概要報告 西サハラ・抵抗のかたち〜Action & Music
7月11日(土)、西サハラについてのオンラインセミナーを実施しました。スウェーデンのベンジャミンさん、米国のレイラさんに参加してもらい、さらにアルジェリア・チンドゥーフにあるサハラーウィの難民キャンプからライブ音楽演奏を届けてもらいました。参加者は110名を越え、日本国内だけでなく海外からの参加もありました。以下に各プログラムの概要を報告します。
プログラム
勝俣誠:開会挨拶
1.岩崎有一「西サハラ:民族、歴史、紛争」
2. ベンジャミン&レイラ「世界4万kmの自転車ツアー!」
【特集】サハラーウィの抵抗のかたち
1.新郷啓子「砂漠の国際映画祭」
2.公花「芸術祭ARTifaritiもありますよ:難民キャンプからアートで発射!」
3.稲場雅紀「世代を超えて継承される抵抗運動:SNSを活用した若者たちの「#2720KM」キャンペーン」
4. 松野明久「音楽とナショナリズム Mariem Hassan & Aziz Brahim」
5.岡真理「コメント」
【西サハラの音楽演奏(難民キャンプからLive)】
音楽グループ「ティーリス」、歌手:タシャ・ブラーヒーム(Tacha Brahim)、ファーティマ・サルハ(Fatima Salh)、太鼓:タルバ・ブエイブー(Tarba Bueibu)、弦楽器:マハフード・ウスマーン(Mahfud Azman)
1.西サハラ友の会のために作られた歌(作詞・詩人 Zaim Alal[ザイーム・アラール])
2.サハラーウィ伝統曲
開会挨拶 勝俣誠
「南」の世界、とりわけアフリカ大陸は今も傷だらけです。より平和で、より人間的な世界をつくっていくために、私たち「北」の市民は何ができるのでしょうか。
こうした問いから、いまだ隣国の軍隊に占領されているアフリカ最後の植民地である西サハラの人々の自由の希求に連帯する「友の会」が立ち上って一年が経ちました。
メッセージとして2つのことを表明させてください。
まず一つは、近年、「自国第一」を唱える大国が出だして2つの世界大戦の反省から生まれた国連システムが大きな危機に直面していることです。国連憲章は植民地下にある人々の自決権を認め、国際紛争を武力でなく、交渉によって解決する国際ルールを取り決めています。さらに私たちは、日本国憲法の前文にある「世界のすべての人々が恐怖や貧困から逃れて、安心して生きれる権利を認める」という素晴らしい国際連帯の原則を持っています。私たちは積極的に西サハラの脱植民地化の闘いを応援できる筈です。
もう一つは西サハラの海洋資源や鉱物資源は、国際法では、何よりも西サハラの人々に帰属する富であり、占領国が勝手に処分できません。 それを無視して輸出する行為は違法であり、またこれらの西サハラの略奪された富を輸入する行為も違法で、禁じられています。現在、世界や日本の勇気あるジャーナリストや研究者によってこの恥ずべき違法行為が明かになりつつあります。「南」の人々、とりわけアフリカの人々の自由への闘いに対して、私たちは、無関心や共犯関係にとどまるのではなく、これからも、連帯する市民として向かい合いたいと思います。
解説 西サハラ
岩崎有一
1.西サハラの略史とポイント
・西サハラにはサハラーウィと呼ばれる遊牧の民が暮らしてきた
・西サハラの帰属を決める住民投票の実施を含む和平案にポリサリオ・モロッコ双方が合意して停戦。現在は住民投票の実施が待たれる状態。
2.モロッコ占領地
・街並みはモロッコと変わらず、発展を続けているように見える。しかし、サハラーウィに富の恩恵は届いていない。
・モロッコでは占領政策の否定は政治犯とされ、サハラーウィへの弾圧が続いている。ジャーナリストの入域は許されず、現状が外部に届きにくい。
3.サハラーウィ難民キャンプ
・モロッコの空爆を逃れたサハラーウィが難民となり、アルジェリア領内に難民キャンプを築いた。
・サハラ・アラブ民主共和国(RASD)による行政機関が整っているが、生活は国際援助に頼っている。占領地からキャンプを目指すサハラーウィ難民は今も後を絶たない。
4.RASD解放区
・解放区はポリサリオ戦線が統治している。昨年は、同戦線の党大会が解放区内で開催された。
5.海外では
・海外に暮らすサハラーウィもいる。RASDの外交活動が各地で継続。
6.なにが問題か
・モロッコによる軍事占領の既成事実化が進むなか、領土問題に加え、著しい人権侵害と資源奪取も深刻な問題だ。
Bike4WesternSahara:世界4万kmの自転車ツアー!
