西サハラ友の会通信4号

サハラーウィ難民キャンプ

 新型コロナウィルスはモロッコでも広まっており、4月17日時点で感染者2,528人、死者133人と報告されています(WHO)。ただし、西サハラはWHOの地図ではブランクになっています。EUはモロッコの新型コロナウィルス対策として4億5,000万ユーロ(約526億5,000万円)を援助することになりました。この内1億5,000万ユーロは直ちに支払われるそうです。

【活動】

  1. 難民キャンプのサハラーウィの若者たちとインターネット会議
     4月8日(水)、スウェーデンのベンジャミンさん(自転車世界ツアーの企画者)の呼びかけで、チンドゥーフにいるサハラーウィの若者たちと、西サハラ友の会のメンバー数名が、インターネット会議を行いました。西サハラからは、ポリサリオ戦線傘下の学生ユニオン(Student Union: Uesario)のリーダーのルアリ・サルマさんとサハラーウィ女性組織(National Union of Sahrawi Women)事務局長のツァツァさんが参加。それぞれの団体の活動の内容や日本の同種の団体と交流したいという希望を聞きました。すぐに何か連携できるという話にはなりませんでしたが、交流の第一歩になりました。西サハラ側からは、とにかく難民キャンプに来て欲しい、来ればいろいろとできることが見えてくるという要望が寄せられました。女性組織は健康、離婚の問題などに取り組んでおり、学生ユニオンは世界に自分たちの声を発信したいということでした。日本側からは、女性の声、若者の声というのはニュースとなって伝わって来ないので、日々どういう活動をしていてどういうことを考えているのか、生活についてでもいいので、書いた物で送って欲しいということを伝えました。 
  2. 国連人権理事会恣意的拘禁に関する作業部会の意見を受けての緊急要請
     4月1日、ノルウェーの西サハラ支援団体が、サハラーウィの学生グループの釈放を求める緊急行動を呼びかけたのを受けて、西サハラ友の会としてモロッコ政府(外相、人権相等)宛てに要請書をメール送付しました。このアクションは、3月31日、国連人権理事会の恣意的拘禁に関する作業部会が、14名のサハラーウィの学生の投獄について恣意的拘禁にあたる国際(人権)法違反だという意見を出したのを受けてのことでした。取り上げられたのはThe Student Groupというグループに属する14名の学生及び元学生。Brahim Moussayih, Mustapha Burgaa, Hamza Errami, Salek Baber, Mohamed Rguibi, Elkantawi Elbeur, Ali Charki, Aomar Ajna, Nasser Amenkour, Ahmed Baalli, Aziz El Ouahidi, Mohammed Dadda, Omar Baihna, Abdelmoula El Hafidi。その内5人についてはやや詳しいプロフィールがあります。E!
    lkantawi Elbeurはマラケシュの大学生だったが、2016年1月逮捕、10年の禁固刑、Gulemin市近くのBouzarkarnに拘禁。Mohammed Daddaはマラケシュ大学に学んでいて2016年2月逮捕、10年の禁固刑、アガディール近くのAit Melloul刑務所。Asiz El OuahidiはアガディールのIbn Abi Zahr大学に学んでいて2016年2月逮捕、10年の禁固刑、Guelmin近くのBourzarkarn刑務所に拘禁。Bodelmoula El Hafidiはマラケシュ大学法学部の学生で、「モロッコの刑務所にいるサハラーウィ政治囚保護のための会」に属する人権活動家。2016年4月に逮捕、10年の禁固刑、アガディール近くのAit Melloul刑務所。Al-Hussein Al-Bashir Ibrahimはスペインで亡命申請中(申請は処理されないまま)モロッコに引き渡され2019年1月逮捕、12年の禁固刑が言い渡されたが控訴中。アガディール近くのAit Melloul刑務所に収監されている。
     作業部会の意見が自由権規約に加え、占領地であることを明確にしたジュネーブ条約に言及していることが注目されます。すなわち、被占領民の占領国での裁判、占領地からの移送等を禁じたジュネーブ第4条約の48、66、67、76条に違反するというわけです。
    (ノルウェーの団体のアクション呼びかけ文)
    https://www.vest-sahara.no/files/dated/2020-04-02/unwgad_01.04.2020_studentgroup_eng.pdf
    (国連・作業部会の意見[フランス語])
    https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Detention/Opinions/Session86/A_HRC_WGAD_2019_67_AdvanceEditedVersion.pdf
  3. ICRC(赤十字国際委員会)からの返信
     西サハラ友の会から、3月24日、新型コロナウィルス感染拡大に関連しモロッコの刑務所にいるサハラーウィ政治囚たちに関心を払うようICRCに手紙を送ったところ、以下のような返事が来ました。
     「友の会からのメッセージに対する謝辞。ICRCはCOVID-19感染が広がるあらゆる国に対し、収監者の健康状態に留意するよう求めている。さらにICRCが拘束施設を訪問できる国においては、こうした施設での医療活動に努めている。しかしICRCは、今のところ、モロッコ王国の拘束施設は訪問しておらず、友の会の要望には応えることができない。一方、ICRCはサハラーウィ難民キャンプにおいて、病院患者のリハビリや、地雷被害者の義肢をはじめとした数々のケアサポートを行っている。また難民キャンプにおけるCOVID-19 問題に関しては、医療物資の援助を行った。」

