西サハラ友の会通信6号

西サハラを出港した、リン鉱石を運ぶ運搬船

 西サハラ友の会通信6号をお届けします。5月19日に5号を出して1月以上が経ってしまいました。
 西サハラを占領しているモロッコでは、WHOによると、6月28日時点で、新型コロナ感染確認者11,877人、死者220人となっています。一時期減少傾向にあったのが、6月20日からまた増加傾向に転じています。また、西サハラを別地域として区別しているジョンズ・ホプキンス大学によると、西サハラでは感染確認者数10人、死者1人となっています。前回短信までは死者ゼロでしたが、この1月で1人死亡があったことになります。
 7月11日に予定している西サハラに関するオンラインセミナーの申込みは93名になりました。当初、収容定員を100名と発表しましたが、その後、100名を越えても大丈夫なようになりました。申込みがまだの方は、7月8日までにお願いします。また、お知り合いの方々に声かけしていただいても大丈夫です。申込みサイトは以下の通りです。

申込サイトはこちら

【現地情勢】

  1. 政治囚ダーダーさん、連絡取れず
     アガディールにあるアイト・メルール刑務所に投獄されている政治囚、モハンメド・サーレフ・ダーダーさんと連絡が3週間取れなくなっていると、家族より「モロッコ刑務所にいるサハラーウィ囚人の保護連盟」に電話で知らせがあった。ダーダーさんはマラケシュ大学に学んでいた2016年2月に逮捕、10年の刑を言い渡された。国連人権理事会恣意的拘禁に関する作業部会が意見を述べた学生グループ(The Student Group)の14人の一人(友の会通信 No. 4に記載)。(Sahara Press Service, 25 May 2020)
  2. メディア活動家、ブージャムアさんに20年の刑
     ヨーロッパを拠点とするサハラーウィ記者作家協会は、モロッコの控訴院がサハラーウィのメディア活動家、ハトリー・ファラージー・ブージャムア(Khatri Faraji Bujama)さんに20年の刑を言い渡したことを非難する声明を発表した。(Sahara Press Service, 15 May 2020)
  3. CMS、モロッコ国王の覚えめでたいビジネスに成長
     Construction Management Services (CMS) は、豪華なマムーニアホテルの改装からブージドゥール(西サハラ)の風力発電所まで、次々と契約を勝ち取っている。CMSを所有するのは国王の「プライベートな元執事」、ズハイル・ファーシー・フェフリー(Zouhair Fassi Fehri)氏だ。マラケシュにある豪華な王宮風のホテルの改装はモロッコではもっとも名誉あるプロジェクトで、設立から4年しか経っていない会社にとって、これを含む2つの王室関係の契約が取れたというのは画期的だ。もう一つは、カサブランカのロイヤル・マンスールホテルの改築工事だ。かつてはメリディアンブランドのホテルだったが、今ではモハメッド6世の持株会社Sigerが管理するアフリカ・グランドホテル社(Compagnie des Grands Hôtels d’Afrique)のものとなっている。CMSは、西サハラのブージドゥールの風力発電所建設に関わっている。この発電所は、王室の持株会社であるSociété Nationale d’Investissement (SNI) で、通称Al Mada社の個会社Narevaがやっている再生エネルギー事業だ。30万キロワットを発電する。CMSはフェズのMideltにある風力発電も手がけていて、56機の風車を建てている。
     CMSは2008年に4人の技術者が作った会社だが、2016年にフェフリー氏が買収して経営を統括することになって急に発展した。フェフリー氏は当時58才、PrimariosをSigerの社長で国王の私的な秘書であるムニール・エル=マジーディ(Mounir el-Majidi)氏にまかせようとしていた。PrimariosというのはSigerの子会社で、王室と関係する重要な会社のひとつだ。王宮の装飾を司っていたが(そのためフェフリー氏は王室のプライベートな執事の異名をとった)、次第に大きな契約を得るようになった。王室コネクションでCMSの取引高は急上昇。2015年は1690万ディルハム(1億8,590万円)だったのが2018年には5億3600万ディルハム(58億9,600万円)になった。(Africa Intelligence, 29 May 2020)(レート1MAD=11円で換算)

