西サハラ友の会通信 No. 13

 3月30日(火)、アルジェリアのチンドゥーフにあるサハラーウィの難民キャンプでは、45人の新規感染者がみつかったと報告されました。これによって難民キャンプでの累積感染者数は168人になり、その内死者は10人だとのことです(Sahara Press Service, 30 Mar. 2021)。その前日29日には、WHO(世界保健機構)のチームが難民キャンプを訪問しています。
 ラマダーン(イスラームの断食月)が4月13日に始まります。5月12日まで続きます。

【西サハラ占領地】

  1. 少年2名に実刑判決
     3月31日、エル=アイウンの第一審裁判所はサハラーウィ少年2名に1月の禁固刑を言い渡した。少年はムスタファー・ラクビール・ムスタファー(Mustafa Lakbir Mustafa)とターハー・ジュナーフェル(Taha Ajnafer)の2名で、職務遂行中の公務員2名を襲撃し、石を投げたことで起訴されていた。2人は3月25日、平和的なデモに参加し、エル=アイウン市内マアタッラー(Maatallah)地区で逮捕された。また、エル=アイウンの控訴裁判所は別な3人の少年に対しても3月10日、6ヶ月の実刑判決を言い渡している。3人とはジャマール・サーレム・ブヒー(Jamal Salem Abhi)、ヤーシーン・スリーマー・ヒラール(Yassin Aslima Hilal)、バドル・ブーナワーラ(Badr Bounawara)でみな16才。(por un Sahara libre, 3 Apr. 2021)
    https://porunsaharalibre.org/2021/04/03/marruecos-condena-a-un-mes-de-prision-a-dos-menores-saharauis/
  2. バスク地方の投資家派遣団、西サハラを訪問
     3月17日、マリア・タト氏(Maria Tato)率いるバスクからの投資家派遣団が西サハラのダーフラに到着した。18日は主として漁業部門の関係者と会議を行う。西サハラ側からはワリ(首長)のアブドゥッサラーム・ベクラート氏(Abdeslam Bekrate)、ラユーン・サキア・エル=ハムラ地方議会議長のハムディ・ウルド・エッラシード氏(Hamdi Ould Errachid)、モロッコ女性サッカー連盟会長でラユーン市クラブの代表でもあるハディージャ・イーラー氏(Khadija Illa)が応対した。バスク側にもバスク地方のビルバオに拠点をおくサッカーチーム、アスレティック・ビルバオの女性サッカークラブのスポーツ部長がいた。また、マリア・タト氏自身、スペインサッカー連盟の女性サッカー部長を務めている。(この記事を掲載したのはモロッコのメディアで、いつもポリサリオ戦線を冷笑する調子で書かれています。バスクではポリサリオ戦線は保守系のバスク民族党と左派のビルドゥ[Bildu]と関係が深く、両者はスペイン国会で違いを伏せて連携しているというのですが、そのバスクからモロッコ寄りのビジネス集団が西サハラを訪問した、ポリサリオ戦線はそれについて黙っているというのがニュースになっているのです。)(Yabiladi, 18 Mar. 2021)
    https://www.yabiladi.com/articles/details/107379/polisario-muet-visite-delegation-d-entrepreneurs.html
  3. モロッコの野党「連合社会党(PSU)」が西サハラで会議
     モロッコの野党「連合社会党(Parti socialiste unifié)」は、モロッコの国会(下院)に2議席をもつ「民主左翼連合(FGD)」を構成する政党で、「議院君主制」を掲げ、民主政治の確立を求めている。書記長のナビーラ・ムニーブ氏(Nabila Mounib)はモロッコでは初めての女性党首であり、カサブランカの大学で生物学の講師を務めていた。モロッコにおける「アラブの春」であった「2月20日運動(le mouvement du 20 février)」以後頭角を現し、PSUの書記長に選出された。西サハラについては、スウェーデンがサハラーウィ共和国(RASD)を承認した時、左派政党を束ねてスウェーデンに行き、承認を撤回させたというエピソードがWikipediaに出ている。
     そのナビラ・ムニーブ氏が3月19日、PSUの政治局員2名を引き連れて西サハラを訪問し、「もう一つの可能なモロッコ:領土的保全、民主主義、社会的・空間的正義」と題する会議を開催し、ポリサリオ戦線の支持者らとも話し合ったという。政治局員ジャマール・ラアスリー氏によると、会場を借りるのに苦労したが、2時間しか借りていなかったのに4時間使わせてくれたそうだ。また、エル=アイウンのポリサリオ戦線支持者が多いとされるマアタッラー地区(Maatallah)には当局から行かないよう忠告を受けていたが、ムニーブ氏の人気もあって問題なくそこを訪問できた、若者たちが雇用、健康、住宅問題で請願書を彼女に手渡した、という。(Yabiladi, 23 Mar. 2021)
    https://www.yabiladi.com/articles/details/107602/laayoune-nabila-mounib-rencontre-partisans.html
  4. セネガルの領事館、西サハラに開設
     4月5日(月)、西サハラのダーフラにセネガルの総領事館が開設された。1年余りの間にダーフラに開設された領事館としては10ヶ国目となる。(エル=アイウンを含めた西サハラに領事館を開設した国はこれで21ヶ国。)残りの9ヶ国はガンビア、ギニア、ジブチ、リベリア、ブルキナファソ、ギニア・ビサウ、赤道ギニア、コンゴ民主共和国、ハイチである。これを機会にモロッコとセネガルは地方分権、IT分野、空の安全分野の交流に関する3つの協力協定を締結した。(Yabiladi, 5 Apr. 2021)
    https://www.yabiladi.com/articles/details/108169/maroc-senegal-ouvre-consulat-general.html

