西サハラ友の会通信5号

 しんどい日々が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。西サハラ友の会通信5号をお届けします。
 西サハラを占領しているモロッコでは、WHOによると、5月20日時点で、新型コロナ感染確認者6,972人、死者193人となっています。このところ感染確認者数も死者数も減少傾向にあるようです。以下で確認できます。
https://covid19.who.int/region/emro/country/ma
 また、西サハラを別地域として区別しているジョンズ・ホプキンス大学によると、西サハラでは感染確認者数6名、死者ゼロとなっています。
https://coronavirus.jhu.edu/map.html
 アフリカ連合のCOVID-19のホームページでは、西サハラは感染者も死者もゼロとなっていますが、なぜか理由はわかりません。

【活動】

  1. 7月11日(土)午後3時ー5時、西サハラに関するオンライン・セミナー(ウェビナー)の計画
     ZOOM等を使って行うオンライン・セミナーが世界各地で盛んに行われています。ウェビナー(Webinar)という呼称もできました。西サハラ友の会でも、設立1周年を迎えるので、西サハラに関するウェビナーを開催する準備を進めています。予定では、7月11日(土)の午後3時から2時間。延期になった自転車ツアーの企画者のメッセージや西サハラの伝統音楽の演奏をリアルタイムで繋ぐ計画です。また、注目されるサハラーウィの若者たちの最近の動向を伝えたいと思っています。もちろん、西サハラ問題とは何か、ということについての基本的な話もプログラムに入っています。案内ができ次第お送りします。
  2. 西サハラに関するグローバル・ウェビナー
     自転車ツアーの企画者、ベンジャミンさん(スウェーデン)がコーディネートする、グローバルな西サハラ・ウェビナーが開催されています。毎週ということではないですが、日本時間では、日曜日午前0時頃スタートとなります。たいへんな時間帯であり、また英語になりますが、世界各地の西サハラ・エキスパートがまとまった話を時間をかけてやります。ご関心のある方は案内を回しますので、ご連絡下さい。これまで、ポリサリオ戦線の国連代表Sidi Omar氏、フランスのKEDGEビジネススクールのYahia H. Zoubir氏(国際政治)、オランダ在住のポルトガル人活動家(国際法を専攻)Pedro Pinto Leite氏、マドリッド・コンプルテンセ大学のIsaia Barreñada Bajo教授(国際関係論)が話をしています。
  3. 新型コロナに関連して西サハラへの配慮を国連安保理国等に求める請願に署名
     スペインのサハラーウィのグループ、Por un Sahara Libreが出した3月27日付請願書に、日本の西サハラ友の会として賛同しました。世界中から405の団体・個人の賛同が集まりました。宛先は国連難民高等弁務官事務所、国連人権高等弁務官事務所、安保理メンバー国で、内容は占領地、政治囚、難民キャンプのいずれのサハラーウィも新型コロナウィルスに対して非情に弱い状況にあることを訴えるものです。国連憲章第11章(非自治地域に関する宣言)の第73条の一部分(国連は非自治地域に責任を有する旨)が引用されています。
    https://porunsaharalibre.org/en/2020/03/27/mas-de-400-firmas-de-todo-el-mundo-carta-a-los-miembros-de-la-onu-para-avisar-sobre-las-consecuencias-de-covid-19-sobre-toda-la-poblacion-de-saharaui/

【映像】

  1. 西サハラ出身の陸上選手、サーレフ・アメイダンの「サハラーウィ・マラソン」
     27分、英語字幕付き。1982年生まれ、西サハラのエル=アイウン出身の長距離ランナー、サーレフ・アメイダン(Salah Ameidan、またはAmaidan)は「モロッコ人」選手として、数々の大会で優勝を果たした。そして2002年、フランスの競技大会で、ゴール前200メートルから突然西サハラの旗を掲げ、ゴールした。長い間心に秘め続けた思いを爆発させた瞬間だった。その後フランスに亡命。当然、西サハラには戻れず、家族は迫害を受け、彼は父の葬式にも出れなかった。競技で西サハラの旗を掲げるに至った思い、その後、バスク地方に住みトレーナーとして生計を立てながら、チンドゥーフの難民キャンプで西サハラ・マラソンを企画し、走り続ける姿が、全編サーレフ自身の語り(スペイン語)で綴られる。バックに流れるのはスペインに亡命しているサハラーウィの歌手、アジーズ・ブラーヒームの歌。難民キャンプにスポーツセンターを建設する資金を募るために制作された。この感動の作品を、ぜひご覧下さい!
    https://www.youtube.com/watch?v=jGaWewET37I&feature=share&fbclid=IwAR2IYGQeEYlxCc6-VaoMZ_a2rCCIrdjpTLyxqutkG_cOIpmoTJk71xCkrQQ

