西サハラ友の会通信 No. 36(2024年2月10日)2023年8月・9月分
昨年8月・9月分のニュースを送ります。最大のニュースは、国連事務総長特使の西サハラ訪問です。デ・ミストゥラ氏は就任後初めて西サハラに行くことができ(モロッコが許した)、サハラーウィの独立派や人権活動家とも会うことができました。おそらくメッセージは伝わったでしょう。米国がモロッコに圧力をかけたらしいことも、駒が動いた背景にあるようです。ただ、その後、すでに半年になりますが、問題そのものに動きは見られません。
9月のマラケシュの地震は、モロッコ政治の構造的問題を浮き彫りにしました。国王が号令を発するまで政府は動かず、国王はフランスにいて対応が遅れました。また、各国の救援を受けようとせず、背景には西サハラ問題があることが指摘されました。
スペインでは、ここでは紹介しきれないほど、西サハラ問題をめぐる報道がなされています。議会選があって再び社会労働党のサンチェス首相が新内閣を組織することになり、マスコミのサンチェス氏追及の論調も政府の態度を変えるまでには至っていません。
西サハラ友の会通信 No. 36 目次
【国連】
デ・ミストゥラ氏、西サハラを訪問
デ・ミストゥラ氏、独立派と面会
デ・ミストゥラ氏、モーリタニアを訪問
【西サハラ/占領地】
・3人の政治囚、健康状態が深刻
【西サハラ/難民キャンプ・RASD】
・西サハラ、BRICS首脳会議に出席
・西サハラ、気候変動のグローバルガバナンスへの参加を求める
【モロッコ】
・戴冠記念日恩赦、サハラーウィは含まれず
・マラケシュ近郊で大地震
・支援を受け入れる国、受け入れない国
・モロッコ、仏記者・カメラマン2人を国外退去に
【アルジェリア】
・米・アルジェリア外相会談、西サハラで国連の努力を支持
・アルジェリアへの注目高まる
【スペイン】
・首相、モロッコで休暇
・ミラージュ・ホテル:社会労働党指導者の「洗礼」
・スペイン政権内部のWhatsApp:セウタ移民危機
・モロッコからの移民、あまり減らず
・情報部と西サハラ
・西サハラ出身者にスペイン国籍を
・モロッコ産オリーブ、残留農薬基準値越え
・(書評)詩人と画家:Limam Boisha & Moulud Yeslem
【中南米】
・ペルー、RASDとの外交関係を停止
【国連】
デ・ミストゥラ氏、西サハラを訪問
9月4日(月)、デ・ミストゥラ国連事務総長個人特使が西サハラのエル=アイウンを訪問した。今回の訪問は事前に発表されず、9月1日の事務総長報道官の国連ニューヨーク本部での会見でもそうした計画はないとされていた。デ・ミストゥラ氏が実際に西サハラに到着したことを受けて初めて発表された。エル=アイウンの後はダーフラも訪れた。
西サハラ問題をフォローしているスペインのジャーナリスト、イグナシオ・センブレロ記者(Ignacio Cembrero)の記事によると、事前に発表すれば、現地の人びとにアピールを行う準備時間を与えてしまうと懸念したモロッコが要求したことだと考えられる。ロバート・F・ケネディ人権賞(2008年)やライト・ライブリフッド賞(2019年)を受賞した占領地西サハラの人権活動家、アミーナートゥ・ハイダル(Aminatou Haidar)氏によると、エル=アイウンにはかつてないほど警察の警備が強化されており、活動家を監視している。憲兵隊が街頭行動を阻止するために昼頃から町中に展開している。彼女は、それでも人びとは今日平和的に自決権を要求する街頭行動に出るだろうと述べる。
これまでデ・ミストゥラ特使は、2022年7月にモロッコを訪問し、西サハラに行きたい希望を述べたが、モロッコが了承しなかった。外交筋によると、今回は米国がモロッコに圧力をかけて訪問を受け入れさせたとのことだ。
今回の西サハラ訪問に先立ち、デ・ミストゥラ氏はアルジェリアの難民キャンプを訪れ、ガーリーポリサリオ戦線書記長と面会している。そこでガーリー氏は、モロッコの刑務所に収監されているサハラーウィ政治囚の現状を見てきて欲しいと依頼した。ただ、政治囚の問題は彼の任務には含まれていないとのこと。
米国の外交官、ジョシュア・ハリス(Joshua Harris)北アフリカ担当国務副次官補は先週末、米国国務省外交官として初めてアルジェリアの難民キャンプを訪問し、ガーリー氏を始めポリサリオ戦線指導部と面会した。その後、彼はアルジェに行き、昨日、モロッコの首都ラバトに到着したところだ。(Ignacio Cembrero, El Confidencial, 4 Sep. 2023)
