講演 ポリサリオ戦線の法的戦略:欧州司法裁判所と南アフリカ高等法院の事例を中心に

以下は、2021年7月10日(土)に行われた西サハラ友の会主催・西サハラオンラインセミナー「西サハラの天然資源略奪と占領下の経済の実態〜リン鉱石、たこ、まぐろ、風力・太陽光発電、観光」におけるポリサリオ戦線オーストラリア・ニュージーランド代表カマール・ファーディル氏の講演原稿の翻訳です。実際の講演は時間の制約からこれより少し短くなっています。講演に登場するEUや諸国の機構についての用語解説を添えます。

【用語解説】

  1. EU関連:EU理事会(Council of the European Union)は主要な意志決定機関で各国閣僚が集う会議(別名、閣僚会議)。その上に首脳が集まる欧州理事会(European Council)があるが、本講演では登場しない。欧州委員会(European Commission)はEU行政の執行機関で、外務省に相当するのが欧州対外行動庁(European External Action Service)。議会は欧州議会(European Parliament)。EUの裁判所組織は全体として欧州連合司法裁判所(Court of Justice of European Union)と称されるが、一般裁判所(General Court of Justice)が一審を扱い、欧州司法裁判所(European Court of Jusitce)が控訴審を扱う。
  2. 高等法院(High Court)は、英(ウェールズ・イングランド)・南ア・ニュージーランド等にある司法制度において、行政事件等を扱う一審裁判所。イギリスではロンドンにあるのみ。

講演
ポリサリオ戦線の法的戦略:
欧州司法裁判所と南アフリカ高等法院の事例を中心に

カマール・ファーディル
(ポリサリオ戦線オーストラリア・ニュージーランド代表)

  1. 法的アクションを行う理由
     西サハラには豊かな天然資源がありますが、モロッコはそれを略奪することで占領継続の資金を手に入れています。モロッコは、諸外国と結ぶ協定や契約が西サハラを除くと明確に述べていなければ、それはモロッコの西サハラ領有を認めているものだと考えています。
     ポリサリオ戦線は2000年以降、占領に抗する闘いの一環として、法的アクションをとるようになりました。分野は2つ、人権と天然資源です。天然資源については、モロッコによる略奪を止める目的の他に、完全な主権回復に向けた準備という側面があります。こうした法的アクションを通じた闘いは、国際法を用いて自分たちの権利を主張し、モロッコや諸外国政府に法の遵守義務を求めるという、私たちの戦略の方向にも合致しています。そのためのステップとして、サハラ・アラブ民主共和国は2009年に自ら海洋管轄法を定め、2015年にジュネーブ条約に加入しました。私たちは天然資源の問題を通じて占領国たるモロッコとその支援国に圧力をかけると同時に、私たちが国として国際法を遵守していることを強調したいと考えています。私たちは法に基づく国際秩序を信頼していることをアピールしたいのです。
     ポリサリオ戦線の法的アクションの始まりは2001年に遡ります。当時、国連の法務担当事務次長だったハンス・コーレル氏に相談をもちかけ、モロッコが西サハラのリン鉱石を採掘しようと他国に契約をもちかけ、協定に署名しているという行動が合法か否か、意見を出して欲しいと頼んだのでした。
     これまでに、われわれの政府は12件の訴訟を起こしています。欧州連合司法裁判所には合わせて9件の訴訟を起こしていますが、そのうち2つはEUモロッコ漁業協定の合法性を問うもので、2019年に2度目の訴訟を起こしました。これから2、3ヶ月の間に判決が出ると予想しています。
     他にも、2017年に、パナマと南アフリカで、西サハラのリン鉱石を運んでいた船が寄港した機会を捉えて訴訟を起こしたことがあります。また、ニュージーランドの公的年金基金が、西サハラに関連する企業への投資を行っていることの倫理性を問う訴訟も起こしました。ニュージーランドの訴訟については、判決は「西サハラに関係する投資を続ければ、基金の評判が傷つけられる恐れがある」と述べています。
     今年3月、「イギリス西サハラキャンペーン」が英政府を相手取り、Brexit後の政策に関連して訴訟を起こしました。それは、EU時代にイギリスが入っていたEUモロッコ自由貿易協定と同じような条文でもってつくられた新たな自由貿易協定についての訴訟です。

