西サハラ友の会通信 No. 16

ラス・パルマス(スペイン)

 No. 15を5月27日に出して以降2ヶ月近くが経ってしまいました。今号では6月中のニュースを整理してお知らせします。動向のポイントは次のようなところです。

1)モロッコのスペイン、ドイツに対する外交的猛攻撃が続く中、セウタでは明らかにやり過ぎで、EU内に反発が広がっています。ただ、モロッコも負けじと港のボイコットや移民攻勢でスペインにさらなる圧力をかけています。スペインがいつまで持ちこたえれるか、EUはどこまでスペインを支えられるかが気になります。

2)7月10日のセミナーで扱った農産物問題について、EU内農業部門の反発を表すニュースを集めてみました。西サハラのトマト輸入はEU農家にとって打撃だという論理はEUとしても無視できないと思われます。

3)バン・キムン元国連事務総長が回顧録で西サハラについてここまで書くというのは驚きです。モロッコと国連事務局の軋轢を暴露するものです。

松野明久


No. 16 目次

【セウタ移民危機/スペイン・モロッコ外交危機】
・門を開けたのは、スペインが勲章を与えたモロッコ憲兵隊長
・欧州議会、モロッコ非難決議を採択
・モロッコの報復:スペインの港をボイコット
・カナリア諸島に298人が漂着

【モロッコ・西サハラ農産品問題】
・国王の「トマト・メガポリス」
・モロッコ産トマト、EUトマト栽培に打撃
・モロッコ産唐辛子、ドイツで基準を超える農薬検出
・モロッコ産アボガド、スペインで基準を超える農薬検出
・英・西サハラキャンペーン、英政府を相手に訴訟

【モロッコ】
・「断交戦略」の仕掛け人
・カルロス・ミゲル教授:モロッコはエルサレムに大使館を約束?
・国連事務総長特使承認問題、時間稼ぎか?
・ドイツとの公安分野の協力停止
・「アフリカ・ライオン2021」は西サハラを除外

【国際】
・フランスのモロッコへの報復だったのか
・ドイツの対モロッコ援助案件の停止
・アルジェリアのリン鉱石開発、中国との連携頓挫
・バン・キムン元国連事務総長の回想


【セウタ移民危機/スペイン・モロッコ外交危機】
門を開けたのは、スペインが勲章を与えたモロッコ憲兵隊長
 モロッコの憲兵隊長ムハンマド・ハラムー氏(Mohammed Haramou)は2019年9月23日、スペインから「(あえて訳せば)グアルディア・シビル功労大十字勲章(Gran Cruz de la Orden del Mérito de la Guardia Civil)」を与えられた人物だ。しかし、このハラム氏こそ、セウタへの門を開けるよう部下に指示した人物なのである。また、授賞当時スペイン政府はおそらく気付いていなかったが、ハラム氏は子どもだった頃1975年の西サハラへの緑の行進(グリーンマーチ)に家族と参加していたという事実が明らかになっている。
 モロッコの憲兵隊(Gendarmerie)とは、内務省管轄下で治安に携わる特別な警察部隊である。スペインではグアルディア・シビル(Guardia Civil)がそれに相当すると言われるが、こちらは軍組織の一部である。(Ok Diario, 26 May 2021)
https://okdiario.com/investigacion/marlaska-condecoro-jefe-policia-marroqui-que-abrio-puertas-frontera-ceuta-7276123

欧州議会、モロッコ非難決議を採択
 6月10日、欧州議会はモロッコ政府がセウタ移民危機の際に子どもを使ったことは子どもの権利条約に違反するとして、非難決議を採択した。決議は、西サハラ問題に対するEUの立場が国際法を遵守するものであることを確認し、EU加盟国の国境は不可侵であり、交渉の余地ないものと述べている。賛成397、反対85、棄権196で採択された。(European Parliament, 10 June 2021)
https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/TA-9-2021-0289_EN.html