https://www.elconfidencial.com/mundo/2023-09-04/eeuu-fuerza-a-marruecos-a-que-el-enviado-de-la-onu-visite-el-sahara-occidental_3729110/
デ・ミストゥラ氏、独立派と面会
9月5日(火)、デ・ミストゥラ特使はエル=アイウンで10数人の独立派のサハラーウィと面会した。「モロッコ刑務所にいるサハラーウィ囚人の保護連盟」副会長のハッサナ・ドゥイヒ(Hassana Douihi)氏と西サハラ人民自決支援委員会の副委員長、フマド・ハマド(Hmad Hamad)氏は、人権活動家のアミナートゥ・ハイダー氏も同席して話をしたと語る。サハラーウィ活動家たちは特使に、国連ミッション(MINURSO)は制約が多いため信頼を置いていないと述べ、西サハラでの人権の監視・保護の権限を与えられるよう要請した。「MINURSOは住民投票をやるために来たのに、わえわれはもう何年も待ち続けている。やるべきことをやっていない。ツーリストのようだ」とハマド氏は説明した。また、2人は特使に、赤十字の事務所を西サハラに開設するよう要請した。
デ・ミストゥラ氏の日程は公表されていないが、モロッコのメディアによると、モロッコ派の女性団体、ビジネスマン、部族の指導者といったサハラーウィにも会ったという。彼らはモロッコによる西サハラ自治案を擁護した。(EFE/Swissinfo, 5 Sep. 2023)
https://www.swissinfo.ch/spa/marruecos-s%C3%A1hara-occidental_el-enviado-de-la-onu-se-re%C3%BAne-en-el-s%C3%A1hara-con-una-decena-de-asociaciones-independentistas/48788834
デ・ミストゥラ氏、モーリタニアを訪問
9月14日(木)、国連事務総長特使デ・ミストゥラ氏はモーリタニアの首都ヌアクショットで、モハメド・ウルド・シェイク・エル=ガズワニ大統領と会談した。(UN briefing、15 Sep. 2023)
https://press.un.org/en/2023/db230915.doc.htm
【西サハラ/占領地】
3人の政治囚、健康状態が深刻
ムハンマド・アル=フセイン・アル=バシール・イブラーヒーム、ハトリー・ダーッダ、ナアマ・アースファーリーの3人のサハラーウィ長期政治囚の健康状態が深刻であるとして、国連人権理事会の人権擁護者の状況に関する特別報告者がモロッコ政府に訴えを伝達したが、モロッコ政府は訴えにあるような事実はないと否定する返答を返してきた。
訴えによると、アル=バシール・イブラーヒームは2011年からアガディール大学で法律を学んでいたが、アガディールでサハラーウィ学生運動を立ち上げ、2016年マラケシュのカディ・アヤド大学での西サハラの自決権に関するデモに参加した。その後、マラケシュの裁判所で2019年に12年の刑を言い渡され、アイト・メルル刑務所に入れられていたが、ムーレイ・エル=ベルギー刑務所に移された。彼は2023年2月にハンガーストライキを始めたが、医療措置を受けていない。3月に家族と面会した際ハンガーストライキを止めるよう説得され、一度は止めたが、また刑務所の待遇改善を求めて再開すると言っている。
カトリ・ダダは2017年11月のスマラでの抗議デモに参加したとして2019年12月から拘束され、2020年4月に20年の判決を受けた。2020年6月までエル=アイウンの刑務所にいたが、アイト・メルル刑務所に移され、2022年8月にムーレイ・エル=ベルギー刑務所に移された。家族の住む町からは850kmも離れている。あまりに遠いため家族は一度しか訪問できていない。電話も22日間で1回、2分だけしか許されなかった。しかも、刑務所の状況について話そうとするとすぐに切られる。家族の差し入れる食べ物を受け取れず、外部の医師の訪問も受けられない。刑務所付きの医師・看護師は十分な措置を行わない。
