西サハラ友の会通信 No. 10

 今年もよろしくお願いします。年末は停戦崩壊、トランプ前大統領によるモロッコの西サハラへの主権承認でニュースの量が爆発的に増え、追いかけるだけで大変でした。現地からは時折軍事攻撃の様子が伝わってきます。主権承認についてはさまざまな意見がメディアを賑わしており、バイデン新政権がどう出るか注目されるところです。
 3月6日(土)午後3時半より、西サハラ友の会は板垣雄三さんによる講演会をオンラインで開催します(無料)。難民キャンプからの若者によるスピーチもあります。のちほど案内を送ります。
 新型コロナ感染状況については、北アフリカで観光の盛んな国は一般的に広く感染拡大がみられ、モロッコもそれに該当します。アフリカ連合の特別サイトによると、2021年1月27日現在、陽性者数467,493人、死者数8,187人です。西サハラについてのデータはありません。(WHOもこれと同じ。ジョンズ・ホプキンス大によればモロッコの陽性者数468,383人、死者数8,207人。こちらも西サハラのデータはなし。以前はありましたが。)
 モロッコはインドで製造されたアストラゼネカ社のワクチンを200万回分入手しており、さらに1月27日(水)中国からSinopharm社製ワクチン50万回分を受け取りました。モロッコはアフリカで接種キャンペーンを行う最初の国になるとのこと。接種は今週にも始まり、まずは医療保健関係者、次いで治安関係者(軍・警察)、教員という順番でやります。(軍・警察が優先というのはモロッコですね。)以上ロイター電。
 以下、12月中旬から1月25日頃までの報道を整理したものです。


 
【停戦崩壊関連】
サハラーウィ人民解放軍によるロケット弾発射
 サハラーウィ人民解放軍(SPLA)は1月24日、西サハラ南部(モーリタニアとの国境近く)のモロッコ軍の陣地に向けて4発のロケット弾を発射した。2発はラウイナ(Laouina)地区を狙ったもので、1発はモロッコの停戦破りの地点の北側に到達した。これについてモロッコ側は、ゲルゲラート近くに攻撃があったのは事実だが、幹線道路に影響はなく、交通は妨害されていない、これはプロパガンダにすぎず、彼らはサハラに戦争があると言いたいのだ、しかし情勢は平常だと述べた。(Sahara Press Service, Aljazeera, 24 Jan. 2021)
https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2021/01/24/30581.html
https://www.aljazeera.com/amp/news/2021/1/24/western-sahara-rebels-attack-moroccos-guerguerat-border

【主権承認問題】
モロッコ与党「公正・発展党」のメンバー、抗議の離党
 モロッコのイスラエルとの関係正常化は、モロッコ国内でも波紋を呼んでいる。とくにパレスチナ支持の政権与党「公正・発展党」では内部批判も噴出しており、モロッコ南部、タルダントのフレイジャの町の10人が抗議の離党を表明した。また、イネズガーン-アイト・メッルール(Inezgane-Aït Melloul)では21名の離党者が出た。(Algérie Press Service, 21 Jan. 2021 )
https://www.aps.dz/monde/116307-normalisation-israelo-marocaine-demission-collective-dans-les-rangs-du-pjd

ムハンマド6世、ネタニヤフから招待される
 モロッコ国王ムハンマド6世はネタニヤフ首相から招待されたが、ただで行くつもりはない。国王はイスラム諸国会議のアル・クドゥス(=エルサレム)委員会議長として訪問したい。委員会はエルサレムのアラブ・ムスリムアイデンティティを擁護することが目的。そのため訪問中アル=アクサモスクで祈りを捧げたい。そしてアッバス自治政府大統領と面会したい。しかし、アッバス氏の指名によるエルサレムの大ムフティ、ムハンマド・アフマド・フセイン氏は8月に、イスラエルと関係を正常化した国の国民のアル=アクサモスクでの礼拝を禁じるファトワ(布告)を出している。また、リエゾンオフィスの場所も問題だ。モロッコはエルサレムではなくテルアビブにリエゾンオフィスを開設する意向。また、モロッコから派遣する外交ミッションの代表はヤーシーン・マンスーリー(Yassine Mansouri)率いる情報部(DGED)から出そうだ。一方、イスラエルからはかつてのエジプト大使、ダヴィド・ゴヴリン(David Govrin)に決まった。(Africa Intelligence, 14 Jan. 2021)
https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord_diplomatie/2021/01/14/invite-chez-netanyahou-mohammed-vi-pose-ses-conditions,109633749-eve

