西サハラ友の会通信 No. 22
国連事務総長の西サハラ問題特使に就任したスタファン・デ・ミストゥラ氏が活動を始めました。まずは、モロッコ、ポリサリオ戦線、アルジェリア、モーリタニア、アメリカと関係者を訪ね、最初の面談を行ったところです。和平交渉が始まることが期待されます。
現地では、大規模な住民の街頭行動が見られました。昨年12月にはFIFAアラブ杯でアルジェリアが準決勝でモロッコを破り、優勝したのを祝って人びとが街に繰り出しました。モロッコの治安当局はその「意味」を理解したのか、弾圧に走りました。2月にはサハラーウィ商人が殺されたのではないかとの疑いから、ダーフラで抗議行動が起き、警察による弾圧事件に発展しました。ブージュドゥールでは自宅軟禁に置かれたスルターナ・ハイヤさんの闘いが続いています。
ロシアのウクライナ侵攻はアフリカの国際関係にも影を落としています。3月2日の国連総会決議の採択に際しては、反対5ヶ国の中に含まれていたアフリカの国はエリトリアだけでしたが、棄権35ヶ国と無投票12ヶ国の中にアフリカ諸国が目立ちました。棄権した中にアルジェリア、アンゴラ、モザンビーク、ナミビア、セネガル、南アフリカなど、また無投票の中にエチオピア、モロッコがいました。ロシアは侵攻を正当化する論陣をアフリカ各地のメディアを通じて活発に行っています。
No. 22 目次
【西サハラ／占領地／刑務所】
・ムハンマド6世が西サハラのリゾートに滞在予定
・政治囚、ハンガーストライキ
・ダーフラで広範な抗議デモ
【西サハラ／解放区・難民キャンプ】
・保健省が感染状況を公表
・サハラーウィ軍、モロッコ兵12名の戦死を発表
・難民キャンプでアラブ諸国による「サハラーウィ国際支援会議」
【モロッコ】
・観光客がテロの標的？
・ダヴィド・ゴヴリン氏、信任状捧呈式を欠席
・モロッコは報復する
・EU、モロッコに16億ユーロ支援
・モロッコの天然ガス不足
・ドイツと関係正常化に動く
【スペイン】
・スペイン漁船、EUモロッコ漁業協定割当の4分の1しか利用せず
【国際】
・石油会社ニューエイジ、西サハラ沖の採掘を断念
・アフリカ連合サミットが西サハラを議論
・新特使、ツアーを行う
・ガーリー大統領、アフリカ連合サミットに参加
・ガーリー大統領、EU-AUサミットに出席
【西サハラ／占領地／刑務所】
ムハンマド6世が西サハラのリゾートに滞在予定
2016年以来となるムハンマド6世の西サハラ訪問が予定されている。場所はダーフラのプエルトリコビーチで、そこに贅を極めた宿営地の設置が進められている。担当しているのはマラケシュのイベント会社Design Event Management。その設立者はフランス人のBrice Jakubowiczはディオール、カルチェ、その他世界の有名ホテルやクレージーなプライベートイベントを請け負ってきた。ナジーブ・ミカーティレバノン首相の息子の1人の誕生パーティーを2015年、マラケシュで開催した費用は250万ドルとされる。（Africa Intelligence, 21 Jan. 2022）
https://www.africaintelligence.com/north-africa_politics/2022/01/21/mohammed-vi-pitches-a-highly-political-tent-in-dakhla,109718228-art
政治囚、ハンガーストライキ
アイト・メッルール第2刑務所に収監されているサハラーウィ政治囚、ムハンマド・ハサナ・アフマド・サーレム・ブリヤールさんは、8ヶ月もの間、日々の休憩時間を与えられず、監房の警備が厳しくなって面会を1週間に1度に減らされる等のひどい扱いを受けてきたことに抗議し、2月22日から、48時間のハンストを行った。（Sahara Press Service, 22 Feb. 2022）
http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2022/02/22/38095.html
ダーフラで広範な抗議デモ