ナアマ・アースファーリーは2010年11月7日から捕らえられている。2013年2月に30年の刑を言い渡された(グデイム・イジーク政治囚)。ケニトラ刑務所にいる。彼の妻はフランスにいて2019年に彼を訪問しようとして入国拒否されている。妻との電話は週に2回、5分だけ監視がいるところで許される。妻からの手紙も受け取れない。目に問題を抱えているが12年間眼科医の診察を受けることができないでいる。また、図書室に行くことも許されず、狭い刑務所の中庭を歩き回ることことしかできない。(UN Special Rapporteur on Human Rights Defenders, 2 Aug. 2023)
https://srdefenders.org/maroc-deterioration-des-conditions-de-detention-de-trois-defenseurs-des-droits-de-lhomme-condamnes-a-de-longues-peines-de-prison-communication-conjointe/
【西サハラ/難民キャンプ・RASD】
西サハラ、BRICS首脳会議に出席
ブラーヒーム・ガーリーポリサリオ戦線書記長は、8月22日(火)BRICS首脳会議に出席するために南アフリカに到着した。モロッコは参加しないと発表している。首脳会議にはロシア、インド、中国、ブラジルが参加。モロッコは西サハラ問題で南アとするどく対立している。(Europa Press, 22 Aug. 2023)
首脳会議が採択した宣言は、その第16項目の最後で「西サハラ問題については、関係する安保理決議にしたがい、MINURSOのマンデートを満たすかたちでの永続的で相互に受け入れ可能な政治的解決を達成する必要性を強調する」と述べた。(XV BRICS Summit Johannesburg II, Declaration)
https://www.europapress.es/internacional/noticia-ghali-asiste-invitado-cumbre-brics-criticas-marruecos-sudafrica-20230822225314.html
https://www.gov.za/sites/default/files/speech_docs/Jhb%20II%20Declaration%2024%20August%202023.pdf
西サハラ、気候変動のグローバルガバナンスへの参加を求める
9月5日(火)、ナイロビで行われたアフリカ気候サミットに出席したガーリーポリサリオ戦線書記長は「国連が西サハラの非植民地化に失敗しているからといって、気候変動とその破壊的な影響に対する世界の闘いにおいて、サハラ・アラブ民主共和国が排除される理由はない」と述べた。アフリカ気候サミットは9月4日から3日間行われる。ガーリー書記長はさらに、難民となったサハラーウィはモロッコによる占領のためアルジェリアの過酷な砂漠に暮らしている、難民キャンプは気候悪化の影響を受けていると述べ、UNFCCC(気候変動枠組条約)やCOP(気候変動枠組締約国会議)に代表を送り、パリ協定に参加したいと表明した。(Western Sahara Resource Watch, 5 Sep. 2023)
https://wsrw.org/en/news/western-sahara-demands-a-seat-at-climate-table
【モロッコ】
戴冠記念日恩赦、サハラーウィは含まれず
7月30日(日)、モロッコのムハンマド6世国王戴冠記念日に2,052人の受刑囚が恩赦を与えられたが、その中にサハラーウィ政治囚は含まれていなかった。ポリサリオ戦線は現在モロッコの刑務所に収監されているサハラーウィ政治囚が39人いると推計している。
恩赦を受けた2,052人のうち283人はすでに釈放されていた。残りの1,769人については、133人が完全な釈放、1,632人が減刑とされた。死刑が終身刑になった者も1名いた。
釈放されなかったサハラーウィ政治囚の中には、スペインの議会選挙で議員に選ばれたサハラーウィ、テシュ・シディさんの親戚、ムハンマド・タフリール(Mohamed Tahlil)さんもいる。タフリールさんは2010年のグデイム・イジーク抗議キャンプに参加し、軍事法廷で20年の刑を言い渡された。グデイム・イジーク政治囚の中には終身刑となった人もいて、アブドゥルジャリール・ラアルースィー(Abdeljalil Laaroussi)、アフメド・スバアーイー(Ahmed Sbaai)、ムハンマド・バーニー(Mohamed Bani)らがそうだ。政治囚の多くはモロッコ国内の刑務所に入れられている。(The Objective, 1 Aug. 2023)