モロッコは西サハラに領事館を開設する国々を買収か?
 フランス・アフリカ人民友好連帯協会(AFASPA)のミシェル・デキャステル事務長は、モロッコが西サハラに領事館を開設するいくつかの国にお金を与えていたと語った。そこにはそうした国々の国民はいないにもかかわらず、領事館を開設することになる。16ヶ国が西サハラに領事館を開設すると言明した。その内ギニア・ビサウはその外務省の建物をモロッコに建設してもらう他、3個の職業訓練校、港の浚渫をモロッコに無償でやってもらう。ジブチは工業団地の石油用桟橋を、ガンビアは政府庁舎を、コモロ諸島は不動産開発事業を、ハイチは公共団地を領事館開設の見返りに受け取る。サオトメ・プリンシペは年間100万ドルを国家予算に寄付してもらう。その他、ビザなし渡航、奨学金、投資拡大、専門家・学生の訓練といった援助の手法が使われている。(Algargarat, 7 Jan. 2020)
https://algargarat.com/es/marruecos-pago-contra-la-apertura-de-consulados-en-el-sahara-occidental/?utm_campaign=shareaholic&utm_medium=wordpress_blog&utm_source=blog

スペイン、モロッコから主権承認圧力
 エル・コンフィデンシャル紙によると、1月15日、モロッコのナセル・ブリタ外相はスペインに対して米国(トランプ前大統領)にならってモロッコの西サハラに対する主権を承認するよう求めた。2020年だけでもカナリア諸島への不法移民が23,000人いたが、その大半はモロッコ人だった。スペインの外交官の間では、モロッコがスペインに圧力をかけるために移民に対して門戸を(意図的に)開いたのではないかという観測がなされている。(Currier International, 21 Jan. 2021)
https://www.courrierinternational.com/article/diplomatie-le-maroc-met-la-pression-sur-lespagne-propos-du-sahara-occidental

ブルンジ、西サハラの領事館を閉鎖
 ブルンジはエル=アイウンに領事館を開設したが、閉鎖すると発表した。理由は「戦略的及び互恵原則にもとづく」ということだが、ラバトに大使館を置いているがブルンジにモロッコ大使館はないので、それを開設して欲しい、ということのようだ。(Yabiladi, 24 Jan. 2021)
https://www.yabiladi.com/articles/details/104840/sahara-burundi-annonce-fermeture-consulat.html

米国務次官補、北アフリカ諸国を訪問
 シェンカー近東担当国務次官補が1月に入ってヨルダン、アルジェリア、モロッコを訪問した。1月7日、アルジェリアでは西サハラ問題にややあいまいな回答をしたと報道されている。「すべての政権は外交政策を決定する権限を有している。私が言えるのは、米国は政治的交渉のみが問題を解決することができるということ、そして交渉はモロッコの自治案の枠内で行われるべきだと考えている、ということだ」と述べた。バイデン政権がどうするかについては答えなかった。一方で、国連の努力を支援するとも述べた。同国務次官補はモロッコも訪問。西サハラに行き、領事館開設の下見をした。(24H, 7 Jan. 20121)
https://www.24hdz.com/david-schenker-alger-sahara-occidental/

エルサレム・ポスト、ロシアとトルコに皮肉
 12月13日付けエルサレム・ポスト紙(英字)は、ロシアもトルコも米国のモロッコの西サハラ主権承認を非難しているが、ロシアはクリミアを2014年に併合し、トルコはシリアのアフリン(Afrin)を占領しているではないか、と皮肉を述べた。ロシア、トルコ、イランはいずれにせよ米国に対抗しており、トルコとイランはイスラエルとの和平にも反対だ。ロシアはイスラエル政府と良好な関係にある。(Jerusalem Post, 13 Dec. 2020)
https://www.jpost.com/international/russia-which-annexed-crimea-concerned-over-us-western-sahara-stance-651947