  2. EU司法プロセスにおけるポリサリオ戦線の訴訟
    EUモロッコ関係

     モロッコは、アフリカからヨーロッパへの不法移民の流入防止に加え、安全保障やテロ対策といった重要な分野で、EUにとって欠くべからざる同盟国として自らを位置づけており、その対価としてEUから数億ユーロもの資金を受け取っています。また、経済的にもモロッコはEUにとってマグレブ地域初のパートナーであり、もっとも広範な貿易関係をもつ国の一つです。2008年、モロッコはEUから「優先的地位(advanced status)」を獲得しました。地中海の南側地域では初めての国です。
     ポリサリオ戦線が問題にした農産物協定の背景には、ヨーロッパ地中海連合協定(Euro-Mediterranean Association Agreement)というものがあります。モロッコは1996年にそれに署名し、2000年から効力をもっています。「連合協定」はさまざまな交渉を経て拡大され、新しい取り決めは連合協定議定書として追加されてきました。モロッコの農産品に関する議定書はまずは2003年につくられ、それに代わるものが2012年につくられました。
     一方、漁業協定というのは、欧州共同体(EC)時代に原型ができており、それによってヨーロッパの漁船がモロッコ沿岸域で漁をすることができるようになっています。対象となるのは11の欧州共同体(EC)加盟国の漁船ですが、ECにとっては最大級の漁業協定でした。
     問題となっている漁業協定は2007年に発効したもので、その実施のための議定書は2011年2月に失効しました。その後継となる議定書案をEU理事会は分裂を含みながらも採択したのですが、欧州議会がそれを否決するという事態が起こりました。問題は、まさに協定が西サハラを含むか含まないかということでした。欧州委員会は交渉をやり直して議定書を改め、その結果、EU理事会も欧州議会も2013年にそれを了承しました。しかし、変更点はごくわずかで、西サハラ問題を解決したとは到底いえないものでした。漁業協定は、そう明確に述べてるわけではありませんが、西サハラの管轄水域にも事実上適用されています。実は、西サハラの水域こそがEUの漁船にとっての最大の漁場なのです。