https://theobjective.com/internacional/2023-08-01/mohamed-vi-presos-politicos-saharauis-indultos/
マラケシュ近郊で大地震
現地時間で9月8日(金)23時11分、マラケシュ近郊で大地震が発生し、3,000人近くに上る犠牲者が出た。王室・政府の対応の遅れが指摘されている。パリにいて休暇を過ごしていた国王が声明を出したのは19時間後、9日(土)の夕方だった。その日の朝にはバイデン大統領を始め、敵国アルジェリアからすら、弔文が届いていたにもかかわらずだ。国王が沈黙を保っている間、首相率いる政府も行動を起こさなかった。2004年のリフ地方での大地震の時も、とにかく現地を訪問するのは国王が最初でなければならず、政府高官はその後にしか行くことが許されなかった。(El Confidencial, 10 Sep. 2023)
https://www.elconfidencial.com/mundo/2023-09-10/rey-marruecos-silencio-terremoto-victimas_3732197/
支援を受け入れる国、受け入れない国
各国からの救助支援申し出に対し、ムハンマド6世はしばらく返事をしなかった。10日(日)になってやっとカタールとスペインの救援を受け入れることが決まった。続いてイギリスとアラブ首長国連邦からの受け入れも決まった。フランスやアルジェリアは支援申し出を公にしたが、受け入れられなかった。(TSA-Algerie, 11 Sep. 2023)
https://www.tsa-algerie.com/seisme-au-maroc-lattitude-incomprehensible-de-mohamed-vi/
モロッコ、仏記者・カメラマン2人を国外退去に
9月20日(水)午前3時、カサブランカのノヴォテル(Novotel)に宿泊していたフランスの「マリアンヌ」の記者ケンティン・ミュラーとカメラマンのテレズ・ディ・カンポは、モロッコ治安当局の職員10人によって連れ出され、そのまま空港からフランスに送還された。「君らは歓迎されていない」と言われたそうだ。2人は15日からマラケシュ近郊の地震災害の取材を行い、王の姿が見えないといった国民の声を拾っていたという。カサブランカに着いたのは19日のことだった。
記者等の国外退去の理由はおそらく同誌2月16日付けの新聞記事にあると思われる。「モロッコはわれわれをどうやって捕らえているか」という見出しで、モロッコの公式メディアやソーシャルネットがフランスをどう批判しているかを描いた。添えられた漫画は、国王がベッドに横たわり、葉巻を加え、片手にグラスをもって「偶然、私はフランスにいたんだ」と言っているというもの。それでわれわれのところには、SNSなどで殺人予告まで届いている。(Marianne, 20 Sep. 2023)
https://www.marianne.net/monde/le-maroc-expulse-deux-journalistes-de-marianne-sans-explications-ni-motifs
【アルジェリア】
米・アルジェリア外相会談、西サハラで国連の努力を支持
8月9日(水)、ワシントンで会談したアルジェリアのアフマド・アッターフ外相とブリンケン国務長官は、西サハラ問題を解決する国連の努力を支持することを確認した。アッターフ外相は、デ・ミストゥラ国連事務総長特使が、モロッコとポリサリオ戦線が「前提条件なしで、誠実な態度をもって」交渉に就くことができるよう動くことを期待していると述べた。(Europapress, 9 Aug. 2023)
https://www.europapress.es/internacional/noticia-eeuu-argelia-subrayan-apoyo-labor-onu-sahara-occidental-reunion-washington-20230809222829.html
アルジェリアへの注目高まる