モロッコの報復:スペインの港をボイコット
 夏休みシーズンには、ヨーロッパに出稼ぎに行っているモロッコ人が退去して帰省する。多くは車でイタリア、フランス、スペイン南岸の港町までやってきて、モロッコのムハンマド5世連帯財団がアレンジするフェリーに乗って地中海を渡る、一大年中行事となっている。毎年6月5日から9月15日までを期間として設定され、300万人が移動する。モロッコ側ではMarhaba Operation(歓迎作戦)と呼ばれ、スペインではOperación Paso del Estrecho(海峡を渡る作戦)と呼ばれる。通り道となるスペインの町々にとってはビジネスチャンスでもある。しかし、今年は、モロッコはスペインからの船による輸送を取り止めた。その代わり、ポルトガルのポルティマン(Portimão)からタンジェへの航路を開設した。7時間で、4人と車1台で往復450ユーロの価格だ。マルセイユ、セテ、ジェノバからだと995ユーロになる。ムハンマド6世国王はスペイン、フランス、イタリア、ベルギー、オランダなどモロッコ人が多い国からの航空路についても価格を引き下げるよう指示した。港をポルトガルに移したのは、船の中でPCR検査をやるのにスペインからの船だと距離が短く検査室を設置できないからだと説明されているが、スペインとの外交関係悪化によるものであることは明白だ。(EuropaSur, 25 June 2021)
https://www.europasur.es/algeciras/marruecos-confirma-linea-portimao-tanger_0_1586542014.html

カナリア諸島に298人が漂着
 6月27日(日)、298人を乗せた7隻のボートが別々にカナリア諸島に漂着した。26人は子どもである。テネリフェ島に到着した人の内、1人の子どもを含む4人が病院に搬送された。多くがサブ・サハラ出身者で、土曜の明け方4時にエル=アイウンのブラヤ(Blaya)を出発したというボートや,モロッコのタルファヤを出発して21時間かかったというボートがあった。(El Diario, 27 June 2021)
https://www.eldiario.es/canariasahora/migraciones/siete-pateras-298-personas-llegan-canarias-ultimas-horas_1_8079661.html

【モロッコ・西サハラ農産品問題】
国王の「トマト・メガポリス」
 ムハンマド6世と(モロッコの)農相は、世界最大のトマト農園を西サハラの占領地にもっている。こうした海外産トマトの輸入によって、スペインの一大トマト生産地アルメリアは過去5年で2,200ヘクタールのトマト農園を喪失した。モロッコの「グリーン世代」計画は2030年までに西サハラで農地を5,000ヘクタールまで広げるという。
 NGOのMundubatと農業団体のCOAGは、『西サハラにおける人権と多国籍企業:ダーフラにおけるトマト栽培に関する研究』と題する報告を出し、巨大アグリビジネスの税免除措置、サハラーウィに対する雇用差別、現地の土地・水資源の収奪、産地表示不正などについての調査結果を明らかにした。
 調査された企業の一つは1989年にダーフラに設立されたLa Domaine Agricoles社で、ムハンマド6世の持株会社に属し、Les Domainesというブランドで売り出している。その子会社のGroupe d’Exportation des Domaines Agricoles (GEDA)が貯蔵・梱包・輸送を行い、それはフランスのペルニニャン(南岸の港町)にあるFrulexxo社とパートナー関係にある。その子会社Eurextraがスペインでの販売を行っている。また、モロッコのアガディール市長だったタリク・カバジュ(Tariq Kabbage)がKabbage Groupの子会社、Domaines Abbes Kabbage (DAK) も重要でトマトの梱包工場をモロッコにもっている。
 農業はダーフラの周辺70km範囲内に集中しており、トマトが80%、メロンが20%を占める。年間当たり日照日が300日を超し、モロッコよりも天候上有利な上に、地下水がリンを含み高品質なミニトマトができる。ミニトマトは長い距離を運ぶ輸出にも向いている。また、現地に創出されていると考えられる1,4000人の雇用の大半はモロッコ人が埋めている。企業はサハラーウィを信用しておらず、モロッコ南部の人びとはこの仕事に慣れているからだ。さらに、西サハラで生産されたトマトはアガディールに運ばれ、他のトマトと混ぜられてモロッコ産としてヨーロッパに輸出されており、これは完全にEUの表示法に違反している。(COAG, 3 June 2021)
https://coag.chil.me/post/el-rey-de-marruecos-construye-de-forma-ilegal-la-e2809cmegalopolis-del-tomatee28-351761