【映像】
いずれも無料で見れますので、ご覧下さい。

  1. Life is Waiting: Referendum and Resistance in Western Sahara (59 minutes)
    https://vimeo.com/156483791
     サハラーウィの若者たちの非暴力の闘いを描いた感動的ドキュメンタリー。英語を多用しているので直接に理解できる部分も多い。
  2. 3 Stolen Cameras (17 minutes)
    http://www.3stolencameras.com/the-film/
     占領地で果敢に取材し海外に向けて発信するメディア集団、エキペ・メディア。「銃か、落書きか」にも登場した。何度もカメラを治安当局に没収されながら、命を賭けて映像を撮り続けるエキペ・メディアのメンバーが自らを描いたドキュメンタリー。

【現地情勢】

  1. サハラーウィ政治囚に対する差別的扱い
     サハラーウィ囚人保護連盟(SPPL)が4月14日発表したリリースによると、モロッコでは4月13日に北部ラクセル・ラクビル(Lakser Lakbir)刑務所で5人の職員と1人の囚人が新型コロナウィルスに感染したと報じられた。ミシェル・バシェレ国連人権高等弁務官が3月25日、囚人を釈放する等の措置をとるよう呼びかけたこともあり、モロッコ政府は5,600人の囚人を釈放したが、サハラーウィの政治囚をそれから除外するという差別的扱いをしている。(SPPL, 14 April 2020)
  2. ポリサリオ戦線のMINURSO調整担当だったモハメド・ハッダード(Mohamed Haddad)氏逝去
     ポリサリオ戦線でMINURSO調査の担当だったハッダード氏が3月31日に亡くなった。長く闘病生活をしていた。(別な綴りで、Emhamad Khadadというのもある。)各方面から追悼の意が表明されている。(西サハラ友の会からは弔文をサーレク外相宛に送った。)

【国際情勢】

  1. 安保理、MINURSOについて議論
     4月9日(水)午前、安保理はMINURSOについての非公開の議論を行った。ポリサリオ戦線は安保理が何の行動も取らない結果に終わったことを非難した。ただ、その後の報道では、ドイツが安保理にもっと西サハラの問題に真剣取り組み、西サハラ担当事務総長特使を早急に任命するよう発言をし(Sahara Press Service 12 April)、ロシアもこの問題の解決にはサハラーウィの自決権を尊重することが重要だと発言したとされる(Sahara Press Service 10 April)。
    https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2020/04/12/25540.html
    https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2020/04/10/25512.html
  2. 国連の人権条約別委員会(Treaty Bodies)の改革を議論する共同議長にモロッコの国連大使が指名される
     国連の人権条約は条約別に委員会があり、定期的に各国の履行状況を審議し、評価している。例えば拷問禁止条約については拷問禁止委員会があり、条約加盟国の政府報告書、NGO報告書を基に審議し、勧告を出したりする。人権推進する国連メカニズムの要の一つであり、専門家の発言力が大きく、各国の政治的思惑に左右されないという特徴をもつ。この度、条約別委員会の強化・効果促進を目的として、国連総会が議論を行うことになり、国連総会議長のTijjani Muhammad-Bande氏がモロッコの国連大使、Omar Hilale氏を共同議長に指名した。(専門家を追い出し、各国政府の意見が通る方向での改悪を目指している可能性が高い。モロッコにとっては願ってもない方向性。)
     これに対し、ジュネーブ・サポートグループ(国連欧州本部を舞台に西サハラを支援する団体の集まり)は210団体の署名を集めて抗議する、国連総会議長宛公開書簡を4月16日に発表した。モロッコが人権諸条約を遵守していない国であることはよく知られた事実である上に、Omar Hilale氏自身、ネイビー・ピレイ氏が人権高等弁務官だった時代(2008-2014年)、国連の高官を買収したとして非難されていた人物であることを指摘。とくにはスウェーデン人のAnders Kompass、セネガル人のBacre Waly Ndiaye、パキスタン人のAthar Sultan Khanの3人を買収し、アントニオ・グテーレス氏が難民高等弁務官を務めていた(2005-2015年)弁務官事務所にスパイ行為をしていたとの疑いがかけられている。モロッコ人の内部告発によってリークした情報で明らかになった。(Geneva Support Group, 16 April 2020)
     Omar Hilale氏はモロッコの外交官で、ジュネーブでの国連大使を務めた後、ニューヨークで国連大使を2014以来務めていた。
     一方、Tijjani Muhammad-Bande氏はナイジェリアの外交官で、現在国連大使。2000年から2004年までモロッコのタンジェで、African Training and Research Centre in Administration for Development (CAFRAD)の所長を務めた経歴をもつ。

    以上。
    松野明久