【国際情勢】

  1. スペイン最高裁、西サハラ出身者のスペイン国籍を否定
     5月29日、スペイン最高裁判所民事第一法廷は、その判決(207/2020)において、民法17条1.cがスペイン国籍を申請するにはスペイン国内で生まれることを求めていることから、西サハラ出身者は出生時においてスペイン人であるとは考えられないとの判断を示した。この最高裁の判決は、先に1973年に西サハラで生まれた請求者の国籍をスペインと認定した州裁判所の決定を不服として、その判決取消しを求めて政府(市民登録・公証総局)が控訴していた事案についてである。
     判決に対し、与党連合の一角を占めるポデーモス党は、国連が1963年以降西サハラを非植民地化されるべきスペインの領土と認め、1975年国際司法裁判所が西サハラをモロッコでもモーリタニアでもないとの判断を示し、2002年の国連法務部がマドリッド協定は西サハラの主権の移譲を示すものでもスペインの施政国としての地位を変更するものでもないとの意見を思い起こす、そしてスペインが西サハラに対する法的、歴史的責任を果たすことを求める、との声明を発表した。そして国籍問題については、旧植民地出身者及びその子孫には特別な手続きを経て国籍
    が得られることに道を開くべきだと主張した。

    https://www.iustel.com/diario_del_derecho/noticia.asp?ref_iustel=1199244&
    https://podemos.info/podemos-demanda-cumplir-obligaciones-juridicas-historicas-sahara-occidental/
  2. UNPOの法的助言
     6月5日、UNPO(Unrepresented Nations and Peoples Organization)は、「人権・人民の権利に関するアフリカ法廷」から他の2つの国際的団体とともに指名され、西サハラ人民の権利を擁護する国家の責任に関して法的助言(Amicus Curiae briefing)を同法廷に提出した。UNPOは、エクス・マルセイユ大学の国際人権法博士課程クリニックらと協力して助言を作成し、6月5日に提出した。他の2つの国際団体とは、国際法律家協会(ICJ)とプリンストン・リヒテンシタイン自決権研究所である。UNPOは、ソマリランド、台湾、コソボ、北キプロス(トルコ系の地域)の4例をあげて、国家として認められてなくても国際機構の加盟国と二国間関係を作り上げることができている、したがって西サハラの場合も、アフリカ連合加盟国の関与を推奨すると述べた。また、法的問題に関しては、モロッコの西サハラ占領はサハラーウィの主権、領土的保全、及び独立の権利を侵害している。そして、「国際法はモロッコが西サハラの領域の占領をさらに進めるいかなるやり方もとらないよう行動する義務を課している」、「アフリカ連合加盟国は一国の自治を積極的に擁護しなければならない」と述べた。
  3. ブリュッセルでの西サハラシンポジウム
     6月24日(水)「西サハラ紛争の解決:国連事務総長特使ホルスト・ケーラーの辞任から1年」と題するシンポジウムがオンライン会議で開催され、西サハラの欧州・EU大使であるウッビー・ブシュラーヤー・アル=バシール氏、EUCOCOのピエール・ギャラン総裁、アルジェリア・サハラーウィ人民との連帯(CNASPS)のサイード・アル=アイヤーシー代表、ポリサリオの弁護士ジル・ドーバー氏、元国連事務総長の特使フランチェスコ・バスタリ氏が話をした。スペインの施政国としての責任、モロッコの不安定化策、欧州委員会の司法裁判所裁定の無視などに言及。最後に、速やかに国連事務総長特使を任命するよう呼びかける宣言を発表した。
    http://www.aps.dz/en/world/34692-symposium-on-western-sahara-call-for-resumption-of-un-process
    https://www.spsrasd.info/news/en/articles/2020/06/27/26486.html
  4. オーストリアの石油会社、西サハラへの輸送をしない
     オーストリアの化学会社ボレアリス(Borealis)のCEO、Alfred Stern氏は、西サハラ資源ウォッチへの5月26日付の手紙の中で、「責任ある(サプライ)チェーンと倫理を遵守するため、顧客に対し西サハラ領域内の港への我が社製品の輸送を、たとえそれが法的には許されていたとしても、自粛するよう明確に要請していくことにする」と回答した。ボレアリスはスウェーデンのStenungsundにターミナルを持っており、そこからLPGガス(プロパンガス)を積んだ化学タンカー、エマヌエル号が3月22日に西サハラの港に入ったことが確認されていた。それはイギリスの顧客に売られたLPGガスであったが、事前には最終到着地を知らされていなかったという。(Western Sahara Resource Watch, 26 May 2020
  5. スペイン外相、ツイッターでアフリカ連合の地図から西サハラを削除
     スペインのアランチャ・ゴンサレス・ラヤ外相は、5月25日のアフリカの日に際し、ツイッターに掲載したアフリカ連合の地図で西サハラを白く塗りつぶした。また、ラヤ外相は、RASDのSuilma Beiruk社会相と面会したナチョ・アルヴァレス社会権長官について、RASDを認めていないスペイン政府の立場に反すると評した。ラヤ外相は、今やEUの外交・安全保障上級代表となった元スペイン外相、ジョセップ・ボレル氏を引き継いでいるが、前任者以上にモロッコを喜ばせている。ボレル氏は、外相時代、スペインは法的にも西サハラの施政国ではないと述べ、国会議員が西サハラ問題で会議を開催しようとしたのを阻止したり、チンドゥーフの難民キャンプにはテロの可能性があるとして行かないよう警告を発したりした人物である。しかし、驚いたことに、EUの上級代表となってから、サハラーウィの自決権に言及するようになった。ただ、モロッコの提案を「真面目で信頼のおける(serious and credible)」(注:国際政治でモロッコの自治案を評するときの定型句)と述べている。(Contramutis, 3 June 2020
  6. ニュージーランドの団体、Ravensdown社を5時間閉鎖
     ニュージーランドの環境団体Otepotiは、6月22日(月)、西サハラのリン鉱石を輸入しているRavensdown社のドゥネディンにある肥料工場の門を5時間に渡り封鎖する抗議行動を行った。Otepotiは、Ravensdown社は西サハラ以外のリン鉱石に切り替える計画だったはずなのに、西サハラのリン鉱石を搬入しようとしており、われわれに嘘をついたと述べている。
     翌23日、ニュージーランドの西サハラ支援団体はリトルトン港で、西サハラのリン鉱石を載せたRavensdown社のトラックを阻止する活動を行った。警察は、デモ隊がトラックを安全に止めるのを支援することで抗議行動を援助した。
     リン鉱石を運んできた船はTrans Spring号で、鉄道・海運組合(RMTU)はTrans Spring号船長にモロッコの不法な西サハラ占領を非難する抗議文を送付した。ニュージーランド労働組合連合会は昨年西サハラ人民と連帯する決議を採択している。(Sahara Press Service, 22 & 23 June 2020)