2月半ばの12日間ほど（2月10日から21日までと考えられる）、ダーフラでは大規模な抗議デモが続き、モロッコ当局はそれを激しく弾圧した。抗議デモはルハビーブ・ウルド・アグリーシー（Lehbib Uld Aghreishi）というサハラーウィの商人がモロッコ警察当局に殺害されのではないかとの疑いから起きたものだ。ルハビーブの家族によると、2月7日（月）ルハビーブは行方不明となった。彼には妻と4人の子ども（娘3人、息子1人）がいた。夕方5時、空っぽになった彼の車がダーフラから2km離れた海岸の灯台のある丘で見つかった。家族は警察を呼び、警察は指紋を採ったり、ドライブレコーダーを見たりした。ドライブレコーダーには、ルハビーブではない人物が彼の車を運転しており、彼のビジネス仲間であるユーセフ・エル＝アッタウィーの車の後ろを走っていた（ちなみにこれはモロッコ人の名前である）。そこで家族はユーセフのところに行き、いつから行方不明になったのか聞いた。すると5日前という答えだった。しかし、それはありえない。ドライブレコーダーは前日のものだ。家族は警察を呼んだ。警察は午後3時、彼を職場に訪ね、（警察に連れて行って）尋問し、2時間後彼を解放した。ただ、警察は、彼は捜査対象だとして、翌日再度来るようにと命じた。しかし翌日、ユーセフは海岸で遺体で発見された。警察は自殺だと主張。それはありえない。遺体を発見した漁師たちは、写真を撮り、それを拡散させた。遺体には拷問の跡があり、ペニスが切り取られていた。サハラーウィはルハビーブの店の前に集まり「ルハビーブはどこだ？われわれはわれわれの息子を愛している」などと叫んだ。SIMカードの追跡から、サハラーウィたちはルハビーブの居場所をナフダ地区にあると突き止めた。しかし、警察は動かない。15日、警察は燃やされた人体の一部（骨と歯だけが残っていた）が入った袋を発見したと言った。警察によると、DNA鑑定でルハビーブのものと判明したという。家族は疑問を抱いている。誰が警察でユーセフの釈放を求めたのか、なぜ翌日遺体となって発見されたのか。また、なぜ、抗議デモが1週間続いたのちに警察がルハビーブの燃やされた遺体を発見したのか。ルハビーブの車を運転したのは誰なのか。なぜユーセフが自殺したと言えるのか。なぜ警察はルハビーブを殺害した犯人がユーセフだと言うのか。ルハビーブの弟も抗議デモに参加したが、前週金曜日（2月11日）、証拠探しをしていた時、警察が何かを燃やしている場面を目撃した。警察は近づくことを許さなかった。彼はそれはルハビーブの遺体に違いないと思った。骨と歯だけになった遺体を家族は受け取ったが、それとて本物かどうかわからない。家族はカナリア諸島で独立した組織による遺体の検査を求めている。（Contramutis, 21 Feb. 2022）
https://contramutis.wordpress.com/2022/02/21/dajla-ocupada-se-levanta-contra-la-corrupcion/
【西サハラ／解放区・難民キャンプ】
保健省が感染状況を公表
1月18日、難民キャンプの保健省がコロナ感染状況を発表した。それによると、前週の新規感染者は15人、22人が回復、1人が死亡とのことだ。感染開始後からの累計では、1,922人の感染者があり、1,817人が回復、80人が死亡したという。現時点で7人が収容され、25人が自宅療養となっている。（Sahara Press Service, 18 Jan. 2022）
http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2022/01/18/37507.html
サハラーウィ軍、モロッコ兵12名の戦死を発表
ポリサリオ戦線は2020年11月13日の停戦破棄後、毎日のように戦況を報告している。その454号（2022年2月9日発行）によると、12名のモロッコ兵が死亡したとして彼らの名前・階級を公表した。階級としては大佐、中佐、大尉、中尉、曹長、軍曹、准士官、伍長、兵卒が含まれる。モロッコはこの発表に反応していない。ポリサリオ戦線の戦況報告によると、モロッコ軍は第43区の歩兵大隊の一部であり、（西サハラ領内の）マフベス地域に駐留していた。モーリタニアの政治学者ヤアコーブ・エル＝シェイフ・シーディヤー（Yakoub Echeikh Essidia）は戦争が「新たな段階に入った」とコメントしている。サハラーウィ軍筋からも「今回の作戦は戦争の新段階の始まりを意味している。紛争の展開が求めるように戦争は展開することになる」という説明が返ってきた。（Sputnik, 1 Feb. 2022）
https://fr.sputniknews.com/20220210/le-polisario-publie-les-noms-de-militaires-marocains-tues-la-guerre-entre-dans-une-nouvelle-phase-1055085848.html
難民キャンプでアラブ諸国による「サハラーウィ国際支援会議」
2月23日・24日（水木）、チンドゥーフの難民キャンプで「サハラーウィを支援する国際会議」が開催された。アルジェリア、エジプト、リビア、モーリタニア、イラク、シリア、レバノン、パレスチナ、イエメンから人権活動家、政治家、研究者、弁護士、報道関係者が参加した。（Sahara Press Service, 23 Feb. 2022）