【研究】

  1. ポルトガルのオポルト大学アフリカ研究センターの雑誌「西サハラ」特集号
     Africana Studia, No. 29 (2018) が西サハラ特集を組んだ。すべての論文はオンラインで入手できる。
    https://ojs.letras.up.pt/index.php/1_Africana_2/issue/view/520
  2. International Multidisciplinary Colloquium, “Western Sahara – News on an old issue”, at Picardie Jules Verne University, Amiens (France), May 27-28, 2019.
     フランスのアミアンで行われたシンポジウムのそれぞれの発表がビデオで公開されている。ただし、ほとんどがフランス語。サハラーウィの市民社会行動のコーディネーターで西サハラ資源ウォッチのメンバーでもあるEl Mahjoub Hussein Emhammad Mleihaのヨーロッパの機構と市民社会に関するスピーチは英語。
    http://ouiso.recherche.parisdescartes.fr/2020/04/28/free-access-to-the-videos-of-the-amiens-2019-conference/

【現地情勢】

  1. モロッコ軍がサハラーウィのラクダを惨殺!
     スペインのサハラーウィ団体であるPoemario por un Sahara Libreの報告によると、5月5日、西サハラ占領地の中部東側にある村、ゲルタ・ゼンムールの近くで、家畜ラクダ10数頭がモロッコ軍兵士たちの機関銃で殺される事件があった。一帯は「砂の壁」近くで、犠牲となったのは、ここで遊牧していたサハラーウィ家族の家畜。占領地の人権活動家フマド・ハマードさんが家畜の主に話しを聞いたところ、まず数頭のラクダが地雷を踏んで爆死し、その後モロッコ陸軍第18大隊の兵士たちが機関銃で残りのラクダをハチの巣にしたそうだ。
     この類の惨殺行為は今回が初めてではなく、これまでにも2014年と2016年にそれぞれ十数頭のラクダが被害に遭っている。2016年の出来事では、ラクダを助けようとした家畜主のサハラーウィも銃弾を浴びて亡くなった。モロッコ軍隊の動機は不明だが、サハラーウィにとっては嫌がらせ、威嚇そしてサハラーウィ文化の抹殺行為であり、占領地の人権活動家たちは、海外の動物保護団体にこの蛮行を訴えている。
    https://porunsaharalibre.org/en/2020/05/17/moroccos-crimes-western-sahara-slaughtering-herds-camels-saharawis/

(文化的メモ)
 ラクダは、遊牧民にとって財産(大きなラクダ一頭は13-26万円相当)である上、伝統文化の一端を担ってきた動物。サハラーウィ詩人のバーヒア・マハムード・アワーフさんはこう詠う。
(・・・)
歴戦のうたの源
さすらう詩人の友
水さがし人の相棒
父から娘への婚礼祝
遊牧民に宿る心の富
(・・・)
 占領地のあるサハラーウィは「モロッコ人業者(入植者)に買われたラクダは可哀相だ」と言った。モロッコ人は屠り方を知らないため、ラクダは苦しみながら死んでいくのだそうだ。
 サハラーウィがラクダを屠る時は、まず他のラクダが全くいない静かな場所を選ぶ。たいていのサハラーウィは夕暮れ時を好むそうだ。決してラクダの神経を昂らせてはいけない。次に大事なことは、刃物をよく研いでいること。まず前脚のひざ同士、後ろ脚のひざ同士を紐でつなぎ、メッカの方角を向いて座らせる。それから顔と首を、背中の方を向く位置に紐で固定し、そのまま一時放っておく。焚火でお茶を点てるなどして、人間もラクダもくつろぐ。やがてラクダがまどろんだり、すっかりリラックスした時に、一人が首元と胸の間にある窪みに刃物を刺す。そして血が流れきるまで待つ。以上の過程のどの仕草も、愛情をこめて、話しかけ、相手を尊びながら行うのだそうだ。