元国務長官ら、トランプを批判
 国連事務総長指名の西サハラ特使を務めたジェームズ・ベーカー元国務長官は、イスラエルとの関係正常化を歓迎するとしつつも、西サハラをそれとの取引に用いたトランプ大統領の決断を遺憾とする声明を発表した。米国が長くその基礎としてきた自決権尊重の原則からの逸脱だと述べている。また、同じく西サハラ特使を務めたクリストファー・ロス氏も、Facebookで「愚かで思慮に欠けた決定」と非難した。そして、西サハラが独立しても失敗国家になるだけだとの認識は間違っていると述べた。
https://www.bakerinstitute.org/news/statement-of-james-a-baker-iii-regarding-morocco-and-western-sahara/

米・イスラエル合同チーム、モロッコに向かう
 トランプ大統領のモロッコ・イスラエル関係正常化発表から10日後、米国とイスラエルの高官が合同でモロッコに行くことになった。イスラエルからモロッコへの初めての直行便となる。チームにはジャレド・クシュナー氏他、ホワイトハウスの使節アビ・ベルコウィッツ氏、アダム・ボウラー米国際開発金融公社(USDFC)が含まれている。(Axios, 15 Dec. 2020)
https://www.axios.com/us-israel-morocco-delegation-b0cc9c49-4ebf-4920-b0ed-8b52a06e97d4.html

インドネシア、イスラエルとの関係正常化を否定
 モロッコに続き次はインドネシアかオマーンではないかとの噂がイスラエルのマスコミに広がっている事態を受けて、インドネシアのレトノ・マルスディ外相はイスラエルとの外交関係を樹立するつもりはないと述べ、噂を否定した。(Jakarta Post, 15 Dec. 2020)
https://www.thejakartapost.com/news/2020/12/15/indonesia-dismisses-possibility-of-establishing-ties-with-israel.html

[分析]欧州外交評議会、Andrew Lebovich氏
 シンクタンク・欧州外交評議会(European Council of Foreign Relations)の客員研究員であるアンドリュー・レボビッチ(Andrew Lebovich)氏は以下のように分析する。モロッコ政府の立場はクシュナー氏が言うより用心深い。外相は現状をすでに「正常化している」と表現し、これ以上の正常化は必要ないという。イスラム政党(正義開発党)出身の首相は西サハラへの主権承認には触れるが、イスラエルとの関係正常化については触れない。国王の正統性の一つはムスリムのエルサレムへのアクセス確保にある。先月のアラブ・バロメーター(統計ネットワーク)の世論調査によると、モロッコでイスラエルとの関係正常化を支持すると答えた人は9%に過ぎない。また、アルジェリアのポリサリオ支持は変わらないだろう。モロッコとアルジェリアが戦争に入る気配はないが、アルジェリアはポリサリオ戦線の攻撃を制止しようとはしていない。今回のトランプ大統領の決定で、米国は仲介者としての信用をなくした。さらに、テロ組織の問題もあり、暴力が続けば若者たちがそれらに引き寄せられ、リビア的状況にならないとも限らない。バイデン新大統領がトランプの決定を覆したとしても、モロッコはイスラエルとの協定を破棄しないだろう。モロッコにとって経済的、軍事的、政治的利益をもたらすからだ。米国とEUはモロッコを重要なパートナーとしてきたが、一方で、アルジェリアはアフリカにおいて一大勢力であり、トランプの決定はアルジェリアとの関係を悪くする。またアフリカ連合には西サハラ支持の大国もあり、米国とEUのそれらの国との関係は難しくなる。米国とEUはモロッコとポリサリオ戦線の交渉再開に向けて努力する他なく、サハラーウィの権利尊重、西サハラの緊張緩和、国際協力、地域統合の観点から、政治過程を再活性化させなければならない。(European Council of Foreign Relations, 17 Dec. 2020)
https://ecfr.eu/article/why-the-western-sahara-dispute-could-escalate-conflicts-across-north-africa-and-the-sahel/