http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2022/02/23/38119.html
【モロッコ】
観光客がテロの標的？
1月15日、モロッコ南部のティーズニート（Tiznit）の市営市場で、フランス人旅行者が斧で斬首されるという事件があった。犠牲者はクリスチアヌ・フレ（Christiane Fourret）という79才の女性で、これまで20年間、毎冬ティーズニート郊外のキャンプ地にキャンピングカーをおいて友人たちと過ごしていたという。犯人はアリー・ブージューハーム（Ali Boujouham）（31才）だったが、モロッコ当局は彼が精神疾患を抱えていたとした。同じ日、そこから100kmも離れていないアガディール（Agadir）では67才になるモロッコ在住のベルギー人がナイフで襲撃された。海岸のカフェの客たちを襲撃した中で発生した事件だった。2つの事件が同時に起きたということから、テロの疑いがあった。以前にも、2018年12月、デンマーク人のルイザ・ベステラーガー（Luisa Vesterager）とノルウェー人のマレン・ウランド（Maren Oeland）がキャンプ中に殺害された事件があり、パターンが似ている。1月19日、フランスの反テロ検察はテロの容疑で捜査を開始すると発表した。ベルギーもテロ容疑で捜査することになった。観光への打撃を考えて、モロッコは本件を精神疾患で収拾させたいのかも知れない。（Marianne, 21 Jan. 2022）
https://www.marianne.net/monde/proche-orient/le-maroc-soupconne-davoir-evacue-trop-vite-la-piste-terroriste-dans-le-meurtre-dune-francaise
ダヴィド・ゴヴリン氏、信任状捧呈式を欠席
1月18日（木）、ムハンマド6世国王は新任の外国大使を宮殿に招いて信任状捧呈式を行ったが、昨年8月以来ラバトのイスラエル連絡事務所長となっているダヴィド・ゴヴリン氏は欠席した。政府報道官によると「外交手続きに関してはウィーン条約を尊重している」からだそうで、真意は不明だ。ある政治学者は、バイデン政権がモロッコの西サハラへの主権について明言しない状態が続く限り、モロッコもイスラエルとの関係正常化をこれ以上進めない方針だろうとコメントしている。（The New Arab, 21 Jan. 2021）
昨年10月、ゴヴリン氏は「イスラエルは西サハラ問題の解決における国連の役割を支持する」と述べ、モロッコを驚かせた。また、1月18日にアブダビを訪問したイスラエルのエリ・アビダル開発相は「モロッコとの関係正常化はアメリカの贈り物であり、消失する恐れもある。合意はいつでも破棄されうる」と述べ、また「アブラハム協定は、アラブ首長国連邦との協定を除き、安定的な二国間関係に基づいていない」と述べた。（Pars Today, 22 Jan. 2022）
https://english.alaraby.co.uk/news/rabat-evasive-over-israeli-diplomats-absence-ceremony
https://parstoday.com/fr/news/africa-i106390-maroc_abraham_agonise
モロッコは報復する
モロッコは「反モロッコ」的態度をとる海外の重要政治家たちに次々と報復の矢を放ってきた。2008年、あるモロッコの雑誌が、元スペイン首相ホセ・マリア・アスナール（国民党、在任1996-2004年）が当時のラシダ・ダティ仏法相が妊娠した子どもの父親だと書き立てた。その話をもっともらしく仕立てるためにパパラッチを雇い、パリのレストランの入口でアスナール氏がダティ法相の頬にしたあいさつのキスを撮らせ、週刊誌のグラビアに載せた。他にも、西サハラ問題に関連して、元事務総長特使だったクリストファー・ロス氏やバン・キムン事務総長、そしてアランチャ・ゴンサレス・ラヤスペイン外相が餌食となった。アスナール元首相がモロッコを怒らせたのは2002年におきた「ペレヒル島危機」で、モロッコ沿岸に近い小さな島（スペイン領）をモロッコの憲兵隊が占拠した際、それを首相が軍を派遣して追い払ったからだった。また、アスナール氏は仏法相とのスキャンダルを書いたモロッコの雑誌の社長アフメド・シャライ氏を起訴した。2011年シャライ氏は9万ユーロの罰金を命じられ、それはすぐに払ったが、判決をモロッコとスペインの新聞で公表するようにとの命令は実行しなかった。（仏法相の子どもの父親はその後実業家のドミニク・デセーニュ氏と判明。）
