サハラーウィ政治囚へのメッセージ

これは11月7日に開催したオンラインセミナー「西サハラ『グデイム・イジーク抗議キャンプ』を忘れない〜砂漠の民のレジスタンスと弾圧」の最後に、サハラーウィ政治囚に向けて発せられた日本からのメッセージです。メッセージは政治囚の理解できる言語に翻訳して届けられます。

政治囚として自由を奪われているサハラーウィの皆さんへ
(グデイム・イジーク・グループの英雄たちへ

長沢美抄子

私たちは知りませんでした。
西サハラの人々がスペインの統治下から解放されようとしていたとき、住民投票によって自分たちの運命を自分たちで決め、それを国連が約束してくれたというのに、「緑の行進」の名の下に大勢のモロッコ人が国王の大号令で押し寄せてきたのでした。そのニュースを聞いた私たちは、この事件がモロッコによる西サハラの占領、植民地化の始まりだったということを知りませんでした。
それは、アジアの東端ではベトナム戦争が終わり、米軍がベトナムを去り、ベトナム解放の明るい日差しに喜びを感じていたときのことです。そのとき、西サハラ人民の受難が始まっていたということには全然気づかないでいたのです。

私たちだけではなく、世界の大半の人たちが西サハラの人たちの受難を今日まで知らないまま過ごしてきました。観光でモロッコを訪れる人たちが増える一方で、西サハラの人たちが占領によって虐げられ、痛めつけられ、存在さえ消されそうになっていたことに気づきませんでした。
占領下に生きるサハラーウィ、難民として生きることを選んだサハラーウィ、いずれもモロッコに従属した二級市民になることを拒む誇りあるサハラーウィとして生きようとしてきた人たち。しかし、西サハラの人々の声は私たち日本人のところには届いていませんでした。住民投票による民族自決の権利を獲得するため、外交の力でたたかってきた西サハラの人たち。約束をどれだけ踏みにじられても、武力に訴えずにたたかい、我慢に我慢を重ねていることを、私たちはつい最近まで知りませんでした。

私たちは知りませんでした。
西サハラの漁場である豊かな海でタコ、イカ、イワシ、サバ、マグロ等が水揚げされるそうですが、それはすべてモロッコの操業なのだそうですね。モロッコ産の表示がついたタコをスーパーでよく買ったものですが、本当はモロッコが略奪した西サハラ水産資源だった可能性が大きいということを私たちはずっと知らずにいました。魚好きの私たち日本人は、こうした収奪の恩恵に浴してきたわけですから、それを知らないでいることは占領という犯罪の加担を意味します。

私たちは知りませんでした。
西サハラに北から南へと走る全長2700キロに及ぶ万里の長城のような「砂の壁」と呼ばれる分離壁が建設されていたということを。この、イスラエルの軍人の助言で建設されたという「砂の壁」あるいは「恥の壁」と言われる分断の壁は、パレスチナ西岸で建設されたアパルトヘイトの壁、「分離壁」に先立つものだということを。

私たちは知りませんでした。
10年前の2010年10月に、エル=アイウンの町から15キロメートル離れたグデイム・イジークという地点に7千基ものテントが張られ、サハラーウィの集まる2万人もの巨大なテント村となったこと、それが不法なモロッコ占領に抗議する非暴力の「尊厳のキャンプ」であったこと、そしてまたそれが徹底的に破壊されたということを。このキャンプ建設という抵抗運動が、その後まもなくチュニジアで12月に発生し広がっていくアラブ民衆革命の先駆けであったことを。

私たちは忘れません。
グデイム・イジーク・グループの皆さんが監獄に繋がれて、すでに10年が経つことを。国際法に違反する偽の裁判で投獄期間が決められ釈放されないことを。劣悪な監獄の環境であること、家族との面会も許されないこと、差し入れの食糧も横領されてしまうということを。
この10年の間に、世界は大きく変わりました。多くの難民が生まれ、無慈悲な暴力が振るわれ、分断の壁が人々の自由を奪うなど、理不尽で不公正で無残な光景が世界各地に広がっています。
しかし、西サハラが独立国家として正々堂々と名実ともに独立国家として建国される日を夢見ている皆さんとともに、私たちはその日を夢見て支援の輪を広げていきたいと願っています。今日、それを心に誓います。

私たちは誓います。
皆さんの勇気を忘れず、伝えていくことを。正しき世とはどういうものかを。そのために大事にすべきことは何かを。
戦いの最前線に立っている皆さんを占領国家は恐れているのです。皆さんを外へ解き放ったら、自国を非難する声が世界中で高まるだろうと不安なのです。真実を知られることが怖いのです。
私たちは、皆さんに連帯し、真実を伝え、皆さんの釈放を願う人々の輪を広げていくことを強く心に誓います。

私たちのメッセージの最後に、
パレスチナの詩人ファドワ・トゥカーンの短い詩を捧げます。

タイトルは「永久(とわ)に生きて」

愛しい祖国よ
苦しみと痛みの石臼が
暴政の荒野でどれほど長く
あなたを撹拌しようとも
彼らがあなたの眼をくり抜き、
あなたの希望と夢を抹殺したり
起ち上がるあなたの意志を磔(はり)つけにし、
われらが子供たちの微笑みを鋼鉄で覆い、
壊して焼いてしまうことなど
決して出来はしない

なぜなら、我らの深い悲しみから
われらの流された血の生々しさから
生と死の戦慄から
生命はあなたのなかで再び生まれるのだから

(英文からの和訳:関場理一)
終わり