【モロッコ】

  1. 摘発されたジハーディストグループ
     スペインの保守系新聞La Razónが、モロッコのメディアLe360(諜報組織系とされる)を引用して伝えるところによると、最近モロッコで摘発されたジハーディストグループが、アルジェリアとの国境付近のモロッコ軍の駐屯地や議会、観光地などを攻撃する計画をもっていたことがわかったという。軍基地攻撃はモロッコとアルジェリアの間の戦争を誘発しようとの意図ではないかと分析している。
     記事によると、一群の過激化したモロッコ人が、アルカイーダに属するJNIM(ジャマーア・ヌスラ・アル・イスラーム・ワル・ムスリミーン)とISに属する「サハライスラム国(EIGS: Islamic State of Sahara)」のそれぞれの拠点に向い、武器の訓練を受け、モロッコに戻って攻撃を行うという計画をもっていた。このグループのリーダーはアルジェリア国境付近のモロッコ軍駐屯地をグーグルで検索していたそうで、「モロッコ兵から武器を奪い、アルジェリア側を攻撃して、モロッコ・アルジェリア間の戦争を誘発しようとしていた」という。またグループは米国の施設も標的に考えていたようだ。背景にはモロッコがイスラエルと関係正常化をはかり、それを米国が支援したことがある。テロリストは情勢の不安定化を狙うものであり、そこにある矛盾を利用しようとする。(La Razon, 2 Apr. 2021)[編者注:この記事が伝えるグループの動機は推測である可能性が高く、慎重に読む必要があるだろう。]
    https://www.larazon.es/internacional/20210402/jq6y5lnbprdqvk3vsl7ujgeeiq.html