モロッコ産トマト、EUトマト栽培に打撃
 欧州果物野菜協会(FruitVegetablesEUROPE)、スペインの果物野菜輸出者連合(Fepex)、フランスのトマト業者協会(AOPn Tomate de France)、ドイツの生産者協会(DPA)はEUの大統領、通商担当、食料安全保障、農業担当コミッショナーに、EUのトマト市場にEUモロッコ協定が与える壊滅的な打撃について書簡を送付した。すでに何年もの間、欧州果物野菜協会は、協定が求める措置が守られていないため壊滅的な打撃を受けていると訴えてきた。モロッコ産トマトの輸入価格の計算方式、モロッコ政府との協議の必要性、Brexit後のクオータの調整、西サハラで栽培されるトマトの扱いなどが問題で、状況は悪化するばかりである。このままではEUのトマト生産を維持するのが難しくなる。書簡はいくつもの要求を掲げているが、西サハラに関連するものとしては、、産地偽装を防止するために同位体分析(isotop analysis)を行い、特別なラベルを付けるよう要請した。(Agrodigital, 18 June 2021)
https://www.agrodigital.com/2021/06/18/el-acuerdo-ue-marruecos-esta-matando-al-sector-del-tomate-de-la-ue/

モロッコ産唐辛子、ドイツで基準を超える農薬検出
 ドイツ政府はモロッコ産パプリカに基準を超えるジメトエート(リン酸エステルの殺虫剤)とオメトエート(有機リン酸系殺虫剤)が発見されたとして消費者に警告を発した。いずれもキロ当たり0.01mgが基準値だが、それぞれ0.17mg、0.065mgあった。しかし、これらのパプリカはすでに買われてしまっており店の棚には残っていないという。(Hortoinfo, 2 June 2021)
http://www.hortoinfo.es/index.php/10498-residuos-pimiento-marruecos-020621

モロッコ産アボガド、スペインで基準を超える農薬検出
 バレンシア農民協会(AVA-ASAJA)はモロッコ産の有機アボガドにおけるクロルピリホスの残留濃度が基準値を超えているとして、オランダ政府に輸入停止を求めた。基準濃度がキロ当たり0.01mgのところ、0.29mgが検知されたという。オランダ、スペイン、ドイツ、オーストリアで販売されている。クロリピリホス(Chlorpyrifos)は有機リン系の殺虫剤で農薬に含まれている。農民協会会長のアグアド氏は、有機野菜であれば残留農薬はあってはならない、輸入アボガドは全体の10%しか検査されていない、EU基準を無視する国は罰しなければならないと述べた。(agroinformacion.com, 10 June 2021)
https://agroinformacion.com/califican-de-escandalo-y-estafa-la-entrada-de-aguacates-ecologicos-de-marruecos-con-casi-el-triple-de-clorpirifos-permitido/

英・西サハラキャンペーン、英政府を相手に訴訟
 イギリス西サハラキャンペーン(Western Sahara Campaign UK)は、英政府を相手取り、英モロッコ連携協定が西サハラからの農水産品に適用されていることを違法として訴える裁判を起こした。裁判所は最初のヒアリングを経て実質審理に入ることを決定した。(The National, 29 June 2021)
https://www.thenational.scot/news/19404693.brexit-western-sahara-indy-campaign-takes-uk-government-court/