【歴史】

  1. ムハンマド・シーディ・ブラーヒーム・バシーリー、死後50年を迎えて
     スペイン統治時代の1970年6月17日、エル=アイウンのゼムラという地区で起きた抗議行動にスペイン軍が発砲し、2名から11名の死者を出した事件は「ゼムラの虐殺」と呼ばれる。抗議行動自体は「ゼムラ・インティファーダ」や「ゼムラの蜂起」と呼ばれている。その時の指導者は南モロッコのタンタン出身のムハンマド・シーディ・ブラーヒーム・バシーリー(Mohamed Sidi Brahim Bassiri)だ(1944年生まれ)。サハラーウィの初期民族主義者の一人で、ポリサリオ戦線にとって先駆者とされる。カサブランカで記者をしていたが、モロッコ当局から新聞が閉鎖され、1968年に西サハラのスマラに居を移した。そこでハラカット・タヒール(Harakat Tahrir、解放運動)を立ち上げ、平和的な運動を呼びかけた。
     このバッシーリについて、メディアチーム(Equip Media)は、4人による討論会を6月17日にスペインで開催した。その結果、6つの要求をまとめた。それはスペイン政府による調査、責任者の処罰、被害者への補償、バシーリーの名誉回復、スペイン政府の西サハラ人民自決権行使への責任遂行、EU・AU・国連及びスペインの義務遂行、である。
    http://espiral21.com/bassiri-50-anos-de-la-victima-del-franquismo-que-incendio-el-sahara/
  2. クリントン大統領のハサン2世葬儀参列に対するブリーフィングノート(ホワイトハウスの公文書公開)
     Clinton Digital Libraryが1999年7月25日にラバトで行われたハサン2世の葬儀に参列するクリントン大統領に対し、要人との会談で話すべきポイントと留意点を述べたブリーフィングノートを公開している。このメモを書いたのは、当時国家安全保障大統領副補佐官だったSamuel R. Berger(のちに補佐官になる)、日付は7月24日(1日前)。西サハラについて、モロッコは住民投票に合意したものの、西サハラに対する主権をなくすような結果は受け入れない、アメリカはこの失敗するであろう住民投票(ill-fated referendum)を無駄と感じ、過去数ヶ月、背後で国王にポリサリオとの直接交渉で別なオプションを見つけるよう促してきた。長く混乱した状態が続くだろう、などと書いている。
     中東和平についても、ハサン2世がイスラエルとの関係を深めてきたことを評価し、王子がその「伝統」を継続するかどうか、見極める必要があるなどと書いている。

【ドキュメンタリー】
Provincia 53
 『53番目の州』を意味するタイトルのドキュメンタリー。革新政党のポデーモスの文化財団等が制作したもので、人々のインタビュー中心で構成され、ウェブ上でテーマ別インタビューを別個に見ることができるようになっている。西サハラを知っていますかとスペインの街角で人々に聞くシーンから始まり、「アフリカの砂漠」「モロッコの一部」のような答えが返ってきて、実はみなあまり知らない事実が明らかにされる。2019年制作。

今号は、以上です。
松野明久