【国際】

  1. 安保理、4月21日に西サハラを議論
     国連安保理の今月の予定表によると、4月21日に西サハラが議題となっている(非公開会合)。停戦崩壊、米国のモロッコの西サハラへの主権承認後、どう交渉プロセスを活性化させるかが課題となる。アルジェリア外相はモロッコとサハラ・アラブ民主共和国の直接交渉を呼びかけた。米国のブリンケン国務長官も3月29日のグテーレス事務総長とのオンライン会談で新たな特使の任命を急ぐよう要請した。(Sahara Press Service, 31 Mar., 1 Apr., 3 Apr. 2021)
    http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/04/03/32435.html
    http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/04/03/32431.html
    http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/03/31/32361.html
  2. 米国の2面的態度
     バイデン政権の態度がはっきりしない。米国は40ヶ国を招待して4月22・23日に気候変動に関するオンライン会議を開催する予定だが、モロッコを招待しなかった。モロッコのメディアによると、モロッコは2016年にCOP22の開催地となった国だが、バイデン政権で気候変動問題を取り仕切るケリー元国務長官はモロッコとの関係がよくなかった。彼の時代、MINURSOに人権監視のマンデートを付加しようとしたり、国務省がモロッコの人権状況を批判する報告書を出したことが想起される。(Yabiladi, 28 Mar. 2021)
     しかし、一方で、6月には米軍とモロッコ軍の共同演習が予定されており、西サハラのダーフラも演習地に含まれると発表された。モロッコはこれはバイデン政権がトランプ政権による主権承認を引き継いだと解釈している。(La Razon, 29 Mar. 2021)
    https://www.yabiladi.com/articles/details/107790/etats-unis-n-ont-convie-maroc-sommet.html
    https://www.larazon.es/espana/20210329/oraggkyfovcpfak4qng4gm3epy.html?
  3. CAF会長に南アのMotsepe氏
     3月12日、モロッコの首都ラバトで開催されたCAF(アフリカサッカー連盟)の会長選で、南アの億万長者パトリス・モツェペ(Patrice Motsepe)氏が新会長に選ばれた。モロッコでは西サハラ問題をめぐって対立する南アからの候補者だったため懸念が広がったが、モツェペ氏は会長選の最中より「モロッコの政治的利益を損なわない」ことを約束している。モロッコのブリタ外相は同国を2月に訪問したジャンニ・インファンティーノFIFA会長と面談した際、CAFに政治的議論を持ち込むべきでないと念を押していた。(Morocco World News, 12 Mar., 27 Feb. 2021)
    https://www.moroccoworldnews.com/2021/03/337169/south-africas-patrice-motsepe-becomes-new-caf-president/
    https://www.moroccoworldnews.com/2021/02/336169/south-african-candidate-promises-to-leave-western-sahara-out-of-caf/
  4. ニュージーランド高等法院の判決
     ニュージーランドの公的年金基金であるThe Guardians of New Zealand Superannuationが、西サハラからリン鉱石を輸入して肥料を製造している2社、ラーベンスダウン社(Ravensdown)とバランス・アグリニュートリエンツ社(Ballance Agri-Nutrients)に投資していることについて、ポリサリオ戦線オーストラリア・ニュージーランド事務所が高等法院に司法審査を求めていたが、その結果が3月15日に発表された。高等法院は、同基金は基金の法律(2001年ニュージーランドスーパーアニュエーション退職収入法)に違反していない、と結論した。ただ、マーク・ウォルフフォード判事は、西サハラのリン鉱石輸入はニュージーランドのより広い意味での利益に対して評判上のリスク(reputational risk)があることを認めた。(Stuff, 17 Mar. 2021)
    https://www.stuff.co.nz/business/industries/124574436/high-court-dismisses-judicial-review-of-nz-imports-of-western-saharan-phosphate
  5. アフリカ連合平和・安全保障理事会、決議を採択
     3月9日、アフリカ連合平和・安全保障理事会(第984回会合)は、2020年12月に開催された「Silencing the Guns(武力紛争終結)」に関する第14回特別サミットの決定の第15パラグラフの実施のフォローアップに関連して、決議を採択した。この決議は西サハラに関するもので、その内容は(1) アフリカ連合の西サハラ問題解決への関与を再活性化する、(2) 平和・安全保障理事会は西サハラ紛争に関する責務を履行する、(3) モロッコとサハラ・アラブ民主共和国に敵対行為を停止し対話に従事するよう求める、(4) ラユーンのAUの事務所を再開する、(5) 平和・安全保障理事会は現地に視察団を派遣する、というもの。また、国連の役割を重要とみなし、事務総長に非自治地域たる西サハラに領事館を開設することについての法的意見を国連法務部に求めるよう要請する、AUの西サハラ問題特使(ジョアキン・シサノ元モザンビーク大統領)に速やかな活動再開を求める、などとなっている。(AU communique, 18 Mar. 2021)
    http://www.peaceau.org/en/article/communique-of-the-984th-meeting-of-the-psc-held-on-9-march-2021-on-the-follow-up-on-the-implementation-of-paragraph-15-of-the-decision-on-silencing-the-guns-of-the-14th-extraordinary-summit