Leila Awadallah and Benjamin Ladraa
ベンジャミンさん(スウェーデン)とレイラさん(米国)は仲間とSolidarity Risingというグループを作り、日本から西サハラまでの自転車ツアーを計画しています。
レイラ「私はパレスチナ系アメリカ人。昨年、西サハラの占領地とアルジェリアの難民キャンプを訪れました。西サハラでは警察の尾行をまいて安全な場所に行き、活動家やジャーナリストと会いました。暴力、投獄、拷問、報道規制等の話はショックでした。難民キャンプには2、3週間いて、学校、女性のエンパワーメント施設、障害者の学校等、彼らの辛抱強さに驚きました。しかし、キャンプは仕事はなく、非常に暑い。アメリカ先住民、パレスチナ、西サハラ等、植民地的な占領に対する闘いという共通点があります。」
ベンジャミン「とにかく西サハラは知られていません。そこで考えたのが30ヶ国4万キロの自転車ツアー。日本から出発し、分離壁がゴール。西サハラの旗を自転車に付けて走り、人々に話をし、メディアの関心を集めます。また国連事務総長宛の100万通請願キャンペーンもやります。ぜひ自転車ツアーを支援して下さい。一緒に走るのも歓迎。来年4月稚内出発を目指しています。」(まとめ・松野明久)
砂漠の国際映画祭 FiSahara
新郷啓子
2003年以来、砂漠に設けられたスクリーンが一つの大きな窓になって、子供や大人たちが外の世界を知り、楽しむ機会が訪れるようになりました。
満天の星の下で行われる上映と、昼間には視聴覚ワークショップがあります。これが大変好評で、2010年にシネマ学校が誕生。外国人講師の授業を受け、その後外国の専門学校へ行けば、今度はこの学校の講師になれます。
占領国モロッコは、既成事実化を積み重ね、西サハラの国と人々の存在を抹消しようとしています。サハラーウィは45年間存在を訴えて、これに抵抗してきました。この抵抗を支えているのは、現在を生きぬく力と未来に対する希望です。生き抜くためには心に栄養が必要です。その栄養になりうるのが、映画祭などの文化活動ではないでしょうか。
またワークショップやシネマ学校が示すように、映画祭は未来に向かって可能性を探ります。つまりここでの抵抗の形は、現在を生き抜き、未来を築くことへ向かう抵抗です。
今年の映画祭には、ドキュメンタリー『ある民族のマラソン』が出品されます。主人公は占領地で生まれ育ったランナー、サラーフ・アメイダーンさん。
アメイダーンさんの走る姿はまさに、占領を拒み、抵抗する西サハラの人々の姿です。
★ドキュメンタリー映画の最初の部分を紹介:題目「Salah Ameidan: La Maratón de un Pueblo(ある民族のマラソン)」。YouTubeで見れます。ナレーションはスペイン語で英語字幕付き。日本語字幕版は現在制作中。
芸術祭ARTifaritiもありますよ:難民キャンプからアートで発射!
公花
2011年より西サハラ難民キャンプを行き来しながらセビリアを拠点に美術活動している公花(きみか)です。
西サハラ難民キャンプで2007年より毎年開催されている人権国際交流芸術祭 ARTifaritiについて紹介させて頂きます。
地元サハラウィと各国から選出されたアーティストが難民キャンプで集い『芸術は自由への道具』を概念に様々なアートプロジェクトを展開します。
現地での国際交流を通して、見て、話して、聞いて、直接文化や人々に触れることで、真に迫った作品たちが滞在制作で作られます。
滞在中はサハラウィ宅で共に過ごします。談笑しながらお茶に踊り、子供達が遊びに誘ってくる。そんな日常から、心の奥にある暗い闇、苦しみ、悲しみ、怒り、彼らのもう一つの真実の日々に気付くのです。
体験して理解することは、彼らの暮らしと心を知る。それは今の西サハラの人々の現状を、パブリックアートを通して、世界に発信するのに繋がっていきます。
銃を持つのではなく、芸術を防衛と攻撃、抵抗の道具として、世界が西サハラの『今』に、知り、気づいて興味を持ってもらうことが、民主的に恥の壁を破壊して、独立することを目指して活動しているのがARTifaritiです。
世代を超えて継承される抵抗運動:SNSを活用した若者たちの「#2720KM」キャンペーン
稲場雅紀
西サハラの人々の抵抗は世代を超えて継承されています。モロッコはイスラエルの技術支援を受け、1980年から7年間をかけて、西サハラの4分の3を囲い込む全長2720キロの「砂の壁(Berm)」を作りました。この世界で2番目に長い壁は、20万人のモロッコ軍兵士・志願兵と地雷によって維持されており、この壁の西側がモロッコの占領地、東側がサハラ・アラブ民主共和国、ポリサリオ戦線の解放区となっています。