  1. マハフダ・バンバ・レフキルさん、釈放を勝ち取る
     西サハラ友の会通信 No. 1で伝えた、マハフダ・バンバ・レフキル(Mahfouda Bamba Lefkir)さんが5月15日(金)に釈放された。グデイム・イジーク抵抗キャンプコレクティフという団体のメンバーで、2019年11月15日に逮捕。6ヶ月間、拷問や虐待を受けながら、それに屈しなかった。(Sahara Press Service, 17 May 2020) https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2020/05/17/25949.html
  2. モロッコ刑務所にいるサハラーウィ囚人の保護連盟(LPPS)が年次報告書を発表(添付)
     2019年中、23件の逮捕、36件の裁判を記録した。サハラーウィ政治囚は故国から遠い7つの刑務所に入れられ、劣悪な環境の中で適切な医療措置も受けられない、モロッコの法律でも許されているはずの家族の面会や通信も認められない、刑務所職員からの虐待にさらされる、不服を申し立てる権利を否定される等、ひどい状況に置かれている。そのため、多くのサハラーウィ政治囚がハンストを行っている。報告書は本メールに添付している。
  3. チュニジアに延びるモロッコ当局の手
     昨年来チュニジアに病気治療のために滞在していたサハラーウィの人権活動家で6年も投獄された経験をもつ元政治囚のMohamed Dihaniさんのもとを、チュニジア国家警察の私服のエージェントたちが訪れ、車に乗せられた。モロッコからテロリストとして引き渡し要請が来ていると説明を受けたDihaniさんは、一生懸命説明し、その結果、エージェントたちは去っていった。チュニジア国家警察はDihaniさんを丁重に扱ったからよかったが、モロッコの非道なやり方が明らかになった一件だった。(Por un Sahara Libre, 16 May 2020)
    https://porunsaharalibre.org/en/2020/05/16/morocco-extradition-dihani-saharawi-human-rights-activist/
  4. ポリサリオ戦線設立(1973年5月10日)記念
     5月10日(日)はポリサリオ戦線設立47周年記念日だった。この日、ブラーヒーム・ガーリー大統領はアルジェリア政府がポリサリオ戦線のために建設した野戦病院を訪問し、メディア向けに記念日の声明を発表した。野戦病院は外科手術もできる他、新型コロナ対応の設備も整えている。(Sahara Press Service, 10 May 2020)
    https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2020/05/09/25845.html
    https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2020/05/10/25871.html

