西サハラ友の会通信 No. 12

 バイデン政権の西サハラ政策が定まらない中、モロッコが外交攻勢を強める一方、サハラーウィ民族解放軍による砲撃が続いています(軍事的衝突には至っていないようです)。国連もEUも解決イニシャティブで見えるものはありません。水面下でドイツが動いているのかも知れませんが、表には出ていません。
 モロッコのコロナ感染者は488,937人(3月15日、累積)、死者数は8,723人です。この数日、1日の感染者数が500人を切るようになりました(WHOデータ)。ワクチン接種は速いペースで進んでおり、集団免疫獲得のためには3,300万人に接種する必要があるそうですが、3月4日時点で374万人まで接種したとのこと。とはいえ、西サハラの状況はほとんどわかりません。

【ドキュメンタリー】

  1. Middle East Eye, “Morocco’s Makhzen State in Crisis”, 1 Mar. 2021
     Middle East Eyeが制作したモロッコの民主化運動を解説するドキュメンタリー。英語ナレーション・英語字幕付、13分。モロッコの独立、王政の樹立、ムハンマド6世への継承、ハサン2世統治後の「正義と平等委員会」公聴会の様子、一瞬の民主改革、アラブの春、リフ地方の民主化要求運動などを貴重な映像を交えて解説している。西サハラは解説には出てこない。
    https://www.middleeasteye.net/video/crisis-moroccan-makhzen-state
  2. “Rashomon in Sahara”
     1957-58年のイフニ戦争を、スペイン、モロッコ、サハラーウィの兵士たちの語りで複眼的に構成するドキュメンタリー。一つの事件を複数の視角から描いた黒澤明監督の映画「羅生門」にヒントを得たという。ディレクターはホセ・ゴンザレス・モランディ(José Gonzalez Morandi)、2021年2月制作。56分。英語字幕付き。
    https://lisa.gerda-henkel-stiftung.de/rash_mon_in_the_sahara?nav_id=9579&language=en
  3. Democracy Now! “Four Days in Western Sahara – A Rare Look Inside Africa’s Last Colony”, August 31, 2018.
     今回初めて通信を送る方々も多くいらっしゃるので、改めて西サハラ問題の現地ルポルタージュとしてお進めの一本を紹介します。Democracy Now!はアメリカの独立系メディアでエイミー・グッドマン(Amy Goodman)が主宰。海外のジャーナリストをシャットアウトした西サハラに果敢に飛び込み、人権活動家等をインタビューした緊張感あふれるドキュメンタリー。英語、59分。
    https://www.democracynow.org/2018/8/31/four_days_in_occupied_western_sahara