【モロッコ】
「断交戦略」の仕掛け人
 ドイツやスペイン等を相手とした最近の強気の外交攻勢の仕掛け人は、ムハンマド6世国王の政治顧問、フアード・アリー・エル=ヒンマ(Fouad Ali el-Himma)である。彼はまた、国王の私的秘書でテレビ界のライバル、ムニール・エル=マジーディ(Mounir el-Majidi)の追い落としも狙っている。ドイツやスペインを拒否し、フランスやEUに圧力をかけ、国連を手詰まりに追い込んでいるモロッコの外交は西サハラで得点を重ねようとやっきの姿勢の表れでもある。5月6日にドイツの西サハラ問題に対する態度を理由としてドイツ大使を召還し、5月18日にポリサリオ戦線ブラーヒーム・ガーリー書記長の入院問題への抗議としてスペイン大使を召還した。フランス大使、EU大使もモロッコに戻り、交代が決まっていない。そしてセウタとメリリャに大量の移民を送り込んだ。この戦術はかつてカダフィが、そしてエルドアンが採った戦術でもある。また、イスラエルとの関係正常化は議会第一党でイスラム主義の公正開発党(PJD)にも打撃を与えた。党から出している首相は関係正常化をやむなく飲まざるをえず、元来パレスチナ支持が強い党内に分裂をもたらした。ただ、計算通りにいったことばかりでもない。5月10日のイスラエルとガザのハマスの衝突は、モロッコ国内のパレスチナ支援ムードを一気に高め、サアドッディーン・エル=オスマーニー首相はハマスの指導者イスマーイール・ハニーヤ氏に電話をかけ勝利を祝うというパフォーマンスをやってのけた。さらに、ムハンマド6世はバイデン政権ともゲームを演じている。ブリンケン国務長官は国連の西サハラ特使を早く任命するよう動いているが、モロッコは時間稼ぎをしている。候補に挙がったスタファン・デ・ミストゥラ氏の指名を阻んでいるのだ。本紙が得た情報によれば、モロッコのナセル・ブリタ外相は、かつてのようにポリサリオ戦線との交渉には応じない、モロッコは自治案以外の解決策は受け入れないとブリンケン国務長官に繰り返し伝えている。自治案はスペインやフランスが支持し、米国も内心支持しているが、国連で認められる可能性は事実上ない。
 フアード・アリー・エル=ヒンマ氏は国王の学友で、かつて内務副大臣を務め内政に集中していて外交では二次的な役割しか果たしていなかったが、本来の外交アドバイザーであるタイェブ・ファーシー=フィフリー(Taïeb Fassi-Fihri)が健康問題もあって王宮で周縁化された結果である。ファッシ・フィフリ氏はモロッコがEUの「advanced status」(より優遇されるパートナーの地位)を得る等、EUとモロッコを接近させるのに貢献した人物であるので、降格は彼にとって残酷なものであった。また、国王の長年の外交アドバイザーであったアンドレ・アズレー(André Azoullay)も周縁化されている。イスラエルとの関係正常には賛成であったろうが、実際には役割を果たしていない。ヨーロッパ、とくにフランスに広範な人脈を有するが、今回の外交危機の打開には役立たずだった。アズレー氏は今もっぱら故郷エッサウィラの整備やモロッコ・ユダヤ文化の保存にいそしんでいる。
 エル=ヒンマ氏は、伝統・近代党(PAM)を設立した時から強硬路線の論者であった。彼によれば、移民、治安、麻薬取り締まりの3点が、モロッコのレベレッジ(取引を有利にする材料)である。2016年にはMINURSOの解散を画策して失敗したこともある。
 モロッコ軍も最近の強硬路線を歓迎している。ゲルゲラート事件やポリサリオ戦線憲兵隊長のドローンを使った殺害などに示されたように、西サハラでより自由に活動できるようになった他、国防予算が2020年には29%も増大した。それで武器を伝統的に米国・欧州に頼っていたところに、トルコからのドローンを購入できたのである(エルドアン大統領の娘婿の会社のBayraktarというドローン)。(Africa Intelligence, 7 June 2021)
https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord_politique/2021/06/07/du-sahara-aux-medias-le-conseiller-royal-el-himma-seul-maitre-a-bord-au-palais,109670458-ge0

カルロス・ミゲル教授:モロッコはエルサレムに大使館を約束?
 スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラ大学教授(法学)で西サハラ研究センター所長を務めるカルロス・ミゲル氏は、ロシアの通信社スプートニクとのインタビューで、2022年12月22日のモロッコとイスラエルの協定にはエルサレルムにモロッコ大使館を開設する秘密の項目が含まれているとの考えを述べた。エルサレムの大使館開設はモロッコの世論が許さない。したがって、彼の考えによると、モロッコは米国がモロッコの西サハラへの主権を認めるやいなや、エルサレム大使館開設を(裏で)反故にした。米国とイスラエルはモロッコに約束を守るための時間的猶予を与えたが、モロッコはその時間を使って、米国が承認を取り下げる前にスペインから主権承認を取り付けようとした、というのである。(Sputnik France, Opnion by Tarek Hafid, 25 May 2021)
https://fr.sputniknews.com/opinion/202105251045650376-le-deal-maroc-israel-de-trump-comporterait-une-clause-secrete/