米国務省・モロッコ政府共催:自治案支持の閣僚レベル会議
 1月15日、米国務省とモロッコ政府は共同で、モロッコ政府の(西サハラ)自治案イニシアティブを支持する閣僚レベル会議をオンラインで開催した。参加国は40ヶ国で、27ヶ国が閣僚レベルで参加した。会議参加国は、モロッコが提案する自治案を、正義ある恒久的解決の唯一の基礎として強く支持することを表明した。とはいえ会議は、国連による政治プロセスが唯一の解決への道であることを確認した。参加した国は、米国・モロッコの他に、フランス、エジプト、サウジアラビア、ヨルダン、アラブ首長国連邦、バーレーン、オマーン、カタール、クウェート、イエメン、ハイチ、グアテマラ、エルサルバドル、ドミニカ共和国、ザンビア、ガボン、コートジボワール、セネガル、ブルキナファソ、ギニア・ビサウ、リベリア、コンゴ民主共和国、パプア・ニューギニア等。
https://www.state.gov/the-ministerial-conference-in-support-of-the-autonomy-initiative-under-moroccan-sovereignty/
http://www.mapexpress.ma/actualite/societe-et-regions/participation-40-pays-conference-ministerielle-soutien-linitiative-dautonomie-souverainete-du-maroc-encadre/

トランプ大統領、ムハンマド6世に勲章
 1月15日、トランプ大統領はモロッコ国王ムハンマド6世にレジオン・オブ・メリット(Legion of Merit)勲章を授与した。勲章は米国のモロッコ大使によって現地で国王に届けられた。レジオン・オブ・メリット勲章は軍人の他、外国の指導者に対しても与えられ、2020年12月22日には、安倍首相、インドのモジ首相、オーストラリアのモリソン首相が受けている。安倍首相の場合は自由で開かれたインド太平洋の推進が理由。
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/statement-press-secretary-awarding-legion-merit-degree-chief-commander-majesty-mohammed-vi-king-morocco/
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020122200464&g=int

ムハンマド6世、トランプ大統領に勲章
 トランプ大統領はモロッコの最高の勲章、Ouissam Al Muhammadi (Order of Muhammad)を1月15日に授与された。イスラエルとの関係正常化に対する貢献を讃えてのことだ。ジャレド・クシュナー氏とアヴィ・バーコウィッツ氏も12月22日に別な勲章を授与されている。(Yabiladi, 15 Jan. 2021)
https://www.yabiladi.com/articles/details/104463/mohammed-decore-donald-trump-ouissam.html

米国際開発金融公社、モロッコへの投資を拡大
 米国際開発金融公社(DFC)のアダム・ベーラー最高経営責任者は12月22日、モロッコ及び地域に米国は今後50億ドルの投資を行うと発表した。50億ドルの内訳は、「繁栄のアフリカ(Prosper Africa)」イニシアティブによる北アフリカと米国の10億ドル相当の相互貿易・投資促進、DFCが今後4年に渡り行う合計30億ドルの投資、2x MENAイニシャティブによる中東北アフリカの女性の経済的エンパワーメントへの10億ドルの投資、である。そのためにモロッコに「繁栄のアフリカ」事務所を開設し、米国際開発局(USAID)は「繁栄のアフリカ」イニシアティブにおける北アフリカ地域の拠点にモロッコを指定することが発表された。USAIDは5年間で5億ドルの事業を構想している。
 この発表はイスラエル・モロッコ間の最初の直行便に乗った米国政府代表団の一員んとしてベーラー氏がモロッコに入ったために行われたもの。(DFC Press Release, 22 Dec. 2020)
https://www.dfc.gov/media/press-releases/dfc-announces-initiatives-expand-us-investment-and-development-morocco

NATOの地図問題
 NATO(北大西洋条約機構)がその防衛教育促進プログラム(DEEP)のウェブサイト上に掲載した地図で、西サハラがモロッコ領に含まれてしまっていることがわかったが、その後批判を受けて修正されるという事件があった。もともとは西サハラは非自治地域としてモロッコに含まれていなかったが、12月10日の米国のモロッコ主権承認発表後、西サハラがモロッコに含まれる地図に変えられた。Morning Starという左派系メディアが報じた。しかし、1月21日の時点でサイトをチェックすると、西サハラはすでにモロッコ領から外されていた。DEEPはNATOがアフリカ、中央アジアなどの発展途上国の軍教育を支援するもので、民主的制度を向上させることも謳っている。モロッコも対象国となっている。(Morning Star, おそらく15 Dec. 2020)
https://morningstaronline.co.uk/article/w/nato-map-change-inflames-tensions-over-occupied-western-sahara
https://www.nato.int/cps/en/natohq/topics_139182.htm