    最初の訴訟(T-512/12)と控訴審(C-104/16 P)
     2012年11月、ポリサリオ戦線は、2012年のEU理事会決定497号の部分的無効化を要求して、EUの裁判制度で一審を扱う一般裁判所に提訴しました。EU理事会決定497号とは、モロッコからの農水産品輸入に関する協定を承認した決定を指します。それが西サハラ産を含むところが問題なのです。
     この協定の協議は2009年に始まり、2012年2月16日、欧州議会は協定案を一旦否決します。西サハラの中に位置する農園の利害が深く絡むため、議会内で意見の一致をみなかったのです。
     ポリサリオ戦線はEUの中にこの協定をめぐって反対意見があることに勇気づけられていました。欧州の農民連盟や西サハラ資源ウォッチといったNGOは、西サハラ産の農水産品がモロッコ産としてヨーロッパに輸出されていることで、競争が不公正になっていると主張していました。
     占領地産品の特恵待遇による輸入問題については先例がありました。いわゆるブリタ事件(C-386/08)と言われるもので(ブリタはドイツ企業)、EUイスラエル協定において、イスラエルが占領するヨルダン川西岸地区産の産品は特恵待遇を受けることはできないとの判断が示されていました(2010年)。
     さて、EUモロッコ農産品協定について、一般裁判所は、西サハラはモロッコではない、したがってEUモロッコ連合協定も、EUモロッコ貿易自由化協定も、西サハラには適用されないとの判断を示しました。
     この一審判決を受けて2016年2月、EU理事会は控訴します。欧州委員会及びフランス、スペイン、ベルギー、ドイツ、ポルトガルの5ヶ国が控訴を支持しました。EU理事会は、もともとEU側に協定を西サハラに適用する意図はなかった、したがって、EU理事会決定にポリサリオ戦線は直接にも個人としても関係することはない、と主張しました。
     控訴審を扱う欧州司法裁判所は、2016年12月21日に出した判決で、一審の判決を棄却しました。ポリサリオ戦線を原告資格なしとみなし、その上で協定は西サハラには適用できないと述べました。欧州同裁判所の大法廷は、協定はモロッコにのみ適用された場合に合法的である、なんとなれば、西サハラはモロッコとは別の異なる地位を有する非自治地域であるからだと述べました。欧州司法裁判所の判決は、拘束力のある判例となります。重要なことは、判決がモロッコが西サハラを含まないとの判断を示したことです。
     モロッコはこの判決に大変不満で、2016年2月24日、EUとの接触をすべて停止すると発表しました。これに慌てたEUの外務省に当たる対外行動庁はモロッコとの外交関係が破綻しないよう、緊急に動かなければなりませんでした。具体的にいうと、欧州委員会が、協定を合法とするために、西サハラ住民の承諾を得る道を模索しました。EUとの貿易は西サハラの地域開発にとって利益になるため西サハラの資源利用は許されるという論理です。
     2018年7月16日、EU理事会は欧州委員会が作成した提案にそって修正された、モロッコとの新たな農産物協定を承認しました。しかし、このEU理事会の決定はまたしても強い批判を浴びました。なぜなら、こうしたやり方は、欧州司法裁判所の判決を十分に尊重したものとは言えないからです。論点は3つありました。住民による承諾があるかないか、サハラーウィにとって利益はあるか、あったとしてモロッコがそれをサハラーウィにちゃんと渡すよう管理する実効的メカニズムがあるかないか、の3点です。
     EU理事会決定においては、欧州委員会と対外行動庁が、サハラーウィ人民と協議を行い、経済的、社会的、政治的ステークホルダー、利害関係者との協議を通じて、サハラーウィ人民が連合協定に承諾するようにすると謳われています。そこには113の市民社会団体が協議相手としてリストされていますが、ポリサリオ戦線は含まれていません。
     こういうやり方では、想定された利益が先住の住民にちゃんと届くということを、どうやってEUが確認できるのか、疑わしいと言わざるをえません。先住の住民というのは、今いる現地の住民という意味ではありません。それだと占領後やってきたモロッコ人移民も含んでしまうからです。ところが、EU理事会がどうやって利益がサハラーウィ人民に届いたことを確認するのかというと、年に一度のEUとモロッコの連合委員会の情報交換の場でしかありません。そうした管理方法はまったく弱いのであって、それが批判されているのです。また、「承諾」をめぐってはEU側にも疑問視する声がありますが、何より先ほどの113団体のうち93団体が、自分たちは相談されていないという声明を発表していることで明白だと思われます。
     しかしながら、欧州議会は2019年1月16日、欧州議会選挙が間近に迫っているという状況の中で、欧州司法裁判所の判決にはまったく沿わない協定の焼き直し案を承認してしまったのでした。

