EU・モロッコ漁業協定

2018年3月4日: モロッコの占領下にある西サハラでは、外国企業による天然資源の略奪が活発化していますが、中でも水産業の部門ではEUとモロッコ間に締結される漁業協定の下、西サハラ海域で不法操業が長年行われてきました。

そこで2015年に英国の西サハラ支援団体が英国司法にこれを訴え、以降案件は管轄権の理由から欧州司法裁判所に持ち込まれていました。

そしてこの2月27日(偶然にもサハラ・アラブ民主共和国建国42周年の日)、欧州裁判所は「EU・モロッコ漁業協定は締結されて然るべきであるものの、西サハラ海域はその履行の範囲から除外されるべきである」という決定を下しました。

現行の協定は今年7月14日で満期を迎えるため、更新が行われることになっていますが、その文面に西サハラ海域の除外が明記されるか、あるいは法の網目をくぐる曖昧な言句が盛り込まれるか、欧州委員会・モロッコ間の交渉の行方が注目されます。

一方モロッコ政府は3月1日、「モロッコ王国のサハラ地方に対する主権を認めないのであれば、EUとの協定は締結しない」と発表しています。
この欧州裁判所の決定はEU諸国で大きく報道され、日頃西サハラ問題を過小評価したい傾向にあるフランスでも取り上げられましたので、日刊紙リベラシオンの記事を紹介します。

ヨーロッパ漁船は、西サハラ水域に立ち入り禁止

202018年2月27日 リベラシオン

欧州司法裁判所、EU・モロッコ漁業協定は西サハラの水産資源を除くべしと判定

ここ数年を要した司法上の対戦に決着がつけられ、「ヨーロッパ漁船は西サハラ水域に立ち入り禁止」となった。それも、どう見ても勝ち目のなさそうなチーム(西サハラ人民の自決権を支持する親ポリサリオ戦線派)がもう一方の強力なチーム(西サハラを自国領と主張するモロッコ王国)に体当たりして勝ったのだ。この勝負になったのは、漁業をめぐり欧州とモロッコ間で10年以上交わされている取引協定で、欧州司法裁判所が審判役を果たした。
決定が下されたのは2月27日。漁業協定は目下、モロッコ産水産物に関する関税とヨーロッパ漁船の操業範囲の緩和を一定の条件下で見込んでいるが、ここに来て「西サハラ及びその近海には適用されない」と裁断が下された。これまでの経緯は、まず英国のWestern Sahara CampaignというNGOが英国司法に訴え、次に後者は欧州司法裁判所へとこれを提訴した。これに対し欧州司法裁判所は「同協定の履行範囲に西サハラ領土を包摂することは、EUとモロッコ間関係に適用される国際法上の規定、とりわけ民族自決権に違反することになる。」とみなした。

差し迫る影響

国連が「非自治区」と指定しているこの領土をめぐっては、面積の80%を支配下に置くモロッコと70年代から独立運動を担うポリサリオ戦線の両者が主張し合っている。水産資源の豊かな領海では総捕獲高の91,5%がEU・モロッコ漁業協定の枠内に入っているほどで、水揚げ高は年間8千万ユーロに上る。
従って欧州司法裁判所の今回の決定は、欧州に差し迫った影響をもたらすことになる。関係者筋は「決着はついた。もはや誰も西サハラ領海で操業することはできず、特恵関税システムも適用されなくなる。実際のところでは、モロッコは自国領土とみなしている以上、おそらくこれまで同様に自国の漁船を送り込み続けるだろう。しかしヨーロッパの漁船は活動停止を迫られ、EUメンバー国は操業許可書の交付を辞めねばならない。」と語る。

欧州司法裁判所のこの決定は、寝耳に水ではない。2016年12月21日、同裁判所は既に農産物に関する取引協定について同様の決定を下していた。そして今年1月10日には、欧州司法裁判所の法務官が漁業協定の取り消しを求める意向を表明するまでになっていた。法務官によると協定は「西サハラ領土の一方的統合を基底とするモロッコにより締結され、サハラーウィ人民は自分たちの資源について自由に関与できていない」。
協定は無効とされるまでには至らなかったが、欧州司法裁判所は協定の実質部分を空にしたも同然だ。

個別会談

42年前の同じ日に、サハラ・アラブ民主共和国の建国宣言がなされている。国際的にはアフリカ連合を除いて承認されていない国だ。ポリサリオ戦線は「欧州司法裁判所の今回の歴史的決定を歓迎している。欧州委員会にはこれを心に留めてもらい、次の協定締結ではその精髄が活かされることが期待されている。またこの決定は、国連事務総長の新個人特使にとっても助けとなる実際的な先がけになった。」と、ウッビィ・ブーシュラヤ駐フランス代表は語る。
個人特使に任命されて間もないドイツ元大統領のホルスト・ケーラー氏は、当事者たちとの個別会談を開始した(注)。目指すところは、2012年以来中断されたままの、モロッコ・ポリサリオ戦線間の直接協議の再開だ。

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(注)個別会談は1月末に開始され、ポリサリオ戦線、アルジェリア、モーリタニアのそれぞれの代表が次々にベルリンを訪れてケーラー特使と会談済み。招きに応じなかったモロッコは結局、3月5日にリスボンでケーラー特使に会うことで合意したもよう。

「西サハラ-抵抗の轍」より転載