【占領地西サハラ情勢】
移民ブローカーの話
 スペイン領カナリア諸島にモロッコからの移民が押し寄せていて問題になっているが、スペインのメディア(Lavanguardia)が移民ブローカーのインタビューに成功した。それによると、公式の統計ではないが、2020年には21,000人の移民がカナリア諸島に到着し、その内7割はモロッコ国籍だそうだ。ブローカーによると、2020年1月から到来した641隻以上の船のうち300隻がダーフラの海岸を出発点としたものだった。以前は週に1、2隻の船だったのが今では、一晩に10個から15個の小舟(ボート)が到着することもあるそうだ。「クレージーだ」と彼は言う。需要は多い。彼自身、2月の間に6隻の船を手配し、6万から7万ユーロを稼いだ。1隻の船に25人から30人が乗り、1人が2,000ユーロ払う。手数料は昨夏より500ユーロ高く、昨年の倍に跳ね上がった。船長には5,000ユーロを払う。だいたいモロッコ・スペインの二重国籍保持者だ。引き受け側の仲介者に密航者1人に付き200ユーロ払い、海上警備で見逃してくれる警察の上司に1隻1万ユーロ払う。船はダーフラから10キロから110キロ離れた地点から夜に出航する。警察も密航ブローカーも一緒になって移民で金儲けをしている。2、3ヶ月毎に警察はブローカーを逮捕する。仕事をしていると見せるために。しかし、ブローカーは怖がらない。ちゃんとコンタクトをもっているからだ。(Lavanguardia, 13 Dec. 2020)
https://www.lavanguardia.com/vida/20201213/6116643/ue-pateras-inmigracion-traficantes.html

ヒューマンライツウォッチ:ゲルゲラート危機後の人権弾圧
 米国の人権団体ヒューマンライツウォッチは12月18日、ゲルゲラート危機後の占領地西サハラで数々の人権侵害が起きていると報告した。11月13日、エル=アイウンではポリサリオ戦線支持の平和的デモが行われたが、モロッコ軍兵士と装甲車が町中にバリケードを張り、通行者を警棒で殴っていると、モロッコ人権協会のエル=アイウン支部は報告している。また、11月13日から2、3日の間に、ポリサリオ戦線支持者と思われる人びとの家7軒を頭巾をかぶった警察が手入れしているとも報告している。同様のことはスマラ、ダーフラ、ブージュドゥールでも起きている。一方、政府は12月12日、米国によるモロッコの西サハラ主権を祝賀する大規模なデモを許可した。
 11月16日、エル=アイウンに住む12歳の少女ハヤート・ディーヤ(Hayat Diyya)を学校から警察署に連行した。彼女が軍服を着ていて、制服の上に西サハラの秦を縫い付けていたと通報されたためだ。「警察は5時間、彼女を拘束し、叩き、髪の毛を引っ張り、身体のあちことを殴打した」とハヤトの母親、ラハビーバ・ディーヤはヒューマンライツウォッチに語った。また、「彼女は跪かされ、国王の写真の前でモロッコの国歌を歌わされた。以来、悪い夢を見るようになった」とも。
 ブージュドゥールでは活動家のスルターナ・ハイヤ(Sultana Khayya)は、家を空けていたときに警察がやってきて84歳の母親の頭を殴り、母親は意識を失い、救急車で病院に運ばれた。警察は次の日の夜やってきて家を包囲し、ドアを棒で叩き、47歳の姉妹のワアラ(Waara)の頭を金属製の警棒で血が出るほど殴った。その日から12月3日まで、警察は彼女の家の外にいて、一家を外出させず、また訪問者も入れなかった。
 11月15日午前5時、20人の私服警官がエル=アイウンのアフメド・エル・カルカル(Ahmed El Karkar)の家に押し入った。そして19歳で精神障害を患う彼をベッドから連れだし、11月13日の町中での抗議行動の際、道路を封鎖し、警察を侮辱したとの容疑で起訴した。彼の母親によればその時彼は家にいたそうである。しかし、裁判所は12月12日に10ヶ月の判決を下した。彼は今エル=アイウンのラクハル(Lakhal)刑務所にいる。
 11月21日、エキプ・メディアの活動家であるヌズハ・ハーリディ(Nezha Khalidi)とアフメド・エッタンジー(Ahmed Ettanji)の結婚式が行われる予定だった日、警察が彼らの家を封鎖し、電気を止め、外出を妨害した。それで結婚式はキャンセルされ、その後も警察の監視は続いた。(Human Rights Watch, 18 Dec. 2020)
https://www.hrw.org/news/2020/12/18/western-sahara-morocco-cracks-down-activists