    イギリス西サハラキャンペーンの漁業協定訴訟
     2015年2月、NGOであるイギリス西サハラキャンペーン(Western Sahara Campaign UK)は、イギリス政府が、西サハラからの食品を不法に特恵関税待遇での輸入を許しているとして、政府(具体的には環境・食料・農村大臣)を相手取って高等法院に提訴しました。また、イギリス政府がEUモロッコ漁業協定を西サハラに適用するのも不法であると主張しました。
     イギリスの高等法院で一定審理が行われた後、2015年10月、訴訟は欧州司法裁判所に回されました。そうした理由として、高等法院は「これらの協定に関連する国際法の理解及び適用において欧州委員会が著しい誤謬を犯している可能性があるケース」だからだと述べています。
     担当したブレイク判事は、協定によってライセンスを与えられた漁業が「西サハラの領海内で」行われていることは明らかだと述べました。イギリス政府の行為が不法行為に当たるかどうかを見極めるためには、協定が実際意味していたものをまず確定する必要がありました。協定はEUが結んだものでしたので、ブレイク判事は欧州司法裁判所の予備的判断を得る必要があると考え、欧州司法裁判所に、「EUモロッコ漁業連携協定はEU法及び国際法に照らして有効かどうか」を問うことにしたのです。
     ブレイク判事は、モロッコの西サハラにおけるプレゼンスは「戦時占領(belligerent occupation)」に該当すると述べています。国連もアフリカ統一機構(現在はアフリカ連合)もEU加盟国もモロッコが西サハラに対して法的な主権あるいは占領権を有するとは認めていないと述べました。ブレイク判事はモロッコの領土的主張の根拠を否定しました。植民地列強(この場合スペイン)がその占領地を隣国(この場合モロッコ)に贈与するなどということはできないし、承認されない軍事占領が正当な領土的主張の基礎となることはありえないのです。ブレイク判事は、モロッコが主権を有する領土の範囲は西サハラを含まないと結論しています。