祖国を分断し、民族を引き裂くこの「恥辱の壁」に対して、若者たちの抗議運動が広がっています。2013年、難民キャンプの若者たちが「壁に向かって叫ぶ」(Screaming against the Wall)というグループを設立しました。当初は2か月に1回、文字通り壁まで行って抗議の叫びをあげるという運動でしたが、今は地雷の撤去や、子どもたちに地雷回避教育を行う活動、また占領地のサハラーウィの人々との交流の活動へと発展しています。3月には、難民キャンプで西サハラ解放闘争に連帯する国際青年フォーラムが開催され、ここでSNSによる国際的な「恥辱の壁」抗議キャンペーンが正式に発表されました。それは「#2720KM」と書いた紙やプラカードを持って、「恥辱の壁」を告発するツイッターキャンペーンで、現在、西サハラだけでなく、スペインやアルジェリアの連帯運動も巻き込んで展開されています。西サハラの若者たちは、これに限らず多くのツイッターキャンペーンを提起しており、私たち日本の連帯運動もこれらのキャンペーンに積極的に参加していこうと思います。
音楽とナショナリズム〜Mariem Hassan & Aziza Brahim
松野明久
1975年以降、難民キャンプでは、ベルベル音楽の系譜を引きつつ、アラブ系、アフリカ系の要素を融合させ、政治的メッセージを込めたAzawanという歌のジャンルが発達しました。西サハラの伝統音楽はリュート(弦楽器)やドラムをバックに女性が歌うもので、Azawanでも歌手は女性です。中でも有名なのがMariem HassanとAziza Brahim。iTunesで購入でき、YouTubeでも見れます。Mariem Hassanは1958年西サハラ生まれ。2015年に癌で亡くなりましたが、出したソロアルバムは3つ。最後の「エル=アイウンは燃えている」はグデイム・イジーク(Gdeim Izik)抵抗キャンプの事件後制作されたもので、弾圧に怒り、闘争を讃え、犠牲者を嘆く内容です。「グデイム・イジーク」は砂漠に響き渡るような嘆きを思わせ、「私はサハラーウィア」は静かですが、芯の強さを感じさせます。Aziza Brahimは難民キャンプ生まれ。軽快で、コンテンポラリー、スペインのバンドとコラボする若手です。BBC Africa Beatsが紹介する「難民(Lagi)」、キャンプの砂に煙るたわいない日常のシーンをバックに歌う「この世代は(Hada jil)」等、いずれも難民世代の今を描いています。
難民キャンプから届いた音楽
イベントではサハラーウィ音楽をライヴで紹介したく、RASD(アラブ・サハラ民主共和国)文化省協力局に申し込んだところ、快諾を得ました。
局長さんが用意してくれたのは、詩人ザーイム・アラールさんが日本の仲間のために作詞された歌と、預言者ムハンマドを讃える伝統民謡。楽士さんたちはティーリスという名のグループから四名。演奏楽器はタバル(tbal)と呼ばれる太鼓と、ティディニット(tidinit)という名の弦楽器です。
さて生演奏をZOOMで実現するにあたり気を揉んだことは、時差(現地時間で朝7時)と砂嵐です。
しかし皆さんは前夜からハイマ(テント)に泊まり込んで、これに対応。
セミナー開始10分前、シャガーフ局長から着信メッセージ。「準備OK、それにしても女性たちの化粧の長いこと!」。
そして本番。民族衣装ドゥラアをまとったザーイム・アラールさんの挨拶に始まり、祭用の衣装に身を包んで座る女性たちの歌声、手拍子、太鼓が聞こえてきました。
♫ 待望の連帯 深まる絆 /自由を愛する人々同志 そこには無二の平安 /そう みなさん 連帯は双方に通うもの /♪ サハラーウィと素晴らしい人々が 善い事を目指している /私たちに連帯する人々が 日本に (・・・)♫
最低気温が30度を下らない酷暑の現地、貴い音楽を届けてもらって心から感謝です。(まとめ 新郷啓子)
西サハラ〜抵抗のかたち:コメント
岡真理
陸上選手アメイダーンさんの姿から真っ先に想起されるのは、ベルリン五輪のマラソンで金メダルをとった孫基禎(ソン・ギジョン)さんです。アメイダーンさんが占領国モロッコの国旗を胸につけて走ったように、孫さんも日の丸をつけて走らねばなりませんでした。そうした歴史を振り返っても、西サハラと東アジアは歴史の地脈でつながっています。
占領による難民化、民族分断、数十年に及ぶ難民キャンプでの暮らし、そして占領下での迫害、西サハラで起きていることは、この70年間、パレスチナで起きていることでもあります。砂漠の映画祭やアート、そして音楽など、この過酷な状況のなかで、それでもなお闘いを続けていこうとするサハラーウィの人々とつながることで、私自身、励まされ、エンパワーされる思いです。
西サハラでは、占領の実態を伝えるという営み自体が過酷な弾圧にさらされていますが、そんな中、西サハラの若者たちの抵抗を描いた「銃か落書きか」という貴重なドキュメンタリー映画が製作されています。今年のイスラーム映画祭の上映作品のひとつです。東京では3月に上映されました。名古屋は8月22日~28日まで、神戸も9月に開催されますので、この機会にぜひ、ご覧ください。