オイルサーディン缶「タイタス」はダーフラに工場
 モロッコのオイルサーディン缶ブランド「タイタス(Titus)」を生産しているウニメール(Unimer)社は、西サハラのダーフラに工場をもっている。生産品の85%は輸出され、ナイジェリアの他、欧州・アメリカにも輸出されている。(Jeune Afrique, 23 Dec. 2020)
https://www.jeuneafrique.com/mag/1084184/economie/unimer-roi-de-la-sardine-au-sud-du-sahara/

【モロッコ情勢】
モンジブ教授、再逮捕
 歴史学者で人権活動家のマアティ・モンジブ(Maati Monjib)教授が12月29日(火)に逮捕された。11月23日、ヒューマンライツウォッチを含む15の人権団体がモンジブ教授に対する政府・裁判所によるハラスメントをやめるよう訴えたが、政府は聞く耳をもたなかった。容疑は昨年10月に捜査が始まった「資金洗浄」で、収入に見合わない額の送金記録や不動産があるとして疑いをかけられていた。しかし、彼の場合、すでに2015年から記者や人権活動家6人と一緒に「国家の安全を脅かした」容疑で裁判が行われ、20回も延期されていることから、今回もまた嫌がらせだろうと言う。モンジブ教授が家族も含めて嫌がらせを受けるようになったのは、モロッコの公安組織の一つである領土捜査局(DGST: Direction générale de la surveillance du territoire)が政府に反対する者の弾圧、そして政治とメディアの管理に使われているということを指摘した後だ。昨年9月、オマル・ハディ事件についてモンジブ教授にリモート・インタビューした際、パスワード付きのリンクでインタビューを行っていたにも関わらず、そこに侵入者が入っくるという出来事があった。
 昨年9月のインタビューでは、モンジブ教授は次のように言っていた。2011年(アラブの春)以後、当局は反体制活動家を国家の安全を理由に迫害するのではなく、不道徳、汚職等のレッテルを貼って名誉を毀損する作戦に出ている。そのためにソーシャルメディアを使い、高額でスタッフを雇い、名誉を貶める情報を流しているのだ。名誉毀損はいわば毒。物理的な抑圧より有効だ。モロッコでは名誉はガラスと同じ、壊れたら元に戻らないと言われている。以前、チョムスキー氏が支援してくれた時、自分は「ユダヤ人の友人だ、だからシオニストだ」とSNSで非難され、次は「幼児性愛者(ペドファイル)」だと言われている。それがムハンマド6世のやり方なのだ。(l’Humanité, 31 Dec. 2020)
https://www.humanite.fr/maati-monjib-cest-la-police-politique-qui-gouverne-au-maroc-latmosphere-est-irrespirable-698189

モロッコ政府、海外の批判者たちを訴追か?
 モロッコ政府が海外にいるモロッコ人が「モロッコ政府役人を侮辱またはその名誉を毀損したりした場合」訴追するかも知れない。ラバト地方裁判所(第一審裁判機関)の検察部は、国家公安警察(DGSN)、スパイ活動を行う領域監視局(DGST)、スパイ防止を任務とする研究資料局(DGED)から具体的な人物名をあげた訴えを受け取った。欧州、北米にいる者らしい。(El Pais/EFE, 30 Dec. 2020)
https://elpais.com/internacional/2020-12-30/marruecos-perseguira-en-el-extranjero-a-disidentes-por-difamar-a-funcionarios.html