国連事務総長特使承認問題、時間稼ぎか?
 国連事務総長西サハラ問題特使の候補に名前があがっているスタファン・デ・ミストゥラ(Staffan de Mistura)にポリサリオ戦線は4月29日に賛成の意を表した。一方、モロッコはとくに反対はしていないものの、返答を送らせている。モロッコとしては特使不在によって利益をえてきた。ゲルゲラートへの軍派遣、ポリサリオ戦線の憲兵隊長のドローンを使った殺害、セウタへの移民送り出し、そしてトランプ政権との取引き成立など、モロッコがやりたいようにやってきた。国連側からブレーキがかかることもなかった。ムハンマド6世は特使指名が遅ければ遅いほど得すると計算しているのだろう。(Africa Intelligence, 26 May 2021)
https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord_diplomatie/2021/05/26/sahara-occidental–pourquoi-mohammed-vi-bloque-la-nomination-du-nouvel-envoye-special-des-nations-unies,109668161-eve

ドイツとの公安分野の協力停止
 モロッコのハッブーブ・シェルカーウィ司法捜査中央局長官(Habboub Cherkaoui)は、ドイツ警察とのテロリズム関係・公安分野の協力を停止すると、諜報部門に近いモロッコのメディア「Rue20」によるインタビューで述べた。(El Confidencial, 26 May 2021)
https://www.elconfidencial.com/mundo/2021-05-26/marruecos-corta-la-cooperacion-policial-antiterrorista-con-alemania_3100815/

「アフリカ・ライオン2021」は西サハラを除外
 モロッコのメディア「Le Desk」が米軍報道官に改めて確認したところ、共同演習「アフリカ・ライオン2021」に西サハラは含まれないことが確認された。報道官曰く、演習の範囲は2020年の初めには決まっていたという。また、スペインがこの演習に参加しないことも、理由は示されなかったが、確認された。モロッコのエル=オスマーニー首相はツイッターで、共同演習は西サハラも含むと発信したが、そのツイートは今では削除されている。(Le Desk, 1 June 2021)
https://ledesk.ma/enoff/african-lion-21-les-soldats-americains-presents-la-lisiere-du-sahara-occidental/

【国際】
フランスのモロッコへの報復だったのか
 2014年10月2日、@chris_coleman24というハンドルネームで、モロッコの当時のジュネーブ大使オマル・ヒラレの極秘電信が大量にSNS上で暴露されるという事件があった。この秘密のネットユーザーは「モロッコを不安定化する」と謳い、ポリサリオ戦線の味方のように思われた。あれから6年、この事件の首謀者はサハラーウィの独立活動家でもアルジェリアの諜報部員でもなく、フランス諜報部であった可能性が示唆されている。ことの発端は2014年2月20日に遡る。その日、モロッコのフランス大使公邸ににフランスの司法警察班が訪ねてきた。滞在していたモロッコ政府領域管理総局(これも公安部署の一つ)局長のアブドゥッラティーフ・ハンムーシー氏から聞き取りを行うためだ。ハンムーシー氏に対しては、フランス在住の2人のモロッコ人と獄中のサハラーウィから拷問の告発がなされていた。ハンムーシー氏は事情聴取を拒否し、逮捕状が出る前に帰国してしまった。これを受けてムハンマド6世及び政権の指導部ははフランスとの司法分野の協力を停止すると発表し、続いてテロ取り締まり関係の協力もやめた(こちらは公表されなかった)。
 その3ヶ月後、5月24日、モロッコのオンラインメディアで国王の秘書に近いと言われる「Le 360」は在ラバト仏大使館の二等書記官がフランス諜報部のモロッコチームの班長であることを暴露した。そのため、「ル・レオナ」と呼ばれていた女性の中佐はただちに帰国せざるをえなくなった。
 その1月後、6月25日、モロッコの元空軍大尉で反体制派のムスタファー・アディーブ(Mustafa Adib)氏が「フランス24」のアラビア語放送で初めてインタビューされた。以後、彼は頻繁にフランスの公共放送のカメラの前に立つことになる。
 それから3ヶ月後、@chris_coleman24は膨大な量の文書をTwitterに暴露したのだが、中でも驚きは2013年11月のオバマ大統領とムハンマド6世のホワイトハウスでの合意だった。それは米国が国連安保理でのMINURSOの任務に人権監視を追加するという要求を取り下げる代わりに、モロッコは人権高等弁務官の訪問を受け入れ、軍事法廷が民間人を裁くことをやめ、サハラーウィの独立派組織を合法化するという取引だった。結局、モロッコはその一部しか約束を果たしていないが。
 スペインに関係するものとしては、グスタフ・アリステギ(Gustav Aristegui)という国民党会派のスポークスパーソンでありインド大使を務めた政治家の妻、ナディア・ジャルフィ(Nadia Jalfi)が2008年から2011年にかけて150通ものメールをモロッコの諜報局長ムラード・エル=グール氏と交わしており、彼から賄賂をもらってイタリアやフランスのメディア対応の提案書を作っていた他、スペインの映画制作者が「サハラに対するモロッコの歴史的主権」を主張する映画をつくるよう手配していた。ジャルフィ夫人はグールなる人物は知らないと述べているが。
 フランス諜報局は文書の暴露に関わっていないと言っているが、さまざまな情報がそれを示している。ムスタファー・アディーブ氏は2019年2月に自身のFacebookで、「フランス24」に出演したのはフランス諜報当局との取引だったと書いている。(El Confidencial, 30 May 2021)
https://www.elconfidencial.com/mundo/2021-05-30/marruecos-rompio-francia-servicios-secretos-guerra_3105888/