クリストファー・ロス氏の場合、彼が自治案にあまりに熱心だったため、モロッコは彼を追放しようと試みた。当時のモロッコのオマル・ヒラール国連大使の暴露された2011年2月11日付メールでは、「インタビューを受けているロスは障害者のように見えた。手伝われずに自分のジャケットを着ることすらできないほどだった。ミーティング中何杯も飲み、いつものように瞑想状態に陥っていた」などとこき下ろされていた。ヒラレ大使はこれを議員や記者や学者に送っていたらしい。
ロス氏はバン・キムン氏の任命だった。バン国連事務総長は2016年2月にチンドゥーフの難民キャンプを訪れ、西サハラ人民の自決権について触れ、「占領地」ということばさえ使った。それに怒ったモロッコは、バン氏がラバトに到着するや数万人のデモ隊をしつらえて抗議の意志を示した。それどころかMINURSOの文民職員80人を西サハラから追放した。バン氏もそれに怒り、退職後に書いた本の中で再び「占領地」という表現を用いた。（El Confidencial, 7 Feb. 2022）
https://www.elconfidencial.com/mundo/2022-02-07/venganza-marruecos-arancha-gonzalez-laya-exteriores_3370440/
EU、モロッコに16億ユーロ支援
2月9日（水）、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、初めてのモロッコ訪問において、EUのグローバル・ゲートウェイ構想実現のためモロッコに16億ユーロのインフラ整備費用を援助すると発表した。一帯一路を通じた中国の国際的影響力の増大に対抗する目的がある。モロッコは2014-2020年の期間にEUのさまざまな支援枠組を通じて14億ユーロの援助を受け取った。さらにアフリカ緊急信託基金から受け取った2億3,800万ユーロが加わる。グローバル・ゲートウェイ構想ではエジプトに10億ユーロ、ヨルダンに25億ユーロが供与される。同構想は総額3,000億ユーロの大事業だ。（Europa Press, 9 Feb. 2022）
https://www.europapress.es/internacional/noticia-von-der-leyen-anuncia-1600-millones-ayudas-directas-marruecos-plan-infraestructuras-global-20220209183211.html
モロッコの天然ガス不足
昨年アルジェリアがモロッコと断交し、モロッコを経由してヨーロッパに天然ガスを送るパイプラインの使用を停止した結果、モロッコではアルジェリアから購入していた天然ガスが手に入らなくなった。モロッコは必要な天然ガスの8割をアルジェリアからの輸入に依存していた。そこでモロッコはスペインに援助を求め、スペインは自国用に蓄えていた天然ガスをモロッコに分けることにした。スペイン国内ではモロッコのスペインに対する強硬な態度の変更なく天然ガスを分配することに抵抗も見られたが、政府は無条件に応じることにした。モロッコは2月か3月には船で液化天然ガスを海外から購入する手はずを整えており、スペインへの依存は一時的なものに留まる。（El Conficencial, 2 Feb. 2022）
しかし、モロッコが必要とする量はそれより多い。モロッコは突然国際市場で天然ガスを買わなければならなくなったが、スポット価格はウクライナ危機もあって高くなっている。米国への相談も可能だが、米国はヨーロッパに天然ガスをどう供給するかで頭が一杯だ。そこでモロッコはカタールに相談を持ちかけた（結果はまだわからない）。また、長期的には他国への依存はできないとして、モハメディア（カサブランカの隣にあって国内最大の石油産業基地）に洋上の備蓄・再ガス化施設を建設することを決定した。しかし、建設候補会社として昨年12月に最も有力と報じられた中国の企業連合CCCC-CRBC-Wison（中国交通建設・中国路橋工程・Wison）からもその後連絡がないという。さらにいくつかの石油企業がモロッコ系資金をえて天然ガスの採掘に乗り出した。ただ、それらを合わせても必要な量は確保できないだろう。（Africa Intelligence, 14 Feb. 2022）
https://www.elconfidencial.com/mundo/2022-02-02/espana-superar-crisis-marruecos-carta-gas_3369047/