ジャーナリスト、オマル・ラーディ氏がツイートで訴追
 昨年の2月の報道だが、ここで紹介したい。モロッコのジャーナリスト、オマル・ラーディ氏(Omar Radi)は裁判官を批判したツイートで訴追され、2020年3月5日に公判が行われることになった。ツイートはリフ地方のデモ指導者に長期刑を言い渡したというカサブランカの判事をさして、「われらが同胞に対する法執行者、控訴裁判所のランセン・トルフィ(Lancen Tolfi)判事を忘れないようにしよう。多くの体制で、彼のような小物の手下がカムバックし(ポストを)乞う、そして後で命令を実行しただけだなどと主張するのだ!そうした役人は忘れてはいけないし、許してもいけない!」という内容。ラディ氏はデモクラシー・ナウにインタビューされ、当局が本当に罰したいことは、かれがアルジェリアに行ってジャーナリズム賞を受賞した際、モロッコの政治経済について話をしたということだと語った。他にもジャーナリストやFacebookユーザーなど逮捕されている。彼は12月に一度逮捕されたが、国際的な連帯キャンペーンで仮釈放された。他にも政治囚は大勢おり、彼らはキャンペーンがないためにそのままだ。(Democracy Now, 26 Feb. 2020)
 その後、2020年6月にはレイプとスパイ容疑で再逮捕。9月にはまた裁判が始まった。
https://www.democracynow.org/2020/2/26/meet_omar_radi_the_moroccan_journalist
https://www.democracynow.org/2020/8/3/omar_radi_arrest_morocco_pegasus_surveillance

ムハンマド6世の健康不安説
 モロッコ国王の健康不安はたびたびメディアの報じるところだが、近年あまり芳しくない。ララ・サルマ妃(Princess Lalla Salma)との離婚に関係しているのであろうか。2018年に政府が出したリリースでは、2年間で2度も手術を行ったことが明らかにされ、「健康な心臓だが心房粗動が見られ」、それが心拍動障害(不整脈)を起こしていたということだ。国王は今でも不整脈や慢性閉塞性肺疾患(COPD: Chronic Obstructive Pulmonary Disease)があり、肺気腫や慢性気管支炎を起こしかねない。(Le Nouvel Afrik.com, 24 Dec. 2020)
https://www.afrik.com/maroc-la-maladie-de-mohammed-vi-a-t-elle-un-lien-avec-lalla-salma

【国際情勢】
グテーレス事務総長もモロッコ側に肩入れか?
 国連など国際機関を専門に取材するジャーナリスト、マシュー・ラッセル・リー(Matthew Russel Lee)氏は、国連の中には親モロッコ派の記者たちの活動を支援しているサークルがあり、グテーレス事務総長も彼らとつるんで西サハラに法律が適用されないようにしているとの疑いがあると言う。国連でInner City Press(メディア)の記者をしているリー氏は、西サハラに力を入れて取材していた。ある安保理の会合中スマートフォンで撮影してたことで、それは許されていることだが、モロッコが苦情を申し立て、国連の記者認証部が彼(Inner City Press)を入構禁止にしてしまった。グテーレス事務総長下の国連は腐敗しており、報道の自由に逆行している。コフィー・アナン氏やバン・キムン氏のときはまだ西サハラについて質問できた。グテーレス氏になってからそれはブロックされた。そしてモロッコの国営メディアに国連へのフルアクセスを与え、親モロッコ的質問をさせている。西サハラ担当特使をこれほど長い間空席にしておくのもグテーレス氏になってからだ。彼は無能だし、堕落している。彼はモロッコのロビーを受けてInner City Pressを安保理から締め出したのだ。二期目は再選されるべきではない。(Diplomático, around 14 Jan. 2021)
https://elportaldiplomatico.com/en/matthew-lee-antonio-guterres-and-his-team-collaborate-with-the-moroccan-lobby-at-the-united-nations-to-censor-the-issue-of-western-sahara/

欧州議会西サハラグループの長、辞任する
 欧州議会内の西サハラグループ「サハラーウィ人民のための平和」の代表を務めていたドイツの議員、ヨアキム・シュスター氏(Joachim Schuster)が12月15日代表を辞任すると発表した。ポリサリオ戦線が停戦を破棄し、対決路線を選択したことが理由。グループは2020年2月に結成されたばかり。(Jeune Afrique, 15 Dec. 2020)
https://www.jeuneafrique.com/1091660/politique/maroc-le-polisario-perd-lun-de-ses-soutiens-europeens/

