と、20年の刑で2019年から拘禁されているハトリー・ダーダー氏を取り上げた。また、スルタナ・ハイヤと彼女の家族が最近繰り返しハラスメントを受けていることも問題とした。ローラー氏は現在ダブリンのトリニティ・カレッジで非常勤講師を務める。(Office of the High Commissioner for Human Rights, 1 July 2021)
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=27244&LangID=E
アルジェリア、ロシアから武器購入
アルジェリア軍のサイード・シェングリーハ参謀総長は、6月21日から24日までモスクワを訪問し、2016年以来懸案であった最大70億ドルにも及ぶ巨額の軍備購入をまとめた。購入品目の中には、ミグ29 M2戦闘機(M2は2席装備型)、S-300VM対空ミサイルシステムかその最新版S400トリウームフ、2隻の潜水艦が含まれるとみられている。アルジェリアの武器購入はモロッコの軍備拡大に対抗することが一つの目的としてある。モロッコはボーイング社の攻撃ヘリコプター、アパッチ(AH64)を25台を30億ドル、F-16戦闘機を37.8億ドルで購入した。また、フランスのNexter社からカエサル自走榴弾砲、MBDA社からMica対空ミサイルを購入した。また、モロッコはトルコのバイカル社からBayraktar-TB2という攻撃用ドローンも購入する。アルジェリアは武器購入を終えたら、サヘル地域への関与を深めたいと考えている。ただ、単独では行わない。これまでであればアフリカ連合の部隊としての派遣となっただろうが、今後は国連PKOとしての参加もありうる。(Africa Intelligence, 1 July 2021)
https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord_diplomatie/2021/07/01/apres-un-detour-par-les-arsenaux-russes-le-chef-d-etat-major-said-chengriha-met-le-cap-sur-le-sahel,109676833-eve
アルジェリア新外相就任、西サハラへの影響
アブデルマジッド・タブーン大統領は7月7日新しい内閣を発表した。首相指名は6月30日にすでになされていて、財務大臣のアイマン・ベンアブドゥルラフマーン氏が起用された。新外相はラムターン・ラマームラ氏(Ramtane Lamamra)となったが、ラマームラ氏は前ブーテフリカ政権で外相を務めたベテラン外交官であり、リビア問題、マリ問題におけるアルジェリアの存在感を高める期待がかけられている。西サハラについては、過去、モロッコにとって彼は「悪夢」だった。それでモロッコのブリタ外相は関係を遮断した。(DIA, 7 July 2021)
https://dia-algerie.com/retour-prometteur-de-lamamra-rehabilitation-de-la-diplomatie-algerienne-et-cauchemar-pour-le-makhzen/
北アフリカ記者監視団、結成
7月11日(日)、アルジェリアのサハラーウィ難民キャンプ、シャヒード・アル=ハーフェズ(Shahid Al Hafed)で、アラビア語メディアにおける西サハラ支援のための北アフリカの記者たちの監視団が結成された。参加するのは、アルジェリア、モーリタニア、エジプト、チュニジアの記者たちで、北アフリカのメディアにおける西サハラの報道の状況をモニターする。(Sahara Press Service, 12 July 2021)
http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/07/12/34333.html
以上。