ウォールストリートジャーナル紙が、ロシアに代わる天然ガスの購入先としてコンゴからアゼルバイジャンまでの産出国が浮上し、世界の天然ガス供給地図を塗り替えつつあると指摘した。中でも注目が集まるのがアルジェリアだ。
アルジェリアの東南の砂漠地帯にあり、アルジェから800km離れたビル・レバア(Bir Rebaa)ではイタリアのエネルギー会社Eniが十数個もの油井を掘っている。イタリアはアルジェリアのガス生産に大きな投資を行っている。これから数ヶ月で天然ガスの生産を始めるだろう。ロシアのガス会社ガスプロム(Gazprom)が低価格を維持していた間、ヨーロッパはアルジェリアのガスなど見向きもしなかった。それがアルジェリアは今やドイツ、オランダなどヨーロッパの国々とガス販売の交渉をしている。アルジェリアは今年1,000億立方メートルのガスを輸出した。それはEUがロシアから(ウクライナ侵攻前の)2021年に輸入した1,600億立方メートルの65%に相当する。イタリアに至っては全輸入ガスの4割を占めていたロシア産を、アルジェリアがほぼ完全に置き換えてしまった。
エネルギー供給国として重要性を増してきたアルジェリアに対し、欧米はロシアと距離を置くよう促している。アルジェリアはロシア製武器の最大級の顧客であり、この6月にはテブン大統領はモスクワまで行ってプーチン大統領と会談し、「戦略的パートナーシップを強化する」ことに合意した。今年のアルジェリアの予算はガス収入の増加もあって防衛費が倍増している。西側諸国は、アルジェリアがロシア製武器をたくさん購入し、ロシアの軍事産業を利するのではないかと心配している。米国はアルジェリアにあまりロシアから武器を買うと制裁の対象になると警告してきた。
ヨーロッパは他にアゼルバイジャンやコンゴからのガス買い付けも増やしている。ヨーロッパ議会では、これ以上アルジェリアやアゼルバイジャンへの依存を深めると再び権威主義的エネルギー供給国の鞭を浴びることになりかねないと憂慮する声が聞かれる。イタリアのロベルト・チンゴラニ元環境相は「できるだけ多くの供給国をもつことで地政学的な競争でガスが道具に使われるリスクを減らすことができる」と述べる。(Wall Street Journal, 19 Sep. 2023)
https://www.wsj.com/world/europe/global-energy-europe-russia-africa-gas-ab98af2f
【スペイン】
首相、モロッコで休暇
8月1日(火)、サンチェス首相は家族とモロッコで休暇を過ごすため、民間航空便でマラケシュへと出発した。完全にプライベートな旅であり、首相は自費で旅行していると発表された。これに対して、ペガサス・スパイウェア事件(サンチェス首相のスマホも盗聴された)の大元となった国であり、漁業協定が違法とみなされ更新されていない、政治的にぎくしゃくしているモロッコに首相自ら旅するのはその感覚を疑う、などの批判が各メディアから上がっている。(Contramutis, 2 Aug. 2023)
https://contramutis.wordpress.com/2023/08/02/el-pp-critica-a-sanchez-por-sus-vacaciones-en-marruecos/
ミラージュ・ホテル:社会労働党指導者の「洗礼」
サハラーウィのジャーナリスト、サラーム・ハムディ・バシュリー(Salamu Hamudi Bachri)による、モロッコの擁護者へと堕した社会労働党(PSOE)エリートたちに対する手厳しい批判記事を一つ紹介する。1年前のもので、以下がその概要。
モロッコのタンジェの海辺に立つミラージュ・ホテルは、1泊8,000ユーロ(約125万円)はする豪華ホテルで、スペイン社会労働党の指導者たちはそこで贅沢三昧の「洗礼」を受け、モロッコの代弁者となっていった。そう語るのはスペインの通信社EFEで16年間モロッコ特派員を務めたハビエル・オタズ(Javier Otazu)だ。