https://www.africaintelligence.fr/afrique-du-nord_business/2022/02/14/apres-la-rupture-avec-alger-rabat-cherche-son-avenir-gazier-de-madrid-a-doha,109733613-eve
ドイツと関係正常化に動く
2月16日（水）、ナセル・ブリタモロッコ外相とアナレーナ・ベアボック独外相はテレビ会議を行い、これまで滞っていた両国の外交関係を前に向けて進めることで合意した。モロッコのドイツ大使がベルリンに戻り、ドイツのモロッコ大使も近々着任する予定となっている。（ドイツ外務省発表、16 Feb. 2022）https://www.auswaertiges-amt.de/en/newsroom/news/baerbock-bourita/2511696
【スペイン】
スペイン漁船、EUモロッコ漁業協定割当の4分の1しか利用せず
2019年に新規に締結された漁業協定（有効年限4年）では、EUは128隻の漁船の操業許可と引き換えに5,200万ユーロをモロッコ政府に支払うことになっていた。その内92隻がスペインの漁船だ。しかし、蓋を開けてみると、2020年と2021年ともに、ライセンスを使っているスペイン漁船は4分の1しかいなかった。それにも関わらず、モロッコ政府は5,200万ユーロを受け取った。船の所有者は、それを使うかどうかに関わらず、四半期ごとに操業許可料を払う。漁をした場合、さらに水揚げ量に応じて税金を払う。2021の第一四半期、モロッコがスペイン漁船に与えた92個の操業許可のうち使われたのは27のみ。第二四半期も同様。第三四半期は24、第四四半期は17に減った。西サハラ水域での操業はさらに少ない。モロッコ領海で漁業許可を得た92隻のスペイン船のうち、25隻がまぐろ漁船（第5類）だ。まぐろ漁船はモロッコ北部から西サハラまで操業できるが、たった12隻しか西サハラでの操業許可を申請しなかった。まぐろ漁船以外で西サハラで操業できるカテゴリーとして第3類（個人営業船［artisanal］）と第4類（延縄、トロール）がある。それらについては22個の操業許可が用意されている。しかし、どの四半期をみても4個以上は申請されなかった。多くは3個の申請に留まった。
そうすると、EUの128隻の漁船がモロッコから得た操業許可で獲っている魚のうち91%が西サハラ水域のものだという主張は矛盾する。実態はというと、匿名を希望する業界に近い筋によると、大型の遠洋漁船が鍵を握るという。「西サハラ水域で操業しているEUの船は18隻にすぎず、彼らはドイツやオランダの船だ。スペインの船は一隻もいない。彼らだけで残りの110隻の合計より多くを水揚げしているんだ」と言う。その理由は様々で、西サハラまで行くのは近くの漁場で十分な水揚げがない場合に限るとか、まぐろは回遊魚なので西サハラまで追っていくときは行くが、必要がないときもあるとか、昨年はセウタの難民騒ぎがあってモロッコ沿岸に近づくのは危険だと判断したとか。
モロッコでの操業許可を与えられている92隻のスペイン漁船の内訳はアンダルシア州所属が47隻、カナリア諸島が38隻、ガリシア州が7隻となっている。ただし、ガリシア州の漁船はEUモロッコ協定が一度破綻して以後、モロッコには操業に向かわなくなり、今では1999年当時ほど重要ではなくなっている。ガリシア州マリンの漁業生産者組織のマネージャーであるフアン・マルティン・フラゲイロ氏は、モロッコが4月から5月、10月から12月にかけて一方的に禁漁期間を設定してきたことで、2019年は2ヶ月の操業許可をもらったものの、28日しか漁ができなかったという。許可料の一部返還を求めたが応じてもらえないとも。ただ、全国イカ・タコ類冷凍船所有者協会のフランシスコ・フレイレ会長は、今やモロッコの漁場は補助的な役割しかなく、モーリタニアでイカ・タコが獲れない時に使われるだけだが、それがないと選択肢がなくなり、スペインの漁業者はそれを失いたくないと思っていると述べる。（El País, 20 Jan. 2022）
https://elpais.com/economia/2022-01-20/la-flota-espanola-solo-aprovecha-un-cuarto-de-su-cuota-de-pesca-en-marruecos.html
【国際】
石油会社ニューエイジ、西サハラ沖の採掘を断念