    訴訟の背景
     当時、EU内では漁獲量が減少していました。漁業連携協定は、魚をあまり食べない、または漁をすることができない国などで、EUの漁船が操業できるようにする代わりに補償を払うというものです。多くが発展途上国との協定です。
     現在、EUの漁船がとる漁獲量の40%はこうした漁業連携協定の下で得られているものです。EUはそれらの国々の水域で漁をさせてもらう代わりに、そうした国々の漁業及び魚加工の持続的設備普及のために資金と技術を提供することになっています。
     EUモロッコ漁業連携協定の原型は1990年代に遡ります。協定で一定数のヨーロッパの漁船がモロッコ領海で操業できる権利を得ます。しかし、この協定の下でえられる漁獲量の91.5%は西サハラの水域からのものです。そのためにEUはモロッコに3000万ユーロ(約39億円)を支払っています。
     EU理事会と欧州委員会は、協定は西サハラ水域に適用可能だと主張し、私たちの主張を疑問視していました。EUの論理は、モロッコは「事実上の施政国」であり、協定は西サハラ及びその近隣の海域に対して人民の自決権を踏みにじることなく適用可能である、いかなる国際法の体制の下にあっても、西サハラの天然資源の利用は地域住民に利益をもたらしている、というものでした。
     果たして、2018年2月27日に欧州司法裁判所が出した判決は、「モロッコの漁場」は西サハラの水域を含まないとし、一方で、漁業協定の有効性そのものは認めるというものでした。判決は「西サハラがモロッコ王国の領土でないことに鑑み、西サハラに近接する水域もまた漁業協定にいうモロッコの漁場とはならない」と述べました。また、欧州司法裁判所は、自由貿易協定と2013年の農産物に関する議定書が、西サハラに隣接する水域に適用可能かどうかについても検討しました。主たる問題は、「モロッコの領土」、「モロッコが管轄する水域」、モロッコの「漁場」、「モロッコの主権ないしは管轄下にある水域」などとされるものが、西サハラ沿岸水域を含むかどうかでした。結局、欧州司法裁判所は漁業連携協定の第11条「適用される区域」を当てはめ、協定は「モロッコの領土」と「モロッコ管轄下にある水域」にのみ適用されると判断しました。
     欧州司法裁判所は、人民の自決権及び条約の(国際法に対する)相対的効力の原則に従えば、西サハラはモロッコの主権下にあるとは考えられないし、モロッコを事実上の施政国と解釈することもできない、なぜならモロッコ自体がかかる定義を拒否しているからであると述べました。そして、モロッコとの協定そのものは有効だけれども、西サハラの水域には適用されないと結論づけました。
     こうなると、欧州委員会は新しい協定(議定書)を作らなければなりませんが、その際、協定が示す地理的範囲から西サハラを除外するか、さもなくば、西サハラへの適用を合法とするために西サハラ人民の承諾を得るか、いずれかの方法をとらなければならなくなりました。
     この欧州司法裁判所の判決は、西サハラを協定から外した上で、協定そのものの有効性は認めるという、2015年の最初の訴訟の判決を踏襲したものでした。そこで、欧州委員会と欧州議会もまた、2019年2月12日に認めた、判決をバイパスするようなモロッコとの新しい自由貿易協定と類似の漁業協定を作成しました。新しい漁業協定では、西サハラを含むことが明確に示され、「西サハラの現地住民」との協議が行われると謳われています。EUはそれによってこの漁業協定は合法的なものになったと主張するのです。
     ところで、欧州委員会は、ポリサリオ戦線が協議への参加を拒否したと主張しています。しかし、協議を拒否しているのは欧州委員会の方であり、ポリサリオ戦線は欧州委員会に宛てた手紙でそのことを書いています。現実政治が国際法・EU法を凌駕するというこの世界にあって、これから先どうなるかわかりませんが、少なくとも自由貿易協定との闘いはまだ終わっていません。ポリサリオ戦線は2019年、この新たな協定(議定書)をめぐり、欧州連合司法裁判所に訴訟を起こしました。
  1. 南アフリカ高等法院:チェリー・ブロッサム号事件
     2017年5月1日、チェリー・ブロッサム号という貨物船が55,000トンの西サハラ産リン鉱石を積んだまま燃料補給のため南アフリカのポート・エリザベスに入りました。南アフリカはサハラ・アラブ民主共和国を国家として承認している国です。そこでサハラ・アラブ民主共和国/ポリサリオ戦線は、南アフリカ高等法院に貨物船の拘束を請求しました。私たちの立場はそのリン鉱石の積荷はわが非自治地域、西サハラから略奪されたものであり、真の所有者はサハラ・アラブ民主共和国であるというものでした。
     そのリン鉱石はニュージーランドの肥料製造大手、バランス・アグリ・ニュートリエンツ社(Ballance Agri-Nutrients)が注文したもので、モロッコの国営リン鉱石公社(OCP)が採掘し、フォスブクラア社(Phosboucraa)が販売を手がけたものでした。バランス社は弁護人を送らず、判決に従うと述べ、モロッコ国営リン鉱石公社のみが反論することになりましたが、リン鉱石公社もあとで裁判から撤退します。そしてモロッコ政府が加わり、フォスブクラア社とともに被告席に立つことになりました。
     2017年5月18日、高等法院はチェリー・ブロッサム号の積荷の差し押さえをめぐってヒアリングを行い、6月15日に以下のような最初の裁定を出しました。
    ・モロッコは西サハラに対して主権をもたない。
    ・西サハラ人民は奪い得ない自決権と天然資源に対する恒久主権を有する。
    ・モロッコ国営リン鉱石公社は、西サハラ人民の承諾を得て西サハラでのリン鉱石採掘を行ったと主張していない。公社は西サハラ住民に代わってそう主張することもしないし、できない。
    ・サハラ・アラブ民主共和国は、一応の(prima facie)証拠に基づき、貨物のリン鉱石に対する主権は西サハラ人民にあると述べ、したがってリン鉱石の一応の所有権はサハラ・アラブ民主共和国がもつということを論証した。