  6. アルゼンチンのラプラタ大学が西サハラの授業
     ブエノスアイレス州の州都にあるラプラタ大学が4月2日から5月20日かけて西サハラに関する科目を開講する。サハラ・アラブ民主共和国独立宣言45周年を記念し、ティファリティ大学(解放区にある西サハラ最初の大学)とスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大学(西サハラ研究センターがある)との協力で進める。ラプラタ大学は世界で唯一、西サハラについての講座(教授ポスト)を有している大学である。(Sahara Press Service, 15 Mar. 2021)
    http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/03/16/32106.html
  7. スペインのモロッコへのパトロール船売却は違法か?
     3月18日、スペインの12団体が、モロッコへのスペイン製パトロール艦船の売却を許可しないよう産業・商業・観光相に申し入れた。問題となっているのはナバンティア(Navantia)社のパトロール船で、2007年12月28日の2007年第53号法律、国王令2014年679号、及びEUの共通外交安全保障政策2008年944号共通ポジションの適用によって、売却を許可しないよう求めたものだ。(Ceas-Sahara, 18 Mar. 2021)
    https://ceas-sahara.es/denuncia-gobierno-venta-ilegal-buque-de-guerra-marruecos/
  8. スペインで西サハラ観光のキャンペーン
     スペインのムルシア州(州都ムルシア)にあるモロッコ総領事館で、「ムルシア出身作家が描くモロッコ・サハラ」と題する国際フォーラムが行われた。主催したのは「アカシアの道(Senderos de la Acacia)」とエル=アイウンにある「サキア・エル・ハムラ研究センター」で、西サハラへの観光と投資を呼びかけるのが趣旨だ。ゴンサロ・サンチェス氏(Gonzalo Sanchez:エル=アイウン在住のスペイン人で、モロッコ政府と協力して「モロッコのサハラ」を売り込んでいる。彼のサイトは:http://fenecdesign.com/en/start/)は、すばらしい景観と整ったインフラについて話した。考古学者のアントニオ・ビセンテ・フレイ・サンチェス氏(Antonio Vicente Frey Sanchez)は「モロッコ南部」の遺跡が観光に寄与すると述べた。
    (MAP express, 1 Apr. 2021; Murciaplaza, 1 Apr. 2021)
    http://fenecdesign.com/en/start/
    https://murciaplaza.com/un-foro-sobre-el-sahara-y-la-mirada-de-escritores-murcianos-reflexiona-sobre-los-lazos-entre-murcia-y-marruecos
  9. アルジェリア・モーリタニアが国境委員会を設置
     4月1日(木)、アルジェリアとモーリタニアは国境委員会設置に関する協定(覚書)に署名した。署名はモーリタニアの首都ヌアクショットで、両国の内務大臣が行った。アルジェリアからはチンドゥーフ州知事も出席した。協定は、アルジェリアのチンドゥーフ州とモーリタニアのティリス・ゼムール地域(Tiris Zemmour)の経済的関係の強化、国境管理における連携の他、文化、スポーツ交流も進め、両地域の人的交流も促進するものである。委員会は年1回の会議をもつ。一方、チンドゥーフとティリス・ゼムール地域の中心都市ズエラットを結ぶ900kmに及ぶ道路の建設も間近だ。2018年8月には国境の両サイドに国境管理事務所が設置され、商用トラックや人の往来が飛躍的に増大した。ズエラットに至る道路が建設されれば、アフリカ連合が建設中のカイロ=ダカール及びアルジェ=ダカール回廊が完成する。(Algérie Presse Service, 1 Apr. 2021)
    https://www.aps.dz/algerie/119998-algerie-mauritanie-un-memorandum-d-entente-pour-creer-une-commission-bilaterale-frontaliere
  10. モーリタニア、モロッコ産野菜を輸入制限
     モーリタニアのオンラインメディア「アル=アクバル」によると、モーリタニアはモロッコからの人参の輸入を停止し、トマトの輸入を1日30トン(2トラック分)に制限することにした。国産野菜を重視するためだという。モーリタニアは野菜を海外、とくにモロッコからの輸入に頼っている。(編者注:モロッコからの野菜はゲルゲラートを通って輸入されていたようなので、そこに制限がかかったことを意味する。)(ECSaharaui, 4 Apr. 2021)
    https://www.ecsaharaui.com/2021/04/mauritania-impone-medidas-restrictivas.html
  11. EUのボレル外務・安全保障政策上級代表の回答
     欧州議会の議員2名、マヌ・ピエダ氏とシラ・レゴ氏(左翼連合)がハンガーストライキを続けるムハンマド・ルアミーン・ハッディ政治囚に関連して送付した質問状に、ヨセップ・ボレルEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長は部分的な回答しかしなかった。質問は、ルアミーン氏についていかなる情報をもっているか、ラバトのEU代表部はルアミーン氏の状況確認のため刑務所訪問を行わないのか、サハラーウィ政治囚の尊厳が守られるようEUはモロッコといかに関係を改善するのかの3点。これに対し、回答は、EUは「グデイム・イジーク」グループの健康その他の状況についてフォローしており、モロッコ国家人権委員会に本件を提起したところ、委員会はルアミーン氏の状況を直接に確認する計画であると知らされたというもの。回答は続いて一般論としてEUモロッコ共同宣言(2019年6月27日)が人権と基本的自由の尊重を謳っていることに言及している。(編者注:ボレル氏は元スペイン外相でもっぱらモロッコ寄りと批判されていた人。)
    https://porunsaharalibre.org/2021/04/02/josep-borrell-gives-a-non-answer-regarding-the-situation-of-saharawi-political-prisoner/?lang=en

以上。