中国資本が過半数を所有する英企業ニューエイジは、西サハラのエル＝アイウン沖の石油採掘を断念した。昨年12月23日、ニューエイジ・モロッコという子会社がその解散を、カサブランカ商業裁判所の登記部に届け出た。この子会社は、エル＝アイウン沖の Foum Ognit鉱区の4つの採掘権を取得して2014年に設立された。ニューエイジが56.25%、モロッコの炭化水素工業事務所が25%、グレンコア（Glencore）が18.75%を所有していた。ただしグレンコア（スイスの鉱山開発・貿易会社）は3年後に撤退。西サハラ独立支持の活動家等の圧力でグレンコアの株主であったノルウェーの年金基金（KLP）がグレンコアから手を引いたためである。ニューエイジはその後も採掘を続けていた。今回のニューエイジの撤退の背景としては、その過半数の株を所有するのが中国のHOPU投資ファンドと英ケロゲン・キャピタルであり、中国は西サハラ問題でアルジェリアの機嫌を損ねたくないという事情があるようだ。中国企業はアルジェリアで多くの事業を受注している。（Africa Intelligence, 10 Jan. 2022）
https://www.africaintelligence.fr/petrole-et-gaz_exploration-production/2022/01/10/la-junior-petroliere-new-age-n-exploitera-pas-l-offshore-sahraoui,109715011-art
アフリカ連合サミットが西サハラを議論
2月2日から4日にかけてアフリカ連合執行理事会第40回会合が開催された際、人権及び人民の権利に関するアフリカ委員会（ACHPR）の西サハラ報告書が議論の的となった。理事会は2013年の第20回会合で同委員会に西サハラの人権についてアセスメントを行うため調査団を派遣することを求めたが、モロッコの妨害により派遣団を送ることができなかった。しかし委員会は報告書にそのことを書かなかったと、アルジェリアやサハラーウィ共和国の代表は批判した。サハラーウィ人権委員会（Conasadah）のアッバー・サーレク・エル＝ハイサン委員長は、アフリカ委員会の委員長が西サハラを「州」と呼ぶなど国連・アフリカ連合の用語に沿わない表現を用い、それがそのまま報告書に掲載されていると批判した。（Sputnik, 2 Feb. 2022）
https://fr.sputniknews.com/20220205/sahara-occidental-le-president-dune-commission-de-lua-accuse-de-servir-un-agenda-marocain-1055004803.html
新特使、ツアーを行う
昨年、西サハラ問題担当国連事務総長特使に任命されたスタファン・デ・ミストゥラ氏が各方面と面談を行うため、1月12日から19日にかけてツアーを開始した。まず、モロッコ、次いでチンドゥーフの難民キャンプ、アルジェリア、モーリタニアと回った。2月3日にはワシントンでブリンケン米国務長官と面会した。（Sahara Press Service, 5 Feb. 2022）
http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2022/02/05/37789.html
ガーリー大統領、アフリカ連合サミットに参加
2月5日・6日（土日）にエチオピアのアディスアベバのアフリカ連合本部で開催された第35回アフリカ連合首脳会議に出席し、平和・安全保障の報告書に関するセッションで発言した。報告書は、2020年11月に停戦が破棄されたことに深い憂慮を表明し、アフリカ連合制定法に沿った解決をもたらす努力を再活性化させる緊急の必要性があると述べている。（Sahara Press Service, 6 and 7 Feb. 2022）
http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2022/02/06/37816.html
http://www.spsrasd.info/news/en/articles/2022/02/07/37834.html
ガーリー大統領、EU-AUサミットに出席
2月17日・18日にブリュッセルで行われたEU-AUサミットにブラーヒーム・ガーリー大統領が出席した。モロッコはこれに反対したが、EU外交部門のペーテル・スタノ報道官は「AU側の招待を行うのはAUであり、EUはそこに介入できない。EUの西サハラに対する立場は変わらない。サハラ・アラブ民主共和国を承認するものではないし、国連による仲介努力を支持している」と述べた。（Sputnik, 19 Feb. 2022）
https://fr.sputniknews.com/20220219/sommet-afrique-europe-la-participation-du-president-sahraoui-revet-une-importance-historique-1055239633.html
以上。