【西サハラ占領地】

  1. 政治囚のハンガーストライキ、56日を迎える
     モロッコのティフィルト第2刑務所(Tifilt 2)にいるサハラーウィ政治囚、ムハンマド・ルアミーン・ハッディが1月13日に始めたハンガーストライキは(3月10日で)56日になった。フランスの西サハラ支援グループ(Association of Friends of SADR)はフランス政府に対してモロッコ政府に彼の釈放を求めるよう要請を行った。(SPS, 10 Mar. 2021)
    http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/03/10/31990.html
  2. エル=アイウンでの裁判
     3月8日、エル=アイウンの控訴裁判所はガーリー・ハムディ・ブハッラー(Ghali Hamdi Bouhalla)とムハンマド・ナーファア・オスマン・ブタスフラ(Mohamed Nafaa Othman Boutasoufra)に8ヶ月と1年の判決を下した。また、3月3日、エル=アイウンの第一審裁判所は高校生のザカリヤー・エッルガイビー(Zakaria Ergaibi)に9ヶ月の判決を言い渡した。ザカリアは昨年11月13日、ポリサリオ戦線が武装闘争への復帰を宣言した後の平和的なデモに参加したことで逮捕されていた。(モロッコ刑務所のサハラーウィ政治囚保護連盟 [LPPS]、2021年3月8日)
  3. モロッコの最高裁、「学生グループ」の判決を確定
     3月9日、モロッコの破毀院(最高裁に相当)は2018年に控訴裁判所で下された、いわゆる「学生グループ」(又は「エル=ワリの同志たち」グループ)の控訴を棄却し、控訴審の判決を維持する決定を下した。4人に対して10年の刑、11人に3年の刑である。もう1人、12年の刑を言い渡されたエル=フセイン・エル=バシール・ブラーヒーム・アマアドゥールについては決定が出されていない。(モロッコ刑務所のサハラーウィ政治囚保護連盟 [LPPS]、2021年3月14日)
  4. アミーナートゥ・ハイダルさん、人権理事会にonlineで訴え
     3月1日(月)、「モロッコ占領に反対するサハラーウィ組織(ISACOM)」の代表で人権活動家、アミーナートゥ・ハイダルさんは国連人権理事会第46会期の会合にonlineでスピーチし、昨年11月以降エスカレートするモロッコの人権侵害について訴え、ミシェル・バチェレ人権高等弁務官に西サハラへの調査団を派遣するよう要請した。(SPS, 3 Mar. 2021)
    http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/03/03/31781.html
  5. Cegelecが西サハラの電力インフラ建設を受注
     ヴィンチエネルギー社(VINCI Energies)傘下にあるセジェレック社(Cegelec)は原発を始め重工業技術部門の大手企業であるが、西サハラで作られる電力をモロッコに送る送電線網の建設を受注した。米国による西サハラに対するモロッコの主権承認を受けて、モロッコは西サハラのインフラのモロッコへの接続を加速させている。2月17日、国家電力水道庁(ONEE)はタルフィーヤの南にあるハグニアとエル=アイウンを結ぶ全長127kmの高電圧線(THT, 400kV)を建設する2億3千万ディルハム(28億円)の事業をCegelec Maroc社に委託した。Cegelec Maroc社は昨年10月にもエル=アイウンの400kV中継所の増築工事を請け負っている。今回の事業はONEEの自己資本で行われ、アガディールとエル=アイウンを結ぶ。これとは別に、アガディール・タンタン、タンタン・ハグニアの間の送電線が計画されており、アフリカ開発銀行が融資する。西サハラの電力網をモロッコに接続する計画は以前からあり、ドイツのFichtnerとフランスのRTE Internationalの2社が担当することが2017年に決まっている。(Africa Intelligence, 24 Feb. 2021)
    https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord_business/2021/02/24/sahara-occidental–cegelec-va-raccorder-laayoune-a-la-tres-haute-tension%2C109645530-ar1