ドイツの対モロッコ援助案件の停止
 今年の3月にモロッコが突然、一方的にコミュニケーションを停止したドイツの対モロッコ援助が停止に追い込まれている。ドイツの対モロッコ援助は今年度14億ユーロあり、そのうちいくつかのプロジェクトは「完全に停止」してしまった。その大半は新型コロナ対策だった。(El Pais, 18 June 2021)
https://elpais.com/internacional/2021-06-18/la-tension-por-el-sahara-occidental-deja-en-el-aire-la-ayuda-al-desarrollo-de-berlin-a-rabat.html

アルジェリアのリン鉱石開発、中国との連携頓挫
 アルジェリアのマナル鉱業グループのアスミダル社が、南部テベッサ州ブレド・エル・ハドバとジェベル・オンクでリン鉱石の開発を行うパートナー企業を探していたが、中国の肥料大手ウェンフ・グループ、次いでCiticの撤退により、頓挫した。また新たなパートナーを探すことになる。この事業は、実現すれば、モロッコのリン鉱石公社(OCP)の10倍もの生産量をもつことになる。(Africa Intelligence, 17 June 2021)
https://www.africaintelligence.fr/industrie-miniere_strategies-etat/2021/06/17/projet-phosphatier-integre–le-chinois-citic-jette-l-eponge-et-tebboune-cherche-un-nouvel-allie,109673513-art

バン・キムン元国連事務総長の回想
 バン・キムン氏は『決意:分断された世界で諸国を団結させる(Resolved: Uniting Nations in a Divided World)』を6月にコロンビア大学出版部から出版した。その中で、西サハラ問題で手痛い仕打ちを受けたことについて、モロッコのムハンマド6世とは「そのうち気候変動や若者についての会議で会うだろうが、いつ和解できるかはわからない」と書いた。2016年、チンドゥーフの難民キャンプを訪れた際「占領」ということばを使ったため、モロッコはMINURSOの文民職員を西サハラから追放した。バン氏は就任当初よりMINURSOを訪問したいと考えていたがモロッコの時間稼ぎで実現しなかった。それで2期目も終わろうとしていた頃、チンドゥーフの難民キャンプを訪問したのだ。しかし、そこでバン氏の車は難民たちの抗議に会い、石を投げられた。和平がまったく進展しないためである。バン氏は難民キャンプ訪問を諦め、記者会見に臨んだ。そこで「占領」という表現を使った。それがセンシティブな用語だということはわかった上で、「真実を言った」つもりだという。その後、ニューヨークに戻った彼を待っていたのはモロッコのサラーフッディーン・メズワール外相(Salahedin Mezuar)で、驚いたことに彼はバン氏に国王に謝罪するように命じたのだ。バン氏は、国連事務総長を務めてこの方、そんな受け入れがたい非礼な行為は見たことも聞いたこともなかったと書いている。「私は真実を言ったことを後悔していない」と。(Swissinfo/EFE, 17 June 2021)
https://www.swissinfo.ch/spa/onu-marruecos–cr%C3%B3nica-_ban-ki-moon-no-sabe-si-alg%C3%BAn-d%C3%ADa-podr%C3%A1-reconciliarse-con-mohamed-vi/46712944

以上。