1998年8月30日、彼がエル・パイス紙の仕事で、フィリペ・ゴンサレス氏(首相在任期間:1982-1996年)をインタビューした時、ゴンサレス氏は両足をジャグジーに浸し、葉巻を吸いながら「私はここで夏中バカンスを過ごすことができた」と語った。楽園のようなタンジェの魅力の虜となり、モロッコにかしずいた彼の後継者たちは多い。ホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ(元首相)、ミゲル・アンヘル・モランティノス(元外相)、トリニダード・ヒメネス(元外相)、ベルナルディノ・レオン・グロス(元外務副大臣)、マリア・アントニア・トルジリョ(元住宅相)、エレナ・ヴァレンシアーノ(元欧州議会人権委員会委員長)、そしてホセ・ボノ・マルティネス(元国会下院議長、元防相)。
ミラージュ・ホテルの扉を開ける呪文(開け!ゴマ)は、「西サハラはモロッコだ」というテーゼを何にもまして擁護することだ。彼らは、何の良心の呵責もなく、恥も外聞もなく、原則もなく、それを受け入れた。そして、西サハラについて競ってモロッコを擁護した。
9月22-23日、グラン・カナリアである会議が行われる。2年前そこで作られたあるグループは、スペインの公安当局によれば、「まったくのモロッコの諜報機関の隠れ蓑」だそうだ。会議ではサハラーウィと協議もせず、サハラーウィにとって何がベストかを議論する。会議のオープニングを飾るのはサパテロだ。
ボノは有名なファランヘ党(ファシズムと近い)の党員の息子だったが社会主義者になって、当初はサハラーウィの権利を主張し、モロッコは民主的な国ではなく、とても友好国にはなれないなどと言っていたのが、2001年にフィリペ・ゴンサレスから「もっと現実を知った方がいい」と言われてモロッコに行き、その後180度立場を変えた。かつてはポリサリオ戦線の友人ですらあった彼は、今やモロッコが人権を尊重しない国だなどとは、考えない。
しかし、なんと言おうと、西サハラ問題は変わらない。その本質は正義と国際法の問題だからだ。この本質からは逃げられないし、それを変えることはできない。サハラーウィの闘いは半世紀続いた。彼らには最後までやる意志と覚悟がある。(El Independiente, 22 Sep. 2022)
https://www.elindependiente.com/internacional/2022/09/22/le-mirage-o-como-marruecos-compro-a-los-socialistas-espanoles/
スペイン政権内部のWhatsApp:セウタ移民危機
人口84,000人のセウタに12,000人の移民が押し寄せた2021年5月危機の後、政権は移民問題を深刻に捉え、モロッコとの新しい戦略を考えなければならなくなった。政府とセウタ自治政府の間でやりとりされたWhatsAppメッセージが法廷に証拠として提出され、そこから明らかになった。
裁判は、55人の未成年をモロッコに送り返したとして罪に問われたセウタ副総裁マベル・デル(Mabel Deu)と元政府代表サルヴァドラ・マテオス(Salvadora Mateos)に対するもので、2人はそれぞれ社会省、包摂・社会保障・移住省とのメッセージのやりとりを証拠として提出した。最も濃密なやりとりは元カルメン・カルヴォ副首相付首席補佐官のイザベル・ヴァルデカブレスとのものだ。
デウとヴァルデカブレスのやりとりは2021年5月19日に始まった。デウは「陸軍の出動を要請する」と書いた。「そして私もでしょ!」とヴァルデカブレスは返信した。デウの最後のメッセージは6月29日「何度支援を要請しても、混乱した状況は変わらない」というものだが、ヴァルデカブレスの返信はその2日後で「モロッコ側に子どもを受け入れるようプッシュしている。状況はわかるけど、次の移民の波が来たら大変なことになる」というもの。
(注記:セウタ側は、スペイン本国が流入した未成年者を受け入れ、各地の自治体に分散させることを期待していたが、政府はセウタで移民をブロックし、本国に行けるという幻想を相手に抱かせないことが重要だと考えていた。そのためセウタの要請に応えなかったのだが、セウタは耐えられなくなって未成年者55人をモロッコ側に送還してしまった。それが罪に問われ、裁判になった。)(El Confidencial, 3 Aug. 2023)
https://www.elconfidencial.com/espana/2023-08-03/wasaps-moncloa-miedo-rabat-inmigracion_3712545/
モロッコからの移民、あまり減らず