【モロッコ】

  1. モロッコ政府、ドイツ政府との連絡を禁止
     モロッコのブリタ外相の名前で政府部内に回された3月1日付け通達がメディアにリークされ、話題をさらっている。通達は、在ラバトドイツ大使館、ドイツの援助機関や財団と一切連絡を取らぬよう指示している。理由は、モロッコが重要視する問題についての(ドイツの)「深い誤解」だという。メディアは、ドイツが12月に西サハラ問題で安保理を招集したこと、リビア問題会議にモロッコを招待しなかったことが理由ではないかと推測している。(Bloomberg, 1 Mar. 2021)
    https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-03-01/morocco-halts-contacts-with-germany-citing-misunderstandings
  2. 米国のロビー会社、交代か
     ニュースサイトAfrica Intelligenceが、米国の政権交代に伴うロビー集団の交代について報道している。それによると、モロッコ政府は、米国でのロビー活動のため、2018年1月以来共和党と近いJPC Strategiesというロビー会社と契約していたが、今回解約した。JPC Strategiesの代表、ジェームズ・クリストファーソンはテキサス州選出のテッド・クルス上院議員と一緒に働いた。また、共和党のリンゼー・グレアム上院議員の元助手を務めていたアンドリュー・ヤング率いるNeale Creekや、トランプの元顧問であるマイケル・フリンと関係するSGR、強力なトランプ支持者であったクリス・ベラルディニ率いるIron Bridge Strategiesといった会社もモロッコのロビー活動の契約を終了した。唯一生き残ったのはリチャード・スモトキン(Richard Smotkin)率いるThirdCircleという会社で、それはムハンマド6世国王の従姉妹で米大使を務めるラッラ・ジュマーラ・アラウィー王妃が直接にリクルートしたところだ。リチャード・スモトキンは、トランプ政権で環境保護庁長官に任命された気候変動を信じないスコット・プルイットに同行してモロッコを訪れ、米国の液化天然ガスのモロッコへの輸出を擁護した人物だ。2019年から2020年にかけてモロッコから100万ドルの手数料を手に入れたとされる。
     さて、それではバイデン政権になってどういう民主党筋のロビーストが復活するのだろうか。かつてのクリントン大統領のアドバイザー、ジョエル・ジョンソンが設立した会社にモロッコ政府は再びアプローチすることができる。バイデン氏が副大統領だったときの広報官であるリズ・アレン(Liz Allen)はGlover Parkの代表取締役になっており、Finsbury Glover Heringの8つのパートナーの1人でもある。昔の民主党のモロッコ関係者は今回の政権交代で復活するのは難しいだろう。例えば、元モロッコ大使のエドワード・ガブリエル氏はモロッコアメリカ政策センター(MACP)を通じて20年近く米国でのロビー活動を行ってきたが、ブリタ外相はトランプ政権誕生時にそのネットワークとの関係を終わらせた。オバマ政権時代にたいした結果を出せなかったからでもある。
     ワシントンにおけるモロッコのロビー活動は西サハラ問題にプライオリティを置いている。ホワイトハウスもブリンケン国務長官もイスラエルとの関係正常化は歓迎すると述べたものの、西サハラに対する主権問題には触れない。議員たちの主権承認を見直すようにとの圧力もある。気になるのは、元インターナショナル・クライシス・グループの代表、イブン・ロバート・マレー氏がイラン問題担当特使に任命されたことだ。彼はトランプ流取引の厳しい批判者だった。
     3月に入ってのAfrica Intelligenceの報道によれば、Afrique Advisorsというコンサルティング会社がワシントンDCにオフィスを開いたということで、ロビー活動に参入する可能性があるらしい。これは弁護士のライラー・スラーシー(Laïla Slassi)率いる、カサブランカに本社を置くビジネスコンサルティングの会社だ。彼女のパートナーであるタラール・ベルギーティー(Talal Belrhiti)がそのワシントン事務所を率いる。トランプの取引外交の脇で決まったアメリカ開発銀行による数十億ドルに及ぶ投資の約束を狙っているようだ。ベルギーティーはワシントンでは馴染みの顔で、アンソニー・モフェット率いるMoffet Groupでモロッコ政府のロビーを担当していた。また、彼はマグレブセンターというシンクタンクの共同創立者であり、ハイ・アトラス財団(High Atlas Foundation)のメンバーでもある。同財団は元ピースコー(米国の海外青年協力隊)のメンバーたちが設立したNGOで、ジェイソン・ヨセフ・ベン・メイル(Jason Yossef Ben-Meir)が長を務め、モロッコでの植樹や女性エンパワメント事業などボランティア活動を組織している。しかし、その顧問陣にはムハンマド6世国王の顧問アンドレ・アズレー(モロッコのユダヤ人コミュニティの重鎮で現ユネスコ事務局長の父)や元在米モロッコ大使や在モロッコ米大使など政治的にハイレベルな人びとが名を連ねている。(Africa Intelligence, 25 Feb. 2021, 15 Mar. 2021)
    https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord_diplomatie/2021/02/25/face-a-biden-bourita-debranche-les-lobbyistes-de-l-ere-trump,109645876-eve
    https://www.africaintelligence.com/north-africa_business/2021/03/15/afrique-advisors-sets-out-to-conquer-washington,109650135-ar1