【国際情勢】

  1. 米国のロバートF・ケネディ・ヒューマンライツとフリーダム・ナウ、政治囚の釈放を求める
     5月15日、ロバートF・ケネディ・ヒューマンライツ(Robert F. Kennedy Human Rights)と良心の囚人の釈放に特化した人権団体であるフリーダム・ナウ(Freedom Now)は、新型コロナ感染拡大に関連して、サハラーウィのMohamed Al-Bambary他すべての政治囚を釈放するようモロッコ政府に呼びかける声明を発表した。ボンバリさんは、エキペ・メディアに属するジャーナリストで、2015年に逮捕され6年の刑に服役中。2018年に国連の恣意的拘禁に関する作業部会はボンバリさんの拘禁を人権侵害だと認定したが、拘禁は続いている。彼が拘禁されているAit Melloul刑務所では、彼は45人の囚人と8m x 6mの監房に入れられている。そもそもその刑務所自体が113%の収容率となっており、800人の囚人に医師は1人しかいない。4月5日、国王モハメド6世は新型コロナ対応として5,654人の囚人を釈放したが、そこにサハラーウィの政治囚は含まれていなかった。
    https://rfkhumanrights.org/news/call-for-release-of-sahrawi-activist-mohamed-al-bambary
    http://www.freedom-now.org/campaign/mohamed-banbari/
  2. ドイツ左翼党党首、西サハラ問題解決を訴える
     ドイツ左翼党のカトヤ・キッピング党首は、5月10日(日)にFacebookで、国境警備を楯にヨーロッパをゆするような独裁政権を支援するこれまでの政策と袂を分かつ時が来た、ヨーロッパはモロッコに偏ることなく、西サハラ紛争の公正な解決に資することができるはずだと書いた。(Sahara Press Service, 12 May 2020)
    https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2020/05/12/25901.html
  3. 欧州議会人権小委員会委員長、サハラーウィ囚人の状況を注視
     5月17日、Sahara Press Serviceは、欧州議会人権小委員会委員長が、在仏サハラーウィ女性協会が出した要請への返信の中で、EUは新型コロナ蔓延がモロッコの刑務所にいるサハラーウィ囚人たちに及ぼす影響を注視していると書いてきたことを報道した。(Sahara Press Service, 17 May 2020)
    https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2020/05/17/25951.html
  4. 西サハラへのLPG輸入の実態
     5月4日、西サハラ資源ウォッチは、西サハラへの液化天然ガス(LPG)の輸入の実態に関する調査結果を明らかにした。モロッコは西サハラの産業、とくに港湾施設の操業のためにエネルギーを西サハラに輸入する必要がある。モロッコで天然ガスは産出されない。船の動きを追跡した調査によると、2019年中、10隻のタンカーが延べ15回、合計50,322トンのLNGを西サハラに運んできた。多くはスペインの石油備蓄基地から運ばれてきている。
    https://www.wsrw.org/a105x4697
  5. ドイツ国会調査部の報告書
     2019年3月18日、ドイツ国会調査部は西サハラの国際法的側面に関する報告書をまとめた。問題は2つ、西サハラの国際法的地位と国際刑事法及び国際人道法の適用である。
     西サハラの国際法的地位については、モロッコは施政国ではない、事実上の施政国という概念は国際法上無意味である、したがって、西サハラは現在占領状態に置かれており、占領国はモロッコだと考えられると結論している。
     国際刑事法及び国際人道法の適用については、自国民の占領地への移住政策を違法とするジュネーブ第4条約とその追加議定書 (I)の第1条(4)に違反する、と述べている。
     この報告書はそれ自身が法的判断を示すものではないが、問題の法的側面をよく捉えている。西サハラ資源ウォッチによる英語抄訳がある。
    https://www.wsrw.org/a105x4699
  6. ニュージーランド政府、2社に西サハラリン鉱石輸入停止を呼びかけ
     友の会通信 No. 2で報告した通り、ニュージーランドの2社が西サハラからのリン鉱石を輸入し続けている。2社とはRavensdownとBallance Agri-Nutrientsで、いずれも農協である。リン鉱石は肥料の原料として欠かせない。ニュージーランド政府は、西サハラ資源ウォッチの問い合わせに対して返答をしてきたが、それによると、2社に対して別な産出国を探すよう要請したとのこと。ニュージーランド政府の年金基金は2社の大口株主である。今年3月、ポリサリオ戦線は、この年金基金を相手取ってニュージーランドの裁判所に提訴した。
    https://www.wsrw.org/a105x4705
  7. ノルウェー政府、西サハラに天然ガス輸出したことを謝罪
     4月20日、ノルウェーのエネルギー会社エキノール(Equinor)社のターミナルからの天然ガス4,900トンを積んだ船がエル=アイウンに到着した。早速4月21日、ノルウェー西サハラ支援委員会がエキノール社に問い合わせの手紙を送ったところ、24日、副社長から、事実に間違いはない、同社としてはノルウェー政府のビジネス・アドバイスに従わなかったことを遺憾とする、今後政府の方針に従うべく手続きを採っているところだとの返答を得た。ノルウェー政府は昨年4月、EU司法裁判所の決定、すなわち西サハラでビジネスを行うには西サハラの人々の事前の同意が必要だとの条件に同意すると議会で説明していた。以上、ノルウェーの新聞、Dagsavisen紙で報道された。
    https://www.wsrw.org/a105x4704
  8. 西サハラのセメント工場2つを手に入れたドイツのセメント会社
     ドイツのセメント会社ハイデルベルク・セメント(HeidelbergCement)は、それが株の51%を保有するモロッコ・セメント(Cements du Maroc)を通じて、エル=アイウン郊外にCIMARというセメント工場をもっている。それに加え、今年、モロッコ・セメント社は、西サハラで操業していた別なセメント会社、CIMSUD (Cimenteries Marocaines du Sud) を買収した。これによってハイデルベルク・セメントは西サハラに2つのセメント工場を手に入れたことになる。モロッコ・セメントのリリースによれば、買収契約は5月4日に完了した。ハイデルベルク・セメントは、西サハラ資源ウォッチの再々の問い合わせに対して、何も答えない。そして質問には答えず、同社は現地のスポーツクラブを支援していると説明している。
    https://www.wsrw.org/a105x4709
  9. ドイツ開発銀行は西サハラでの事業を融資の対象から除外
     5月7日、ドイツ連邦議会における左翼党議員Eva-Maria Schreiberの質問に対して、経済協力開発省が行った回答は、ドイツ開発銀行(Kreditanstalt für Wiederaufbau: KfW)がOCPに行った2億14万7,000ユーロの融資は、西サハラでの操業には適用されない、というものだった。OCPはモロッコのリン鉱石採掘会社であり、西サハラのブークラーでの採掘も行っている。ドイツ開発銀行の融資は水事業に対する融資だが、それが西サハラで使われてはならないことを明言したものだ。これとは別件だが、西サハラでのOCPの操業をドイツの2社が支えている。それはコンチネンタル社とシーメンス社だ。コンチネンタル社はリン鉱石を運ぶベルトコンベヤーのメンテナンスを請け負っており、契約が今年6月に切れる。西サハラ資源ウォッチは、コンチネンタル社に契約を更新しないよう呼びかけている。
    https://www.wsrw.org/a105x4720

以上。
松野明久