西サハラ問題でモロッコに大きく妥協したにも関わらず、モロッコからスペインに移民として到着する人の数が減らない。2023年のこれまでの移民の数は15,603人で、大半がモロッコ人。741隻の船でカナリア諸島、アンダルシア州、バレアレス諸島(地中海)に到着した。2022年から4%の増加だ。移民の波はこの7月に突然上向いた。それまでは西サハラをめぐるスペインの方針転換で減っていた。夏だと船で渡る人が増えるという季節的要因もある。もっとも多くの移民が漂着したのがカナリア諸島で、2023年は8,508人になる。それでも昨年に比べればカナリア諸島に来る人は11%減った。
6月24日には、60人を乗せた船が転覆し、子ども1人と30人が死亡するという事故があった。西サハラのブージュドゥール岬からグラン・カナリアを目指していた。事故は西サハラ沖合100kmのところで起きたが、モロッコの救援隊がそこに到着したのは12時間後だった。そのためスペイン側が救助した。
アンダルシアやバレアレス諸島への移民は劇的に増えた。昨年と比べ31.8%の増加だ。これまで6,962人が533隻の船で到着。モロッコやアルジェリアからだ。3日前の7月31日には、100人が4隻の船で到着している。
海・陸ルートによる7月までの移民の合計数は16,174人で、昨年の16,718人を少し下回っている。警察によれば、問題はモロッコが彼らの帰還を受け入れないということだ。パスポートを持っていないからだそうだ。(The Objective, 3 Aug. 2023)
https://theobjective.com/espana/2023-08-03/espana-recepciona-mas-pateras-giro-sahara-occidental
情報部と西サハラ
スペインの諜報機関である国家情報センター(CNI)にとって西サハラは大きな心配の種である。CNIは、モロッコの西サハラへの主権を認めてもセウタとメリリャへの脅威はなくならないと、明確に言っている。元諜報部員がリークしたモロッコの2030年に向けた計画でセウタとメリリャに狙いが定まっていたことが、それを裏付けている。(Moncloa, 8 Aug. 2023)
https://www.moncloa.com/2023/08/08/la-sensibilidad-del-cni-con-el-sahara-occidental-complica-la-estrategia-a-pedro-sanchez-2131619/
西サハラ出身者にスペイン国籍を
3年前(2020年)、最高裁は1976年以前に西サハラで生まれた者でもスペイン国籍は与えられないという判断を示した。西サハラ住民はスペイン人であったことはなく、期間内に申請しなかった者に救済策はないという判断だ。今回、マドリード裁判所はこの基準を適用し、1967年生まれのサハラーウィのスペイン国籍申請を却下した。彼の場合、与えられた期間内、遅くとも1977年8月10日までに申請すべきだったとした。しかし、一人の判事が反対意見を添え、サハラーウィは実際スペイン人であったし、彼らの子孫もそう主張できると述べている。
2020年最高裁判決においても、植民地住民にスペイン国籍を与えるべきだとういう反対意見を述べた判事が3人いる。こうした異論が存在し続けていることは、司法界でも意見が割れていることを示している。
1976年の国王令は、サハラーウィにスペイン国籍の取得を認めたが、1年以内にしなければならないという期限が設けられた。非植民地化(1976年)の3年前にアグワニットで生まれた女性のケースでは、家族がチンドゥーフに逃れたため情報にアクセスできず、期限内に申請できなかったという。彼女の両親は1975年まで植民地でスペイン政府の公務員をしていた。これに対する2020年最高裁の判断は、西サハラは植民地ではあったがスペインの一部ではなく、したがって住民はスペイン国籍保持者ではなかった、というものだった。民法17条は、スペイン人の子どもか、外国人の両親に生まれた無国籍の子どもに国籍を与えるとしているが、最高裁は、スペインの植民地で生まれた子どもはスペインで生まれたとみなされない、と言うのだ。
最高裁の判断にも反対意見がつき、今回のマドリード裁判所の判断でも反対意見がついた。これらの反対意見は、非植民地化のルールそのものがサハラーウィの権利を奪っていると主張する。(El Diario, 20 Aug. 2023)