【国際社会】

  1. イギリス連帯グループがモロッコとの協定で英政府を提訴
     英政府はEU離脱後モロッコと「英モロッコ連携協定(EU-Morocco Association Agreement)」を結んだ。1月1日に発効している。協定は西サハラの産品や資源を含んでおり、その点に関して3月12日、「イギリス西サハラキャンペーン(Western Sahara Campaign UK)」は協定が自決の原則、及び第三国に二国間協定に対する義務を課すことを禁じた条約法に違反するとして、英政府をイングランド・ウェールズ高等法院に司法審査を求めて訴えた。(Western Sahara Campaign UK, Sahara Analysis No. 105, Mar. 2021)
  2. EU司法裁判所、ポリサリオ戦線提訴の件につきヒアリング開始
     3月2日、EU司法裁判所は、ポリサリオ戦線が、EU理事会決定2019/2017(2019年1月28日)の違法性を訴えて提訴した件につき、ヒアリングを開始した。ポリサリオ戦線が訴えているのは、EUモロッコ連携協定(モロッコからの農産物関税免除等)、EUモロッコ漁業協定(モロッコの漁業支援と引き替えにEU漁船がモロッコ沿岸で操業できる)が西サハラを含んでいる問題だ。提訴は2019年6月に行われている。
    http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/03/02/31760.html
  3. 世界の政治家「モロッコの西サハラへの主権承認」を支持
     多数の国の元首相・大臣、国会議員等がバイデン大統領にあてた書簡で、モロッコの西サハラへの主権承認を支持した。署名した25ヶ国250名に含まれるのは元イタリア外相で米国・イスラエル大使を務めたことのあるジュリオ・テルジ氏(Giulio Terzi)を始め、元チェコ大統領ヴァーツラフ・クラウス氏、元グアテマラ大統領ジミー・モラレル・カブレラ氏、元ブルガリア首相ゲオルギ・ブリズナシュキ氏、元MINURSOスタッフのステファン・トドロフ・ダヴィドフ氏などだ。(20 Minutos, 26 Feb. 2021)
    https://www.20minutos.es/noticia/4601376/0/lideres-politicos-dirigen-una-carta-a-joe-biden-en-apoyo-al-reconocimiento-de-la-soberania-marroqui-sobre-el-sahara/
  4. ナイジェリアがモロッコ国営リン公社の肥料工場を誘致
     モロッコ国営リン公社(OCP)はナイジェリアに建設する肥料工場の土地を確保した。生産量100万トンをもつ工場の予定地について4年の歳月をかけて交渉が行われ、最終的に南岸のリヴァーズ州(Rivers State)のボニーアイランド(Bonny Island)が選ばれた。同州のニェソム・ウィケ(Nyesom Wike)知事は、グッドラック・ジョナサン(Goodluck Jonathan)政権時代の教育相(2010-2015)であり、野党・人民民主党(PDP)の最大の資金援助者でもある。工場は最終的には隣のアクワ・イボム州(Akwa Ibom)に移される。ここの州知事ウドム・エマニュエル・ガブリエル(Udom Emmanuel Gabriel)も野党系だ。近くのエクソン・モービルガス田がエネルギーを供給する。パートナーはナイジェリアの政府系ファンド。約30人のナイジェリア政府関係者が3月1日から6日までモロッコに招待される。
     ナイジェリアはムハンマド・ブハリ大統領(2015-)になって肥料の輸入を禁止した。そのためモロッコとしては合弁による現地生産に移行せざるをえないという事情がある。OCNはこれまでもナイジェリアで肥料を生産(実際には最終工程)していて2021年末までには年間50万トンの生産量に達する見込みだ。