ロシア、西サハラの漁業に関心
 モロッコの報道によると、ミハイル・タラソフロシア水産庁長官がエル=アイウンとブージュドゥールを訪問し、漁業関係の活動を視察し、農水省の代表団と面会した。11月27日、ロシアとモロッコは漁業協定を締結しており、それには西サハラ沖も含まれる。ただ、表向きロシアはトランプ大統領のモロッコの西サハラ主権承認を批判している。(Yabiladi, 20 Dec. 2020)
https://www.yabiladi.com/articles/details/103307/sahara-apres-laayoune-directeur-l-agence.html

中国のモロッコに対する利害
 アラブ湾岸諸国研究所のアナ・ジェイコブス研究員がモロッコに対する各国の利害を包括的に解説した記事に、中国が触れられていて、珍しいのでそこだけ紹介したい。それによると、モロッコはカサブランカからタンジェまでの高速鉄道建設に着手している。さらにマラケシュ、アガディール、さらにはラユーン(エル=アイウン)、ダーフラにまで線路を延ばすつもりだ。マラケシュ・アガディール間の鉄道事業獲得にフランスと中国が競争している。また、タンジェのテク・シティープロジェクトは中国の海特集団(Haite Group)から10億ドルの融資を受け、200社以上の中国企業を受け入れる。また、中国、欧州、日本はモロッコの成長株の自動車産業に肩入れしようとしている。モロッコとスペインの海底トンネル構想もある。(Ana Jacobs, Foreign Policy, 18 Dec. 2020)
https://foreignpolicy.com/2020/12/18/how-the-western-sahara-became-the-key-to-north-africa/

ダウ・ジョーンズ:西サハラへの投資にリスクあり
 1月15日、米国のダウ・ジョーンズ・インデックスは「西サハラの再開した紛争:リスクとインプリケーション」と題する文書で、「西サハラはモロッコとは異なる地位をもつところであり、モロッコは西サハラの資源に関する貿易協定を結ぶ資格を持たないとする欧州司法裁判所の2つの裁定による法的、経済的影響が増大した」と書いた。とくに2020年11月13日に欧州議会の19人の議員がシーメンスやエネル(Enel)に対して不法な占領者とビジネスをすることの法的、道徳的リスクについて警告を発し、ノルウェーのNGO、53団体がこの問題について政府に安保理に働きかけるよう要請したことを挙げている。(Algeria Press Service, 15 Jan. 2021)
https://www.aps.dz/en/world/37558-dow-jones-warns-global-companies-about-western-sahara-investment-risks

モロッコの国境監視にEUの資金
 EUは、国際移民政策開発センター(CIDPM)を通じて200万ユーロの契約をフランス・レバノン系のインターテック社と交わした。インターテック社は安全保障技術の統合を専門に行う会社で、モロッコの国境をビデオ監視するシステムを提供する。Alexandre Taleb率いる同社は、2013年にレバノンに電話盗聴技術を提供。2014年にはフランスの国立印刷局と共同でレバノンの新しい旅券を生産した。レバノンでは富士通とオカム・ソリュションズ(フランス警察・公安に電話データ分析ソフトを提供している)の販売も手がけている。
 CIDPMはウィーンにあって欧州15ヶ国政府が資金を出している機関である。マグレブ国境管理プログラム(BMP-Maghreb)としてEUから5,500万ユーロを受け、モロッコの国境管理体制強化事業を行っている。昨年はモロッコに15機のドローンを提供した。このプログラムはジブラルタル海峡やセウタ、メリジャといったスペインの飛び地を使って欧州に不法に渡る移民を管理するものである。そのため、モロッコの公安部門各機関と連携している。その機関の中にはモンジブ教授が問題を指摘したDGSTが含まれている。(Africa Intelligence, 22 Dec. 2020)
https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord_politique/2020/12/22/alexandre-taleb-d-intertech-rafle-un-contrat-de-surveillance-des-frontieres-marocaines,109629049-ar1

以上。