https://www.eldiario.es/politica/voto-particular-juez-reabre-debate-nacionalidad-espanola-negada-saharauis_1_10420177.html
モロッコ産オリーブ、残留農薬基準値越え
9月5日(火)、RASFF(食料飼料緊急警報システム)はモロッコ産オリーブにEUで禁止されている農薬が基準値を超えて残留していたことを公表した。RASFFによれば、8月18日に国境警備がモロッコからの輸入オリーブを検査した結果、クロルピリホス(Chlorphrifos)という有機リン酸系殺虫剤が、0.01mg/kg-ppmが許容限度であるところ、0.067mg/kg-ppm検出されたという。オリーブはすでに市場に出回っていた。政府はRASFFに問題を通知して注意を喚起した。問題のオリーブはスペイン国内のみで販売されていた。クロルピリホスはEUでは2019年12月以来使用が禁止されている。研究によれば、乳がんを引き起こす可能性があるという。(Hortoinfo, 6 Sep. 2023)
https://hortoinfo.es/alerta-por-la-llegada-a-espana-de-aceitunas-de-marruecos-con-una-alta-presencia-de-residuos-de-pesticidas/
(書評)詩人と画家:Limam Boisha & Moulud Yeslem
サハラーウィ詩人と画家のコラボによる詩集『Ya Calló la lluvia(雨が止むとき)』についてのフェルナンド・ロレンテの「砂漠の記憶(La memoria de la Badía)」と題する書評。以下はその概略。2023年5月刊、Kalandraka Editora出版。
「詩は絵を見るように読まなければならず、絵は詩を読むように見なければならない」とは、キント・オラシオ・フラコとシモニデス・デ・セオスの言葉だが、まさにそれを体現した本がサハラーウィ詩人と画家のコラボでできあがった。
詩人の名はリマーム・ボイシャ。詩はスペイン語で書かれている。サハラーウィの書く詩には、彼らの奪われた土地に対する抑えがたい愛情の繊細な表現と、土地と人と資源が盗人のものになるのを止めさせようと呼びかける要素があり、リマーム・ボイシャの詩もその通りだ。砂漠の過酷な美しさを飾る美しいメタファーが、土地の聖なる性格を映し出す。日常生活に潜む神秘。それをムルード・イェスレムの絵が視角化している。
リマーム・ボイシャは1974年に砂漠で生まれた。彼の書く詩は、激動の歴史の中でも続く穏やかな暮らしを描く。砂漠の井戸はベドウィンの渇きを癒やすには足らないが、ラクダの喉を潤す。砂漠は高貴な敵であり、自ら手を差し延べることもある。地上は雨を待つ。砂漠では雨は呪いだ。乾いたもろい泥壁を、温めた牛乳に入れたチョコレートのように溶かす。しかし、雨は砂に吸い込まれるや、祝福と化す。魔法のように草を生えさせ、家族を再開させる。そしてある時、雨はけたたましく降ることを止め、静かになる。そして緑の絨毯をしばし出現させる。命は続き、詩が生まれる。「雨が止むとき」は、リマーム・ボイシャの追想である。
https://www.elfaradio.com/2023/07/08/la-memoria-de-la-badia/
【中南米】
ペルー、RASDとの外交関係を停止
9月8日、ペルー外務省は、サハラ・アラブ民主共和国との外交関係を停止すると発表した。一方で、国連が進める仲介努力によって、永続的で相互に受け入れ可能な、西サハラ人民に自決をもたらすような解決が達成されることを支持すると付け加えた。(Ministry of External Relations, Peru, 8 Sep. 2023)
野党である共産党、社会党、自由党など6党は反対した。(Prensa Latine, 10 Sep. 2023)
https://www.gob.pe/institucion/rree/noticias/831543-comunicado-oficial
https://www.prensa-latina.cu/2023/09/10/partidos-progresistas-de-peru-contra-ruptura-de-relacion-con-la-rasd