     モロッコがナイジェリアに熱い視線を送るのには理由がある。それはニジェール・デルタで産出される石油をサハラ(=西サハラ)を通ってモロッコにパイプラインで送るという壮大な計画をもっているからだ。パイプラインを通って年間100億立方メートルも送られる石油はモロッコ、西アフリカ、そしてヨーロッパを潤すことになるだろう。もちろん、モロッコは西サハラ問題を念頭においてナイジェリアとの関係を進めてきた。従来ポリサリオ戦線寄りだったナイジェリアを「中立」的立場に戻すことが目的だ。モロッコ外交は功を奏し、アフリカ連合において、ナイジェリアはアルジェリアや南アフリカとともにポリサリオ戦線側に立つとは限らなくなった。(Africa Intelligence, 10 Mar. 2021)
    https://www.africaintelligence.fr/afrique-ouest-et-centrale_business/2021/03/10/apres-de-longs-atermoiements-l-ocp-plante-le-drapeau-de-la-monarchie-marocaine-dans-le-delta-du-niger,109648969-eve
  5. 中国とアルジェリア、モロッコ
     アルジェリアとモロッコの対立は中国にとっても頭が痛い。中国は世界のリン鉱石埋蔵量の7割を有するとされるモロッコとも、同4位のアルジェリアとも関係している。中国中信集団公司(CITIC)はアルジェリアのソナトラック社(Sonatrach)と60億ドルかけてリン生産施設を建設する協定に署名した。それによってアルジェリアのリン生産量は1,000万トンに伸びる。一方、フーベイ・フォーボン・テクノロジー社(湖北富邦科学技股分有限公司:Hubei Forbon Technology)は2021年1月にOCP(モロッコ国営リン公社)と次世代肥料を開発するジョイントベンチャーを設立した。
     また、中国はモロッコが鍵を握るヨーロッパ・アフリカ連絡ルートの発展にも戦略的役割を果たそうとしている。カサブランカと北部のタンジェを結ぶ高速鉄道(al-Boraq)と地中海最大規模のタンジェ港によって西ヨーロッパ・西アフリカの回廊ができあがり、中国はそこに大きな利益を見いだしている。タンジェ港は中国の投資で拡張事業がなされた。中国のさまざまな企業はモロッコに工場を建設し、高速鉄道とタンジェ港が作り出すヨーロッパとアフリカを結ぶバリューチェーンに接続しようとしている。CITIC Dicastal社は、フランスのグループPSA(旧プジョー・シトロエン)の自動車組み立て工場に設備を提供する工場を4億ドル使って建設した。また、中国交通建設股分有限公司(China Communications Construction Company Limited)は「ムハンマド6世タンジェ・テックシティー」という工業ハブを建設し、中国企業を含む多国籍企業をモロッコに誘致しようとしている。
     一方、アルジェリアにおいて、中国はサブ・サハラアフリカと地中海を結ぶインフラ回廊の建設を支援している。中国建設股分有限公司(China State Construction Engineering Corporation)と中国港湾工程有限責任公司(China Harbor Engineering Company)は2016年にアルジェリアのエル=ハムダニア港建設の契約をアルジェリアと結んだ。同港は650万TEU(20フィートコンテナ換算)の容量の貨物取扱能力をもち、アフリカとヨーロッパを繋ぐ回廊のハブとして機能しうる。
     米国の西サハラに対するモロッコの主権承認前、アフリカ・アラブ諸国はすでに西サハラに領事館を開くなどしていたため、アルジェリアとの連帯は浸食されていた。そしてアルジェリアとモロッコの緊張は高まった。2020年、モロッコ軍はアルジェリアとの国境からわずか38kmの地点に兵舎を建設すると発表。アルジェリアのメディアはこれを挑発と報道し、アルジェリア軍は国境に2つの基地を設置すると伝えた。また、アルジェリアは軍の国境の外への介入を許すよう憲法改正を行った。コロナ渦で経済が疲弊したアルジェリアはIMFに資金を求めるのは疲れたので、中国に資金を求めた。昨年10月11日、アルジェリア政府は中国の一帯一路への参加を深める協定に署名した。(East Asia Forum, 12 Mar. 2021)
    https://www.eastasiaforum.org/2021/03/12/chinas-chance-to-bridge-the-algeria-morocco-divide/ 