    最終判決
     高等法院は2018年2月23日、判決を出しました。それは「チェリー・ブロッサム号に積まれたすべてのリン鉱石の所有者はサハラ・アラブ民主共和国である」というものでした。そして「貨物の所有権はモロッコ国営リン鉱石公社に法的に委譲されたことはなく、彼らは、過去も現在も、かかるリン鉱石をバランス・アグリ・ニュートリエンツ社に販売する資格はない」と述べました。
     モロッコ政府はリン鉱石は現地のフォスブクラア社が合法的に販売したものであると主張しました。リン鉱石公社とフォスブクラア社は、リン鉱石採掘権はモロッコの法律にもとづいており合法的だ、同社は「国際法にしたがって」行動していると主張しました。また、リン鉱石採掘が「西サハラ人民」の利益になるとした上で、採掘活動を合法的だと主張しましたが、高等法院は多くのサハラーウィが難民キャンプにいるのにどうやってその利益を得ることができるのかと、疑問を投げかけました。
     また、高等法院は、モロッコからの移住者たちが西サハラの人民であるとのモロッコの主張を退け、彼らは「実質的にモロッコ人移住計画」の結果に他ならないと結論しました。
     モロッコリン鉱石公社とフォスブクラア社は、リン鉱石の所有権問題は南アフリカの法廷で裁くことはできない、なぜならそれはモロッコの主権を侵すものだと主張しました。そして、国家は海外で責任を問われないという原則を持ち出し、ある国が外国の内政に干渉するような判決を出すことはできないと主張しました。
     高等法院はまず、積荷の差し押さえを許可し、その上で審理に入ったのですが、最初の裁定を受けて、モロッコ国営リン鉱石公社とフォスブクラア社は控訴を諦め、裁判から手を引くことにしました。そして2018年2月、高等法院はサハラ・アラブ民主共和国がリン鉱石の所有者であるとの判決を出したのです。
     高等法院は2つ重要なことを指摘しました。第一に、モロッコの西サハラにおける存在様態がいかなるものであろうと、モロッコはそこで主権を行使することはできないということ。第二に、リン鉱石は西サハラに位置するブクラアで採掘されたものであり、それはモロッコの国境の外であること。判決は、サハラーウィが自決権を有し、西サハラが軍事占領されていることを確認したと言えます。
     判決は私たちにとって大きな勝利でした。西サハラのリン鉱石を購入し、それをサハラ・アラブ民主共和国を承認する国を通って運ぶ会社は、政治的、財政的リスクがあることを示した前例となりました。その後、そうしたリスクを負ってまで西サハラのリン鉱石を運ぼうという会社は少なくなりました。今や、西サハラ産リン鉱石を購入することはますます難しくなっています。
  1. 結論
     欧州司法裁判所、南アフリカの高等法院、さらにはニュージーランドの高等法院は、いずれも西サハラがモロッコ領でないとの判断を示しました。つまり、モロッコは西サハラを代弁して自由に契約を行うことはできないということが確認されたのです。そして、ポリサリオ戦線を西サハラ人民の正統な代表であるとみなされました。
     ただ、EUでは、欧州司法裁判所が西サハラをモロッコとは別の異なる地位を有するとしたものの、欧州議会、欧州委員会、EU理事会はなお国際法より経済的利益を優先させようとしています。2012年に始まったポリサリオ戦線の法的闘争はこれからも続き、ますます拡大していくことでしょう。
     ところで、西サハラの資源略奪に何十年も関わっている日本の企業や漁船があることはご存じでしょうか。今、日本企業にも、西サハラの天然資源略奪への加担を終わらせるべきときが来ました。なぜなら、モロッコと取引し、体制に利益をもたらすことが、西サハラの占領を支え、モロッコによる不法な占領を継続させることになるからです。現地で停戦が終わり、また戦争状態に戻ったことで、ますますそうだと言えるでしょう。
     西サハラで日本の企業や漁船が活動していることは、法を遵守する国として名高い日本の信用に傷をつけます。経済大国としてアフリカと良好な関係を築きたいのであれば、サハラ・アラブ民主共和国がアフリカ連合の正式加盟国であり、アフリカ諸国の支持を得ているという事実をぜひ考慮していただきたい。
     日本のみなさんは占領の何たるか、また戦争が何を意味するか、過去の体験からご存じでしょう。私たちはみなさんの多くが私たちの闘いを理解して下さると信じています。私たちは日本と新しい歴史のページを開くことを望んでおり、日本が将来の独立した西サハラの国造りに貢献して下さることを願っています。日本と強い友好の絆を結び、協力し合う関係をもちたいと思っています。
     ご清聴ありがとうございました。

(翻訳・松野明久)