【その他の話題】

  1. モロッコが国連の通信を傍受:モロッコのウィキリークス事件
     やや古い話になるが、2015年6月17日(水)付英ガーディアン紙の記事によると、@chris_coleman24というハンドルネームのツイッターで、モロッコ政府とモロッコの在ジュネーブ国連大使(Omar Hilale:現在在ニューヨーク国連大使)の間で2012年1月から2014年9月までに交わされた通信がリークし暴露された。これはその後モロッコで「クリス・コールマン事件」または「マフゼン(=王国政府)ウィキリークス事件」と呼ばれる機密漏洩事件になる。
     漏洩した文書から、モロッコが国連の内部通信を傍受していたことが明らかになった。例えば、モロッコは人権高等弁務官事務所に影響力を行使するために多額の寄付を行い、現地への事実調査団派遣を取り止めるよう要請したり、MINURSOに人権監視の任務を課さないようロビーしたりした。リークされた国連PKO局(当時)の報告は、「こうした通信の分析が示しているのは、モロッコ自らがジュネーブ、ニューヨーク、ラユーン(エル=アイウン)の間の国連の通信を傍受したと何度か述べていることからして、国連内部の機密性が重大な侵害を受けているということだ」と書いている。2014年8月22日の通信では、ヒラレ自身が明確に「事務局が書いたものを傍受した」と書いている。
     モロッコは2011年人権高等弁務官事務所に25万ドルの寄付を行った。目的は、国連事務総長が西サハラに関する報告書(定期的)を書く際、人権高等弁務官事務所からのインプットにおいてモロッコの憂慮に「より関心を払ってもらう」ためだった。2013年1月22日の通信では、「残りの25万ドルを人権高等弁務官事務所の2011年度予算に寄付することについては、ピレー氏(人権高等弁務官)が国連事務総長報告への同事務所の貢献において、もっとわれわれの憂慮に注意を払っていただくよう忠言することになろう」などと書いている。
     1998年以来、モロッコは人権高等弁務官事務所に700万ドル以上の寄付を行っている。隣のアルジェリアは同じ期間、150万ドルしか寄付していない。人権高等弁務官事務所は寄付を多くの政府に求めていて、モロッコの寄付は2013/2014年は予算の0.4%に過ぎないとしている。
     国連PKO局の報告書は、モロッコは安保理が要請する交渉を通じて問題を解決する意欲をまったくもたいないと示唆している。
     モロッコ政府はリークした文書にはコメントもしないし、信用もしないとしている。(The Guardian, 17 June 2015)(ちなみに、@chris_coleman24はツイッター社によってアカウントを閉鎖されている。)
     2021年3月になって、後日談が報道された。それはモロッコ内務省がサイバーセキュリティシステムを全面的に入れ替えることになり、3月5日に入札募集が発表されたというものだ。かつての「マフゼンウィキリークス事件」がトラウマとなって残っているらしい。事業規模は40万ユーロと推察される。(Africa Intelligence, 12 Mar. 2021)
    https://www.theguardian.com/global-development-professionals-network/2015/jun/17/leaked-cables-morocco-united-nations-western-sahara-house-of-cards?fbclid=IwAR1saZ2nE-9wLZgk7NAbh-vZMr805SuP_IxxM9CfMvhx1pJ3-ZIPQQbP6nc
    https://www.africaintelligence.com/north-africa_business/2021/03/12/interior-ministry-seeks-new-cybersecurity-provider,109649895-ar1

以上。